日米不動産価格の最新動向と今後の回復シナリオ

今日、国内外の不動産価格は、世界的な金融・経済の連環の中で相互リンクして形成されている。サブプライムローン問題の顕在化、リーマンショックを震源とする金融危機は瞬く間に世界中に激震となって走り、世界同時不況、不動産バブル崩壊をもたらした。米国の著名投資家ウォーレン・バフェットが米経済を「絶壁から落下」と表現したような不動産価格の急激な下落が、米国、EU、日本と世界の先進国のすべてで起きている。

金融危機によるグローバル投資マネーの蒸発が第一ステージとすると第二ステージは金融収縮の直撃を受けた実体経済の悪化である。すでに日本国内の投資向け不動産のすべてのセクターでは、企業業績の悪化、雇用削減等による家計所得の減少により、物件取得力や賃料負担力が低下して不動産のファンダメンタルズに不透明感が急速に強まっている。そして厄介なことには国内の実体経済も当然ながら世界経済の負の連鎖から逃れられない。過度の外需に依存する日本は特にその傾向が強い。

今、グローバルな不動産価格はどういう状況にあってこれからどこへ向かうのか、金融危機の震源地米国と日本国内の不動産価格動向にフォーカスして論じてみる(先のコラムで予告した09年の分譲マンション、戸建住宅市場予測も本コラムで言及)。

1、米国の不動産価格動向

■住宅価格の状況

【記録的な下落が続く】

米国の住宅価格は、どの指標も記録的な悪化を示す数値が相次いで発表されている。09年1月のS&Pケース・シラー住宅価格指数は、米国内主要20都市で前年同期比で18.5%、主要10都市では20%それぞれ下落したが、この下落率は01年集計開始以来最大の落ち込みとなった。早い時期でバブルが崩壊したにもかかわらず下記の各都市の下落率は、

  • フェニックス ↓34.0%
  • ラスベガス ↓33.0%
  • サンフランシスコ ↓31.2%

を記録し、ここにきても止まることを知らない。当該指数の生みの親でもあるロバート・シラー教授は、まだ10~15%は下落するので、底打ちは10年以降になると語っている。また全米リアルター協会(NAR)が発表した1月の中古住宅販売は、449万戸で前月比5.3%減少した。97年以来、11年ぶりの水準に落ち込み、エコノミスト予測値479万戸を30万戸下回った。

米国内の実体経済の減速により雇用環境が急速に悪化しているが、これらの影響で住宅ローンの焦げ付き問題も深刻さを増している。「米抵当銀行協会(MBA)によれば、10-12月期の住宅ローン延滞率(季節調整値)は7.88%、担保不動産の差し押さえ率は3.30%。返済負担が重い変動金利型信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)は延滞率が24.22%、差し押さえ率が22.18%に上り、半分近くの返済が行き詰った計算だ。」(日経03.10)

このような米国内の住宅価格の現状についてエコノミストや市場関係者の見方は当然ながら厳しい。経済専門チャンネル日経CNBCのインタビューでS&Pデイビッド・フリツアーマネージングディレクターは「米国内のマンションは、住宅ほど深刻でないが、住宅価格は底を打つ手がかりもない。特にフロリダ、アリゾナ、ネバダ、カリフォルニアなど気候が温暖な地域の住宅価格は落ち込みが大きい。ニューヨークの住宅価格もこれからまだ下がるだろう。オバマ政権が打ち出した住宅政策の方向性は正しいが、来年の上期までは底を打たないだろう。」との認識を示した。

【先行指標では底打ちの兆しも】

足元の指標が軒並み非常に厳しいなか米国内の識者、エコノミストの多くは、米国内では住宅バブルが崩壊しても長期にわたり右肩下がりに住宅価格が下落していくという見解を取らない。その背景は、米国内の年1%超の人口増加と2%を超える出生率からみて長期的には住宅需要が名目成長率程度の上昇トレンド線を描くと見込めるからだ。現状では、視界不良、真っ暗闇の住宅市場だが、注意深く闇の中から先行指標を探ると底打ちの兆しが見えている。

経済専門チャンネルBLOOMBERGで大和証券チーフエコノミスト永井氏が「米住宅市場は足元では非常に厳しいが、09年の年央には反転の兆しも出てくるのでは」との認識を示した。永井氏によると、米住宅市場は、足元では非常に厳しいが中長期的に見ると明るい展望も見えてきたとする。その理由は、住宅の値段が下がり、金利も下がっているので米国民が住宅を買いやすい環境が次第に醸成されているからだ。例えば買いやすさの指標である「住宅購入余裕度指数」は昨年12月から好転している。また不動産屋等に物件を求めて買い手がどれぐらい足を運んでいるかを示す全米ホームビルダー協会(NAHB)の「住宅客足指数」のグラフは、直近でジグザグしているものの底打ちが見られるようになった。新築・中古住宅の販売も西部を中心に賃貸と比較した割安感から回復感が高まり、新築、中古とも直近で減少傾向が見られる。

ドイツアセットマネジメントの松尾氏もBLOOMBERGテレビで米住宅価格の底打ちが先行指標から見えてきたとの認識を示している。氏の指摘する底打ちを窺わせる先行指標は、

  1. 米住宅ローン申請件数が08年10月31日で底を打ち年始以後は上昇している
  2. 米住宅ローン申請件数・融資基準厳格化比率の緩和
  3. 米住宅販売、中古価格の動向が僅かだが上昇

である。さらにS&Pケース・シラー住宅価格指数先物では0年11月に底を打つが、株価は底打ちを織り込んで先行するので09年には景気回復色がかなり出てくるのではないかと語っている。

外国人投資家の動きも明るい兆しが見えてきた。日経VERITAS誌によると外国投資家不動産協会(AFIRE)の調べでは、世界の約200の機関投資家が今年、米不動産に投資を計画している資金の総額は昨年を73%上回る。競争が減って価格が割安になり、魅力がでてきたと見ている。

【オバマ政権の住宅政策効果】

前政権の住宅対策が貸し手へのインセンティブがなく不発に終わったのに比べ、オバマ政権が打ち出した住宅対策は、現時点では目に見える形で成果を上げていないが、実効性が高いのでこれから政策効果がでてくると期待されている。その柱は、住宅金融公社(ファニーメイ、フレディマック)や民間金融機関への資金供給を行い、米政府主導で借り手救済と貸し手支援を両輪で行う。借り換えや返済条件の緩和、さらには差し押さえ防止に向けた破産法の改正も盛り込んでおり、住宅の投売り減少→住宅在庫減少→住宅市場の好転といった期待ができる。

■米国の商業用不動産価格と米リート価格動向

米国の商業用不動産価格と相関性が高い金融市場であるが、08年はリーマンショックで金融危機が高まり、米銀はBSの圧縮で与信をタイトに転換したため、商業用不動産の資金調達環境が急速に悪化した。さらに金融危機は、米国内のオフィステナントの23%占めるといわれる金融サービス業関連を低迷させ、オフィス需要を下振れさせることとなった。

金融危機は、米国の実体経済を直撃し、個人消費を冷え込ませ、小売店舗セクターの商業不動産の市況を下振れもさせた。ロイターによるとマサチューセッツ工科大学(MIT)の不動産研究センターが開発した指数で米国の商業用不動産価格は、08年第4・四半期、算出が開始された22年前から過去最大の下げを記録した。

さらに全米リアルター協会(NAR)の第4・四半期の米商業用不動産市場動向は12年ぶりの水準に落ち込み、今後6~9ヶ月低迷が続くことを示唆した。市場動向を示す指数は前期比6%低下の109.2で、1996年第4・四半期以来の低水準となった。

ムーディーズ・インベスターズ・サービス・コマーシャルによると、商業用不動産価格は08年14.9%下落し、05年以来の低水準となった。07年10月のピーク時からは実に16%下落している。

米国内の商業用不動産価格の下落を反映して米国リート市場も低迷している。NAREIT Equity指数(配当込)は、08年9月から急速に下落した。10月にはマイナス31.9%と過去最大の下落幅となった。金融危機でリスク資産圧縮とレバレッジの解消が進んだことがその背景とされている。

09年に入っても米国リート市場は、低迷を続けており、米国内の金融株価との連動性を高めている。当該株価は、後述するが不良資産処理などの抜本的対策の具体像が見えてないため不透明感が強く、3月5日ムーディーズは大手3行の格付けを引き下げた。

市場不安を反映しシティ株価が1ドル割れするなど急激な下落が続いたが、米リートも株価に連動して下落している。NYダウの金融セクター株価は、直近では急速に回復基調にある。3月10日、シティグループの業務改善報道とパーナンキ議長の時価会計見直しや空売り規制強化報道を好感し、NYダウ、特に金融セクターの株価が急騰した。12日には11日のJPモルガン・チェースに続きバンクオブアメリカの業績改善が相次いで報道され、NYダウは7,000ドルラインを超えて回復するなど今のところ金融不安が和らいだような株価の展開になっている。

米銀行の業績回復は、政府の相次ぐ政策金利の引き下げで短期金利が低下し、低下した金利で調達し貸出しの長期金利との利ザヤを稼げる銀行のフロー収益が改善したことと、低金利を追い風に大企業の大型起債の販売手数料収入が増えたという背景があるからだが、米銀は、住宅ローンをはじめ商業不動産ローンなど不良資産を多く抱えており、これらの抜本的な解決への道筋が見えない現状では、今後の金融セクターの株価には慎重論が多い。

米国リート市場も当面は軟調な展開が続くと予測されるが、日本国内のJ-REITと同様に株価下落で投資利回りは魅力的な水準となっており、金融収縮の収束が見えてくれば底打ちに向かうと思われる。

2、日本国内の不動産価格動向

■住宅価格(マンション・戸建住宅)の価格動向

【マンション価格動向】

08年は、販売戸数の激減と完成在庫の積み上がりに見舞われ、未曾有のマンション市場の崩壊が起きた。金融収縮の激震が中堅マンションデベロッパー、ゼネコンを直撃し、破綻が相次いだ。08年は業界にとって悪夢のような1年となった。市況悪化を反映して全国のマンション発売戸数は、不動産経済研究所調査によると26.7%減の9.8万戸となり、16年ぶりに10万戸を割り込んだ。

マンション市場崩壊は、04年以降、マンション販売価格が約30%上昇した結果、購入者の所得からみて買える価格を乖離してしまったからだが、供給者による価格調整が3つのルートで急速に進んでいる。①販売状況とエンドユーザーに見合って行う非公開の値引き、②販売物件の一括値下げによる価格改定、③アウトレットマンションなる造語も生まれた買取再販業者の出現がそれだ。

業界の販売価格引き下げは進んでおり、価格改定による旧価格からの値下げ率が物件によっては20%超のもの見られるようになった。アウトレットマンションは、マンション業者が発売したものの売れ残ったマンションの部屋を4~5割引で買って、エンドユーザーへ通常販売価格の2~3割引で売り、その差額-(購入・売却コスト)がアウトレットマンション業者の利益となるというビジネスモデルだ。

このビジネスの先鞭をつけたのは新都心リアルコーポレーションといわれている。ジャスダック上場のアーバネットコーポレーションも参入しているほか、中堅ディベロッパーのタカラレーベンや明和地所などのほか、大手不動産流通会社の東急リバブルや野村不動産アーバンネットも仲介事業や受託販売部門強化の一環として参入している。

09年に入り価格の値ごろ感と金利低下から市場好転の兆しを予見させるような明るい話題もでてきた。大手マンションデベロッパー大京が東京・江東で販売している「亀戸レジデンス(700戸)」は分譲開始から2度の価格改定を行った結果、売れ行きが好転し、2月に入って100戸契約した。「モデルルームの毎週の来場者は200組、週末は客で満杯。同社の全国約60ヶ所のモデルルームへの来場者数は昨年10月から今年1月末までに前年同期比1.4倍と急増。1月に入り契約率100%の物件も出始めた。」(日経産業02.26)

同紙によると大京の田代社長は「マンション用地取得を通常モードに戻せ」と正月明けに現場に指令したそうだ。そろそろ買い時の土地が出始めたと判断し、買いの目安は04年の水準に設定。さらに同紙は、野村不動産でも09年年明け以降、モデルルームへの来場者が急増し、特に1月は前年同月の1.3倍に達したと報じている。

東京圏のマンションも、現状価格より約30%安い04年水準の4,000万円付近に戻せば、かなりの需要を取り戻せると業界は判断しているようだ。足元での土地価格や鋼材価格の下落が今後、新規に供給されるマンション価格を「新価格」=「買える価格」まで押し下げる追い風になれば、ユーザーの購入マインドの回復も期待できる。

マンション市場回復に寄与しそうなのが住宅ローンの減税制度。10年間で最大控除額が現在の160万円から大幅に拡充され、一般住宅は500万円、長期優良住宅は600万円に引き上げられる。さらに所得税で控除しきれない金額については、住民税からも控除できる。ローン残高の対象が引き上げられたことで高額物件も買いやすくなる。

しかし、国内の実体経済の悪化の谷の深さと長さ次第では製造業にとどまらず、雇用の8割を占める非製造業の雇用調整が本格化すると考えられる。そうなると雇用不安と所得低下が国内で拡大し、購入者の購入マインドと購入限界値は切り下げられ、マンション購入需要は大幅に下振れする。

いずれにせよ税制は現時点で購入を検討している人の背中を押す効果があっても、新たな需要を喚起するほどの力はないだろう。09年後半から1次取得者に買える4000万円切る新価格マンションが登場する。本格的回復は、景気が底を打ち、マンション新価格が浸透、ユーザーの生活防衛の緊張感も薄れる10年以降になると思われる。

【戸建住宅価格動向】

戸建住宅は、08年のリーマンショックが起きた10月以降、住宅需要と相関が高い所得環境が悪化したため急激に受注が減少し、ハウスメーカー各社の受注額も落ち込んだ。「各社の08年10-12月の受注戸数は前年同期実績を大きく下回り、積水化学工業で14%、三井ホームで21%、それぞれ減少。パナホームも10月単月受注金額が21%減少した」(日経産業02.12)。09年のハウスメーカー各社の見通しも暗い。同紙によると「住宅生産団体連合会が1月時点で調査した住宅大手16社の経営者による09年度の新設住宅着工戸数の見通しは07年度実績比1.6%減の101万9千戸」と報道。新設住宅着工が120万戸といわれた時代から90万戸台になるのは間近とも言われている。

戸建住宅の需要は長期的に下降トレンドにある。この辺が、住宅バブルが日本と同様に崩壊した米国と違う。米国は人口が過去10年間で2700万人増加し、年1%強増え続けている。日本は、国内に横たわる少子高齢化と人口減少という構造的問題を避けて通れない。

東京をはじめ政令市のなかには人口流入が当面は続く都市もあるが、大半の地方都市は人口減少と高齢化問題を抱え、中長期的にみても住宅地価格は依然として下落を継続するだろう。大都市のなかでも住宅地価格の動向は一様ではない。分譲マンションや不動産ファンド、投資家向けの賃貸住宅用地は、03、04年頃から07年にかけて上昇し一部エリアは過熱・高騰したが、収益用不動産の立地でない戸建住宅用地は、概ね横ばいか緩やかな地価上昇を示すエリアが多かった。リーマンショック以後、大都市圏内の収益用不動産用地は急激に下落しているエリアが目立つが、戸建住宅用地の下落幅は緩やかになっている。

■投資向け不動産、J-REIT価格動向

これまでリスクを取っていた外資系投資銀行が日本国内の不動産投資から撤退し、ファンドマネーやJ-REITによる不動産取得も激減した。ここにきて国内不動産投資を牽引してきた主要なメンバーが次々と市場からいなくなったわけで、マーケットがシュリンクし真空化している状況だ。

不動産証券化をコアとして投資用のオフィスビルや賃貸マンション等を開発してきたデベロッパー・不動産流動化ビジネス周辺業者にJ-REITのブリッジファンドとして機能し物件取得を進めてきた私募ファンド、さらには最終受け皿のJ-REITといった投資マネー増殖装置が毀損した結果、数兆円規模の投資不動産需要が蒸発したことになる。

このように足元では非常に厳しい国内の不動産投資マーケットだが、日本不動産に対する海外の評価は依然として高い点は押さえておかなければならない。例えば、日経CNBCで米国シンクタンク「アーバンランド・インスティテュート(ULI)とプライスウォーターハウスクーパース(PwC)」の調査では、不動産投資家から見た魅力のあるアジア都市ランキングで、

  • 1位:東京
  • 2位:シンガポール
  • 3位:香港
  • 4位:バンガロール
  • 5位:上海

東京は他都市を抑え1位であり、交通・電気などのインフラ、都市の安全性、ビルの耐震性への評価が高い。グローバル経済に明るさが見え出し、国内経済が回復してくると市場回復の期待値は高いといえよう。

09年に入り、金融危機が直撃した資金調達面からの買い手の減少という第一ステージから、実体経済の悪化の加速による投資不動産のキャッシュフローへの懸念が一挙に顕在化してきた。

3月12日、三鬼商事によると東京ビジネス地区(千代田、中央、港、新宿、渋谷の5区)の2月末の大型オフィスビル(1フロア330平方メートル以上)の空室率が5.60%となり、13ヶ月連続の上昇となった。外資系金融機関などが主要テナントであるS、Aクラスの高家賃ビルから賃料調整も始まっている。

さらに11年以降にオフィスビルの新規供給が増加してくる可能性がある。野村週報(第3167号)によると11年157万㎡、12年141万㎡の新規供給が予定されている。比較的堅調だとされてきた都心部のオフィスビルにも需給悪化懸念が高まったわけで、現時での空室率5%は賃料調整で借り手サイドに優位になる分水嶺といわれているが、需給悪化が進むと賃料低下圧力が強まると懸念される。

地方の政令市福岡はもっと深刻で福岡都市圏のオフィスビル空室率は2月末時点で13%超となり、新築ビルの空室率は58%に達した(日経03.13)。三鬼商事調査では、福岡市内ビジネス地区の08年のオフィスビル新規供給量は延床面積3万7千坪と07年の3倍強に達し、09年は約3万6千坪の大型供給が続くので市況がさらに軟調になると予測される。

オフィスビルと比較すると景気変動の影響を受けないとされている賃貸住宅も政令市や地方中核都市で需要と比較した供給過剰から需給バランスが崩れ、空室率や賃料低下が加速している。このような投資不動産のファンダメンタルズの不透明感の高まりと相俟って取引が急減し、底値が見えない状況になっており、いわば投資家が総すくみの状態のなか、国内では資金が潤沢な個人投資家の動きが目立つ程度だ。

J-REITは、株価から見たバリューエーション数値が魅力的な水準となってきており、先のコラムで触れたが政府によるJ-REIT再編促進へ向けた期待も膨らんでいる。市場の課題は、これまで放置されてきた多くの制度上の矛盾(先のコラムで指摘)を解消し、投資家の信頼を再構築することである。

3月10日、私募不動産ファンド会社のパシフィックホールデンィグスが会社更生法申請を行った。同社が主要株主になっているパシフィックレジデンシャル(日本レジデンシャル投資法人の資産運用会社)、パシフィックコマーシャル(日本コマーシャル投資法人の資産運用会社)に対する信用不安が高まったが日本レジデンシャル投資法人、日本コマーシャル投資法人の両HPには投資法人に対する直接的影響はない旨の発表がなされた。

J-REITは母体倒産の影響を直接受けない仕組みとなっている。しかし資金調達で母体企業の信用補完が欠かせないため、運営上の影響は避けられない。また会社更生法の場合、法制度上、金融機関は担保権行使ができないため、金融機関の貸出金の回収比率が低くなるという弊害があるので金融機関の貸出、回収姿勢がさらに厳しくなる可能性が指摘されている。

このような折、3月13日、日経紙の「金融庁が不動産投資信託(REIT)の監視強化に向けた動き将来の損失発生に備えた予防的な資本注入の可能性を模索する」という報道で、J-REITへの不安感が和らぎ、東証リート指数は続伸、日本レジデンシャル投資法人は10.6%株価が上昇した。しかし、J-REIT市場に対する不安感は払拭されておらず、J-REIT市場の株価は不動産のファンダメンタルズ悪化懸念もあって当面は軟調な展開が続くと思われる。

■国内経済と不動産価格の底打ちの見通し

外需頼みの国内経済の回復は、グローバルな経済回復(特に輸出ウエイトが高い米国、中国)とリンクしており、国内経済の回復は、分譲マンションや戸建て住宅の購入者の有効需要を回復し、投資向け不動産については、企業や家計の賃料負担力を回復させ、ファンダメンタルズを改善する。

国内経済がいつ底をうつか、そのタイミングを計るには、

  1. 震源地米国の金融危機の解消時期
  2. 日本の輸出回復の鍵をにぎる米国・中国の経済回復時期
  3. 内需回復のポイントとなる雇用ウエイトが高い国内非製造業の雇用・設備調整動向
  4. 日本政府の景気対策、追加対策の効果

を注視する必要がある。

1、米国の金融危機の解消時期は、オバマ政権が打ち出した米金融安定化策の実効性にかかつている。なかでも不良債権の分離が重要。米政府は、官民共同ファンドによる不良債権の買い取り構想を掲げたが、参入する民間投資家のリスク負担や買い取り価格の決定プロセスが具体性に欠け不透明なため、市場の反応は冷めており、現時点では、政府によるさらなる具体策の提示を待っている状況だ。

さらに米財務省は、資産規模1千億ドル以上の大手銀行20行を対象として基本シナリオと悪化シナリオに基づく「ストレステスト」を4月末まで実施して、その結果次第で公的な資金を注入する資本支援プログラム(CAP)を実行する予定だが、いずれにせよ金融危機の解消の見通しに不透明感が漂う。さらなる不良債権の発生を抑制するために政府の住宅対策による住宅価格下落の歯止めも機能しなければならない。
 
2、中国が世界で最初に経済回復し、米国も09年後半にプラス成長になるとのエコノミストの見方が出ている。まず米国だが日経紙によると約50の主要な米金融機関などのエコノミスト予測を集計したブルーチップ調査で米国のGDPの実質成長率は改定値が出た昨年10-12月期のマイナス6.2%に続き、足元の今年1-3月期はマイナス5.3%、4-6月期もマイナス2.0%に沈むが7―9月期はプラス0.5%に浮上。今年の4-6月期から景気対策とFRBによる資金供給効果が表れると予想される。

一方、中国の景気回復は米国より早いというエコノミストの観測が多い。中国国内の経済減速に備え昨年9月の貸出金利の引き下げ、11月の4兆元規模の景気対策を行った効果が出てきている。09年1、2月の金融機関の貸出しが増え、鉄や素材の価格が上昇し、製造業購買担当者指数(PMI)が3ヶ月連続でプラスとなった。

3月の全国人民代表大会で中国政府は8%成長(10-12月期6.8%)を目標とし、歳出7兆6,200億元(22%増)、減税規模5,000億元などの政策目標を掲げた。これらの政策効果で早ければ今春には底打ち反転に転じるとされている。

以上、その持続性に問題があるが米中景気の回復感が高まると日本の輸出が好転すると期待される。

3、国内製造業の生産調整、設備・雇用の抑制が急速に進んでいるが、これが非製造業まで及んでくると内需の足を引っ張り、輸出回復効果を減殺するだけでなく、日本国内の景気減速を長引かせることになる。

4、昨年8月以降、日本政府の3回に及ぶ経済対策も「絶壁を落下する」ような経済減速には不十分で、追加経済対策が取り沙汰されている。対策の柱は「雇用」、「公共事業」、「環境」である。規模は需給ギャップやGDP比からみて10~20兆円規模になりそうだ。金融面でも株式市場の安定化対策で銀行等保有株式取得機構による株価連動のETF買取案などが出ている。

内需拡大を踏まえ、インフラ整備や環境など新たな成長分野への投資に傾注することは中長期的な成長シナリオからも重要性が高い。緊急対策として企業の資金繰り対策や株価対策をスピーディーに行うことで一定の景気回復効果が見込める。

以上のような国内経済の回復要因は、期待通りの軌道でシナリオが進行するのか、まさに「神のみぞ知る」だが、良いシナリオで進むと、実体経済の底打ちより経験的に4、5ヶ月早いといわれる株価の底打ちが確認され、株価に連動し、実物不動産の動きより6ヶ月先行するとされるJ-REITが底打・反転し、実物不動産の底打へと進展するはずであるが…。

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