2009年の不動産価格予測 / 実物不動産投資

前回コラムは主にマクロ的観点からいわば09年不動産価格予測の総論を書いた。今回は各セクターの不動産について個別に予測する。

1、オフィスビル

オフィス市況は、08年において国内経済の減速と相俟って東京都心部のAクラスビルをはじめ全国主要都市のオフィスビルで空室率の上昇と賃料下落傾向が見えてきた。

まず空室率の動向だが三鬼商事の調査によると08年11月末の空室率は調査対象6都市(札幌、仙台、横浜、名古屋、大阪、福岡)で軒並み上昇しており、特に札幌、名古屋、福岡では空室率の上昇幅が前月比で0.5%を超えた。

  • 札幌
  • 10.087%(前月比0.84ポイント上昇)

  • 名古屋
  • 8.54%(前月比0.69ポイント上昇)

  • 福岡
  • 10.89%(前月比0.55ポイント上昇)

さらに賃料下落傾向も鮮明になってきている。08年11月17日の日経紙では募集賃料の水準を指数化したオフィスビル賃貸料指数(85年2月=100)は、東京の新築ビル(築後1年未満)が前年同期比43.48ポイント減の152.1、大阪でも31.28ポイント下がった134.23だった。いずれもバブル崩壊後の93年秋の調査以来、15年ぶりの下落幅となった。

09年1月8日の日経産業紙では、ジョーンズ・ラング・ラサールの調査で東京都心ビジネス街3区(千代田、中央、港)の08年7―9月期のオフィス市場概要によると賃貸総面積1万㎡以上などの条件を満たす優良オフィスの平均月額賃料(成約ベース)は3.3平方メートル当たり4万4,982円となり、08年4-6月期比5.3%下落した。都心3区の賃料は08年1-3月期をピークに2四半期連続で下落した。前年同期比でも6.7%下がった。

日本不動産研究所の全国賃料統計によると、08年9月末時点でオフィス賃料は、サブプライム問題等で景気が悪化して東京区部が5.4%下落、供給過剰で市況が悪化した仙台市が7.7%下落と上昇から下落に転換し、全国平均でも2.5%下落(前回は6.5%上昇)に転換した。

外資やJ-REIT、不動産ファンドなどの物件取得が急減した08年はオフィスビルの大口取引も低調となっている。日経不動産マーケット情報が昨年11月に集めた全国の事例もオフィスビルや商業用不動産の大口取引事例は105件で5ヶ月連続で前年同月比4割減が続いている。

空室率増加や賃料低下はNOIやNCFを低下させてビルの収益価格を下落させるので、ビル開発業者にとっては出口での売却価格が下振れし、ビル開発の先行き不透明感を増幅させる。要するにビル用地や稼働中のビルを購入する際にNPV(Net Present Value)が低下するので購入者の不動産価格の目線が下がり価格の下方修正を繰り返すことになる。

09年はファンド等が05~06年の不動産価格が高騰し、先行きへの強気の読みが支配していた時期に仕込んだ高値買い物件の出口が集中すると見られている。ファンドが竣工後にデベロッパーから買うというフォワードコントラクト物件もファンドのファイナンスが付かず市場を彷徨い市場価格を下ブレさせる要因となる。

マクロでみるとオフィス賃貸市場と相関係数が高い経済指標は民間設備投資である。民間設備投資の先行指標である1月15日発表の08年11月の機械受注統計によると、「船舶・電力を除いた民需」の受注額(季節調整値)は、前月比16.2%減の7,542億円と2ヶ月連続で減少し、1987年7月以来の低水準に落ち込んだ。

またオフィス需要予測をするときの要件式で見ると、

オフィス需要=オフィスワーカーの数×1人当たりのオフィス利用床面積

上記式のワーカー数に影響する有効求人倍率だが11月は0.76倍と前月を0.04ポイント下回った。前月を下回るのは10ヶ月連続で、04年2月以来の低水準である。また09年春入社予定の大卒採用内定者も5年振りに減少している。

オフィスマーケットと相関性が高い経済指標やオフィス需要の決定式等から見ても当面の間は改善が見込めず、ファイナンス環境の回復も米国の住宅価格が底打ちする10年以降と見込めるので海外投資家の日本不動産回帰も期待できず09年は厳しい年になりそうだ。

東京都心部をはじめ全国主要都市のオフィスビルが集積する高度商業地の不動産価格は後述する都心多層型商業店舗などの売上低下と相俟って賃料低下、空室率増加といった需給バランスの悪化がより深刻となり下落基調が加速すると予測される。特にマーケット規模が小さく、経済減速の影響を受けやすい地方都市で供給過多により需給バランスが崩れているエリアで市況が顕著に悪化すると予測される。

2、レジデンシャル系

レジデンシャル系投資不動産の市況は昨年来、特に厳しいが、高級賃貸住宅と一般賃貸住宅とで市況が違った様相を呈している。例えば東京都心部の月額家賃30万円以上の高級賃貸住宅の入居状況はより厳しさを増している。中心顧客だった外資系金融機関社員や新興富裕層の入居意欲が低下しているからだ。

不動産経済研究所によると高級賃貸マンションの08年までの1年間の供給戸数は6,863戸と対前年同期比1割以上増えている。英不動産大手のグロブナー等が最近になって参入しており、「住宅を購入するより賃貸する、戸建よりマンションが安全」という価値観を持つ富裕層を対象にしている。1億円以上の金融資産を持つ日本の富裕層は17年に1千万人と07年の3倍になるといった中長期的スパンで市場予測した結果の事業モデルだが、現時点では限定された層が対象のため付加価値の付け方でリーシングが左右され苦戦している。

高級賃貸住宅以外の一般賃貸住宅はさらに東京と政令市などを含む地方都市で分けて考えなければならない。人口流入や世帯数の増加が当面は続く東京と人口・世帯数の動向に違いを見せる政令市並びに人口・世帯数が右肩下がりで減少続ける地方都市では当然のことながら賃貸住宅の需要規模が異なり、都市によって需要に見合う賃貸住宅供給や既存ストック量がまちまちだからだ。

近年、賃貸住宅のなかでウエイトを増しつつある賃貸マンションで需給バランスを検証しよう。民間賃貸マンションの年平均新規需要戸数(ストック数純増戸数+ストック更新数)と03年から5年間の年平均着工戸数を比較することにより東京23区、大阪、名古屋で需給バランスを見ると、


都市未来総合研究所:賃貸マンションの市場動向調査(RMJ-No.115掲載)より一部抜粋

上表で東京23区、大阪ではほぼ需給が均衡しているが、名古屋は需要に比べ供給が多いことが解る。東京は需給バランスから見ても一般賃貸住宅投資は比較的安定しているが、政令市は需給バランスが都市間の事情で個別に異なる。とはいえ需給がバランスしている都市でも人口・世帯数の伸びから不動産ファンド等を中心に需要を超えて大量の賃貸マンションの供給が行われたエリアがあり、都市比較では目が粗過ぎるので都市内のエリアに細分化して不動産価格の予測を行う必要がある。

J-REITやファンドの低迷でこれらの保有物件の出口での物件売却が困難になっており、当初の出口のタイミングを延長して投資法人やファンドが運用し続けなければならなくなってきている。この変化は物件の賃料に影響する。つまりできる限り高く貸して、相場から乖離していても高賃料を維持して高い運用利回りを表面的に確保し短期保有で高く売り抜けるという手法が取りにくいので、中長期の運用を前提にして稼働率を上げ、キャッシュフロー収入を高めるため、空室対策で賃料を下げざるを得なくなっている。保有物件の賃料の下方修正がファンド間等で進むと周辺賃料相場に悪影響を与えることになる。

次にレジデンシャル物件の不動産価格を形成する当事者である購入層に目を転じると、マーケットがシュリンクしているなか以下のような投資家が購入層として考えられる。

■購入層

●個人富裕層

銀行融資は、投資用のレジデンシャルには特に審査がシビアなため、キャッシュを潤沢に持っているか、銀行の信用が厚く、ファイナンスが容易に付く個人富裕層に限定される。個人で買える物件価格はMAX5億円、一般的には2億円まで。この市況下で個人富裕層の価格目線は下がっており、エリアにもよるが新築でネットの取引利回り表面10%ネットで8%程度。好立地で収益が安定的に推移すると見込める物件だ。個人富裕層の投資意欲は、価格調整局面を迎えたこの時期にも関わらず高い。

●海外投資家、事業会社、大手不動産等

次がエクイティが潤沢な海外投資家、本業の業績が好調な事業会社や大手不動産会社などの法人である。サブプライムローン問題で痛手を受けず、日本国内の不動産投資を政府系ファンド(SWF)を通して行ってきた中東オイルマネーは、海外での不動産投資に対してひと頃のような積極性が薄れ、海外投資から国内産業育成や公共投資へ軸足を移している。これら法人に共通するスタンスは投資基準に適う不動産が出てくれば買うといった姿勢だ。価格高騰時のように焦って買う必要はない。市場のボトムをピンポイントで押さえて買いに出動することは難しい。このため、投資基準に適う物件が出れば買う、市場のボトムがその先になっても構わないという認識である。

■2009年予測

人口流入が継続しており、一定量の需要が見込める東京では需給バランスからみて一般賃貸住宅の不動産価格は急激な下落は起きず、個人投資家が購入できる価格帯の物件などは大きな値崩れはないと見る。需給バランスが既に崩れ改善の見込みがない地方都市の大半は、キャッシュフローの悪化で大幅な下落もあるだろう。需給バランスをエリア単位まで細分化して検討しなければならないのは既述のとおりである。

マクロで見ると金融危機の今後の行方と個人所得や雇用環境が入居者の賃料負担力となって影響する。09年は実体経済の減速が深化し雇用や所得環境がより悪化する。大和総研によると09年半ばまでに自動車や電機産業といった製造業を中心に雇用削減が170万人に及ぶ見通しだ。派遣労働者の多くが雇用期限をいっせいに迎える「2009年問題」も横たわる。

日経紙によると日銀の地域経済報告で実体面での経済の悪化が著しい自動車を中心に輸出関連産業の割合が大きい東海・近畿は地域経済の毀損が大きいが、一時期の好況で賃貸住宅の供給が集中したエリアでは投資向け不動産は打撃を受けると思われる。

不況が進行する08年から移転費用を要するため入居者の住み替え意欲が減退しており、企業も人事異動に抑制的で法人契約の住み替え需要も減少傾向である。09年は実体経済がより悪化すると思われるので、賃料負担力はさらに低下し購入時の賃料予測はより保守的になり収益価格が低下する。付加価値で差別化できない高額家賃帯の物件は価格下落が加速するだろう。

3、商業施設

■消費不振で低迷する商業店舗

都心多層型商業店舗ビル、路面店、郊外型ショッピングセンター、ロードサイド型店舗等の賃貸に供されている投資向け商業施設への投資は、景気に対する感応度が高いため折からの景気減速でいずれも低調である。

エネルギー価格の上昇、雇用削減、個人所得の下振れで個人消費が低迷しているため、特に消費者の節約志向が高く高額商品の売れ行きが悪い。このため都心立地の高級品ブランド店や百貨店などが苦戦している。昨年12月の百貨店各社の店舗売上高は10%強の大幅減に陥ったところが相次いだ。外資系社員や新興富裕層が購入していた高級腕時計や、高級スーツなどが極端に売れなくなった。

反面、不景気を反映して節約系のユニクロなどは業績堅調。不況から外食を控え自宅で食事する「内食」の傾向が強まっているが、弁当、総菜、タバコ自動販売機への成人識別カード「タスポ」導入で来店数が増えたコンビニの「ファミリーマート」や「ローソン」の純利益が過去最高益を出した。

オーバーストアで苦戦しているリアル店舗に比べ、ネット通販は活況を呈している。昨年のボーナス商戦で楽天、ヤフーの通販サイトの売上高は14日、過去最高を記録した。野村総合研究所によると08年のネット通販市場は対前年比で21.6%増の6兆2千億円に拡大する予定だ。近頃の「巣ごもり」、「ホームエンタメ」で外出しなくなったからといわれているが、一時のガソリン代の高騰も要因と思われる。リアル店舗を必要としないネット通販の伸びは不動産という空間スペースの提供で賃料を取得する店舗不動産投資業にとって脅威になりそうだ。

構造的問題として高齢化、人口減少で市場が縮むことに加え、オーバーストアの顕在化がある。昨年施行の改正都市計画法前の駆け込み的な新規開発SCのラッシュで供給過剰が顕在化した。個人消費低迷とオーバーストア、これら需給両面の負の連鎖で店舗テナントの売り上げが減少しているのでテナントの賃料負担力も低下している。このため大型小売店の閉鎖が進んでいる。総合スーパーではイオンや西友が店舗縮小路線に転じ、百貨店もJ.フロント リテイリング(大丸・松坂屋)が閉店に着手した。

例えばイオンはこれまでは人口減少などで市場が縮むことへの対応策としてヤオハン、マイカルを傘下に収め連結売上高を2.2倍の5兆円まで拡大してきた。しかし店舗過剰感が膨らみ不採算店も増加した。今後の新規出店はCMSを核とする大型SCの大量出店は中国、アジアへシフトする。反面、国内出店は半分以下に抑え、都市型小型店を中心に展開する。国際調達網を持つ三菱商事と包括提携した狙いは、これまでのような販路を広げる水平統合より調達力を高めて商品力を強化する狙いといえる。

ロードサイド型で代表的な業種である外食も業績が低迷している。民間調査会社の調査では08年の外食市場規模は前年比0.3%減の33兆3,449億円になる見通しで、特にファミリーレストランの低迷が目立っている。

かつての郊外ロードサイドのファミレスでテーブルを囲んで夫婦と子供2人の家族が食事をするという光景はめっきり見かけなくなった。少子化、人口減少に加え、飲酒運転の規制の厳しさ、ガソリン価格の高騰などが影響しているといわれているが、不況時には不要不急の外食が削られるからでもある。このような商況を反映して外食各社の業績は低迷している。「昨年12月までに外食各社が公表した営業利益予想ではロイヤルホールディングス48%減、日本ケンタッキーフライドチキン47%減、スターバックスコーヒー26%減など軒並み減益となっている(激流2月号)」。各社の不採算店の閉鎖も進んでおり、最大手のすかいらーくは200店規模の不採算店を閉鎖し、ロイヤルホールディングスは赤字店40を閉鎖する。

先日だったかTVでファミリーレストランが退去した店舗を「居抜き」で借りるステーキハウスチェーンが紹介されていた。賃料140万円とかを80万円くらいに交渉して既存設備をそのまま利用するためローコストで店舗展開できるというものだったが、店舗オーナーにとっては受難の時代になったものである。

百貨店、高級ブランド店など高価格帯小売りの商況低迷は都心多層型商業店舗ビルや路面店のテナントの賃料負担力に影響し、イオンなど大型小売店の業績悪化は郊外型ショッピングセンター、外食の低迷はロードサイド型店舗等の需要や賃料負担力に影響を及ぼす。

■リスクが顕在化した商業施設投資

商業施設は、総じてテナント戸数がレジ系に比べ少ないのでリスクの分散が不十分で空きが出ると次のテナントがなかなか見つからないため、オーナーは売り上げ不振のテナントの賃料値下げ交渉にしぶしぶ応じなければならないケースが増加する。

このようなリスクが表面化した案件が商業系リートのトップリート法人だ。テナントであるイトーヨーカー堂東習志野店が07年2月取得後、1年しなくて中途解約通知をした。同年8月には解約通知を撤回したが賃料を従来の65%、08年3月以降は一定の売り上げ以上の場合、固定+歩合賃料を導入することになった。トップリート側は、08年2月までの間、賃料減額したことになる。また日本リテールファンドもイトーヨーカー堂鳴海店の賃料を20%減額するなど商業系リートの先行きへの不透明感を強めた。

シングルテナント及び核となる大規模テナントは、賃貸借期間が長めで賃貸借解約禁止期間が設定されているケースもあり、このような場合は退去する可能性は比較的低い。とはいえテナントが退去した場合は賃貸スペースが広大で当該テナントのための特別仕様物件が多く汎用性がないため、次のテナントが入居するまでの空室期間が長期化するので、当該物件の稼働率や賃料が大きく毀損することがある。このようなリスクは商業施設投資に内在するものであったが、ここにきての景気低迷から一気にリスクが噴出する懸念が大きい。

■2009年予測

08年は商業系投資物件に内在するさまざまなリスクが噴出し、顕在化した年であったが、09年は実体経済の減速がより深化し消費者の雇用や所得環境が加速する。先に書いたが大和総研によると09年半ばまでに雇用削減が170万人に及ぶ見通しで、派遣労働者の多くが雇用期限をいっせいに迎える「2009年問題」も横たわる。

実体経済の悪化のスピードと深さは想像以上の速度と深さで進んでおり派遣労働者から正規社員まで雇用削減が進む見通しで、比較的裕福だといわれている団塊世代も株安や年金不安を抱えている。08年で鮮明になった高額商品の売れ行き不振や不要不急の商品、サービスの低迷はさらに加速すると思われる。このような個人消費の深刻な低迷の影響を受け空室の拡大と長期化、賃料下落で投資価値が大きく毀損する物件も増加する。

まちづくり三法施行以後、コンパクトシティ志向から郊外大型店から都心部の中小型店の出店へシフトする動きが目立つが、賃料低下、設備コストの負担減からファイナンス環境の悪化も後押しして09年はこの傾向が鮮明になるだろう。

まちづくり三法の駆け込み申請でオーバーストアが加速したが、需給バランス調整にはかなりの年数がかかるし、景気に敏感に反応するのが商業系施設で、売上に応じた歩合賃料制も多く採用されていることもあって今回の不況で最も深刻な影響を受ける不動産投資のセクターといえる。

次回に続く

■次回記事
  2009年の不動産価格予測 JREIT
      

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