J-REIT市場の回復を予測すると

J-REITマーケットが、約3割を占める外人投資家の動向に左右されるのは昨年からのJ-REITの暴落で実証された。オフィス系リートのファンダメンタルズ要因である賃料は企業の設備投資と正の相関があり、テナントであるグローバル展開する国内大手企業の業績は為替相場に左右される。また国内の不動産株やJ-REITは、米国のサブプライムローン問題を震源地とする米国の金融市場と信用収縮でリンクしており、J-REITの市場価格は原油価格の動向と逆相関となっている。このようにJ-REITマーケットは、いまや世界経済のグローバルな動向と密接不離で連動しているため、国内の不動産市況やJ-REITマーケットの今後の動向を予測するには、世界経済の動向を注視しなければならない。

1、サブプライムローン問題などマクロ経済動向(米政府による住宅公社公的管理、リーマンブラザース破綻など)

東証リート指数は、3月を底に4~5月に入ってやや回復の兆しを見せたが、その後は調整色を強め、9月5日には1,114ポイントまで下落。そして9月7日にサブプライムローン問題の震源地である米国で重要な動きがあった。米政府は、経営難に陥っている連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)を政府の管理下におき、2社合計で2,000億ドルの優先株購入枠を設定、経営状況に応じて段階的に公的資金を注入することを決定した。

■米政府による住宅公社の公的管理

公的管理になった2社は、昨夏以降、住宅ローン担保債権の最大の買い手であり、保有・保証する住宅ローン関連証券は約5兆3千億ドル(日本円で約540兆円)で日本のGDPを上回る。世界各国の中央銀行や金融機関は当該2社の債券や関連商品を約1兆6千億ドル保有しており、同社の破綻は米国発の金融恐慌となって世界の金融システムの根幹を揺るがす事態に発展する恐れがあった。

また同社の債券価格の下落は、海外中央銀行の評価損を拡大させ、その結果、海外からの債券購入が細ることで米住宅金融のコアである同社への資金流入が縮小して公社の金利スプレッド、さらには住宅ローン金利スプレッドがワイドになるため、住宅市場が一層、減速するという負の連鎖も起きていた。

米政府の住宅公社救済策の発表で、金融不安が後退、公社の資金調達コストが低下し、民間住宅ローン金利も連動して下がる、これを契機に住宅市場が浮揚して欲しいという市場の期待感で8日のNY株式市場はダウ工業株30種平均が前週末比289ドル高と急伸し、債券、ドル相場も上昇した。さらに日経平均も週明けに米政府の住宅公社の公的管理決定を好材料に上昇した。

しかし、米政府による今回の住宅公社の救済の金融市場に及ぼす影響は限定的で一時的と見る見解が多い。米国内の住宅価格の下落と在庫の積み増しは、今回の措置がなされなかった場合と比較すると若干小幅にはなるものの、住宅価格が底打ちすることは当面は期待できないという冷めた見方が支配的だ。

なぜなら、ここにきてサブプライムローン問題を発端とした金融市場の混乱だけに止まらず実体経済の下振れが進み、米国内だけでなく世界経済規模での減速へと急速に向かつているからだ。世界経済の減速へのトレンド変化を受けて経済協力開発機構(OECD)は9月2日、米・欧・日の08年の成長率を1%台に下方修正した。欧州はサブプライムローン問題の影響で金融機関のB/Sが傷んでおり、英国、スペイン、デンマークなどで住宅バブルが破裂し、EUの主要国では08年はゼロ成長と見られている。

米国が減速しても世界経済を高成長へ牽引する新興国のデカプリング論が語られた中国もここにきて減速が始まった。米国の減速で輸出など外需が低下、北京五輪による建設需要も一段落、資源高によるインフレで内需が鈍化。さらに「一人っ子政策」による少子高齢化の進行が国内の構造的問題として浮上してくる懸念も指摘されている。

いずれにせよ度重なる米利下げに起因する過剰流動性を背景としたグローバルな巨額投機マネーによる株高、不動産価格上昇の潮流はすでに終焉を迎えた。米国、欧州、日本、アジア市場では株価や不動産価格の同時下落が進んでいる。

米政府による住宅公社の公的管理に話を戻すと、好材料視されて米、日などで週明け当初は株価が上昇したものの、その後は経営難に陥った米証券大手のリーマン・ブラザース破綻懸念や内外経済の減速などへの懸念で相場が揉み合っていたが、9月15日にリーマンショックが襲った。

■リーマンブラザース破綻

本コラムを書いている15日に米国から重大ニュースが飛び込んできた。株価が急落し破綻懸念があったリーマンブラザースは内外の金融機関への身売り交渉を進めていたが、金融機関が求めた公的資金投入を政府が拒否、交渉が行き詰まり、破産適用申請したというニュースだ。

「米証券会社第4位のリーマン・ブラザーズが15日、連邦破産法11条の適用を申請すると発表。米投資銀行ベアー・スターンズに続き、老舗の破綻。158年の歴史を持つリーマン・ブラザーズがサブプライムローン問題に絡む巨額損失で倒れた。」

同ニュースは、リーマンが最終的に破産すれば同社株や債権を保有する他金融機関に巨額損失が発生する恐れがあると報じている。次の標的となる金融機関探しで市場が疑心暗鬼となるのを先制するように米銀2位のバンク・オブ・アメリカは、14日、経営難のメリルリンチの買収を発表した。

昨夏に顕在化したサブプライムローン問題に伴う金融危機は、米大手証券2社を巻き込んだ大型再編に発展し、さらにサブプライムで巨額の損失を出した米保険大手AIGにいま注目が集まっている。

リーマンブラザースの破綻は、米政府による住宅公社の公的管理発表でサブプライムローン問題の解決へ1歩踏み出したと理解した市場のセンチメントを一挙に冷やした。破綻は最終的には避けられるだろうという甘い読みが市場にあった。何よりも民間金融機関をベア・スターンズのときのように救済しないという米政府の意思を確認したことが、市場のショックでもあった。

市場にリスク回避が強まり債券が買われ、サブプライムローン問題の根深さを改めて認識させることになった。連休明けは世界に同時株安の激震が走るだろう。さらに不動産市場の下ぶれリスクも再燃している。

ロイターによると、「米不動産市場の関係者は、証券大手リーマンブラザースの経営破たんにより、リーマン保有の326億ドル相当の商業不動産投資の売却が促進される可能性がある、と述べた。ただ、これは米不動産資産の売却再開に向けた呼び水に過ぎない見通しだという。不動産市場の下値は早くも崩れ、相場はさらに大幅な値下がりに見舞われる可能性がある。大規模な金融機関が市場から去った後の穴を埋める新たな投資家が登場するまでは、この状況が継続する見通しだ。」

米国内不動産にハゲタカが襲来するのだろうか…。日本国内の山一証券、北海道拓銀と相次いだ経営破たんとその後の外資のバルクセールを思い出したのは筆者だけだろうか。

■原油価格の下落

株安、ドル安、不動産バブル崩壊後の有利な投資先を求めて漂流する投機マネーは、原油市場にも流入し、原油価格を高騰させた。いまやJ-REITマーケットと逆相関になっているとされるNY原油先物相場であるが、「7月に1バレル150ドル近辺まで高騰したが9月12日に100ドル割れの99.99ドルまで一時下げた。相場が調整した背景には、最大の買い材料だった新興国の燃料需要拡大にブレーキがかかる懸念が強まったことである。今月に入って原油などへの投資を膨らませていた米ファンドの運営が行き詰ったことも、投資家を慎重にさせている」(日本経済新聞)。

原油相場は、ヘッジファンドの株式売り・原油買いポジションでの投機マネー流入に加え、近年は年金基金のリスクヘッジを目的としたMPT理論に基づくインデックス投資も加わっている。市場が複層化しており、今後、原油価格がどの程度で落ち着くのかはさまざまな見方があるが、1バレル80ドル~130ドルまでのレンジでの予測が多い。世界景気の減速が進んでいるので原油需要は今後、低下傾向にあると思われるが、OPECの減産やイランと欧米の対立に加えグルジア紛争など地政学的リスクもある。また現状で世界の原油の7割は生産開始から30年以上経過して老朽化しており、政情不安から新規開発も進んでいない。資源ナショナリズムから油田を国営化する動きも目立つ。これらの要因から見ると原油価格が今後、一方的に下落するとは考えにくく、高止まりすると見られるため、世界経済にインフレリスクが依然として内在すると思われる。

9月5日に東証リート指数は、今年の底値に到達したが、7日の米政府の住宅公社の公的管理発表などを受け、金融危機が終息へ向かうという期待感から反発した。米政府による住宅公社の公的管理で今後、住宅価格の下落は下支えが働き、下落が小幅になるといった期待感も膨らんだ。しかし15日のリーマンブラザース破綻で他の大手金融機関に飛び火する可能性があり、一挙に危機感が高まってきた。ここまでくるとクライマックスで悪材料が出尽くし、サブプライムローン問題も峠を越えたとなるのか、さらに負の連鎖が進み市場の崩壊に向かうのか現時点で予断を許さない。

以上、金融市場動向を中心にマクロ的要因を書いてきた。次にJ-REITマーケットが、今後、金融市場や世界経済から影響される下ぶれリスクを脱し底離れして上昇トレンドへ向かうには、国内の賃料動向や当該制度にいくつかの懸念要因があるのでJ-REIT市場の個別的な問題に言及する。

2、今後のJ-REITマーケットの懸念要因

■都心オフィスビル賃料に先安感が

ここにきてこれまで堅調といわれてきた東京都心部のオフィスビルの賃料動向の雲行きが怪しくなっている。

クレディ・スイス証券が、「業界環境としてオフィスビルの空室率は上昇傾向にあり、現在の新規募集賃料の上昇率がゼロになる可能性がある」と述べ、「マクロ景気の動向次第では、物件によって賃料の下落リスクも想定する必要がある」と指摘した上で、J-REITのジャパンリアルエステート8952の投資判断を「Neutral」(中立)から「UNDERPERFORM」(弱気)に格下げした」(日本証券新聞)。

また日本経済新聞は、「東京都心で、上昇が続いていたオフィスビル賃貸料(募集ベース)に一転して先安感が広がってきた。大手仲介業者2社がまとめた東京都心5区の7月末の平均賃料は前月比で下げに転じた。下落幅は小さいが、前月まで最長で2年11ヶ月続いた上昇が途切れた」と報じている。

これまで都心部のオフィス需要を牽引してきた外資系金融機関もサブプライムローン問題以降、撤退や移転が急速に表面化、国内企業は、業績悪化で増床や新規賃借、オフィス賃料値上げにシビアになっている。オフィス仲介大手の調査では、東京のオフィス空室率は、2月以降、上昇しているが、原因は、 企業業績が低迷気味のテナント企業が増えるなか賃料負担力が低下しているからだ。

とはいえ、東京のオフィス市場は、空室率3%台にとどまっており、11年頃に供給のピークが来るという懸念材料はあるが、現状では、それほど悲観的な状況に陥っていないともいえる。

一方、大阪、名古屋、福岡などは、近年の不動産ファンド等によるオフィスビル投資過熱の余波に加え、大型ビルが大量に供給されるため、供給過剰感から賃料下落局面に入る可能性が高まっている。

例えば、三鬼商事の調査では、福岡市のビジネス地区では今年前半に完成したビルは11棟。今後も大型供給が続く見通しだ。需給が緩んでおり、既存ビルの平均空室率も9%台後半に上昇。ファンド物件の中には割高な賃料設定のものが多く、テナントの賃料負担力、移転動向が縮小しているので今後の賃料動向の懸念が高まった。

J-REITでいうと運営母体、財務基盤、運用力を外して物件だけ見れば、東京都心部のオフィスをポートフォリオの主体とする銘柄は堅調、地方都市や中小規模オフィスの銘柄は軟調で、レジ系は総じて低迷というのがこれまでの見方だった。今後、この基調にどの程度の影響があるのか、国内の景気動向との連動性が高いオフィス賃料の今後の動向は、日本経済の行方次第だが、予想以上に景気減速が進んでおり、今後が懸念される。

■市場の信頼を毀損するディスカウント増資

J-REIT市場では、一口当たり出資金を大幅に下回る価格で第三者割当増資が行われ、投資主利益の希薄化懸念が高まり、投資家離れの一因になっている。

J-REITは法人税の2重課税回避のための導管性要件から株主に対して当期利益の90%を分配金として配当しなければならない。そのため、物件取得などを行い外部成長するための資金調達は、外部資金に依存し、外部資金は投資法人債を含む借り入れか投資口の新規発行である増資に限定される。

しかし、借り入れはLTVを高めて当該銘柄の市場評価を低めるので、いきおいLTVを抑制気味の保守的財務運営を迫られ、増資を選択することになる。増資の際に発行価格を一口当たり出資金を下回る価格で第三者割り当て増資すると、既存投資主の持分が毀損されることになり、安定的な配当ができなくなる。

例えばリプラス・レジデンシャル投資法人が8月12日に発表した米ファンドオークツリーへの第三者割当増資では、投資口数を70,000口(72%)増加。一口当たり出資金4,805,317円、オークツリーの取得平均価格193,940円でディスカウント率60%に達したところから投資一口当りの分配金は10,321円から44%減少し5,766円になった。

このような既存株主の権利・利益を毀損しかねない増資が行われる背景は、信用収縮やJ-REIT株価の低迷でPBRが1割れの銘柄の増加などがあり、資金調達手段が限られる現行制度の見直しが行われないとJ-REITへの不信感が一層高まり、投資家離れに拍車をかける懸念がある。

■リファイナンスリスクや地銀のロスカット売り

信用収縮で一部のJ-REITについては借り換えが困難となったり、借り入れコストが上昇するリスクが顕在化している。また中小マンション専業デベロッパー、建設会社、新興不動産会社などの破綻で、特に地銀の不良債権が増えていることもあって、J-REITは9月決算対策のロスカットの売りが増えると懸念されている。

3、J-REIT市場の回復は…

J-REIT市場の低迷の原因は、

  1. サブプライムローン問題の長期化
  2. 上記による世界的信用収縮による内外金融機関の融資姿勢の厳格化
  3. 世界規模での不動産バブルの終焉トレンドと不動産投資リスクプレミアムのワイド化

であり、1、2については、サブプライムローン問題の震源地である米国の住宅価格の回復と金融危機の終息で解決へ向かうと思われる。この点については、サブプライムローン問題発生から僅か1年という短期間で住宅公社への公的資金注入の決定を行った米政府の素早い対応が際立ち(日本は公的資金投入まで問題先送りで10年要した)金融危機解消へ向けた前進は見られるものの、リーマンブラザースの破綻など今後に不透明感が強く、当初の問題解決の想定期間よりも長期化すると思われる。しかし、今後の米政府の政策や各国の対応如何では意外に短期間で終息に向かう可能性もある。

3については、サブプライムローン問題が終息に向かえば、現状でもエクィテイが潤沢な中東オイルマネー、余剰外貨運用の政府系ファンドなどの日本不動産への投資意欲は強く、これらの海外投資家に加え、信用収縮の解消と相俟って国内の優良不動産やJ-REITの投資利回りと長期金利とのスプレッドが拡大しているため、債券などからREITへの資金移動を行う機関投資家や海外ファンドも増え、優良J-REITを中心に回復が期待できるだろう。

新たな懸念要因として賃料の先安感が都心部のオフィスビルへ波及しているが、賃料動向は、企業業績と相関が高いので国内経済や世界経済とリンクしており、今後の経済動向は不透明感が漂う。現時点での予測では、09年後半から世界経済が回復というシナリオが多いのだが…。

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