ここまできた超高層マンション支えるテクノロジー

近年になっての建築技術の進歩は目覚しい。都市部に聳える超高層マンション。柱を細くして居住空間を広くしながら、あのような高さを安全に保持できるという相反する要素の並立を可能にしている技術は果たしてどこにあるのだろうか?

超高層は20階以上、60m超の高さのマンションを指すが、これまでの10階建て程度のマンションを建てるのと比べ異次元のテクノロジーが求められる。超高層オフィスビルはS造が主流でRC造は少ないが、マンションは遮音性や強風、地震時の揺れの関係でRC造が多い。通常のコンクリートでマンション全体の加重を構造体が支えるには太い柱が必要で、構造計算すると1階の殆どが柱で占拠されることになりかねない。細い柱で高層の構造体を支えるため、高強度コンクリートの研究・開発が進められ、幾多のテストを経て、マンション分譲各社が採用することになった。

「60ニュートンなら1.6m角、100ニュートンなら1.2m角になる柱を150ニュートンなら1m角にまで抑えることができる(日経アーキテクチュア桑原豊氏)。」という技術進化が超高層マンションの高さと居住空間を支えているといえる。今後、ますますマンションが、高層化して、60~70階クラスが相次ぎ出現すると予想され、超高強度コンクリートを巡る技術進化が加速するだろう。

■コンクリートの強度とは

高強度というからには強度が並みのものよりも高いということだが、コンクリートの強度は、設計基準強度という数値で表され、その単位は1平方ミリメートル当たりどのくらいの圧力をかけて壊れないかを計り、N/mm2(ニュートン)で表示される。例えば100Nとすると重量1000Kgを1平方センチメートル当たりで支えることができる圧縮強度である。超高強度コンクリートは、一般に60Nを超える圧縮強度を有する場合を指すことが多い。

例えば、東急東横線「武蔵小杉」駅周辺では高さ100m超の超高層マンションの建設が進行しているが、なかでも建築技術者が注目しているマンションが三井不動産等3社のパークシティ武蔵小杉(59階建)と伊藤忠都市開発等3社のザ・コスギ・タワー(49階建)だ。

パークシティ武蔵小杉(59階建)などは、業界初となる圧縮強度が1平方ミリメートル当たり150ニュートンの超高強度コンクリートを1階の柱に使っている。この数値は、高強度とされる60ニュートンの約2倍に当たる。またパークシティ武蔵小杉を施工する竹中工務店は、階数で日本一となる地上59階建て、高さ203.5mの建物1階部分の柱60本のうち8本に150ニュートンのコンクリートを採用した。150ニュートンのコンクリート自体は、数年前に開発され、これを当該マンションで初めて採用した。ザ・コスギ・タワーを施工する大成建設も独自に開発した同強度のコンクリートを使っており、竹中も大成の両社ともすでに200ニュートンまでの超高強度コンクリートの製造技術を確立済みという。高い建造物を安全に支えるためのテクノロジーは日々進化している。

■コンクリートの劣化と高強度コンクリート

マンションの寿命というとコンクリートの劣化からもたらされる耐久性が重要なファクターとなっている。それでは従来のコンクリートでいわれてきた劣化はなぜ起きるのか?これを考えると高強度コンクリートの特性がよく理解できる。

コンクリートの施工にはセメント、砂、砂利などの骨材と水が使われるが、コンクリートの強度は水の量を少なくすることで高まる。つまり、コンクリート建築の劣化は、ひび割れから発生することが多いため、ひび割れを発生させない工夫がコンクリートの強度を高めることになる。

コンクリートは、時間が経過すると乾燥するし、日差しや、気温変化で収縮するが、収縮からひび割れが起き、その割れ目から水分や二酸化炭素が浸入して内部の鉄筋を錆びさせ、躯体が劣化していく。コンクリートの乾燥はコンクリート内の余分な水分が時間経過に伴って抜け出すことで起きるため、施工時に水の量を少なくすると建物劣化の原因となるひび割れがしにくくなるわけだ。

とはいえ、水量を減らすと生コンクリートの流動性が失われ、マンション建設現場で、コンクリートをポンプで圧送して打設しようにも型枠の隅々まで行き渡りにくくなる。このように強度や耐久性をコンクリートに求めると施工性が悪くなるという相反する要求を解決してくれるのが、化学混和剤である。化学混和剤を使うと少ない水量で生コンの流動性を高めてくれるので強度と施工性の両方を高めてくれるわけだ。

超高強度コンクリートになると水とセメントの混合比をさらに小さくする必要があるので、化学混和剤として高性能AE減水剤などを使い、フェロシリコンや金属シリコンなどを製造するとき発生するシリカフォームと呼ばれる球状の超微粒子をセメントに混合して流動性を高める。使用するセメントも低熱ポルトランドセメントなどが使われている。

一方、圧縮強度が、120N/mm2クラスの超高強度になると、コンクリート内部が密なので火災時の高熱で熱膨張が大きくなり、内部で膨張した気体の逃げ場がなくなって内部圧力が高まるため、コンクリート部材の表層が剥離・飛散する「爆裂現象」が起きやすい。清水建設と竹中工務店が共同開発した「AFR(高耐火)コンクリート」の製造技術を活用すると超高強度コンクリート部材の高い耐火性能を確保できる。

■ITを駆使した施工技術

コンクリートは、施工時に乾燥時間が一定してないと「コールドジョイント」現象が起きる。この現象が発生した部分は、水の流路となって内部腐食やアルカリ骨材反応が進むことになる。施工管理が極めて重要な一例だが、特に超高層マンションの施工時には、高強度コンクリートを大量に使うため、セメント量が多いので粘性が強く乾燥しやすいため気温や砂の水分量の変化などで品質変化が起きる。このため数多くの管理要員を現場に常駐させて品質管理テストを頻繁に行わなければならない。通常のコンクリートに比べ施工管理が難しく相当の熟練を要するが、品質管理が適切になされないと高強度コンクリートの期待された品質を発揮できず、工期も守れないことになる。

日経産業紙によると清水建設は、コンクリートの品質管理にITを活用したシステムを導入した。東京都港区に建設の地上40階以上の超高層マンション3棟からなる「ワールドシティタワーズ」に使用する全体のコンクリ使用量は約25万立方メートル。建物の高さ約140mで使う高強度コンクリートは約14万立方メートルで全体の5割強となる。本プロジェクト全体で予想される試験回数は、1万1千回。試験の総数は約2万7千個と想定され、従来の人力データ入力では10人弱の管理要員が常時、現場に必要であった。

清水建設が開発、導入した現場システムは、リアルタイムで品質管理情報を現場内で処理し、技術研究所などでも多角的なチェックが可能で、現場での品質管理要員は僅か1人で済む。さらにデータ数値が一定基準を超えると自動的に警告を表示し、生コン工場へ品質改善を直ちに連絡できるようになった。

さらにゼネコン各社は施工効率と精度を向上させるため、柱や梁などの、建設部材のPC化(プレキャスト)に力を注いでいる。前田建設工業は、3次元CADで鉄筋や配管、配線などをPC画面でシミュレーションし、工事状況をPC工場や現場施工図に反映させ、PC比率を100%導入して工期短縮を実現している。

このように高強度コンクリートを採用するためには、従来の現場管理を超えてITを導入してシステムでの対応という新たなフェーズに入ってきている。

■まとめ

高強度コンクリートのメリットは、高層化を可能にするだけでなく、50~60年といわれるコンクリートの耐用年数を半永久的なものへ転換できる可能を併せ持っていることだ。コンクリートの寿命は、「ひび割れ」や「コールドジョイント現象」などで内部の腐食やアルカリ骨材反応を引き起こすことから短命になりがちなのだが、高強度コンクリートを使用することでこれらの課題を解決へ導くことができる。また永住型マンションを実現するため、躯体と内装を分離してライフスタイルの変化に合わせて内部空間の間取・内装だけ変えていくSI住宅が注目されているが、躯体部分に高強度コンクリートを使うことで柱や梁の出が少なくなるので間取りの自由度が高く、リニューアルが容易となり100年住宅が現実のものとなる。

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