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不動産ファンドの利回り構造の研究
~不動産証券化のトランシエ、優先劣後の活用~
㈱日本システム評価研究所 不動産鑑定士・司法書士 山 田 毅 2007.02.25
不動産投資の利回りについて前回のコラム不動産投資の利回り入門では還元利回りを中心に書きました。今回は収益物件の投資効果を測定する割引率や借入を活用し投資効果を拡大するレバレッジについて不動産証券化のトランシエ、優先劣後構造というスキームを駆使した不動産ファンドを教材にして言及します。
リートや不動産ファンドなどの投資マネーが東京や名古屋、大阪、福岡など中心商業地の地価をここ数年で急激に高騰させたことはよく知られていることですが、なぜ彼らが都心のAクラスビルを3%の低キャップレートで買うのか、この辺の理由については借入金利と不動産投資利回りのイールドギャップが世界的にみて日本はまだ大きいからといわれています。
イールドギャップが生み出す錬金術については、投資案件のIRRやレバレッジを具体的に計算してみるとそれなりの合理性があるのですが、実は今回のテーマである証券化スキームのデッドやエクイティのトランチング、優先劣後構造と呼ばれる金融技術が優れモノなのです。この仕組みが投資用不動産を複数の金融商品に切り分けて、ローリスク・ローリターンから高レバレッジのハイリスク・ハイリターンまで複層的な金融商品の提供を可能としています。その結果、巨額の投資マネーを吸引しやすくしているのですが、この集金メカニズムは一部の業界人以外はあまり知られていません。
サラリーマンや主婦層など個人投資家による数百万円の区分所有中古マンション投資から世界的な投資銀行モルガンスタンレーなどの証券化を使った数兆円規模の私募ファンドに至るまで不動産投資の価値評価や投資分析の基準、尺度は実は共通しており、そのコアは割引率(IRR)やレバレッジである事実を今回のコラムで書いてみます。
■割引率(IRR)、レバレッジとは
割引率とレバレッジを簡単な設例で理解しましょう。例えば下記のような賃貸マンションが売りに出ていたとします。
| ▼設例1 |
| 築10年RC 賃貸マンション |
| 売主の希望価格 |
1億円 |
| 家賃等収入 |
800万円 |
| NOI(純収益) |
600万円, |
| 初年度利回り |
6.0% |
この賃貸マンションの購入を検討している投資家は、築10年の賃貸マンションで表面利回り8%、ネットで6%なら今どきの価格としては悪くないのでは?と思い,さらにノンリコースローンを使うとさらにレバレッジが効いて利回りが上昇すると計算します。
例えば購入額の70%、70,000千円を3%の金利で借り入れると投資家の出資額は30,000千円となり、ローン利払いは2,100千円(70,000千円×3%)、投資家運用益は6,000-2,100=3,900千円、投資家出資利回りは3,900÷30,000=13%に上昇します。
これは不動産の利回り6%よりノンリコースローンの金利3%が低いため投資家の出資分の利回りは上昇するというレバレッジが効くのです。
上記は、簡易計算なので、詳細に検証します。この賃貸マンションを売主希望価格で買うとして下記の条件で5年間保有・運用後、転売するとした場合、キャッシュフロー予測額(各年のリターン+5年後の転売収入)のリターンとキャピタルゲイン・ロスを均した最終投資利回り(=IRR)は
●全額自己資金を投入した場合
●借りれをした場合
それぞれいくらになるかを求め、売り希望価額で買うことが投資として適正かを検証してみます。
▼前提条件
| 資金調達 |
自己資金: 30,000千円 借入: 70,000千円(金利3%、返済期間 20年) |
| 保有期間 |
5年 |
| 転売価格 |
5年目のNOI(純収益)÷最終還元利回り |
| NOI(1~5年) |
家賃、稼働率、経費に変動がないとする。 |
▼5年間の家賃収入によるNOI(純収益)と借入金返済後の自己資金部分帰属収益のキャッシュフロー
| キャッシュフロー (単位千円) |
| - |
1年 |
2年 |
3年 |
4年 |
5年 |
| ①NOI |
6,000 |
6,000 |
6,000 |
6,000 |
6,000 |
| ②借入金返済 |
4,705 |
4,705 |
4,705 |
4,705 |
4,705 |
| 自己資金キャッシュフロー(①-②) |
1,295 |
1,295 |
1,295 |
1,295 |
1,295 |
▼転売価格
5年保有後の物件の転売価格を求める手法は2つあります。
- 購入時の価額または収益価格に予測価格変動率を乗じて求める方法。例えば購入価額1億円が5年後には10%価格上昇して1.1億円とか10%下落して0.9億円とか転売価格を予測するやり方。
- 保有期間終了時のNOI(純収益)÷最終還元利回りで求める手法
今回は、5年後に当該収益物件を買う投資家は、収益還元価格で物件価値を評価すると考え、転売時のNOI(純収益)÷最終還元利回りで転売価格を予測します。
転売価格: 6,000千円÷6.5%(最終還元利回り)=92,308千円
税引き前転売収入 92,308 -56,169(借入金残高)=36,139千円
|
この最終還元利回りは、一般に次のように考えられています。
最終還元利回りは、保有期間満了時点以降に発生する純収益に対応するので、不確実性がより増すためαがリスクプレミアムと考えます。ここでは初年度のキャップレート6%に建物部分の保有期間の経年による減価、将来リスクを考えてα=0.5ポイント加え6.5%とします。
▼総合IRR、自己資本IRR
[初年度の投資]→[1~5年のNOI]→[転売収入]のキャッシュフローから100%自己資金で買った場合の総合IRRと借入を使った30%出資分のIRRを求めます。
| 年 |
総合IRR |
自己資本IRR |
| 0 |
-100,000 |
-30,000 |
| 1 |
6,000 |
1,295 |
| 2 |
6,000 |
1,295 |
| 3 |
6,000 |
1,295 |
| 4 |
6,000 |
1,295 |
| 5 |
6,000+92,300 |
1,295+36,139 |
| IRR |
4.6% |
7.8% |
借入を使わず全て自己資金を投資して取得するIRRは4.6%、一方、購入額の70%を借入を使い、30%の自己出資に帰属するIRRは7.8%です。
このように投資利回り>借入金金利の条件では、レバレッジが効いて全額エクイティ投資より借入を使ったほうが出資部分の最終投資利回りが飛躍的に上昇することが分かります。
以上の計算は、売主の希望価格で買うとしてキャッシュフローを予測し、IRR(割引率)Xを求めたのですが、売主希望価額の1億円では期待した利回りより低いと思えば、逆に投資家が期待する利回り(IRR)を決めて、キャッシュフロー予測し、適正となる購入価額をDCF法で算定することになります。
DCF法は本コラムのテーマから外れるのでここでは触れません。(DCF法に興味がある方は筆者のコラムがあります) >>>解りやすいDCF法の話
レバレッジとは「梃子(てこ)」の原理ともいわれ、少ない資本でもより大きな不動産への投資を可能とし、その出資額に対してより大きなリターンをもたらす仕組みですが、次に紹介する一見、複雑にみえる不動産証券化を使った不動産ファンドなどはまさにこの仕組みを活用しています。
証券化による不動産ファンドのレバレッジの仕組みを簡単な例で以下に書いていきます。
■証券化で高レバレッジを実現する不動産ファンド
不動産証券化を活用した資産運用型のスキームとしては、J-REITと不動産ファンドがありますが、J-REITは一般にLTV(借入比率)は40%台と抑制的であり、どちらかというと長期的な安定運用を志向する投資商品という性格づけになっています。一方、非公募型の不動産ファンドは、LTVも70%を超えるものも多く、運用期間も3-5年と短期で積極的にレバレッジ効果を追求する傾向があります。設例で不動産ファンドのレバレッジ構造を説明します。
▼設例2
中堅不動産業者Aさんは、長年の賃貸マンション開発、運営、管理で培ってきたノウハウを生かし、アセットマネジメント、プロパティマネジメント部門へ進出するために不動産ファンドをセットアップすることにしました。
ファンドのストラクチュアリングは、最近、定番となってきている「TK-GKスキーム」を使い、不動産(信託受益権)取得のためのSPCは合同会社、エクイティ出資は2重課税回避のため匿名組合出資とします。デッドはノンリコースローン7億円、エクイティ出資は得意先の資産家Bさんに5%配当で2億円、AさんはBさんに配当、償還を劣後して1億円出資することにして概算したAさんの出資配当利回りは以下です。
| 【組成物件】 |
| 不動産価額 |
10億円 |
| 賃料等収入(稼働率100%) |
0.9億円 |
| 賃料等収入-諸費用 |
0.68億円 |
| 【資金調達】 |
| ノンリコースローン(金利3%) |
7億円 |
| 匿名組合出資額(優先出資B、5%配当) |
1億円 |
| 匿名組合出資額(劣後出資A) |
2億円 |
| 計 |
10億円 |
| 【配当利回り】 (単位千円) |
| ①賃料等収入-諸費用 |
68,000 |
| ②ローン金利 |
21,000 |
| ③優先出資B配当 出資額×5% |
5,000 |
| 劣後出資A配当①-(②+③) |
42,000 |
| 劣後出資Aの利回り 21% |
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なんと!Aさんは2億円の出資で10億円の投資を可能(SPCが信託受益権を取得)とし、単独で金融を使わない場合は、6.8%の利回りの不動産投資が、証券化スキームを使うと出資分の利回りは21%、ほぼ運用期間の5年で投資回収も可能という高いパフォーマンスを実現できます。しかもAさんが関与する予定のPMまたはAMのフイーが配当と別にSPCから支払われるのです。しかし上記の計算は、100%稼動での話しで絵に描いた餅にもなりかねません。もっと悲観的なシミュレーションをしてみましょう。
例えば空室が増え賃料が下がり、利払いを含む配当可能収入が半分(=34,000千円)になったらどうでしょうか。
まず最優先されるレンダーのローン金利を差し引き、さらに配当順位が優先するBさんに5%の配当をします。劣後出資のAさんには残りの800万円が配当されることになります。その結果、優先出資のBさんの配当は賃料下落、空室増加で-50%変動しても全額確保されてますが、配当順位が劣後するAさんの出資利回りは4%(800万円÷2億円)に下落しました。まさにハイリスク・ハイリターン、高レバレッジ(金利動向次第では逆レバレッジもあり得る)金融商品といえます。
運用期間終了後、第三者売却で元本が償還されるときも償還順位は配当と同じです。キャピタルゲインがあるときはAさんの投資パーフォーマンスは向上し、キャピタルロスが発生したときは劣後のAさんは償還原資があるときだけ償還を受けることになります。
Aさんの最終的な投資パフォーマンスは、配当、償還のキャッシュフローIRRが指標になることは設例1で書いた通りです。Aさんがハイリターンを持続するには物件購入時に出口戦略も見据えた物件のリスクとクオリティを洞察できる高いスキルが欠かせませんし、購入後のAさんのAM,PMの運営能力次第ともいえます。
このように不動産証券化商品の場合、デッドとエクイティを優先部分と劣後部分に分け、優先部分を保有する投資家は劣後部分を保有する投資家より優先的に配当などを受け取る権利を持つ仕組みにしています。現実の不動産証券化では、デッドとエクイティの中間に金利が高めのメザニンローンなどを入れてLTVを高め、レバレッジを高める工夫がされることがあります。
いずれにせよ予測収益より減少した場合のリスクを劣後部分が吸収して、優先部分への配当などの確実性を高めています。劣後部分は優先部分の安全性が高い(リスクが低い)分だけ配当利回りを抑えることで劣後部分の利回りが上昇するレバレッジを活用、その結果、ローリスク・ローリターンからハイリスク・ハイリターンの複数の金融商品を供給できることになります。
このように不動産証券化という金融技術を活用した不動産ファンドのような投資スタイルは、今後、中小不動産業者から個人投資家のレベルへと急速に普及していくと筆者は、予測しています。
>>>中小不動産業者でもできる不動産ファンドのセットアップ
不動産ファンドは、豊富な資金を集めやすく、投資サイズが大きい優良不動産に投資したり、中小型の複数不動産からなるポートフォリオも自在に構築できます。そして投資家の財務毀損は出資額の範囲内に限定されています。投資家は、出資額=ゼロとなる、を最大リスクとして、ローリターン・ローリスクからハイリスク・ハイリターンまで優先劣後構造でトランシエ(切り分け)された商品のなかから投資を選択すればよいのです。そしてこのようなリスクとリターンの構造化はさらに加速していくでしょう。
従来型の不動産投資では、投資家が遡及型のローンを目いっぱい引き出して単独の不動産に投資することが多いのでリスク分散効果はファンドが構築したポートフォリオに比べ格段に低く、デフォルトしたとき受ける投資家の経済的ダメージは、複数の投資家、ローンレンダーなどにリスクが階層化・分散化されたファンドに比べ圧倒的に大きいです。
とはいえ証券化でファンドをセットアップするコストが小型ファンドでは割が合わないとか、証券化ができる不動産と金融技術のスキルを併せ持つプレイヤーの慢性的人手不足(国内でも不動産金融業務はトップクラスの年収)など現状では敷居が高く普及していくにはネックがあります。しかし業界内部でも契約書類などドキュメンテーションプロセスの標準化や人材育成、流動化が進んでいるので近い将来にはより身近な手法として定着していくでしょう。
■リート、ファンドバブルの行方
先のバブル崩壊を経験した業界人のなかで、「最近の一部の地域の不動産価格の高騰をみていると嫌な感じがする」と囁かれています。そう・・・・あのバブルの始まりの時の熱気、空気によく似ているのです。あのときも価値が高い都心商業地から高騰が始まり、都心のビルのキャップレートは1~2%でした。
昭和57~58年頃から、都心商業地域で地価が上昇を始め、これが順次、南西区部へ拡がり、さらに北西区部および北多摩地区から南多摩、西多摩地区へと進み、東京都全域に波及した。都心商業地域から始まったのがこの土地バブルの特徴で、社会経済構造変化が情報化・国際化・サービス化を促し、業務機能や中枢管理機能の東京都心部への集積が進行し、オフィス需要が急増したためまず都心商業地から地価高騰が起こった。
86年の国土庁地価公示価格(86年1月1日価格時点)を見ると、まず東京都心3区から始まった地価高騰は、周辺部、あるいは主要ターミナル地区、区部の南西部で年間上昇率は20%から30%を示した。しかし当時は東京圏の商業地でも、北部とか、東部、あるいは隣接県はまだ5%から10%といった上昇率に留まっていた。
~中略~
地価がファンダメンタルズの価格を超えて上昇を続けると、その不動産を購入して事業や投資が成り立たない。例えば投資家Aが投資収益率1~2%のインカムリターンで保有し、売却時の予想キャピタルゲインでハードルレートのIRRをあげる期待を持ってたとすると、投資家A→投資家B→投資家Cと転売されるたびに賃料は硬直性が強いためインカムリターンは減少し、価格とファンダメンタルズの乖離が拡大するため価格は永遠に上昇を続けなければならなくなる。このような常軌を逸したマネーゲームがいつまでも続くとは考えられない。「バブルは必ず破綻する」これは人類史が繰り返してきた歴史の教訓である。
(筆者コラム「真説土地バブル」より)
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次回のコラムは不動産ファンド、リートがもたらしたミニバブルの行方を書く予定。
>>>リート・ファンドバブルの行方?
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