買い場がきたJ-REIT!住居系銘柄選択の投資分析

東証リート指数は、3月を底に4月に入ってやや回復の兆しを見せているが、その足取りはまだ重い。おかげで利回りとしてみると魅力的な銘柄が未だ数多く市場に放置されている。現時の世界経済、国内経済の減速や不動産投資を取り巻く環境悪化を考えるとJ-REIT、なかでも市場が低迷気味の住居系銘柄にはなかなか手が出せない雰囲気ではあるが、総悲観に世間が傾いている時が投資のチャンスでもある。

今回のコラムでは、10%超の高利回りで拾うことも可能になってきた住居系J-REIT銘柄選択についてリスクを抑えながら投資パフォーマンスを高めるための投資分析の具体的な手法を紹介する。

スポンサーを三井不動産とする住居系銘柄のブランドである日本アコモデーションファンド投資法人(NAF)のJ-REITについて投資分析をするが、NAFを例に投資分析をするのは、同投資法人のウェブサイトの開示情報が充実しているためである。投資分析手法の紹介を目的としたコラムなので、当該銘柄の他の銘柄に比べた優劣にまで言及する意図はない。本コラムの数値や情報についてその正確さを保証するものでなく、その責を負わないことを予めお断りしておく。

まずNAFの株価推移を見てみよう。08年3月18日の396,000円を底に急上昇し、4月3日に564,000円をつけて以後は一進一退の値動きになっている。3月18日にNAFを買った投資家は、本コラムを書いている4月25日の株価525,000円で売ると僅か1ヶ月余りで33%のキャピタルゲインを享受することができたわけだ。

高利回りという面では、[20年8月期一口当たり予想分配金÷4月25日株価=5.5%]、やや物足りないが、物件調達や運用会社の運用体制などにおいてスポンサーのブランド力への信頼や東京都心集中型の大規模なポートフォリオに対する評価がレジデンシャル系のなかで高い。

それでは本題の日本アコモデーションファンド投資法人(NAF)の銘柄について投資分析を進めていく。

1、仕組み

NAFは、運用会社を三井不動産アコモデーションファンドマネジメント(不動産情報・アドバイザリーサービス提供契約先:三井不動産)、物件情報提供は三井不動産販売、三井不動産レジデンシャルなどの陣容で固め、初期リーシング、仲介営業、PMも三井ブランドで自己完結させている。

スポンサーのブランド力と物件仕入れの強力なパイプラインを活かし、賃貸マンションをはじめサービスアパートメント、シニア住宅など多様な賃貸住宅をアコモデーション資産(Accommodate=「人に便宜をはかる」)としてファンドのポートフォリオに組み入れている。

2、ポートフォリオ

ポートフォリオは、エリア別では東京23区が中心で92%を占める。取得物件の平均は約32億円と大規模で、築年が平均6年、投資比率24.1%を占める大川端賃貸棟を除くと築年の平均は2.2年に低下する。タイプ別ではシングル、コンパクトタイプが84%と大半を占めている。

内部成長に向け大川端賃貸棟のリニューアル工事を進めており、また07年9月にパークアクシス秋葉原ほか6物件を総額150億円で取得、第4期末資産規模1,232億円となった。保有物件全体の稼働率は97.2%、賃料上昇率も06年9月から08年2月にかけて地方主要都市の1物件が6ヶ月ごとにマイナ1.0~マイナス0.3%下落したのを除けば6ヶ月単位で概ね0.1~0.4%の賃料上昇率を達成している。

▼NAFのポートフォリオ

J-REIT投資といえど不動産投資であることには変わりがない。その意味ではポートフォリオの不動産のクオリティが、収益性の高低、安定性を左右する。一般に投資家が購入対象銘柄のポートフォリオをチェックするときのポイントは下記になる。

  • 平均築年数は新しいほど良い(レジデンスの目安は築5年以内)
  • 収益性の目安としてポートフォリオ全体の物件取得価額ならびに鑑定価額ベースの平均NOI利回りをチェック
  • 建物規模は大きいほど設備のスペックと相俟って市場評価が高い(取得物件の延床・賃貸可能面積、取得価額をチェック)
  • 立地(東京23区、東京周辺部、首都圏、地方政令都市、その他地方都市などエリア別に投資比率をランキングし、それぞれの最寄り駅性格、駅距離をチェック)

3、営業収益、当期利益、分配金の実績

06年8月の上場であるため、データ量としては少ないが、過去3期の営業収益、当期利益、一口当り分配金の予想、実績の推移は下表の通りである。いずれの期でも予想を上回る実績を達成している。特に直近の08年2月期では当期利益、一口当り分配金が予想を10%超えている。

▼NAFの営業収益・当期利益・分配金推移(単位百万、一口分配金:円)

分配金の配当利回りを投資指標とするとき、次期決算の予想分配金だけでなく、分配金の過去推移、成長率も調べる必要があるが、NAFの過去推移ならびに成長率の回帰式は、上場後、2年しか経過していないので、データ量からみてヒストリカルデータとしてはあくまで参考程度と思われる。

4、投資指標分析

直近である4月25日のNAF株価、NAFの08年2月期決算短信、4月15日付アナリスト説明会資料の開示データに基づき投資指標を計算し、分析する。

▼NAFの投資指標

■分配金配当利回り

J-REITの投資家の多くは、分配金利回りを投資指標としている。J-REITがリターンの利回りを重視する債券投資に類似しており、ミドルリスク・ミドルリターンの投資であるという商品特性から考えると当然なのだが…。そして昨年からのJ-REIT市場の低迷で株価が下がった分、配当利回りが改めて注目され始めている。まさにJ-REIT投資が原点回帰したわけだ。NAFの配当利回り5.5%は、08年8月期の一口当たり予想分配金を年換算して4/25の株価で割って計算した。住宅系J-REITの中ではNAFの株価が堅調なため、10%超など高利回りを実現している他のJ-REITもあるなかでは、特別に高いほうではない。

分配金利回りを投資指標にするとき、あくまでも当該期のスポットの利回りなので成長性が考慮されていないことや、レバレッジで見かけ上、高くなるので、後述するが金利上昇や、財務面のリスク分析が求められる。

■時価総額・資産総額

またJ-REITの銘柄選択で、その銘柄の時価総額や資産規模の大きさは投資指標となる。時価総額が大きいほど流動性が高く、オフィスや住居などに特化したJ-REITの場合、単位面積当たりの運用コストは、理論的には資産規模に比例して逓減すると考えられる。

▼住居系J-REIT保有資産総額ランキング

資料引用先:spc-reit.com

■PER

PERは株価が割安か割高かを判断する株価尺度である。各銘柄との比較や、検討銘柄の過去のPERの履歴に対して株価が割安か割高かを判断する。一般的にはPERが低いほど割安と判断されるが、高PERの銘柄は市場での期待の大きさを示しているともいえるし、逆に低PERの割安と思われる銘柄は、高いリスクを抱えているため株価が低い可能性もあるので、PERだけで割安割高を判断することは危険である。

さらに株式投資に使われるPERをREITの株価尺度に用いることには2つの問題点が指摘されている。

  1. PERの計算基礎となる当期利益(EPS)にファンドの売却益が含まれるので、運用のパフォーマンスの高低を測るJ-REITの株価尺度として不適切である
  2. EPSには会計上の架空費用である減価償却費が含まれるため、株価尺度としてはバイヤスがかかつてしまう

この2点からJ-REITのパフォーマンス尺度として米国にならいFFO(Funds from Operations)が使われるようになった。

■FFO

REITファンドの本来の営業活動から生み出されるキャシュフローで、株主に分配可能なキャッシュフローともいえるため、REITのパフォーマンス尺度に使用される。REITの会計上の利益に減価償却費を加算し、不動産売却損益を除外して求められる。

銘柄選択の投資指標としてFFOを分析する場合は、予想FFOを計算すべきであるが、データの制約上、各銘柄株価(4/25)÷一口当たりFFO(直近決算期の実績FFO年換算)でFFO倍率を計算し、銘柄間で見ると、

■NAV(Net Asset Value)

NAVは、J-REITの本来の価値を計る価値尺度である。J-REITの場合、ファンドの組成不動産は、現実の市場の価格と比較することにより理論的には求められるはずなので、J-REITの投資指標として重要視される。

NAVはJ-REITの組成不動産価値-ファンドの負債という式になるので解散価値に当たり、株式投資の投資指標に使うPBRと類似の概念であるがPBRは帳簿上の価格である点が相違する。

株価の割高割安の目安としてNAV÷発行済投資口数で投資口一口当りのNAVを求め、これを株価と比較する。つまり理論的には、J-REITファンドの保有する不動産を東京証券取引所で取引しようが、実物不動産マーケットで取引しようが当該不動産の経済価値自体は変わらないので両者は一致するはずだからである。株価/NAV<1であれば割安で株価/NAV>1であれば割高と判断する。

NAVと株価は、裁定取引で一致するということは現実にはおき難い。また一般投資家がJ-REITのポートフォリオ不動産のNAVを算定することは相当に困難な作業である。そこで本コラムでは簡易計算方法(川口有一郎著「ARESマスター養成講座テキスト・不動産証券化商品分析」)でNAVを求めることにする。

NAF銘柄の一口当たりNAV=NAV÷発行済株式総数=537,392円
株価÷一口当たりNAV=0.98

株価/NAV<1となるのでNAFの株価は割安ということになる。

※NAFの第4期の純資産額を発行済投資口数で除した一口当たり純資産額と株価を比較すると、

62,608,000千円÷113,480口=551,710円
4/25株価÷一口当たり純資産額=0.95

と簡易NAV計算から求められた数値とほぼ近似した数値が算定される。 

5、財務リスクの検証

J-REITの財務リスクを考えるとき昨年来のサブプライムローン問題がJ-REITの財務戦略に落とした影の部分を投資家としては見逃せない。サブプライムローン問題は、外国人投資家のリスク回避、質への逃避を加速させ、J-REIT市場の売買代金の6割のシェアを占めていた彼らの買いが一斉に引いたことが、国内投資信託の資金流入低下と相俟ってJ-REIT市場低迷の大きな要因となっているのは周知の事実だが、さらにサブプライムローン問題はJ-REITの資金調達のデッドとエクイティの両面に影響を及ぼしている。

まずデッドでは、調達借入金や投資法人債のコストが上昇し、運用成績が芳しくない中小のJ-REIT銘柄ではリファイナンスリスクも顕在化している。エクイティでの資金調達でも株価の下落でPBR<1の銘柄が増えているが、PBR1倍割れで増資しようにも一口当り分配金の希薄化が懸念されるため既存の購入投資家への配慮から増資を行い難い状況になっている。

これらのことから、デッドの金利上昇やリファイナンスリスク、財務レバレッジと負債に対する耐力などの検証が運用パフォーマンスの測定と同時になされなければならない。

■財務戦略

J-REITが資産規模を拡大し、外部成長をしていくためには、外部資金から調達することが必要となる。エクイティでの調達が財務の健全性からみて好ましいが、その調達規模は限定的なので、財務レバレッジを高めるためデッドでの調達ということになる。その結果、LTVが高まると、借入余力が低下するだけでなく、株式市場での評価も低下していく。

そこで増資で資金調達し、借入金を返済してLTVを低める必要が出てくるのだが、増資は一口当り分配金の希薄化を招く懸念があるため、株価に対しマイナス作用となる。この辺の舵取りが財務戦略のポイントであり、運用者にしてみれば悩ましいところである。いずれにせよデッドの金利上昇は、財務面でマイナスであるため、金利上昇に対する制御装置が当該銘柄にあるのか検証される。

■金利上昇やリファイナンスリスクのチェック

チェックポイントは3つである。

  1. 負債対資産比率(LTV:Loan to Value)が低いほどリスクが小さい
  2. 固定金利での借入比率(固定比率)が高いほどリスクが小さい
  3. 満期が短い短期負債の比率が低いほどリスクが小さい。また固定借入金の返済時期が分散されているほどリスクが小さい

NAFの財務指標を見てみよう。
 

  • LTV水準(第4期末)
  • 49.6%

  • 長期固定比率
  • 80.6%

  • 期末時点加重平均レート
  • 1.55%

  • 長期借入金平均残存年数
  • 4.3年

  • 借入金融機関数
  • 14社

他の住居系銘柄のLTVを参考値として紹介する。

  • NAF
  • 49.6%

  • アドバンス・レジデンシャル
  • 50.6%

  • 日本レジデンシャル
  • 48.7%

  • ニューシティレジデンシャル
  • 54.8%

6、まとめ

以上、J-REITの主要な投資分析手法を紹介した。いずれの手法も単独では限界がある。昨年来、J-REIT銘柄の優勝劣敗・二極化がより鮮明になっているが、銘柄選択に当たっては、PER、FFO、NAVなどの定量分析に加え、スポンサーの物件開発、調達力や運用会社の運用体制、財務戦略などの定性分析が欠かせない。

例えば関連デベロッパーとの安定的な物件仕入れのパイプラインからリーシング、運営・管理までの一貫体制を構築した垂直統合やJ-REIT銘柄の時価総額・資産規模の大小といった規模の経済の優劣がその銘柄の収益性や成長性を大きく左右している側面がある。投資家は多角的・総合的な視点からJ-REIT各銘柄の投資分析を行うことにより、リスクを抑えて投資パフォーマンスを高めることが可能になると思われる。

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