米国の金融危機で日本の不動産価格が下がる仕組みとは

「米国に起きたサブプライム問題やリーマンショックがなんで日本の不動産価格を下げるの?」という質問は多い。対岸の火事と思える米国で起きた金融問題が、90年代初頭のバブル崩壊からやっと上昇軌道を描き出した日本国内の不動産価格をなんで再び奈落へと突き落とすことになったのか、今回のコラムではこの仕組みを解明してみよう。

まず本題に入る前に金融危機の引き金となったサブプライムローン問題とは何か、100年に1度の世界的危機といわれるその深刻さはこの問題のどこからもたらされてたのかについて言及する。

1、サブプライムローン問題

このところ金融危機の失政批判を浴びているグリーンスパン前FRB議長であるが、10月23日の下院の行政改革・監視委員会の公聴会で金融危機について「百年に1度の津波」と発言。さらに「信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の証券化商品に内外の投資家から過剰な需要が集まったことが問題の核心」と語った(日本経済新聞)。

ではなぜこのような過剰な需要が「百年に1度の津波」といわれる深刻な世界的金融危機を引き起こしたのだろうか。危機を招く下地は、米国内で醸成されており、サブプライムバブルは、巨大な「超バブル」の一部に過ぎない、と語るのが伝説の投資家ジョージ・ソロスだ。ソロスはその著書「ソロスは警告する」で超バルは、金融市場のグローバル化、金融市場の金融技術の革新的進行と金融規制の撤廃による制御の困難性、不良債権の額も把握できないほどの銀行の自己資本を毀損させた融資の極大化などからもたらされたとしている。

米国内に蔓延していた極端な市場原理主義と金融工学の過信、投資商品の運用者のリスクへの希薄さや経験の浅さからモラルハザードを引き起こし、今回のバブルを生成・崩壊させた。いま米国内では格付けや、信用デリバティブ取引(CDS)などへの監視を怠ったことへの反省が猛烈に起きている。金融への規制緩和が市場原理主義を野放図に暴走させたので規制を強化すべきだという意見だ。

それではサブプライムローン問題とはそもそも何だったのか、その発生と危機の深化プロセスを時系列で追っていく。

■サブプライムローン問題の発生
 
米国のサブプライムローンは、本来なら住宅を購入できない低所得者層やクレジットカードの延滞履歴がある信用力の低い人達に貸し出す住宅ローンである。審査が緩く高い金利を払えば比較的容易に住宅ローンを借りられる仕組みになっており、借り入れ当初の2~3年間は低利の固定金利だが、その後は市場連動の高い金利が適用される。この種のローンは住宅価格が上昇すれば、数年後、金利が上昇しても金利の低いローンへ借り換えなどが可能であるが、住宅価格が頭打ち・下落すると返済ができずに債務者はデフォルトしてしまう。

なぜこのようなリスクの高い住宅ローンが米国内では数多く実行されたのだろうか。米国の場合、金融機関と借入希望者の間に住宅ローンブローカーが介在する。住宅ローンブローカーはローン契約成立時に金融機関からフィーを取る。彼らはローンのリスクを十分に開示しないことが多い。米証券取引委員会(SEC)元委員・法律顧問のH・ゴールドシュミット氏は「1番の問題は不動産仲介業者と住宅ローン会社がリスクを考慮しない野放図な融資審査を繰り返したうえ、借り手の信用情報を不正に操作するなど完全な不正を働いていた。(中略) 不動産仲介業者をはじめ、全く当局から監視されていなかった。これらが信用不安を増幅させ、不正な慣行を許した原因」と語る(日本経済新聞)。

彼らは融資した住宅ローン債権を証券化して売リ払うので投資家へリスクが移転する。サブプライムローンの金銭債権は、相当部分が証券化によってRMBS(Residential Mortgage Backed Securities 住宅ローン担保証券)に束ねられている。さらに複数のRMBSが束ねられ再証券化されてCDO(債務担保証券)になっている。つまりAAA格付けの債権からBBB格まで幾重にも金融技術でリスクは分散され、分散効果を拠りどころに投資家への配当を高め、資金の運用先を求める世界の金融機関やヘッジファンドに転売されている。その結果、広範に分散する投資家同士がリスクをシェアする仕組みになっている。

1つ1つのローン債権の中には延滞や回収不能になるものがあってリスキーに見えるのだが、数多く集められプールされると大数の法則が働く。RMBS内部は、シニア、メザニン、エクイティの優先劣後構造にリターンとリスクが切り分けられ格付けされている。優先部分のデフォルト発生頻度が目標格付け付与の条件となるデフォルト確率範囲内に収まるかをモンテカルロシミュレーションと呼ばれる金融工学などを使って検証している。そしてさらに再証券化が進む結果、当該証券をホールドする投資家は、原資産のリスクが見えにくい。

■金融危機の深化

危機の深化は、まず金融機関の流動性不足から始まった。米国内で昨年3月、住宅金融大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャルの経営破綻、6月に米大手証券ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドが実質破綻と相次いだ。8月には欧州に飛び火、仏BNPパリバが突如、運用するファンド3本の解約停止を発表。動揺した欧米金融当局は、FRB、欧州中央銀行(ECB)に流動性危機を回避するため大量の資金供給を行った。

大手格付け機関の住宅関連証券の格下げも疑心暗鬼を深めた。ムーディーズは、6月15日、7月10日と相次いでサブプライムのRMBSの格下げを行った。大手格付け機関による住宅関連証券の格下げは、それを担保に資金調達していたファンド、住宅金融会社の危機として認識され、資金の引き上げが一挙に増加した。しかし、この頃は、サブプライムローン問題の先行きに対して市場に楽観的空気がまだ漂っていた。

市場を凍りつかせたのが今年3月の証券会社ベアースターンズ危機だ。証券会社は、住宅ローンを購入して証券化をアレンジメント後、投資家へ販売する高収益ビジネスモデルを構築していた。しかし疑心暗鬼から証券化商品の買い手は市場から消え、ベアの資金繰りが悪化、実質的な破綻状態になった。円相場は1ドル=95円に急上昇、日経平均株価は12,000円を割った。FRBはベアースターンズの不良資産を買い取る特別目的会社に290億ドル融資して、将来損失を肩代わりし、JPモルガンによる救済買収の道筋をつけた。

さらに9月7日、米政府は、経営難に陥った連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を政府の管理下におき、2社合計で2,000億ドルの優先株購入枠を設定、経営状況に応じて段階的に公的資金を投入することを決定した。同社の破綻は米国発の金融恐慌となって世界の金融システムの根幹を揺るがす事態に発展する恐れがあったからだ。

住宅公社2社の公的管理が好材料視されて米、日などで週明け当初は株価が上昇したものの、その後は経営難に陥った米証券大手のリーマン・ブラザース破綻懸念や内外経済の減速などへの懸念で相場が揉み合っていたが、9月15日にリーマンショックが襲った。
 
9月15日、株価が急落し破綻懸念があったリーマンブラザースは内外の金融機関への身売り交渉を進めていたが、金融機関が求めた公的資金投入を政府が拒否、交渉が行き詰まり、破産適用申請した。

一方、当局は、AIGを政府管理下におきNY連銀が最大9兆円の融資枠を設定して救済した。リーマンは3月のベアースターンズ危機以後の時間経過のなかで十分にリスクを織り込めたはずだが、AIGは国民に身近な保険会社であることによる破綻の衝撃波の大きさと、クレジットデフォルトスワップ(CDS)市場への深刻な波及を懸念した政策判断であった。

CDSは、企業が債務不履行になるリスクを交換する取引で、一種の保険契約である。例えば債権を保有する投資家Aは、CDSの売り手の投資家Bへ保証料を払って債権発行企業の破綻など債務不履行の際にBから想定元本の損失補填を受ける。リーマン・ブラザーズのケースでは、CDS清算価値(リカバリー)が、10日行われた入札の結果、8.625%に決定したので4,000億ドルに上るリーマンのCDSの売り手は91.375%の損失を被る計算になる。AIGは主にCDSの売り手だったのでAIGが破綻すると損失補填の主体が市場から消えるため市場の大混乱が懸念された。

リーマンを切り捨て、AIGを救済した当局の判断は、マーケットの混迷をさらに深めた。「金融システムに重大な影響を及ぼす金融機関は潰せない」というこれまでのマーケットの暗黙の了解は覆り、マーケットに底なしのリスクが広がって金融危機をさらに拡大させることになる。

米政府は、75兆円の公的資金を金融機関に投入して不良資産買取機関を創設する総合的な金融安定化政策の修正案を10月3日に米下院で可決。10月10日にG7財務省・中央銀行会議で各国が協調して金融機関の破綻を避けるため断固たるアクションを取ると明記、さらに米大統領は米銀に25兆円の公的資金を資本注入すると表明した。

ここまでの矢継ぎ早に打ち出された政策で金融機関の流動性危機や自己資本増強などがかなりの部分改善した。金融システムの安定化への道筋とそのための実行プロセスも見えてきた。しかし今後、公的資金による不良資産買取による不良債権の切り離しが進むと金融機関の損失の発生が避けられない。損失で傷んだ自己資本を埋め合わせるための公的資金注入がプログラムされるとはいえ、どこまで自己資本が損切りに耐えられか…。金融機関の収益基盤が縮小して貸し渋りが増加することが予測される。

いずれにせよ金融シュリンクによる米国内の実態経済の減速が進むだろう。すでに世界的なデフレスパイラルの懸念が高まり、経済の減速域に入っていることは確かで、問題は、その闇の深さと期間だが、家計から企業まで膨らんだレバレッジを解消するには相当の期間を要するという見方が大半だ。回復の鍵を握る米住宅価格だが、S&Pケース・シラー指数の先物では米住宅価格の底離れは2010年半ば過ぎとなっている。

2、米国発の金融危機で日本国内の不動産価格が下がる理由

対岸の火事、蚊が刺したほどの影響という人はもういないだろうが、意外に米国の金融危機→日本国内不動産下落という因果関係を解っていない人が多い。この点は、以下のように整理することができる。

  1. CMBSの買い手が消えNRLの縮小
  2. J-REITの外人投資家の売り越し
  3. 米金融機関の日本国内不動産融資の縮小・撤退
  4. 海外不動産ファンドの撤退
  5. 米国金融危機で米国内の実体経済悪化が日本の実体経済に影響

■CMBSの買い手が消えNRLの縮小

証券化された投資用不動産のデッドのシニアローンはノンリコースローンであるが、このレンダーである外資系金融機関(特に投資銀行)は、自社のローン債権をバランスシートに抱えるのでなく、ローン債権をオフバランスする。つまりローン債権が金融機関のB/Sからオフバランスされた証券化商品がCMBSである。

証券化によりNRLや担保不動産に内在するクレジットリスクが「投資適格」、「非投資適格」、「無格付け」に切り分けられ、格付けされている。貸し出し後の支払い不能率、担保権行使、その際の損失率のデータが蓄積されて劣後比率が決定されているのだが、サブプライムローン問題により、証券化商品全体への投資家の不安を増幅し、CMBSを買う投資家が市場から消えた。NRL債権の約半分位がオフバランスされCMBSに転化しているといわれている。外資系金融機関は、すでにローンを出してしまったCMBSの在庫を抱え、新規のノンリコースローンが出せない。つまりCMBSの市況悪化が投資用不動産のファイナンスが急激に悪化した一因となっている。

■J-REITの外人投資家の売り越し

J-REITの投資家の約3割を外人投資家が占めている。この歪な市場構造のため、本来は、ミドルリスク・ミドルリターンの投資商品が株式以上の価格変動を見せる。

外人投資家は本国での金融危機で損失を出したり、調達資金の返済を求められるので、昨年の6月頃からそれまでの買い越から転じて利益確定の売り姿勢を強めた。さらに金融危機拡大による関連投資の損失の穴埋めでJ-REIT売りを加速し投資口価格が大きく下がる原因となった。

J-REIT市場の下落は、J-REITマーケットだけに限定されない。J-REITは国内の投資不動産の出口としていわば国策的に機能している。特にプライベートファンドは、J-REITを出口としてセットしているため、J-REIT市場の価格下落は、ファンドの購入物件が捌けない事態となる。J-REITサイドにしても買えない事情がある。つまり株価に相当する投資口価格の暴落で増資をすると既存株主の利益の希薄化を招くし、銀行借入をするとLTVが上昇するため、市場の評価が低下する。要するに物件を購入するための資金調達が限りなく難しいわけだ。買い手を失ったファンドの運用物件は、不動産市況の急速な悪化と相俟って投売り状態で市場価格をさらに下落させることになった。

■外資系金融機関の日本国内不動産融資の縮小・撤退

外資系金融機関は、自身がサブプライム関連商品を投資商品として抱えていて損失があるという側面と、サブプライム証券化商品を買ったヘッジファンドへ融資して回収リスクが高まっているという2側面がある。日本国内でハイレバレッジの不動産投資のレンダーとしての役割を担ってきた外資系金融機関も、本国での損失が増加しているため、体力を消耗し、日本国内での不動産融資を縮小・撤退する動きを加速させた。

不動産融資の縮小・厳格化は、邦銀にも及んでいる。資本に対する株式保有率が高い大手銀行は、株価暴落の影響を受けており、いまや全業種に拡散している倒産や不良債権の上昇で不動産融資に慎重だ。

地銀も相次ぐ中小マンションデベロッパーや新興不動産会社の破綻で不良債権を抱えている。また地銀は、融資難から株式やJ-REITで資金運用している。預金を有価証券運用に回している預証率は20~30%でここ10年で10ポイント増加しているほどだ。株価の暴落やJ-REIT株価下落でバランスシートが傷み、地銀の直近の決算予想でも利益の下方修正や赤字転落が相当数に上っている。

政府は、地域金融の崩壊を防ぐため金融機能強化法による金融機関への資本注入や、金融機関の保有有価証券の含み損の一部を自己資本に算入しなくてすむ自己資本比率規制の緩和を検討している。

このように邦銀は、BIS規制絡みもあって不動産融資を積極的にする経営環境にない。

■海外不動産ファンドの撤退

海外不動産ファンドも大半が日本での不動産投資を縮小・撤退している。サブプライム問題に端を発した金融危機がその主な要因であるが、今回の金融危機で傷を負わず比較的エクィティの潤沢なシンガポール政府系ファンド、中東オイルマネー、低レバレッジのドイツ系オープンエンドファンドは、今年に入っても日本の不動産を買っている。

中東オイルマネーは、海外での不動産投資に対してひと頃のような積極性が薄れたようだ。日経CNBCが伝えるところでは湾岸産油国は海外投資から国内産業育成や公共投資へ軸足を移している。原油枯渇後の産業育成が産油国の悲願で、総額2兆ドルを超える国内開発事業を進めているが、金融危機の影がこれらのプロジェクトにも忍び寄っている。域内外の民間資金を集めるビジネスモデルで巨額の公共投資などを推進してきたが、世界的金融危機による流動性不足で金融機関が慎重になり、当初の想定どおりに資金が集まらないらしい。

■米国金融危機で米国内の実体経済悪化が日本の実体経済に影響

米国の実体経済は、特に個人消費は住宅価格の変動で左右されるという特性がある。平均的米国家計が持つ最大の資産は実は株ではなく「ホームエクイテイ」と呼ばれる借り入れ金額を差し引いた後の純資産としての住宅価値である。これは住宅を担保とした家計の借り入れ余力であり、住宅ローンの返済分が純資産の増加として蓄積されている。例えば30万ドルの住宅ローンがあっても住宅価格が40万ドルなら10万ドルの借り入れができる。住宅価格が上昇すれば借入額も増えるというわけだ。

あらかじめ設定された枠内であればお金を随時出し入れでき、融資枠の半分は実際に引き出されて耐久消費財の消費や別の住宅を購入するための頭金、カード債務の返済に充てられているのだ。したがって住宅価格が下落すると米国の個人消費はオートマティックに下振れする。

また金融危機による貸し渋り、株価の暴落、個人消費の低迷が企業業績を悪化させている。米企業の7-9月期決算発表では金融機関中心だった業績低迷が製造業にも拡大している。自動車のGMなどの業績悪化が連日のように報じられているが、自動車は関連産業の裾野が広く雇用も大きいため、景気への影響は甚大だ。

米景気の低迷は、外需に依存する日本企業の業績を下振れさせる。このところの急激な円高もソニー、NEC、トヨタ、キャノンといった日本の上場企業の業績予想を大きく下方修正させている。つまり米国の住宅価格下落、金融危機が日本経済を減速させ、日本企業の業績悪化はオフィス賃料、雇用削減や所得低下は、住宅賃料、個人消費低迷は店舗賃料のそれぞれ負担力を低下させ、投資不動産のキャッシュフローを悪化させることになる。

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