不動産バブルの崩壊がはじまった!

完全な売り手優先市場としてここ数年、推移してきた不動産マーケット、正確には全国の投資適格地やマンション用地の地価が調整局面に入った。特に今年の夏場以降になってその傾向が鮮明となっている。サブプライムローン問題の激震とJ-REIT市場の低迷、マンションの成約率の低下など潮目の変化を敏感に見分け、市場の空気の変化を嗅ぎ分けた投資家の一部は、利益確定のため既に売り払うか売却を急いでいる。不動産ファンドなど一部は、すでに今年の年初から不動産を買い控えていた。

一方、資金力に優る大手不動産デベロッパーは、この時期でも東京都心の再開発物件を中心に積極的に購入している。購入エリアや個別物件のポテンシャルの高さを測り、底→回復→天井といった投資タイミングのサイクルより長期の事業戦略を描いて過熱感があるこの時期でもリスクテイクしているのだろう。しかし投資サイクルと連動し、資金の投入と出口タイミングを重視する不動産ファンドや投資家の購入スタンスは明らかに今後の調整局面を視野に入れ買い控えへとシフトしている。

振り返れば、都心部Aクラスビルの投資利回りと長期金利のスプレッドが1%台にまで縮小し、不動産バブルの再来を懸念する金融庁の監視の厳しさが増してきた頃からマーケットに過熱感が漂っていたわけだが、今年に入って不動産ファンドやJ-REITの関連プレイヤーを凍りつかせたのがサブプライムローン問題による信用収縮の世界的動向である。サブプライムローン問題については、筆者のコラムで不動産バブル終焉の序章として紹介したが、この問題に内在する深刻さや複雑怪奇性はますます深まっている。

加えて耐震偽装の再発防止を目指した国内の建築基準法改正で業界が大混乱した。混乱を助長したのが行政の拙速と対応の拙さで、法改正の詳細な技術マニュアルは8月に完成という制度の周知の遅れを露呈するドタバタと審査の厳格化が相俟って審査期間が長引いた。その結果、前年同月比で住宅着工戸数は、8、9月と40%超の減少となった。また住宅以外の非居住用建築物の着工床面積も10月で前年同月比38.6%減少した。

おかげで12月14日発表の日銀短観では不動産の業況判断DIはプラス37と前回より13ポイントも悪化、地価の天井感も相俟って業界の先行きに対する不透明感が強まっている。

不動産価格が調整局面に入ってきた兆候としてここにきての分譲マンション価格の天井感の強まりがある。分譲マンションの販売ベースの鈍化が鮮明になってきている。不動産経済研究所によると売れ行きを示す販売初月の契約率が好不調の目安とされる70%を3ヶ月連続で下回っている。また同研究所によると11月末の在庫数は8,669戸で前年同期から約3割増えている。市況悪化で郊外部の販売を一時中止するデベロッパーも出始めた(日経産業)。

富裕層の購入意欲が強い都心部マンションはいまのところは好調だが郊外マンションは用地費と建築費の上昇を販売価格に織り込めず業者は苦戦している。

労働の国際分業の浸透で企業が競争力維持のため労働分配率を抑制しているので個人所得が伸びず、買い手の購買力が上昇しないままマンションの販売価格が上がり、マンションの販売価格が一般ユーザーの購入限度額を超えてきたからである。このことはJ-REITなどのレジデンシャル物件の低迷にもいえる。借り手である個人の家賃負担力が同じ理由で上昇しないため賃料値上げができず、投資価値が向上せず価格が低迷しているのと同根の問題といえる。

さらに9月30日から施行された金融商品取引法も中小不動産ファンドの淘汰を加速させると思われ不動産投資ビジネスを巡る環境は厳しさを増している。来年1~3月の決算前には諸般の環境変化に耐え切れない不動産ファンドによる投売りも増えるのではといった観測も流れている程だ。

本コラムでは、上記で列挙した不動産価格調整要因のうちいま話題性が高いサブプライムローン問題と金融商品取引法にフォーカスして考察していく。

■サブプライムローン問題

2000年代前半、世界の主要先進国で採られた超低金利政策に起因し世界中に過剰流動性が発生した。国境をボーダレスに移動し、その規模が約150兆ドルと推計される巨額グローバルマネーは、世界的スケールで株価や不動産等の資産価格を高騰させ一部にはバブル的様相を生み出した。

なかでも欧米のクレジット市場では、潤沢なマネーを背景として安全資産の国債の利回りと高リスクのモゲージ証券のスプレッドが低水準となり、リスクプレミアムが過小評価されていた。米国のサブプライムローン問題は、リスク管理が弛緩していたまさにこの時期にリスクのリプライシング(再評価)を迫るものとして金融界に牙をむき、その全貌が掴めない不気味さで金融界を震撼させている。

この問題は、優良顧客(プライム層)より所得が低くクレジットリスクが高い層であるサブプライム向けの住宅ローンのリスク対応が慎重さを欠き不適切だったことから発生しており、このこと自体は古典的な金融の問題で特に目新しいことではない。

21世紀型金融危機と呼ばれるのは、ローン債権が貸し手の金融機関とローン利用者という単純な金銭消費貸借のクローズな相対関係から証券化という金融手法によりローン債権がRMBS(住宅ローン担保証券)に組み入れられ、さらに複数のRMBSが束ねられ再証券化されたCDO(債務担保証券)となり世界中の機関投資家等にばら撒かれたことである。

このためリスクは、証券化の効用で特定の金融機関等や国に集中せず世界中にリスクが分散されているのだが、分散されすぎてリスクの追跡が難しい構造になっているため、時限装置に対する疑心暗鬼が増幅し、信用収縮が加速するというなんとも皮肉な結果になっている。

この問題で批判の矛先はまず証券化に向けられた。証券化のビジネスモデルは、ローン債権などの原資産を調達し、投資ビークルが組成され、リターンとリスクがシニア、メザニン、エクイティ等の優先劣後構造にトランシエ(切り分け)され、階層別に格付けされる。つまりリスクとリターンの高低や利払い・償還の優先劣後構造の組み合わせで投資家の多面的な選好に適う投資商品を創り出す。証券化自体はあらゆるマネジメントの智恵が結集した優れた手法であり、これからもリスク分散やマーケットの効率化に寄与していくことは疑いがない。

米FRB前議長グリーンスパーンは、「問題は証券化そのものではない(証券化された)サブプライムローンの値付けが適切でなかったということだ。例えば、格付け会社がサブプライムについてもっと低い格付けをしていて、実際にはそれよりちょっと良かったという形になっていれば今回の危機は起きなかった(日本経済新聞)」と語っている。証券化を短絡的に批判しても時代に逆行するだけである。問題は関係者の制度の過信と理解不足にあったのではないだろうか。

次に米国の金融の問題が、わが国の不動産マーケットにどのような影響を与えたのだろうか、この点を言及する。

金融庁は、銀行の自己資本(40兆円規模)や業務純益(6兆円規模)と比べ国内金融機関のサブプライム関連損失は、限定的で今後追加損失が出てきても十分対応可能で金融システムに深刻な影響を与えることはないと強調している。国内の関連する業界でもかつての不良債権問題のような深刻な損失規模にはならないという見通しが今のところ主流だ。

加えて我が国でも住宅ローンを証券化したRMBSが盛んに組成されているが、国内の銀行は過去に延滞履歴があるような信用力が低い個人の融資は、審査段階ではねるので無理に貸し込むことはまずない。また大手各行の債券投資先も高格付け商品が主力という。さらにJ-REITやプライベートファンドの投資物件に使われるノンリコースローンを証券化したものはCMBS(商業不動産担保証券)であり、RMBSと異なり商業施設やオフィス、集合住宅を対象としている。これらの理由から日本国内への直接の影響は限定的と見られている。つまり証券化されている国内の個々のローン債権は、米国のサブプライムに比べると良質なので証券化で束ねても汚染となって世界中に拡散することはないという見通しなのである。

ではなぜ日本国内で株安やJ-REITの下落を招いたのであろうか。その主要な要因はグローバル化により世界各国の経済が緊密にリンクし、さらに不動産についていえば金融商品化の急速な進行で世界金融市場のリンクの輪の中に取り込まれたためである。

サブプライムローン問題は、米国の実体経済全般に影を落とし、住宅価格の下落や金融機関の融資引き締めが米国内の個人消費や企業の景況感を冷やし、米景気を失速させている。米国の景気が低迷すると対米輸出依存度が高いわが国の産業や企業の業績に円高も加わって悪影響が及ぶ。現に経済協力開発機構(OECD)は12月6日サブプライムローン問題に端を発する金融不安の影響が08年も残ると判断。日米欧など加盟30カ国の成長予測を5月時点の2.7%から2.5%に大幅に下方修正した。

さらに世界のリスクマネーの萎縮で資金の質への逃避が始まり、ミドルリスクに位置するわが国のJ-REITも6月以降に外国人投資家の買いが減少し、5月末をピークに下落した。海外不動産ファンド勢の日本国内の不動産購入も減少しており、不動産投資市場への参加プレイヤーが減ることで国内投資向け不動産の調整色が強まっている。

J-REITは、国内投資向け不動産の受け皿として機能しており、不動産ファンドの物件等の出口になっていることは知られている。ファンドの投資向け不動産の多くは水面下でファンド間で取引され、J-REITがその出口になっている側面があった。

しかしここにきてのJ-REITの低迷でファンドの出口戦略のシナリオが狂ってきている。そのためか、秋以降、これまで水面下で取引されていたファンドの出口物件や対ファンド向け物件が、一般情報紙やネットに登録物件として浮上している数が増えてきているのだ。

さらにサブプライムローン問題で証券化や格付けに対する不信感が高まったため、証券化された組成不動産の投資価値に対するリスクプレミアムも増している。外資系レンダーをはじめ国内金融機関の投資向け不動産に対する融資規制が厳しさを増しているが、サブプライム問題で証券化を主要なツールとした不動産投資ビジネスに冷水を浴びせられた感が生まれたことは否めない。

これまで金融技術を駆使してリスク分散してるので証券化された金融商品は想定内の確率で破綻しないという過信が、リスクマネーに高レバレッジを効かせて膨張させ、バブルを一部で生成させた。そこで一定数の投資家がリスクが高いと認識を変えた瞬間からバブルは崩壊へ向かう。投資家は一斉にリスク回避に向かい、リスクマネーが逆流し、ダウンサイドリスク負荷が一気に高まるという繰り返しは古典的ともいえるバブル生成・崩壊のシナリオでもある。

グリーンスパーンFRB前議長は、「危機は予測できない。バブルの発生を予測したり、それを正常な状況で取り除くのも不可能。重要なのはバブルが崩壊したときに、(その悪影響が)生産や雇用を大きく減らすことなくうまく吸収されるように、柔軟な経済システムをつくっておくことだ(日本経済新聞)」と喝破している。

確かに不動産のファンダメンタルズを超えた非合理な値付け(バブル)をタイミングよく判定することは難しい。なぜなら不動産はその特性上、今後、起きることの予測の流列を時間価値で割り引いて価格形成されており、バブルがはじけ一定時間が経過して振り返ったときにはじめて予測の非合理性の検証が可能となるからである。

■金融商品取引法の施行

近年になって不動産と金融の融合と呼ばれる現象が急速に進行している。不動産業界人は、いまや金融業界と共通言語を話し、金融工学やファイナンス理論を学んでいる。このような時代背景を踏まえ政府は、従来、バラバラに存在していた金融商品やサービスに関する法律を統合し、金融商品取引法とした。その目的とするものは投資家保護であることは言うまでもないが、対象を「プロ投資家」と「そうでない者」に分けて異なる規制を課すというように運用の柔軟化が図られている点がこの法律の特徴である。

本法は本年の9月30日施行されたが、金融商品取引法の内容は、中小規模のファンドには事業継続が厳しいものになった。例えばファンドが簡易に組成できるため多用されている「GK-TKスキーム」でSPCが取得する信託受益権に加え匿名組合出資(TK出資)も「集団投資スキーム持分」として本法でみなし有価証券となり、金融商品取引法の適用を受けることとなった。当該スキームでは商法等の一般法を用いていたため、これまで業規制は殆どなかったが、今後は金商法の適用を受けることとなり、金融庁の規制下におかれることとなった。

具体的な規制としては、SPCの運用において自ら有価証券の募集を行う場合の「自己募集」と匿名組合契約に基づき投資家の拠出金を不動産信託受益権に投資する行為である「自己運用」について第2種金融商品取引業ならびに投資助言業、投資運用業の登録が必要となる。

SPCは、制度上、ペーパーカンパニーであるため、SPC自身が登録を受けるのは不可能で、自己募集については他の第2種金融商品取引業者に委託することになる。自己運用についても、スキーム上では、アセットマネージャ(AM)が投資の助言や運用をしており、AMの各々の業態に合わせ金融商品取引法上の投資助言業や投資運用業の登録をしなければならなくなった。特に投資運用業は兼業禁止や最低資本金規制、一定の純資産確保、人的構成やコンプライアンス体制などが求められ、中小ファンドには敷居の高いものになっている。

この辺の事情が中小ファンドの淘汰を促進すると思われている。すでに金融商品取引法のこのような規制の厳しさが不動産ファンドビジネスの拡大の阻害要因となるといった懸念が業界に広がっている。

今後のファンドビジネスの動向を予測すると、中小ファンドのAMにとって登録要件が厳格な投資運用業より比較的登録要件が緩い投資助言業でスキーム可能なファンド形態を模索すると思われる。例えば内閣府令による「適格機関投資家等特例業務」の届出業者にSPCがなれば、SPC自体の自己募集や投資運用業の登録が不要となるので、AMがSPCから投資運用を一任された投資運用業者である必要はなく、投資助言業で足りる。また「TMK」スキームで現物不動産を運用すれば有価証券にならないためAMに投資運用業の登録まで求められない。さらに不動産現物で運用する「不動産特定共同事業法」によるスキームも模索されると思われるが、資本金1億円以上、純資産が資本金の9割以上、一定レベルの人的構成要件など業の許可基準のハードルは結構高い。

以上、投資向け不動産の価格が調整局面を迎えたことや、その要因について言及してきた。しかし今回のバブル(すべてがバブルというのでなく一部にバブルがあるという意味)がはじけてもかつて経験した90年初頭からのバブル崩壊後のような巨額の不良債権の積み上がりや失われた10年の悪夢は再来しないだろう。ファンダメンタルズを超えた下落は、利回りが制御装置となり、マーケットの調整が働くからである。不動産の金融商品化が進行するということは、不動産の価格形成メカニズムが変質し、洗練されることにほかならない。

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