平成21年地価公示価格 / 福岡市の地価はどう動いたか

サブプライムローン問題に端を発した金融収縮で資金調達難が顕在化して機能不全に陥った投資マネーに昨年9月のリーマンショックが止めを刺した形でファンドバブルが崩壊。加えて世界同時不況進行で絶壁から落下するように企業業績が悪化し、雇用・所得の削減が進むなど、金融・経済の環境悪化が不動産各用途へ及ぼす負の影響懸念が高まっていた。

全国の地方都市に先駆けて地価回復を果たした福岡市だが、不動産マーケットの急変で地価の体温計である地価公示価格の動向が注目されたが、3月23日、国土交通省から発表された平成21年地価公示価格は予想通りの急落となった。

福岡市の平成21年公示価格は、商業地、住宅地とも上昇から3年ぶりの下落へ転じた。特に商業地は9.6%と急落し、東京23区と指定市のうち、仙台市と並んでワースト1位となった。住宅地も前回公示価格のプラス1.3%からマイナス2.5%へ3年ぶりに下落した。

以下、市内の商業地、住宅地の公示価格動向を見ていく。

1、急落した商業地地価

福岡市全体で商業地平均で9.6%下落した。特に市内中心部の博多区、中央区の商業地の下落幅が大きく、表1の九州・山口圏内商業地下落率上位10位のなかに9ポイントを占める。特徴的なのは、下落幅が大きい公示地は、博多駅前とか、渡辺通りの天神地区など市内有数の認知度が高い高度商業地ではなく、舞鶴、奈良屋町、綱場など1等地に準ずるランクのポイントで、ここまで都心高度商業地の地価高騰に連れ高で、ファンダメンタルズを超えて上昇した商業地という点だ。

例えば、市内商業地の下落率1位,2位は中央区舞鶴3丁目の公示中央5-2(マイナス16.3%)と博多区奈良屋町の公示5-4(マイナス16.2%)で、商業地としての品等ランクは必ずしも高くない商業エリアである。

▼表1:九州・山口の商業地下落率上位10位

振り返ると福岡市中心部商業地の地価は、すでに07年夏のサブプライムローン問題顕在化に端を発した金融収縮の影響を受けて08年に入って上昇鈍化・下落基調となっており、そのトレンドは08年7月1日を価格時点とする地価調査価格に反映されていた。この時期の地価下落は、金融収縮でタイトになった銀行の融資姿勢の厳格化からもたらされる買い手の資金調達難を主な要因としていた。

リーマンショックが起きた09年9月以降、金融危機が実体経済を直撃、さらなる金融収縮に加え、企業業績、設備投資がかつてない速度で下降し、雇用・所得調整が進むなど実体経済の悪化から、家計に生活防衛色が強まり個人消費も低下した。その結果、企業や家計による不動産需要(新規取得、新規賃借・増床等)が急減した。企業や家計の急激な悪化で投資向け不動産のリスクプレミアムも上昇し、都心部の商業不動産価格が急落した。

福岡市都心部の地価下落要因を整理すると下記になる。

  • 金融収縮による国内外不動産ファンド、J-REITをはじめ地場不動産会社、マンション業者等の資金調達環境の急速な悪化で物件取得件数が激減。特に海外、国内中央から進出した不動産ファンドやJ-REITは、需給環境悪化の可能性が高い地方都市への投資を抑制したため、急速な投資マネーの撤収が行われた
  • リーマンショック以後の実体経済悪化で賃料・稼働率の低下など不動産投資のファンダメンタルズへの不透明感が急速に高まった
  • オフィスビル、賃貸住宅、商業店舗などは近年、福岡都市圏で供給が急増し、供給過剰、オーバーストア状態となっており、需給面から価格調整が進んだ
  • 実体経済も08年において急速に悪化し、雇用調整、給与の削減不安から、分譲マンション、戸建住宅などの購入希望者の生活防衛色が高まり、買い控え傾向が強まった。資金調達難からの市内の不動産業者の破綻が相次ぎ報道されたことも購入者の買い控えに拍車をかけた
  • 分譲マンションで07年の改正建築基準法施行の影響が08年に及び、さらに鋼材価格の上昇など建築コストの上昇を販売価格に吸収できず、業者の経営環境が悪化した。購入者も08年からの市内の不動産価格下落が進んだため、買い控えムードが高まり、各社の在庫が増え、完成在庫処理でマンション販売価格の調整が進んだ

次に福岡都心部を構成する博多駅周辺地区と天神大名地区を中心に平成21年地価公示価格動向を見ていく。

■博多駅周辺部

博多区の商業地は、昨年の25.5%上昇からマイナス13.8%の大幅下落に転じた。博多駅前を代表する公示地である博多口(駅西側出口)の博多5-1(博多駅前3丁目:日生博多駅前ビル)が2,560千円(▲15.0%)、筑紫口(駅東側出口)の博多5-2(駅東1丁目:花村ビル)が2,050千円(▲15.3%)と対前年比で大きく下落した。

博多駅周辺部は、11年の九州新幹線鹿児島ルート全線開通、高島屋と統合した阪急百貨店や東急ハンズが入居する新博多駅ビルの開業、駅前再開発など、天神の対抗軸として商業集積を高める浮揚材料がある。

しかし、博多駅周辺部では、駅前の博多ビルを取得して新幹線開業時に合わせ建て替え計画をしていた広島の不動産会社アーバンコーポレイションが08年8月に破綻、さらに福岡地所が第二キャナルの核テナントとしてディズニーの屋内型施設誘致を進めていたが、08年10月に白紙撤回となるなど、駅周辺部の再開発にネガティブなニュースが相次いだ。

当該地区は、九州新幹線全線開通、新博多駅ビルなどへの期待が膨らみ、オフィスビル投資が活発に行われたが、オフィスビル市況は08年になり悪化している。三鬼商事の調査では08年12月末に空室率が12%を超え、09年2月末時点で平均空室率13.05%と今年に入っても上昇を続けている。福岡ビジネス地区全体で08年の新規供給量は延床面積3万7千坪と07年の3倍強の大型供給となり、09年も同面積約3万6千坪の大型供給が続くため、需給バランスが崩れ、今後もオフィス市況が軟調になると懸念されている。

■天神・大名・今泉地区

中央区の商業地は、昨年の18.5%の上昇からマイナス12.8%の下落に転じた。市内の最高価格地点は、11年連続で中央5-9(天神1丁目:天神コアビル)で、価格6,900千円、下落率12.7%だった。一方、天神周辺部の大名1丁目の中央5-3が下落率14.9%、大名2丁目の中央5-12が下落率15.1%など大名地区の下落率が大きくなっているのが目立つ。

大名地区は賃料が急速に上昇し、ファンド等による新規開発の商業ビルの供給が積極的に進められたため、高層化されオフィス・商業床が急増した。その結果、個性的な店で感度の高い若者層をターゲットに展開していた当該地区の特性が希薄化して賃料も高騰したことから今泉地区などへのテナント流出が続き、空室が増加、賃料調整も進んでいるため地価調整が進んだ。

博多駅周辺部に先駆けて熾烈な物件取得競争が展開し、過熱・高騰した天神・大名・今泉エリアであるが、08年は買いが萎み、取引件数が激減した。天神西通りや大名のブランドショップも折からの個人消費の低迷による高額商品の販売不振で、路面店などの募集・成約賃料が下落している。

また天神地区のオフィスエリアでも空室率が増加した。シービー・リチャードエリス総合研究所の調査では、08年12月期で「天神」ゾーンの空室率では対前期比1.9ポイント上昇の7.7%となった。空室を抱えて竣工したビルがみられたことや、高額賃料のビルからゾーン外への転出が相次いだ結果とされている。

2、福岡市内の住宅地価格

市内の住宅地も利便性が高い高価格帯エリアは、投資マネー撤退と分譲マンション販売不振の影響を受け、地価下落を招いている。市内のアパート、賃貸マンションでは、単身者向け賃貸住宅を中心にファンド等の供給が急増したため、需給バランスが崩れ、稼働率・賃料低下を招いている。

また分譲マンションも折からの不況の加速で購入者の雇用・所得環境が悪化しているため、生活防衛色の高まりで購入マインド、有効需要ともに低下している。このためマンション販売にブレーキがかかり、完成在庫が増え、在庫処分を急ぐため値引き合戦が進むなどマンション市況も悪い。このような理由から、08年に入って市内の住宅地の価格は下落しており、今回の地価公示価格も下落が反映された。

福岡市の住宅地全体で前回の変動率+1.3%から09年はマイナス2.5%と3年ぶりの下落となった。住宅地で最も下落率が大きいのは表2のとおり中央区大濠1丁目の中央-2で11.3%の下落となった。折からの不況で高額マンションの売れ行きや高家賃マンションの入居が低迷しており、マンション用地需要が低迷しているが、市内有数の高級住宅地大濠地区の下落幅が大きいのはこのような背景と思われる。

▼表2:福岡都市圏の住宅地下落率上位5位

平成21年地価公示価格動向で見られる特徴は、高価格帯住宅地ほど下落が大きいという現象で、商業地が1等地より準ずるランクの商業地の地価の方が下落幅が大きいのと対照的な結果となっている。

東区全体の住宅地の下落幅がマイナス3.3%と博多・中央を除く各区のなかで大きいが、JR箱崎、千早駅など再開発が行われたエリアなどにマンション供給が集中し、市全体に占める供給シェアも東区が最も多く、供給過剰になっているため、在庫処分から値崩れが進み、需給バランスが崩れた影響と思われる。

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