筆界特定制度 後編
前回で筆界特定制度の基本概念である「筆界と所有権界の違い」や筆界特定の申請要件となる「申請できる者の範囲」、筆界特定の「対象土地と関係土地」、「過去の確定判決がある場合の扱い」などについて解説した。今回は、筆界特定制度の手続き、事実の調査以下、この制度の全体像について紹介する。
2、申請手続き
■申請先
対象となる土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の筆界特定登記官に対して、筆界特定の申請をする。対象土地が複数の法務局や地方法務局にまたがり、その間の筆界が明らかでない場合は、法務大臣または法務局の長が筆界特定を司どる法務局または地方法務局を指定する。指定がされる間は、対象土地を管轄するいずれの法務局、地方法務局に対して申請することができるとされている。
■申請情報の記録事項
申請情報に記録すべき事項は、以下である。
- 申請の趣旨(筆界の特定であることを明らかにするなど)
- 申請人の氏名または名称および住所
- 対象土地の所在及び地番等(一筆の土地とこれに隣接する相手方の土地など)
- 筆界特定を必要とする理由(例えば自土地を分筆するのに隣接地が筆界確認に協力しないなどの経緯と事由など)
- その他法務省令で定める事項(法131条2項5号:代理人申請の場合の代理人氏名・住所、土地の一部取得者である旨など)
添付情報
- 代表者の資格を証する情報
- 代理権限を証する情報(土地家屋調査士が代理申請する場合の委任状など)
- 相続その他一般承継があったことを証する情報
- 表題登記がない場合に所有権を証する情報情報
- 一筆の土地の一部の所有権を取得したことを証する情報
- 氏名・住所の変更を証する情報
■手数料、手続き費用
申請手数料は、1件ごとに算定される。筆界特定の申請個数は、申請人と筆界の数で決まる。具体的に1件分の手数料の算定は、対象土地の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の2分の1に相当する額に筆界特定によって通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて獲た額を基礎とし、当該額を登記手数料令8条1項の表に当てはめて計算する。例えば、対象土地(二筆)の合計額が4,000万円の場合、申請手数料は8,000円になる。また手続の中で、測量を要することがあり、そのときには、申請人が測量費用を負担する。この手続き費用は筆界特定登記官の概算に基づき予納しなければならない。
3、筆界の調査等
筆界特定の申請内容を筆界特定登記官が調査後、筆界調査委員という専門家を指定する。筆界調査委員は、これを補助する法務局の職員とともに、筆界に関する事実の調査や測量を行い、筆界に関する意見を筆界特定登記官に提出。筆界特定登記官が、その意見を踏まえて筆界を特定する。
■筆界調査委員
筆界調査委員は、その職務を行うのに必要な知識経験を有する者のうちから、法務局、地方法務局の長が任命する。調査委員が数名いるときは、原則として共同でその任を行う。また法務局または地方法務局の長は、法務局の職員を筆界調査委員が行う事実調査を補助させることができる。
筆界調査委員は、特に資格者であることは要件でないが、現実には、各法務局で境界確定訴訟の経験がある土地家屋調査士や弁護士が任命されている。非常勤で任期が2年で再任することができるが、法定の欠格事由があり、これに該当したときは失職する。
指定を受けた筆界調査委員は、以下の調査に着手する。
- 対象土地または関係土地その他の土地の測量・実地調査
- 申請人、関係人またはその他の者から知っている事実を聴き取ったり資料の提出を求める
- 筆界特定に必要なその他の事実の調査
■筆界特定の進行計画、事前準備作業
特定調査に至るまでの筆界調査作業の流れは以下のプロセスとなる。
- 進行計画
- 事前準備作業
- 論点整理
【進行計画】
筆界特定のための事実調査にあたり、下記の内容の進行計画が策定される。迅速な解決が期待されるこの制度の画期的試みとして、筆界特定までに要する標準的な期間として法務局、地方法務局の長が定めた「標準処理期間」を考慮するものとされている。
- 事前準備調査を完了する時期
- 申請人、関係人の立会いにより対象土地の測量、実地調査を行う時期
- 意見聴き取り等の期日開催日
- 筆界調査委員が意見書を提出する時期
- 筆界特定を行う時期
【事前準備作業】
あらかじめ、筆界特定に必要な資料収集や必要に応じての調査図素図の作成、現況等把握調査などが行われる。現地を測量したり、対象土地、関係土地の所有者、占有者などへ出向いて実地調査(境界標、柵、塀、樹木、工作物など境界を示すと思われる状況調査)や筆界特定の参考となるような事情聴取を行う。
【論点整理】
事前準備作業結果を踏まえて申請人・関係人等からの聴き取り内容の整理、各主張の相違点を明確にするなどの筆界に関する論点整理を行う。
■特定調査
特定調査は、事前準備調査や論点整理の結果を踏まえ、申請人および関係人に立ち会う機会を与えて、対象土地の測量・実地調査を行い、筆界となる可能性のある点の位置を現地で確認して記録する作業である。特定調査時には対象土地・関係土地の占有者、前所有者、近隣住民などからの事情聴取が行われることもある。
【測量・立ち入り調査】
特定調査においては、申請人または関係人が主張する筆界を現地で確認する方法や現地における境界標の調査による筆界の認定に基づき、筆界を構成する可能性のある点すべての測量をすることになる。この場合の測量は高い精度および正確性を求められるので、地図を作成するために実施する測量に準じて、基本三角点等に基づいて行うことが原則なっている(月刊登記情報)。またこの測量は筆界特定登記官または筆界調査委員が、法務局職員の補助ですることも、外部に委託することもできる。
「筆界調査委員が対象土地の測量または実地調査を行うときは、あらかじめ、その旨ならびにその日時、場所を筆界特定の申請人、関係人に通知し、これに立ち会う機会を与えなければいけない」(法第136条)。
この規定は当事者的立場にある申請人や関係人に立会いの機会を保障する趣旨であるが、一方、対象土地、関係土地の所有者、占有者の立会い協力が得られない場合も想定されるため、必要があるときは、その限度で筆界調査委員または法務局の補助者がこれらの土地に立ち入ることができる旨も規定している。
この場合は、立ち入りに当たって、占有者に対して事前にその旨や日時、場所を通知しなければならない。また占有者は正当な理由がない限り、筆界調査委員等の立ち入りを拒んだり妨げることができないことも規定されている。筆界調査委員等は、身分を示す証明書を立ち入りに際しては携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。
■意見、資料の取り扱い
筆界特定の申請人及び関係人は、筆界特定登記官に対して、対象土地の筆界について意見や資料を提出することができる。申請人、関係人の資料・意見を提出させることで、公平・中立性を担保し、より正確な筆界を迅速に特定できることが期待されるからである。
■意見聴き取り等の期日
申請人や関係人は、資料及び意見を提出することが認められているが、さらに筆界特定登記官に対して直接意見を述べ、資料を提出できる機会も設けている。筆界特定登記官は、筆界特定をするまでの間に、必ず1回はこのための期日を開かなければならない。期日を開く時期や場所、回数について特に定めがないので、現地で申請人や関係人から聴取することも可能である。
また筆界特定登記官は、申請人や関係人以外で適当と認める者に参考人としてその知っている事実を陳述させることができる。
筆界調査委員は、意見聴き取り期日に立ち会わなければならず、筆界特定登記官の許可を得て、申請人、関係人、参考人に質問することができる。
4、筆界特定
筆界調査委員は、筆界特定のため必要な事実の調査を終了したときは、筆界特定登記官に書面または電磁的記録で意見を提出しなければならない。このとき添付される図面の様式は筆界特定登記官が作成する筆界特定図面に準ずるものである。申請人や関係人は、この意見書を閲覧することができる。
筆界特定登記官は、筆界調査委員から意見書が提出されたときは、その意見を踏まえ、下表の事項を考慮し、筆界を特定し、その結論や理由の要旨を記載した筆界特定書を作成する。調査を尽くしても当該土地の筆界の位置が不明だった場合は、筆界の位置の範囲を特定することになる。
- 登記記録
- 地図または地図に準ずる図面
- 登記簿の付属書類(表題登記、分筆登記、地積更正登記等で出された地積測量図に含まれている情報により、当該申請のなされた当時の土地の実測面積、境界標の有無、隣接土地との接合状況等の情報を得る)
- 対象土地及び関係土地の地形、地目、面積・形状
- 工作物、囲障または境界標の有無その他の状況
- 工作物の設置の経緯
- その他の事項(道路管理図に表示された土地の区画や筆界に関する慣習の存否等)
筆界特定登記官が筆界特定をしたときは、申請人に筆界特定書の写しを交付して通知する。筆界特定書が電磁的記録で作成されているときは、その内容を証明した書面を交付する。さらに筆界特定があった旨の公告および関係人への通知も行われる。
5、管轄登記所における処理
筆界特定など一連の手続きが完了したときには、筆界特定登記官は、筆界特定書ならびに筆界特定手続記録を対象土地を管轄する登記所へ送付する。管轄登記所は、送付された筆界特定手続き記録を保管することになる。
この場合、管轄登記所は、対象土地の表題部に筆界特定があった旨を記録する。この場合の記録方法は「平成何年何月何日筆界特定(手続き番号平成何年第何号)」の振り合いになる(月刊登記情報)。
管轄登記所が筆界特定手続記録を備え付けた後は、筆界特定書または政令で定める図面の全部または一部の写しの交付や閲覧請求を何人もできるようになる。
■筆界特定に伴う地積更正登記
筆界特定手続記録の送付を受けた管轄登記所は、当該筆界特定手続記録を審査し、対象土地の地積に関する登記または地図訂正が可能と認められる場合には、対象土地の所有権登記名義人等へ、更正登記や地図訂正を申し出るように促した上で、これらの者が行わないときに限り、職権で更正登記、地図訂正を行う。
■関連記事
不動産売買と土地境界確認