郊外路線商業地(郊外ロードサイド)の地価研究(2) / ロードサイド店舗の業種と店舗展開
前回は、郊外ロードサイドの地価形成要因を中心にやや理論的な話をした。今回は、郊外ロードサイドの需要者で出店側というべき流通各業界の特性や店舗戦略について言及する。需要者の特性、店舗戦略などを分析をすることは、郊外ロードサイドの地価や賃料が形成される市場構造を明らかにし、ロードサイドの不動産市場(地価や賃料)の今後の動向を占うことになるからだ。
郊外ロードサイドに出店している業種として代表的なコンビニエンスストア、専門店(家電量販店、衣料小売業、ホームセンター、ドラッグストア)、外食を取り上げるが、各業種別に個別の分析する前に、国内商業地に起きている商業環境変化、それに伴う店舗戦略の動向をマクロ的な見地からまず概観する。
1、まちづくり三法改正と国内商業地の需給変化
国内商業地のあり様を全国的レベルで構造変化させてしまうイベントが、本年5月に成立し、07年中に施行される「まちづくり3法」の改正である。今回の改正のうち都市計画法・建築基準法の改正によって、延床面積1万㎡超の大規模商業施設(物販店舗、飲食店、映画館、アミューズメント施設、展示場等)の立地が「近隣商業」「商業」と「準工業」の3地域に限定された。なお3大都市圏と政令指定都市以外の地方都市では、「準工業地域」に特別用途地区を指定して大規模商業施設の立地を抑制することが、中心市街地活性化支援を受けるための条件となった。これまで制限が緩かった非線引き白地地域も原則不可能となる。
「まちづくり3法」の改正は、郊外SCの進出で「郊外VS中心商業地」として対比されることが多い地方の中心商業地の壊滅的衰退が都市構造を歪めていることへの危機感からなされた。改正の背景にあるコンパクトシティの基本理念などを筆者のコラムでも度々触れてきた。本年5月の改正により郊外ロードサイドを含め国内の商業空間が具体的にどう変わるのか…本コラムで書いてみよう。
中心市街地の活性化とリンクした郊外大規模商業施設の規制という今回の改正による流通業界の業態ごとの影響は、日経MJの調査における業態毎の対照的な回答で見えてくる。これまで郊外に積極的に出店してきたGMS(総合スーパー)のほぼ半数に当たる49.1%が「大きなマイナスを受ける」か「多少のマイナスを受ける」と回答しており、「大きなプラスを受ける」か「多少のプラスを受ける」の8.2%を大きく上回ったのに対し、駅前など中心市街地を拠点とする百貨店は、52.2%が「プラスを受ける」と回答している。
GMS(総合スーパー)などを中心とする流通各社は、大規模商業施設の建設は高地価、用地難の中心商業地では無理で、低地価で工場跡地や農地など広大な用地が調達できる郊外へシフトしてきたのだが、「まちづくり3法」の改正でこれまでのような郊外での大規模商業施設の開設が難しくなった。地方圏では6用途地域のなかで準工を除く商業、近商の2用途地域の占める割合は、約25%に過ぎない。言い換えると地方の約75%もの国土空間が、郊外SCなど大規模商業施設の建設可能エリアから一挙に削減される可能性がある。
マイナス影響を受ける流通各社の今後の対応策として、
- 1万㎡を切る小型規模の店舗を開発し、都市部へ攻勢をかけ進出する
- 都市部などの既存店舗の改修を進める
- スクラップ&ビルドを進める
- 自社店舗のテナント誘致を増やし、賃料収入などの収益を拡大する
などが挙げられている。
07年2月期からの減損会計の強制適用に備え各社は土地保有には消極的であるため主要店舗は賃借しているケースが多いが、今後、家賃が上昇するなど高コストになっても出店するかについて専門店は既存店舗の改修やスクラップ&ビルドを進めるという比率が高くなるのに対しコンビ二、スーパーは好立地物件を高コストでも取得するという積極的意向が強い。
なかでもGMSは、大型・郊外化から小型化・都市部進出への重点移行を図っている。例えばイオンは都市への人口回帰や高齢化に対応し小商圏の徒歩客をターゲットとした都市型小型スーパーの出店を開始した。コンビ二や食品スーパーも今後の店舗戦略として都市部への重点進出を志向している。
一方、周辺に競合店が出にくくなることで、郊外の大型商業施設や都市部における既存店舗は、半ば既得権化するメリットを享受する。既得権益化した既存店舗を保有する企業をM&Aにより取得し、店舗展開する手法も増えるが、いずれにせよ当該法改正で大規模商業施設の進出可能なエリアが大幅に限定されるため全国的に店舗用物件の需給がタイトになってエリアによっては賃料や地価が一時的に強含むことも想定される。しかし各業態に共通してオーバーストア状態であり、採算が取れる家賃水準等から考えて、いずれ水準調整されると思われる。
以上、マクロ的な視点から商業環境の変化を書いたので個別の業態毎の店舗戦略に言及する。
2、コンビニエンスストア
■業界特性・動向
コンビ二は、60年代の大手スーパーの台頭で、経営難となった中小酒販店の活性化策として、酒販卸が米国のコンビ二を導入したのが始まりとされるが、いまや大手スーパーは凋落し、コンビ二は、身近さと24時間営業の便利さを最大の武器として顧客の購買心理、動線から緻密に計算された商品陳列やデータマイニングを駆使したマーチャンダイジングで大手スーパーを凌駕する巨大小売業に成長した。
コンビ二のウリは「時間帯の制約がなく好きなときに買い物ができる」、「身近な場所にある」、「ワンストップで必要な品物が揃っている」で、既存の商店や、大型スーパーが対応してこなかったニーズを開拓した。しかしコンビ二の成長神話も陰りが見え始めている。
日経MJの「コンビニエンスストア調査」によると業界全体の成長鈍化が鮮明になっている。売上高合計(回答52社)は7兆6千430億円で、伸び率は04年度と比較可能な50社で2.0%と04年度から1.4ポイント低下、売上高伸び率は冷夏の影響が深刻だった03年度(1.6%増)に次ぐ過去2番目に低い水準となった。
総店舗数は3.3%増の43,667店で増加率は04年度と同じ。96年度に9.2%だった増加率は90年代前半は2ケタ台を維持していたが、01年以降2~3%台で推移している。総店舗数の限界は5万店という見方からすると、すでに飽和点に近づいているといえる。
業界の売り上げも00年度から6年連続で既存店分の減少が続いており、顧客層にも変化が起きている。その要因は少子高齢化だ。コンビ二の客層は20~30代男性が中心だが、若者人口の減少で購買層のボリュームが低下しており、中高年齢層や主婦層の取り込みが急務となってきている。この辺の事情が背景となって後述するがコンビ二の新たな店舗形態の開発が始まっている。
■店舗立地戦略
コンビ二の店舗進出を時系列でみると1970年代は、大手スーパーによるコンビ二の店舗開発草創期、1980年代は、店舗数を急速に増加させた成長期、1990年代後半からコンビ二間の競争が激化し、市場も飽和状態に近づいていく成熟期に入る。
店舗立地の変動過程を見ると、1970年代は、地価の高い都市中心部を避け、中心市街地縁辺部の住宅密集地のなかで、商圏人口や自動車交通量を考慮し、周辺住民にとって利便性が高い商店立地に進出した。1980年代になると店舗展開のベクトルがより郊外へ向かう離心化と、より中心部へ向かう都心求心化に二分された。
1990年代に入り離心化は主要幹線のロードサイドを中心に更に進行するが、90年代後半から中心部の地価下落による都心回帰と相俟って都心への求心化が強まった。近年、中心市街地のオフィスビルやマンションの1階部分から駅前、商店街までコンビ二の進出が目につくようになってきている。
一方、80年代から90年代にかけてコンビ二は、大都市圏における過剰出店による競合激化を避けるため地方へと進出していった側面があるが、近年はコンビ二が店舗展開を敬遠してきた地方の農山村への出店も見られるようになっている。例えば、コンビ二大手のファミリーマートは秋田県へ秋田1号店を出店、新たな郊外型のモデルケースの実験店とした。
「約3,900㎡の駐車場は長距離トラック運転手や狭い場所への駐車を敬遠する女性ドライバーの利用増加も見越し大型化。駐車場の一部に屋台を出し、臨時イベントスペースとして活用することも視野に入れた。トイレを2室設け、店内に飲食スペースを付加した(日経MJ)」という過剰スペックとも思える店舗仕様は、人口密度が低く商圏範囲が広がらざるを得ない地方都市の地域の実情を反映したものといえる。
▼表1:コンビ二の店舗立地変動段階
コンビ二の店舗展開を支えるバックボーンは、POSシステムとドミナント戦略である。POSシステムを駆使して店ごとの売れ行きデータを本部が解析し、各店舗にマーチャンダイジングでピンポイント指令し、ドミナント戦略と呼ばれる店舗の集中出店により物流システムを極限まで効率化する。1日3回の自店舗への弁当配送を可能にする地域内に集中的に出店することでドライバーや配送車両の数を軽減して物流コスト削減した。
コンビ二の店舗内部も顧客の購買心理や動線を驚くほど緻密に計算して作りこまれている。顧客の購買動機は、「目的買い」と「衝動買い」に2分されるが、「目的買い」で入店した客に「衝動買い」を誘引するような商品陳列の仕掛けは巧妙だ。例えば、昼食の弁当を買いにコンビ二に入ったとしよう。弁当は、店の奥に置いてあるので、客は誘導を意識することなく奥まで歩く。その周囲にサラダパックなど惣菜類が並べてあるので、つい衝動買いしてしまうことになる。
コンビ二の次なる店舗戦略は、コンビ二にあまり足を運ばなかった顧客層の開拓だ。女性層と中高年層をターゲットにした店舗形態を新たに開発している。コンビ二大手のローソンは、01年から健康志向商品を多く扱う「ナチュラルローソン」、05年から生鮮野菜や果物、雑貨などを原則税抜き100円均一で売る「ローソンストア100」の出店を都市部で始めた。売り場面積は、従来の標準タイプの130㎡より1.5~1.8倍と大型化している。
「ナチュラルローソン」は、20~30代女性がターゲット。「ローソンストア100」は主婦層や高齢者がターゲットである。スリーエフやエーエム・ピーエム・ジャパンの各社も主婦層を狙った生鮮コンビ二を開始したが、スーパー部門も食品部門を強化しており、これに食品スーパーも加わり店舗間の生き残り競争が激化している。
3、専門店(家電量販店、衣料小売業、ホームセンター、ドラッグストアなど)
【家電量販店】
■業界特性・動向
1990年代に従来からのメーカー系列の地域小売店に替わり大量仕入れ、大量販売、低価格路線の家電量販店が登場。家電量販店はNEBA加盟店と非加盟店に分かれる。ベスト電器は加盟店でコジマやヤマダ電機は非加盟である。初めにディスカウントストアとして売り上げを拡大したのは、コジマでその後ヤマダ電機がPOSシステムなどを導入し経営効率化によるローコストを実現、コジマを抜いて売り上げ1兆円を超える急成長を果たした。
郊外ロードサイド出店が主体のコジマ、ヤマダ電機などと対照的に都心型の店舗展開を行っているのがヨドバシ、ビッグカメラといったカメラ系量販店である。これらの大手家電量販店は、販売実績を基に家電メーカーと仕入れ値を交渉し、それによって低価格販売を実現し、顧客に購買メリットを訴求していくので、積極的な多店舗展開策を取らざるを得ない仕組みになっている。
■店舗立地戦略
家電量販店の店舗展開は、1990年代前半までは、本部を中心とした地域市場に集中的に出店しており、全国規模の店舗展開をおこなうナショナルチェーンは未だ見られなかった。この時期、家電量販店は、地域単位でドミナントを形成して市場を分割し、棲み分けを行っていた。
1990年代後半から上位量販店は、売り上げの拡大と経営のスケールメリットを求めて全国展開を開始する。特に店舗展開で遅れたヤマダ電機は、後発であったがために既存の小規模店が少なく、大店法の緩和や大店立地法の追い風を受けて大型店を積極的に郊外へ出店できるようになった。
家電量販店の場合、生鮮食品のように賞味期限や鮮度の保持がないので配送距離は広域化し物流システムを効率化できる。また郊外ロードサイド出店が主体なので家賃や初期投資を軽減し、販売管理費を抑えることで低価格販売でも利益が出るローコスト構造を構築してきた。
さらに大型店を多店舗展開することで売り上げ規模を最大化。その結果、価格交渉力が強まるので家電メーカーからの仕入れ値を低下させ、スケールメリットで独自商品の開発も容易になり、それが更に売り上げに貢献するというプラス循環の構図ができあがった。
これまでは郊外ロードサイドを中心としてきた最大手ヤマダ電機の店舗展開だが大都市の駅前商圏への進出を巡って都心立地型のカメラ系ヨドバシカメラやビッグカメラと対峙しようとしている。
ヤマダ電機は、06年3月初の都心大型店「LABI1 なんば」を大阪市に開店した。地下1階~4階が売り場で、5階~9階と屋上は968台分が収用可能な駐車場。近辺にも駐車場を確保して都市型店舗の弱点である駐車場機能を充実させている。
今後は年間2店舗のペースで、LABIを冠した店舗の出店を予定。さらに07年春に東京/池袋、08年に大阪/千里、群馬/高崎、東京/渋谷へ出店が相次ぎ、最低でも2,500坪の売り場面積を持つLABI店舗を出店する予定。
「LABI1 なんば」は、同社既存店舗の平均売り場面積の約6倍となる2万㎡を擁し、約300億円の売上げ規模を目指す。これまでの商圏規模30万人対象の店舗から今回の店舗は100万人の商圏を対象に出店した都市型店舗となる。
ヨドバシ、ビッグカメラも都心を中心に積極的な店舗進出を続けている。ヨドバシは05年秋葉原、横浜で大型店を開設、ビッグカメラは06年9月川崎、年末に京都進出の予定。
郊外でも熾烈な競争が続いている。「ヤマダ、エディオン、コジマなど上場大手の06年度の新規出店は合計140店舗と大店立地法の施行で駆け込み出店があった00年度に次ぐ高水準」(日経MJ)。今後、業界全体としては経営統合や再編を繰り返し、淘汰、寡占化が進むと見られている。
次回は専門店のうちドラッグストア、ホームセンターさらにガソリンスタンド、外食の店舗展開・戦略に言及。
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