郊外路線商業地(郊外ロードサイド)の地価研究(1) / ロードサイド店舗の業種と店舗展開
■ロードサイドショップ
ロードサイドショップとは、郊外の幹線道路沿いによく見られるドライブイン、ファミリーレストラン、ホームセンター、カーディーラー、郊外書店などで、購買訴求力を強めるため、1~2層までの低層店舗と店舗施設を多面で囲むように配置されたダイレクト流入の広大な駐車場を擁し、一般に営業時間が長いのが特徴だ。
これらの店舗では、ロードサイドの立地特性を生かし、店舗敷地内の看板シンボルは、周辺の背景に埋没しないように色やフォルムが工夫され、通行中の車からの動態視界性を強く意識している。例えば、ロイヤル、セブンイレブンは、100m以上離れていても看板シンボルや統一された店舗外観・デザインから運転者に店を知覚させ、進入アクションへ導入するようになっている。
ロードサイドの郊外物販は、郊外に立地するため、商圏の人口密度が一般に低く、販売効率は中心商業地より劣るので、商品を特化して広大な売り場面積に豊富に品揃えをしたり低価格による訴求力を強めるため、オペレーションコストを低減している。
後述するが、出店コストを軽減するため、オーダーリース方式と呼ばれる賃貸借を活用したり、従業員のパート比率を高め人件費を低減しており、またコンビ二やホームセンターなどの専門店チェーンは、特定地域のロードサイドなどに集中的に出店するドミナントエリアの形成を行い、チェーンオペレーションにより販売促進効果の向上や物流配送コストの削減、競合の出店抑制効果を高めることを目標にしている。
■生成と発展過程
ロードサイドビジネスは、都市の郊外化とモータリゼーションで1970年代頃から急速に郊外の幹線道路を中心に開花した。高度成長経済により大都市への人口流入が沸騰し、都市の中心部は、急激に地価高騰。地価の安い郊外へ居住地を求めて、人々は移動し、同様に商店舗も高地価で駐車場難の都心部を避け、地価が安い郊外へ拡散していった。
膨張する都市の外延的拡大により、郊外にニュータウンが相次ぎ建設され、都心から郊外への幹線道路には、ロードサイドショップが連坦し、旧来の商業地に替わる新しい業態のロードサイドリテイラーを生み、それらは集積し、独自の商業空間を創生することになった。
車に対する依存度が高い地方都市の幹線道路沿いにおいても、大都市の郊外に近似したロードサイドショップが形成され、反面、従来の中心商業地は、衰退し疲弊することになる。
産業道路としての性格が強い幹線道路には、もともと資材置き場をはじめドライバー相手のドライブインやガソリンスタンドが点在していたが、ロードサイドビジネス生成期の1970年頃になると、都市の郊外化の急速な進展で生活道路としての様相が色濃く付加された幹線道路にファミリーレストランやホームセンターなどが登場してくる。
ちなみにファミリーレストラン各店の出店時期は、
- すかいらーく:1970年
- ロイヤル:1971年
- デニーズ:1974年
※引用:平山光著「ロードサイドショップ開発・賃貸借の実務」
となっている。
1980年頃から紳士服、書店、靴などの物販郊外店も出店してくる。さらに近年になると郊外居住者だけでなく広域商圏を対象とした巨大SCが登場したり、物販にレジャーやカルチャーなど文化的施設をミックスした複合施設がロードサイドにできてくる。
元大阪市立大学濱田学昭氏は月刊不動産鑑定(郊外ロードサイドの店舗進出と地価をめぐって)でロードサイドの発展段階を5段階に分けている。
▼ロードサイドの発展段階
- 第1段階
- 第2段階
- 第3段階
- 第4段階
- 第5段階(成熟期)
ドライバー相手の店舗進出(食堂、ガソリンスタンド等)
ファミリーレストラン、パチンコ店の進出
家電、靴、洋服、スポーツ用品等の物販店
書店、AVショップ、ファーストフード店等
複合店舗(スポーツセンター、カルチャーセンター)
※第1~第2段階は比較的早い時期に到達するが、第3段階以降になるとさらに数年を要する。
都市の郊外化は、1990年代後半に入り、都心回帰へ転回し、最近のまちづくり3法の改正などに見るように郊外化の抑制、中心市街地活性を志向するコンパクトシティへと時代はパラダイム転換したため、ロードサイドの今後の動向はより不透明感を増しているのだが、この点については別の機会に言及する。
■ロードサイドの地価形成
「ロードサイドの発展段階」に応じて、ロードサイドの郊外路線商業地としての集積度、熟成度は高まるため、比例して地価水準も高くなるが、ロードサイドに出店する店舗サイドとしては、初期店舗投資を抑えるため、リースバック方式(建設協力金方式)と呼ばれる(土地+建物の賃貸借)か事業用借地権方式を活用するケースが多く、土地を購入して自社店舗を建設する例は少ないので、ロードサイドの土地等の取引事例は少なく、地価水準を把握するのは意外に難しい。
上記のような理由で路線商業地の取引事例件数が同一需給圏内で限定的な時は、当該ロードサイドの背後の住宅地の価格水準に一定倍率を乗じて算定した価格が参考になる。
通常、オモテ道路の商業地の価格は商業収益性がある分、背後の住宅地の価格より高く、相関も高い。背後住宅とオモテ商業地の価格は、オモテ商業地の繁華性、集積度や道路幅員、系統などの諸条件を反映して、その倍率は変動し、諸条件が一定であれば収斂することが経験的に知られている。
例えば、背後住宅地の価格水準が路線価、公示価格等から㎡当たり20万円であればオモテの路線商業地の集積度、車の通行量などの状態を総合勘案した経験的倍率を仮に1.5とするとオモテの路線商業地は30万円になるという具合だ。
しかし当該倍率を勘と経験だけで決めるのは科学的でないので、数理的根拠で精度を高めるには、背後住宅地の価格を説明変数に入れた重回帰分析をするとオモテ商業地の予測価格がコンピュータソフトで求められる。
オモテ商業地の価格を被説明変数とし、背後住宅地価格をはじめ車の通行量、道路幅員、店舗の集積度、発展段階1~5で見た業態特性などを説明変数として重回帰分析を行い、求められた線形式に背後住宅価格などの各データを入れると路線商業地の価格がPCで算定される。
次に収益価格であるが、店舗の賃貸に基づく家賃から収益価格を求めても、2階までの低層店舗が主体で駐車スペースが広いので、賃貸面積が敷地規模に対し相対的に少ない関係から、低位な収益価格が試算されやすい(大都市における市街地近辺のロードサイドにおいては、マンションやオフィス等と複合した中高層建物も多いため、収益価格は相応の価格水準で試算されるケースもある)。
またロードサイドショップをテナントとする土地活用は、事業としての収益性を求める以外に、建設協力金による土地所有者の建設資金負担の軽減や、相続税対策の側面も併せて考慮されているため、収益価格だけで地価水準を決定するのは説得力が弱い。
ロードサイドショップの出店の主流となっている賃貸借は、契約形態で3つに分類される。
▼賃貸借契約形態
- オーダーリース方式(建設協力金方式)
- 事業借地方式
- オーダーリース方式(土地所有者自己資金建設方式)
テナントが希望するデザインの建物を土地所有者が建設し、(土地+建物)を賃貸する。建設費は、テナントから建設協力金と敷金(保証金)を受領して充当する。
テナントが事業用借地権を土地所有者の土地に設定し、10年~20年の期間で、土地を定期借地する契約。契約終了後は、土地は更地として返還。建物を建てるのは借地権者(テナント)なので土地所有者が建築資金を用意する必要はない。
建設協力金方式との違いは、土地所有者が建設協力金によらず自己資金(借入金含む)で店舗を建築する。
事業借地方式は、土地所有者は建設コストの負担なく土地を貸すだけで賃料として地代、一時金として保証金を受領する(権利金の授受例は少ない)。事業リスクは低い分、地代の更地価格に対する利回りは低く、収益性は高くない。出店側も比較的短い事業借地期間の経過後は更地化して撤収しなければならないのがネックであるが、低層で建築コストも安く、事業投資資金が早く回収できるロードサイドビジネスに活用されており、ファミリーレストラン、ガソリンスタンドで適用例が多い。最も利用されているのは建設協力金によるオーダーリース方式である。オーダーリース方式では、建設コストをオーナーとテナントで負担区分しているケースが多い。例えば、オーナーはスケルトン渡しで、内装、厨房、空調の各工事などはテナント負担としている等である。建設協力金は、建設コストの50~100%の範囲に収束するが、賃料の額や返済条件等を反映して決まっている。
土地所有者にとってオーダーリース方式のリスクは、テナント側の希望をいれた建物であるため、汎用性に乏しく、テナントが契約途中で倒産したり、撤退した場合に他への賃貸が困難となる点である。また複数テナントからなるアパートや賃貸マンションに比べロードサイドショップは、シングルテナントであるため、テナントが抜けたときのリスクは大きい。このようなリスクを回避するため、テナントの一方的な事情による解約の場合、建設協力金、敷金を没収するなどの特約がなされるケースもある。
土地所有者にとってテナントの契約途中の倒産や撤退によるリスクを除けば、店舗の管理やオペレーションはテナント側がやるため、賃貸事業として煩雑さが少なく、長期入居で収益も安定する。一方、テナント側も出店時の初期投資は軽減され、ロードサイドショップ特有の低コストオペレーションが可能になる。
このように当事者双方にメリットが高い分、ロードサイドの出店は、賃貸借が主体となり店舗用地の売買例は少ないが、今後、地価が反転している大都市の市街地近辺のロードサイドでは、用地難や企業の財務戦略の転換から土地購入が増えるケースも考えられる。
地価上昇で土地所有者のなかには売却を希望する者も増えており、このようなニーズに応えるため、三菱UFJ信託銀行は、郊外ロードサイド店舗や駅前型店舗といった1件当り1億円程度の小型物件を全国100店程度に束ねファンドで購入し証券化。年度内には紳士服はるやま、外食大手などと提携できる見通しだ。ローソンも店舗の証券化を始めており、注目されている。
話を郊外ロードサイドの地価に戻す。郊外ロードサイドの地価形成要因の分析は、近年になってGISを駆使したエリアマーケッティングなど実証的研究が進んでいる店舗立地論とクロスオーバーしている。林原安徳氏著「実践 売上予測と立地判定」によるとロードサイドの好立地は、「車の運転者から対象地の店舗がどう見え、周囲にTG(トラフィック・ジェネレーター)と呼ばれる強力な顧客誘引施設、場所があるのか、対象地への出入り(IN/OUT)が容易か、当該道路を通行している車の運転者や同乗者が顧客になり得るのか、2km商圏内の人口、男女比率、年齢別構成、住宅の形態、所得等から見て自店舗のターゲット層になるかのなどの諸要因」に影響され、決定されている。
不動産鑑定評価においては、郊外ロードサイドの地価形成要因として国土交通省の「郊外路線商業地域の比準表」がある。そのなかの要因項目や評点で車を主体にした路線商業地域としては個人的に違和感を感じるものもある。いずれにせよ比準表が作られてかなり時間も経っているので見直しが必要であろう。
以下に郊外ロードサイドの主な地価形成要因を列挙するが、当該地価形成要因は、地価と元本と果実の関係になる賃貸借における賃料の査定要因にもなると思われる。
▼郊外ロードサイド地価形成要因
※上記は、各要因相互関係の多角的な視点からの検討の結果、要因作用がプラス、マイナス逆方向になるケースもある。
次回コラムは、「業種、業態ごとのロードサイド展開について」に言及。
■次回記事
郊外ロードサイドの地価研究2