平成19年地価公示価格 / 福岡市都心部の地価動向分析

1、福岡市と他都市間の格差拡大

平成19年地価公示では、福岡市で住宅地、商業地ともに15年ぶりに上昇に転じた。福岡県内の住宅地の下落率は2.6%と前年の4.2%から大きく縮小したが、福岡市中央区が2年連続上昇、博多区で15年ぶりに上昇するなど福岡市中心部の地価上昇が目立っている。商業地でも福岡市の平均変動率は前年の0.6%下落から12.9%上昇に転じた。特に博多区24.8%上昇、中央区19.7%上昇が目立ち、両区とも2年連続上昇となる。南区、城南区は15年ぶり西区は16年ぶりに上昇に転じた。福岡市以外では九州国立博物館開館効果で太宰府天満宮参道が5.4%上昇した太宰府市を除き依然として下落傾向が続いている。福岡都市圏内の他都市に比べ福岡市の元気さが浮き彫りになった今回の地価公示だが、その要因として、

  • 住宅の都心回帰、まちづくり3法改正に見られるコンパクトシティ志向社会到来
  • 九州の都心からアジアの都心へ機能強化
  • 福岡市の2025年頃までの人口増予測(福岡市新・基本計画)
  • 九州新幹線の全線開業・博多駅前再開発、アイランドシティ、九大新キャンパスなど大型プロジェクトやインフラ整備

が挙げられる。

近年の福岡市都心部の住宅地地価の堅調さは、都心部やその周辺部におけるマンション需給の好調さによるが、その背景としては都心回帰のうねりがある。福岡市の「新・都心構想」レポートによると00~05年にかけて福岡市の人口増加率は都市圏地域の伸びを上回り、特に都心部は都心回帰で人口が増加している。都心では単独世帯が約70%を占め、04年までの5年間で25%増加と全市の2倍の伸びを示し、特に25~34歳単独世帯の伸びが大きい。九州経済調査協会06年版九州経済白書でも「福岡市都心地区の人口は急激に増加している。~中略~ 95年から05年にかけての都心地区での人口増加率は21.5%となり、全市の増加率(8.8%)を2倍上回っている。」と指摘している。

かつての高度成長期の郊外拡散型社会が少子高齢化や地方財政の逼迫で維持できず、コンパクトシティへ都市思想が転換し、まちづくり3法改正などの政策が出されたが都心回帰はこのような時代背景で起きている。福岡市新・基本計画によると2025年に福岡市の人口は約1,455千人に達し、その後人口増は鈍化し2025年頃頃1,472千人でピークを迎えと予測している。このような予測も今後の時代背景とリンクしているといえよう。

また、福岡市の都心部は、11年九州新幹線全線開業で九州の都心としての地位を強固にするが、アジア各国の経済成長と相俟って双方向の交通ネットワークも充実してきている。福岡空港は90年33万人から03年に50万人に増加しアジアを中心に外国人旅客が増えている。博多港も90年0.6万人から05年に約35万人に増加。90年「かめりあ」の博多~釜山フェリー就航、91年ビートルの同航路参入などを経て05年の博多港外国航路旅客数は68万人、韓国人旅客が50%超と増加した。

中国と福岡経由の国内外物流インフラ整備も進んでおり、「上海スーパーエクスプレス」が開設された。世界規模の生産拠点・消費マーケットに膨張した上海をターゲットにして上海と福岡を高速RORO船で結んだため、対日・対中貿易を望む中国企業や国内企業の輸送メリットが高まり、福岡市への企業進出が進むと期待されている。

上記のような要因が福岡市の潜在的成長力の高さとなり、今後の人口動向や単身者構成比予測がレジデンシャル系投資ファンド、広域的都心機能拡大がオフィスや商業施設系ファンド、リートの注目点であり、中央マネーによる投資を呼び、特に福岡市の業務集積地や周辺の地価動向を上昇させている。本コラムでは地価上昇が著しい福岡市都心部の地価公示価格動向にフォーカスして言及する。

2、都心部の地価動向

福岡市の都心部は、南北の主要幹線道路「大正通り」「国道3号線」と東西の主要幹線道路「那の津通り」「百年橋通り」で囲まれた3km四辺形の中に位置する圏域である。福岡市による「新・福岡都心構想」策定委員会レポート(以下「新・福岡都心構想」と呼ぶ)によると当該地区内に市内従業者の約40%、33万人が働いており、このうちオフィスワーカーは19万1千人で市内の4人に1人は都心オフィスで働いている。このように市内の主要な業務・商業機能は都心に集約されているが都心圏域内には5つからなる中核地域がある。

▼都心部中核地区

  1. 博多駅地区
  2. 博多部地区
  3. 中洲・川端地区
  4. 天神地区
  5. 渡辺通り・薬院地区

1~5の各地区について平成19年公示価格の動向とその背景にある地区内の地域要因変動等を以下で分析する。

①博多駅地区

「博多駅地区」は1963年博多駅の現在地移転、博多駅地区土地区画整理を契機に合同庁舎が誘致され、業務施設が徐々に集積していった。1975年山陽新幹線博多駅開業などを経て「天神地区」と並ぶ福岡市の2大拠点を形成することとなった。「博多駅地区」の駅近辺部は、都心業務地区として高層オフィスビルが林立し、その周辺部に単身者をターゲットとする分譲マンション、賃貸マンションなどが建ち並んでいる。

市内の都心部におけるオフィスビルの空室率は03年をピークに低下しているが、特に天神地区は近年、空室率の改善が「新・近・大」のビルを中心に進んだ。一方、博多駅地区の空室率改善は天神地区に比べ遅れてきたが、各調査機関のレポートで博多駅前大型ビルをはじめ駅東などで空室率低下傾向が見られ始めた。

不動産ファンドやリートは、まず九州を代表し、全国的に見ても有数の商業・業務機能の高度集積ゾーンである天神地区をターゲットとして投資物件の旺盛な購入を開始したため、地価が高騰し利回りが低下した。また地区内で投資適格物件も枯渇してきたため、天神地区に比べ地価回復が出遅れた感があり、相対的に利回りも高い一方の拠点である博多駅地区へシフトしていくこととなった。

この傾向に拍車をかけたのが博多駅周辺の再開発計画である。11年新幹線の全線開業とタイミングを合わせた新博多駅ビルの開業、同ビルの核テナントとして阪急百貨店の進出、さらに準核テナントとして全国的知名度が高い東急ハンズも出店に基本合意した。同ビルにJR九州の専門店街アミュプラザが入居、複合映画館やホールも設置して天神に対抗する多機能型商業施設とする予定だ。さらにJR博多駅新幹線ホーム下(筑紫口)の商業エリア「博多デイトス」も新博多駅ビル(博多口)開業に合わせて、全面改装する予定であり、駅全体が大きく生まれ変わる。

建替え後の新博多駅ビルは、博多郵便局や新三井ビルと2階の歩行者回廊で連結するなど駅周辺の回遊性を高める構想であり、さらに住吉地区にあるキャナルシティの東側が第二キャナルとして11年に開業するべく用地交渉中で、これが実現すれば博多駅→キャナルシティの提携が強化され、ゆくゆくは回遊回廊を天神まで延伸し、[博多駅→キャナル→天神地区]の両拠点の提携を強化する中央回廊軸が完成することになる。

これまで博多駅地区は、業務施設の集積は進んでいたが、店舗等の商業施設がこれといった核を持たず散在し、天神地区に買い物客は流出していた。駅周辺の再開発で商業集積が高まることになり、都心機能が強化される。オフィスビルも大型ビルをはじめ中小規模の新規需要や増床等で空室率が低下しており、好条件の大型ビルは需要に比べ供給がタイトになってきている。駅前再開発に伴い不動産価値が高まり、投資価値が向上し、ファンド等の買いが投資適格物件に集中し、当該地区の公示価格を高騰させることになった。

福岡市の商業地で上昇率上位10のうち6ポイントが博多駅周辺に集中。「博多駅前1丁目」は44.1%上昇で「東京都渋谷区」、「名古屋市中村区」に次いで全国3位の上昇率となった。博多駅周辺では博多駅前3丁目42.2%をはじめ博多駅前2丁目、博多駅東1丁目、博多駅南1丁目で30%台の高い上昇率となった。

②博多部地区

博多部地区は、博多駅や天神の繁華街に近く、高速道路ランプがあり、交通利便性が高いエリアである。大博通り、明治、昭和通り等の幹線道路沿いや呉服町・店屋町周辺にはオフィスビルなど事業所が集積している。幹線道路背後は、神社や寺など歴史的な建造物も見受けられるが総じて画地規模が比較的狭く併用住宅等が稠密に建て込んでいた。

近年、その占位する利便性を反映して単身者用のマンション等が増加してきている。幹線道路沿いの業務集積エリアで投資ロットが大きい物件はリート、ファンドが購入しており、幹線背後の併住、住居ゾーンは、商業地域で容積率も400~500%程度あり、価格回復が遅れ気味だった割安感から分譲や賃貸マンション用地として地元業者などで購入された。当該地区内の公示価格は奈良屋町、中呉服町の幹線背後の公示地で25%前後上昇した。

③中洲・川端地区

全国有数の歓楽街の中洲は飲食店の減少が続いてきたが「都心衰退その実態と再生の芽」(九州経済調査協会)によると1990年代後半から2000年代初頭が底で中洲が復活してきているという。復活の理由として景気回復に加え、①大型居酒屋店の進出による若い世代の流入、②空室率上昇によるリース店舗契約の普及が挙げられる。玉屋跡地の複合商業施設「ゲイツ」は昨年3月に開店したが、テナント集めが難航し、ビル全体で3割ほどが空室で苦戦している。地区全体ではまだら模様の回復の当該地区だが中洲5丁目の公示地で前回のマイナス0.2%から6.1%上昇に転じている。

キャナルシティと下川端にある大型複合商業施設博多リバレインの間に挟まれた上川端商店街は、キャナルシティと一体性の確保に努め、一時の低迷期から回復したが、12月26日西日本新聞によると井筒屋が下川端町の大型商業施設「博多リバレイン」に入居する方向で検討しており、後継店は面積2,000平方メートル程度で、来年9月の開業を予定している。当該エリアは博多駅と天神の中間にあたるので博多駅再開発でキャナルシティとの回遊性が高まると当該エリアへの波及効果も期待されている。

④天神地区

西鉄福岡駅から半径800mの天神地区に福岡市の年間小売額の2割強に当たる3,980億円(04年商業統計)が流れ込む全国有数の繁華街だが天神1丁目の天神コアビルは1㎡6,450千円で9年連続、県内最高価格で29.0%上昇した。近年、その天神周辺部である大名、今泉などに人の流れや商業集積は拡散したが、この流れを受け集客力が増した今泉2丁目が35.5%で中央区1位の上昇率となった。天神がこれらの地区を包含し、それぞれのエリアが回遊性の向上に寄与する高度商業ゾーンであることに変わりはないが、その結節点で賑わう「天神西通り」近くの天神2丁目が30.0%上昇。西通り沿いの県基準地中央5-3は、昨年7月1日時点で30.4%上昇している。

地下通路とも直結する天神2丁目「きらめき通り」の角地に東京建物株式会社は、大型商業施設VIORO(地下3階地上8階建、売り場面積約7,400㎡)を06年9月オープンした。東京建物によると「1階部分は100以上のテナントから問い合わせがあった(日経8月23日)」という。ターゲット層を25~35歳女性とし、年間売上目標80億円とするVIOROの出現で、「VIOROに隣接する岩田屋本店は、5億円をかけて04年に本店を移転開業して以来の大規模リニューアルを行い、婦人服や紳士服、婦人雑貨などのファッションゾーンを中心に新しい商品の品揃えやハイエンドブランドを強化。また、ソラリアプラザが全館の4分の1にあたる33店舗をリニューアルした。天神コアは外壁の改修と上層フロアの再構築に主眼を置いた大規模な改修工事を10年ぶりに行い、外壁は、エントランス部の改修や照明によるライトアップ、壁面部のウィンドウ化や階段室のシースルー化などにより、ファッションビルとしての華やかさの演出を図り、11月にグランドオープンするほか、博多大丸は来年度から3年かけて全館改装を行うという(天神経済新聞)。」天神経済新聞によると大名から「ユナイテッドアローズ」や「シップス」、「アメリカンラグシー」など7店舗がVIOROに移転しており、ファッションの中心として注目されていた大名エリアからの移転のため、今後の天神地区の動向が注目される。

⑤渡辺通り・薬院地区

「渡辺通・薬院地区」は、西鉄大牟田線薬院駅に加え地下鉄3号線「渡辺通り」駅が出現し、一躍利便性が向上し、ビジネス、都心居住、商業・文化が調和した新しい拠点づくりが提案されている。

渡辺通り地区では九州電力本社の再開発と、向かい側の渡辺通1、3丁目の区画整理・再開発事業という二大再開発・地域整備のプロジェクトがスタートしている。九州電力本社の再開発は、九電本社である「本館」などを含む約2万4,000平方メートルのエリア全体を再開発する。敷地内に6棟のビルを建てる構想で、まず現電気ビル新館北側の約3,000平方メートルに賃貸オフィスビル(地上13階、地下1階)を建設。九電グループに加え一般テナントを誘致、低層階は物販や飲食、医療機関、託児所などを入居させ完成は08年5月の予定。

また渡辺通1、3丁目の区画整理・再開発事業地は、福岡市都心(天神)から渡辺通りを南に約800m。地下鉄七隈線渡辺通駅の北側出入り口付近に在って、区域面積2.5haのなかに青空駐車場、空地が散在するほか狭隘道路沿に家屋が密集する一帯で、土地高度利用と、天神地区の業務・商業機能との連携を強化し、回遊性を高める市街地形成が図られる。さらに地区中央部にキャナルシティ博多の南端と連結する幅員18メートルの都市計画道路「渡辺通・春吉線」を通し、キャナルシティから博多駅地区までの回遊軸を形成する。

薬院地区では東京建物が天神に隣接するビジネスエリアと捉え、「薬院いろやま乃湯」跡地に一部店舗を含むオフィス主体の14階建て複合ビルを証券化手法で開発を行う予定である。

このようなエリア内の再開発計画等を反映して公示価格は堅調で、渡辺通り2丁目、薬院2、3丁目の公示地で20~25%の範囲で上昇している。

以上、福岡市都心部について平成19年地価公示価格動向とその地域背景を書いてきた。今回の地価公示は、依然として旺盛なファンド等による投資マネーの投入が継続しており、博多駅周辺への移動を示す結果となった。天神の商業機能も大名、今泉へ拡散しており、それぞれのエリアで機能分化しながら都心機能が拡大していることが読み取れる。さらに博多駅前再開発で博多駅地区の相対的商業基盤は浮上すると思われるが、天神との対比で見るとその将来像と実力の程はまだ未知数である。オフィスビルは、現時点で大型ビルを中心に都心部で品薄感があるが、07年は供給が増加する。また市内のオフィスビルは1950~1970年代に建ったものが多く、その多くが更新時期を迎えるため、今後の市場動向が注目される。

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