区分所有中古マンション投資の新戦略
マンション投資全体で見ると日銀による量的緩和解除後のゼロ金利解除間近で金利上昇による不透明感が漂ってきた。一方、東京都心など人気エリアに限って言えば、新築マンション価格に先高感がでており、また最近になってマンションの投資面からみた環境整備が急速に進んできている。
- マンションの資産性を削いでいた建て替え問題もマンション建て替えの円滑化等に関する法律、改正区分所有法が施行され、漸く前進の兆しが見え始めた
- 民間調査機関による「マンション販売・賃料履歴の有料サービス」の開始
- 財団法人マンション管理センターの全国のマンションの修繕、長期修繕などの工事記録のネット公開
- マンション管理組合が修繕費などを信託銀行に預けて分別管理する「信託方式」を国土交通省が07年度にも導入予定で検討。同時に管理業者の資格要件も厳格にする
- (社)高層住宅管理業協会によりマンションの管理信託が検討されている。区分所有者とマンション管理会社が信託契約をし、マンション管理会社が信託受託権者になって一元的にマンションの保存、利用、改良行為を行うもの
通常、不動産投資で失敗しないためには、購入前の一連のデューデリジェンス(詳細調査)のプロセスが欠かせない。まず物件のマーケット調査で賃料・空室率変動を予測し、建物のER(エンジニアリングレポート)で、キャッシュフロー計算に影響を与える緊急・短期の修繕費や中長期で周期的支出となる大規模修繕計画などを把握する。さらに投資マンションの出口戦略として売却価格を予測しなければならない。
このプロセスは、「マーケット調査」=「販売・賃料履歴の有料サービス」、「ER」=「修繕費、大規模修繕計画・工事履歴のネット公開」、「出口」=「建て替え」とキーワード置換すると解りやすい。
いまマンション業界に起きている投資環境の変化は、従来までのマンション投資(区分所有投資)を取り巻くさまざまな常識のパラダイム転換を迫っているが、本コラムでマンション価格の中短期的な動向を予測し、マンションの投資環境変化にタイミングよく対応したマンション投資の新たな手法を模索してみる。
1、人気エリアに先高感も…
東京都心などの人気エリアで、いままでのマンションの時系列価格トレンドの常識が、変わろうとしている。バブル崩壊後、マンションの販売価格は広尾ガーデンヒルズのような極く少数の例外を除き新築にしろ中古にしても、年毎に下がっていくというのが常識であった。しかしここ数年の地価上昇と建築資材の高騰がこれから供給される新築マンションや流通市場の中古マンションの価格(人気エリアの優良物件の価格に限定してだが)を上昇方向に牽引しようとしている。
マンションの販売価格は、都心か郊外かで用地費、建設費の割合は変動するが、通常、利益10%、諸経費15%、建設費40%、用地費35%で構成されるといわれている。用地費と建設費で実に75%を占めるため、この部分の高騰はかなりの上昇圧力になる。
しかし、新築マンションが販売されるまで1~2年ほどかかるため、用地費などのUPが販売価格に転嫁されるにはタイムラグがある。つまりマンション業者が、用地を仕入れ、建築確認などを取り、近隣住民などとの調整を経て建築に着手するので、仕入れた土地の価格上昇分は、2年後ぐらいして販売される新築マンションの販売価格に反映される。そして今年に入って販売されているマンションの価格は、コスト上昇分が転嫁され、売り出し価格が上がり始めている。
02年ごろから一部の限定的エリアでジワリと地価が上がりだし、04年からより広範に本格的に高騰し始めた用地取得費は、人気エリアでは競争入札が増えているため、ますます過熱している。デベロッパーも専有面積を減らして販売総額を抑えるなどの努力をしているが、それも限度があり、やがて販売価格に織り込まざるを得なくなる。一方、マンションは、依然として供給過剰気味で競争が熾烈なため、コスト上昇を販売価格に転嫁できるマンションは、好立地の競争力が高い物件に限られる。
マンションの主力供給エリアにも変化が見られる。都心部のマンション用地の供給を支えてきた企業の遊休地放出は、すでに一巡し、マンション用地に向く土地の供給は徐々に細ってきており、05年は東京23区内のマンションの新規供給は減少し、湾岸戦争と呼ばれる都心の湾岸エリアから郊外に供給の中心が移動している。
神奈川県の06年1月の実績は882戸で前年同月比45%増、千葉県でも35%増の458戸に供給が増加している。都心回帰から一転して用地難や地価高騰で郊外拡散のドーナツ化現象が再び起きている。まさに時代は繰り返している。
人気エリアの新築価格が上昇すると同エリア内の中古マンションの価格にも上昇波動が及ぶ。需要が旺盛なエリアであれば新築マンションの販売価格が上がると先高感が出るため、新築の購入者の相当部分が中古へ流れるからだ。
区分所有マンション投資をする場合、いままでは年々のリターンに値下がり分のキャピタルロスを考えて、IRR(内部収益率)を計算して投資決定していた。解りやすくいうと元本であるマンション価格の下落分と年々のリターンを総合した利回りを勘案しつつ投資していたわけだ。
ここにきて短期保有での運用に限って言えば、キャピタルゲインも狙える物件もアリだ。とはいえワンルームやコンパクトマンションについて言えばファンドやリートが1棟買いを盛んにしており、供給過剰気味で空室も公表はされないがかなりのペースで増えているため、あくまでも人気エリアの優良物件(優良物件の定義は後述する)を選別できるシビアな鑑識眼が必要となる。
2、金利上昇の影響
用地取得費、建築費の高騰によるマンション価格上昇期待熱を冷却するのが金利上昇によるマイナス作用である。金利上昇は、マンションへの投資需要だけでなく購入者自らが居住する目的の実需も減少させる。
金利上昇局面で中古マンション投資はどうなるだろうか?早ければ今年の7月といわれているゼロ金利解除後の金利動向だが、当面は急上昇するというよりもじわじわと上がるという見方が大勢である。筆者の予測では、投資期待利回りと金利差が縮小するため、現行でも投資利回りが低い新築の投資向けワンルームマンションは、金利上昇局面では投資モデルが破綻するだろう。新築に比べると利回りが高い同タイプの投資向中古マンションも投資魅力が低下する。リターンの悪化だけではない、金利が上昇するとキャップレートも上昇するので、投資の出口でマンションの売却価格は下がる。
解りやすく言うと、100万円のネット収益が稼げるマンションで、3年後に売却するとした場合、いまのキャップレートが4%、借入金利が2%とする。借入金利が4%になり、リスクフリーの10年物国債の利回りも4%になると、その時点の購入者が、不動産投資のリスクプレミアムを2%乗せた6%でないと買えないと考え、キャップレートを2%上げることで、3年後の売却価格は2,500万円から1,670万円に33%下がることになる。
また金利が徐々に上昇していくと元利返済分の年収に対する比率が大きくなるため、ローン負担が過重となり、融資も下りず、マンション購入をあきらめる層も出てくる。このような層は、購入予算の限界点までエリアや物件の広さ、グレードを下げて妥協するか、購入を諦めて人気エリアでの賃借という選択肢になるので、賃借需要の増加に繋がる側面もある。このような要因が家賃の上昇を可能にすれば、金利上昇による利回り低下をセーブするが、レジデンシャル(住居系)の賃料上昇は、家賃と相関が高い勤労者の雇用と所得の今後の伸びに依存するので、今後の日本経済の動向次第となってくる。
中短期的な区分所有マンション投資の方向性だが、先にも書いたがワンルームやコンパクトマンションの市場は、供給過剰で今後、空室が大量に出てくる危険性がある。さらに不動産投資は、金利上昇でリターンや利回りへのマイナス影響が鮮明となり、投資向けだけで購入者自らが居住しないワンルームなどの投資向け物件の市況はより地合が悪くなるだろう。
先高感の享受も期待でき、人気エリアの実需(購入者が自ら居住する需要)も伴ったファミリーなどの中古マンションは、現状の利回は低いが賃借人居住期間は長期であり、市場全体でみるとまだ飽和感が薄いので投資リスクは低いと思われる。
3、投資環境の整備が進む
冒頭に書いたが、マンション投資の投資環境がかなり整備されてきている。以下で近年のマンションの建て替えの前進、民間調査機関による販売・賃料履歴の有料サービス、マンションの修繕、大規模修繕の工事記録のネット公開を順を追って紹介し、それぞれに応じたマンション投資の戦略に言及する。
(1) 前進した建て替え問題
マンション投資といえば、「建て替え問題」がマンションの資産性、投資の際の流動化の障壁として立ちはだかつていた。ここにきて政府もマンションストックが400万戸、約1,000万人が居住し、マンション居住者は人口の約1割に相当する現実と3大都市圏で築30年以上のマンションが11年には100万戸に達するという差し迫った状況を看過することができなくなったのかいくつかの施策を打ち出しており、まだ解決されるべき課題は多く残るが、法整備が進み、マンション建替えがかなり現実性を帯びてきた。
今回のコラムでは、いままで言及されることが殆どなかった区分所有マンション投資の出口戦略としてのマンション建替えに多角的な検討を加える。
これまでマンションの建て替えに関しては、法律面でみると、
- 民法の原則に基づく「全員合意」の建て替え
- 区分所有法62条による「建て替え決議による建て替え」
- 市街地再開発事業による「再開発による建て替え」
が並存していたが、建て替えが実現した事例は、殆どが全員合意でデベロッパー主導の任意建て替えである。
デベロッパーにより通常、数多く行われている等価交換によるマンション建替えの簡単な事業モデルは、下記のようになる。
▲等価交換によるマンション建替えの仕組み
等価交換によるマンション建て替えは、旧マンションの敷地利用権者が敷地である土地を提供し、デベロッパーが、建設費、その他の事業費用を出資して、敷地利用権者とデベロッパーがその出資分に応じて再建された新マンションの専有部分と敷地共有持分を配分し、取得するという方式である。
例えば、
- 建替えられるマンション(=施工マンション)の専有面積
7,000㎡
- 再建されるマンション(=施工再建マンション)の専有面積
10,000㎡
- 事業費(調査設計費、事業計画・権利変換計画作成費、現状建物除却・整地費、建築関係費、事務経費、借入金利子など)
2億円
- 施工マンションの更地価格(建物取り壊し費を控除後のもの)
2億5千万円
とすると、
●区分所有者の取得する専有面積
10,000×2億5千万円/(2億円+2億5千万円)=5,500㎡
となる。
建替え後マンションの専有面積のうち旧マンションの敷地利用権者が取得できる専有面積の建替え前マンションの専有面積に対する比率を平均還元率という。
平均還元率=(施工再建マンションに取得する区分所有者の専有面積)÷(施工マンション専有面積)=5,500/7,000=79%
となるので建替え前マンションにある区分所有者が50㎡の専有部分を持っていたとすると、
50㎡×79%=40㎡
40㎡を超えて専有部分を取得するには負担金が発生することになる。
●デベロッパーに配分される専有面積
10,000×2億円/(2億円+2億5千万円)=4,500㎡
デベロッパーが取得する専有面積部分を余剰床といい、デベロッパーは、余剰床を一般に販売して事業費を回収する。
従来はデベロッパー主体で等価交換方式によるマンション建替えが行われていたが、マンション建替え円滑法や区分所有法の改正で法整備が進み、建替え問題はさらに進展することになった。
02年12月に「マンションの建て替えの円滑化等に関する法律」、03年6月に「改正区分所有法」が施行され、「区分所有権および議決権の各5分の4以上の集会による多数決のみで建替え決議が成立する」ようになった。
従来、「建て替えを必要とするレベルの老朽化か?修繕に過分の費用がかかるのか?」と建て替え不賛成者が、「建て替えの無効」を訴訟で争うことが多かった老朽要件や費用の過分性要件が撤廃され、多数決だけで機動的に建て替えが選択できるように整理したことは、マンション投資の流動化を促進する一歩となった。
また建て替え決議後、入居者でつくる「マンション建て替え組合」に法人格が与えられ、組合として建築業者などと一括契約ができるようになり、組合は都市再開発法に似た「権利変換」という手法で、取り壊し中に住民の所有権や抵当権を保全し、新しいマンションに移行できるようにしたので入居者が建て替え時にローンを返済しなければならないような事態が避けられるようになった。さらに「売渡請求制度」を設けて建て替えの不賛成者(非参加者)に建物区分所有権ならびに敷地利用権を「時価」で売り渡すように請求できるようになった。
マンション投資において投資家は、建て替えへの参画をせず売渡請求を受ける方を選択する場合もあるので、売渡請求額を投資の出口として想定する必要があるが、当該請求額の決定方式については後述する。
デベロッパーが事業主体の従来の等価交換方式とマンション建替え組合を主体とする権利変換方式の違いをまとめたものが下表である。
▼従前の等価交換と権利変換方式の違い
デベロッパーがマンション権利者全員の同意を得て建替え事業の事業主体となる「個人施行」は、事業実行に厳格な要件を必要としないので事業期間短縮などメリットがあるものの、今後は円滑化法に基づき権利者が設立する「マンション建替組合」が事業主体となる組合施行の「法定建て替え」が増加すると予測されている。
「法定建て替え」においてもデベロッパーが参加組合員として参画してマンション所有者間の利害の調整や、事業リスクを負担するやり方が建替え事業の円滑な実施に不可欠であるため、実質的にはデベロッパーの事業サポートが一般的になると思われる。
デベロッパーが参画する条件として分譲マンション事業の採算点である粗利20%以上を確保し、確実に保留床分を売り切って事業費を回収できる見通しがあることが必要とされる。しかし建て替えを希望するマンションの8~9割は、事業採算面からデベロッパー不在といわれている。
(2)投資の出口戦略としてのマンション建て替え
マンション投資の観点から建て替えを考えてみる(いわゆる団地型マンションは区分所有投資の対象となるケースは少ないため当該建て替えについては考慮しない)。
所有者が自住する分譲マンションの場合は、更地化→建て替え→等価交換・権利変換で従前の住戸に代わる住戸を取得というシナリオが一般的であるのに比べ、全棟が投資用に企画され分譲されたワンルームやコンパクトマンションについては、購入者はあくまでも投資目的で自らは居住しないケースが多いため、更地化を実現後に再建マンションを建築する建て替えよりも更地のまま売却したり、定期借地権をデベロッパーに設定させて一時金や地代で投資資金を回収するという選択も考えられる。
築浅物件で投資家が当該マンションを短期での運用・売却目的で購入していれば、投資の出口としての建て替えや更地化後の売却価格への関心は薄く、築後30年ぐらい経過した老朽物件になってくると、建て替えの実現性、コスト、建て替え後に等価交換等で取得できる住戸のグレード、専有面積とその市場価値や精算金への関心が急速に高まってくるというのがこれまでの実情であった。
マンション建替え円滑化法や区分所有法改正で法整備は進んだものの法定建て替えで建て替えを実現できた事例は、いまのところ全国で僅かであり、現時点で建て替えの道筋が不透明であることに変わりがない。
今後、マンション建て替えへの法整備、融資、補助金等の充実と相俟って建て替え事例が増えてくると、築浅、築深にかかわらず、当該マンションの建て替えの実現性の程度、更地化実現後のシナリオ、その費用対効果など様々なシミュレーションを行って投資価値を決定する度合いが高まるだろう。つまり今後のマンション投資は、建て替えのリアリティが増すごとに建て替えを含めたシナリオ、その実現性の程度、建て替えることによる投資効果の予測抜きで考えられなくなると思われる。
■「建替え想定投資」のチェック項目
▼購入時のチェック項目
容積率に余裕があり、建て替え時の土地価格が高ければ建て替えの可能性は高くなる。容積に余裕があれば既存マンション(施工マンション)から等価交換により取得する施工再建マンションの住戸の専有面積は増加するし、さらに容積の余裕分をデベロッパーが余剰床として実現し、余剰床を販売して建て替え参加者が負担する建築費などの事業費に充当することができる。また土地価格が高いと権利変換率(建て替え後に権利変換で取得できる専有面積の割合)や余剰床の販売価額は上昇し、事業採算性が向上する。
しかし、現実問題として既存建物(施工マンション)がすでに消化している容積率を現行法の容積率が上回るケースは少ない。特に投資用のマンションの場合、収益採算性を高めるために容積率の限度いっぱいに建てていることが多いため、なかには現行の容積率より建っているマンションの容積率が上回る既存不適格のケースも見られる。その結果、建て替え後は、既存マンションを下回る専有面積となり、建築費の負担が過大にになると建て替えへの合意形成は暗礁に乗り上げる。
●余剰容積率がない、既存不適格などの解決策
余剰容積率が少ない、あるいは既存不適格の解決策だが、敷地の規模が一定規模以上あれば公開空地を提供することで総合設計制度という容積率割り増しのボーナスを受けることが可能なケースがある。総合設計制度は、一定規模以上の敷地で当該敷地内に歩行者が日常自由に通行又は利用できる空地(公開空地)を設けるなどにより、市街地の環境の整備改善に貢献すると認められる場合に、特定行政庁が許可して容積率制限や斜線制限、絶対高さ制限を緩和させる制度である。
また隣地を併合して建て替えマンションの敷地とし、床面積、専有面積のボリュームを向上させる手法もある。管理組合が隣地を買収または隣地所有者がマンション建て替え事業に参画することで隣地が併合され、容積率計算の敷地面積が増えて床面積、専有面積の増加に自動的に寄与するだけでなく、併合により敷地の方位や形状が変化することで隣地斜線や日影規制が緩和されなどの事業メリットも生まれ、高層化が可能になるケースがある。
いずれにせよ土地を集約化することで付加価値が生まれるので、管理組合によってはこまめに隣地を買って駐車場などに使い、建て替え時に備えているケースもあると聞く。老朽マンション建て替えの参画を狙うデベロッパーによっては、当該隣接地を保有、買収などして事業メリットを高める戦略を取るものと思われる。
■出口として「建て替え」を想定した投資計算
老朽マンションにおいて建替え決議が決定され、方向性が明確になると、当該マンションの区分所有権、敷地利用権の価格は上昇するケースが多い。例えば、同潤会江戸川アパートメントの建替えの模様を記録した太田知行、村辻義信、田村誠邦共著「マンション建替えの法と実務」では、「江戸川アパートの場合は、平均還元率は53%にとどまったが、それでも、ある区分所有者が建替え決議成立の数年前に取得した住戸(敷地利用権付)の取得価格(中古マンションとしての売買価格)に比べて、建替え決議成立後のデベロッパーによるその住戸の価額が5~6倍になった」と記している。
とはいえ老朽マンションで建替え要件を備える案件は極めて少ない。その最大のネックは、余剰容積であり、土地価格水準とマンション需要の多寡であることはすでに書いた。これらの障壁を乗り越えて建て替えの可能性が高いと投資家が判断した場合は、綿密な投資適格性や投資効果の検証を行うことになる。
建て替え(または更地売却等)を区分所有マンション投資の出口と考えると、3つの選択肢がある。
- 建て替えに不賛成で売渡請求を建替え組合から受ける、もしくは当該組合に買取請求をする。または建て替え決議には賛成だが、その後、資力その他の理由で交換される住戸を取得しないで転出し、金銭給付を希望するなど
- マンションの管理組合が建て替えを行わず、更地化後に更地のまま売却することを決定し、当該投資家もその決定に従う
- 建て替え決議に賛同し、権利変換で建替え後のマンションの専有部分を取得する
以下で上記それぞれの選択に応じた投資計算を行う。
①売渡請求権行使等のケース
投資家が建て替え決議に賛成しないという選択をするとマンション建て替え組合に買取請求する、もしくは組合から売渡請求を受けることになるので、この際、給付を受ける対価が、投資の出口での売却額に相当するものとなる。売渡請求権の行使時の時価は、下記の式で求められるとされてる。
「再建建物の区分所有権、敷地利用権総額」-「再建建物の建築費+(デベロッパーの利潤+販売経費+借入金利+危険負担率)等」-「従前建物の取り壊し費用」
上記の式は、
「再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価額」-「現存建物の取り壊し費用」
の計算式と理論的に一致する。
▲設例1
諸条件を検討した結果、建替えの可能性が高いマンションをオーナーチェンジで購入するとして、購入後、建替えに参加せず、投資対象予定の専有部分A室の売渡請求を行使されたり、権利変換による住戸取得でなく金銭給付を希望したケースを想定し、いくらで当該物件を買えばリターンと出口でのキャピタルゲインを考量した期待投資利回り(IRR)を達成可能な購入額になるかをDCF法で求める。
まず売渡請求権行使時の時価を求める。
売渡請求権行使時の時価総額=(建替え前マンション敷地の更地価額)-(建物取り壊し費用)=50億円-2億7千万円=47億3千万円
投資対象専有部分(A室)への配分額=47億3千万円×50/10000(敷地持分権)≒23,700,000円
※対象専有部分への配分率は専有部分の床面積比、地価配分率、階層別効用比率、分譲当時の販売価格比などを用いる。
次にA室の適正な購入価額を求める。
月に賃貸ネット収益で8万円、年96万円とし、5年保有後に建て替え決議に参加せずで売渡請求権行使時の時価を受け取ると想定する。なお割引率は建て替え決議への合意形成の不確定性リスクや売渡請求額をめぐり訴訟になるリスクなどを考慮し10%とする。
この投資マンションは、収益価格V=18,355,000円で購入すれば、リターンとキャピタルゲインを均した平均投資利回り10%(=割引率10%)を達成できる購入価額といえる。
※2の管理組合決定が「更地のまま売却」のケースは、売渡請求権行使時の時価=「敷地の更地価額」-「現存建物の取り壊し費用」式となり、この式は①と概ね一致するので算定省略。
②建て替え決議に賛同し、権利変換で施工再建マンションの専有部分を取得するケース
▲設例2
建替後のマンションに等価交換、権利変換で住戸を取得することを出口とする投資を想定し、いくらで買えば投資目的を達成できるかをDCF法で求めてみる。
現存建物の権利変換後、取壊し前に賃貸借契約を合意解約。6年、7年の2年間は再建マンション建設工事中で収益がないものとする(なお、当該マンションに所有者自らが居住し、建て替え後も居住を継続する場合、建て替え工事期間中は、仮住居の往復の引越し代並びに家賃が必要だが、投資目的で、賃借人との間で賃貸借契約が合意解約された場合を想定しているので仮住居関連のコストは発生しないとする)。
8年目に権利変換で竣工した再建マンションの専有部分を精算金なしで取得。年ネット収益165万円で新規に賃貸し、10年目で2,550万円で取得部分を売却すると想定して、期待せる平均投資利回り(IRR)を達成できる購入価額を算定。
割引率は建て替え決議の合意形成の不確定リスクなどを考慮し10%とする。
この投資は、収益価格V=15,600,000円で購入すれば適正値となる。
■建て替えが困難な場合の投資リスク
建替え決議前に諸条件を検討して建替えの可能性が高いと予測して購入したものの投資家の期待に反し、既存マンションの建て替えや更地化処分が長期化したり、困難化するリスクがあることの注意が必要である。法整備が進んだとはいえ現行の建替え円滑化法には下記のような課題がある。
- 借家権の権利変換に借家人の同意を必要とし、賃貸人と借家人間で賃貸借契約が合意解約されない場合は、訴訟となり時間がかかる
- 建替え非賛成者への売渡請求権の行使も時価等で合意ができないと訴訟となる
- 既存マンションの取り壊しは、借家人や建替えの不参加者などの任意の明け渡しが完了しないとできないが、協力が得られないと訴訟になる
- 参加組合員のデベロッパーが倒産した場合、事業全体が暗礁に乗り上げ、権利変換が複雑化する
建替え事業が長期化すると投資目的のケースでは、その間は賃貸ができないため、投資採算性が悪化する。また長期化することで土地価格下落のリスクも高まる。さらに建替えが困難となった場合、当該マンションのスラム化が進み、当該マンションの居住者が激減するので維持管理が放置に近い状態になり、残ったマンション住民は生活不安を増幅させる。その結果、賃料は急激に低下し、売却しようにも買い手がなくなる。建替えの見通しが甘いとハイリスク投資になる可能性が高いことは心すべきであろう。
不動産投資には、物件のデューデリジェンス(詳細調査)が欠かせないのだが、中古マンション投資においても調査環境の整備が急速に進んでいる。デューデリジェンスの重要な構成部分である市場調査とエンジニアリングレポートについて触れる。
(1)デューデリジェンス
■市場調査
賃貸収入を目的とするマンション投資を効果的に行うには、市場調査が欠かせない。市場調査の内容としては投資マンションの周辺エリアの地域特性、当該マンションおよび周辺競合マンションの賃料水準と賃料履歴、空室率推移、現時点での売り出し・成約価格ならびに価格履歴などである。これらは当該マンションの賃貸需要の大きさを決定し、安定した収益を継続するための重要なファクターであるからだ。
地域特性として駅、スーパー、コンビ二、学校などのターゲット層に応じた利便施設の分布密度、距離や都市計画、都市整備の将来動向、エリア内の居住者の人口・世帯数動向、年齢別人口構成比、職業別、収入別構成比などを調査すると、投資エリアの特性が浮き彫りになり将来にわたる地域の盛衰がある程度まで予測できる。
不動産価格に直結した動向を予測するには、エリア内の地価公示価格や地価調査基準地価格、不動産流通市場の売価格、成約価格の動向を時系列で調査すると過去トレンドや現時点での相場価格が判明し、将来の不動産価格動向に多くの示唆を与えてくれる。
中古マンションの価格は、敷地利用権価格と区分所有建物の価格で構成されており、土地価格に加え、建物部分がRCやSRCなので価格構成比が大きく建物のグレード差に大きく左右される。他の中古マンション取引事例から対象マンション価格を求めるには、事例マンションの現地の建物の品等差が解らなければ正確な比較ができない。
つまり中古マンション価格を机上のデータで見当をつけるには、検討物件と同一建物である対象マンション内の成約、売価格などのデータから求めるのが的確な数値を把握できるということになる。
最近になってインターネットを利用した中古マンション投資をめぐる市場調査の強力なデータベース提供サービスが民間調査機関や業者向け物件データベース提供会社から相次いで出されている。
■民間調査機関による販売・賃料履歴の有料サービス
東京カンテイによる「マンション価格情報サービス」は、日本全国に存在する100,000棟を超えるマンションから発生している約500万件の売り希望価格と賃料事例のデータベースを構築しており、有料でこれらの価格履歴や賃料履歴をネット上で簡単に入手できる。指定物件だけでなく周辺マンションの価格や賃料の過去履歴も見ることができるようになっている。
例えば、購入を検討しているAマンションの価格と賃貸に出した場合の相場賃料、もしくはオーナーチェンジで現行賃料が妥当かなどを当該マンションの販売履歴や賃料履歴で調べ、併せて周辺のマンションの価格、賃料を価格情報サービスで取得することができる。
数年間にわたる価格や賃料の時系列データを取得することで、下落か横這いか上昇しているかがわかるため、DCF法で収益価格やIRRを計算するときの賃料変動、出口での売却予測に有益なトラックレコードになる。また価格、賃料データから利回りが自動的に判明するので利回りの検証にもなる。
不動産業者向け物件データベース提供会社もウェブ上でほぼ同様なサービスラインを提供している。販売当時のマンション分譲のパンフレットをPDFファイル化して閲覧できるようにしているため、間取り図や設備をはじめ戸別の価格表などもデータとしてストックされている。
例えば、同一マンションでも階層や各階における住戸の位置で価格は序列化されているが、当該住戸の販売時の価格が条件が異なる他の住戸との比較でどのように推移したかを時系列で追跡すると当該マンション内での人気階や各階での人気位置を測ることが可能になる。価格だけでなく賃料履歴もデータベース化されているので賃料面からも同様の分析が可能だ。
■賃貸住宅の空室率調査
オフィスビルの空室については、オフィス仲介会社が全国的規模で空室率データを公表しており、オフィスの市況がかなりの程度まで読めるようなデータ整備がされている。賃貸マンションなど賃貸住宅に関しては、検証に耐えうるだけのデータ量での物件の属性別の空室率データがまだ存在していない。例えばエリア、築年、駅距離などの属性別の空室率データがあると将来のキャッシュフロー変動を予測するのに極めて有益なのだが…。
賃料や価格についてはネットの登録物件や賃貸情報誌などである程度まで水準やトレンドを把握できるが、空室率データは現地で調査するか、管理会社などに問い合わせるしか調べる方法がないため、住居系不動産投資のネックとされている。
このほど不動産マーケティングのアトラクターズ・ラボは、東京都心部の賃貸マンションデータベースを整備・作成し、物件別空室率をエリアで集計して賃貸マンション空室率を算出した。都心部を中心に4,000棟の賃貸マンションの空室状況を毎月把握するもので、賃料帯で上位の2割程度を捕捉しているという。
賃貸住宅の空室率データは、未整備な領域であるため、今後、住居系のリートやファンドなどの拡大でこの方面のデータ整備が全国的規模で進むことが待たれる。
■ER(エンジニアリングレポート)
不動産投資において予測されたキャッシュフローがぶれるのは、市場調査に基づく賃料や空室率の予想外の変動もさることながら、投資実務で指摘されることが多いのは、修繕費や周期的な大規模修繕費の見通しの甘さだといわれている。
またマンション投資でいうと投資の出口としてマンションの建替えが、近年の法整備の進行で現実味を帯びてきているが、建替えが事業的に可能かを決定するのは既存不適格など容積率オーバーの有無等であり、現状建物の遵法性調査が必要とされる。
リートや不動産ファンドは、購入前にゼネコンやコンサルタント会社からER(エンジニアリングレポート)と呼ばれる建物調査書を取り、投資不動産に内在するリスクを洗いだす。ERは、建物劣化状況診断調査、短期・長期の修繕計画の策定、建築基準法の遵法性調査、耐震性能評価、PML評価、建物有害物質含有調査、土地環境調査などからなり、専門家が調査し作成する。姉歯建築士による構造計算書偽造事件が発覚してから、建築基準法の遵法性調査や耐震性能評価、PML評価が特に注目を集めるようになった。
ERを調査専門機関に作成依頼すると最短でも2週間、簡易調査バージョンでも費用が数十万円はかかる。個人投資家の投資範疇で、1棟マンションの一部に過ぎない区分所有中古マンション投資ではとてもでないがERを依頼するなど現実的でない。そこで投資家がやれる範囲で建物調査をすることになる。個人投資家にとってなんとも荷が重い調査だが、最近、建物のハード面の維持管理や性能情報に関する電子データの蓄積や情報公開が進んできている。
財団法人マンション管理センターによる全国のマンションの修繕、大規模修繕の工事記録のネット公開と構造計算書偽造事件を契機に進行している構造性能に関する情報整備について以下に言及する。
■マンションの修繕、大規模修繕の工事記録のネット公開
中古マンションを購入するとき管理がマンションの資産価値を決定するといわれるほど重要なファクターであるにもかかわらず管理状況が外部から見えにくく他と比較検討するのが難しかったが、ここにきてマンション管理情報公開の道が開けてきた。
財団法人マンション管理センターは、マンションの修繕記録などをコンピュータに登録し、インターネットを通じて管理組合や一般にも公開するシステム「マンションみらいネット」を今年の7月から稼動させる。みらいネットに登録を希望する管理組合は、
- マンション概要
- 長期修繕計画の内容
- 修繕積立金の状況
- 過去の修繕記録・今後の予定
を専用シートに記入して登録申請すると、同センターが現地確認の上でデータベースに登録する。管理組合は専用サイトで随時閲覧でき、情報の一部はネット公開する。修繕については屋根防水、外壁、給水設備など工事項目ごとに工事内容、金額などを記録し、工事契約書を電子化して管理できるようになっている。
当該マンションの購入を検討している投資家は、修繕の過去履歴や今後の予定さらには長期修繕計画などを閲覧することで、管理組合の管理や修繕への取り組み姿勢がチェックできるし、さらにそれらの費用を検証し、各年のキャッシュフロー計算に反映させることができるため、マンション投資のリスク軽減に寄与するが、管理組合の登録は有料で任意であるため、当面は限られたマンションでの運用になるだろう。
■構造計算書偽造事件以後の動向
姉歯事件による激震は、マンション業界を震撼させた。建築確認が下りた新耐震基準のマンションが突然、資産価値ゼロ、マンション入居者のみならず周辺住民をも脅かす殺人マンションに暗転するショックは、不動産投資において建物の構造の重要性をあらためて認識させることになった。
元日経アーキテクチュア編集長の細野透氏は、「00年の建築基準法施行令改正による性能設計法の導入で限界耐力計算などピンポイント設計が可能になり、経済設計という名の耐震強度を下方調整する道をつけてしまった」と語っている。
阪神大震災に続く05年福岡県西方沖地震でも非構造壁の損傷で建物取り壊しに至った事例があり、現行の耐震基準の弱点を露呈してしまった。構造計算書偽造事件を契機に建築基準法、建築士法及び住宅の品質確保の促進等に関する法律、構造計算書の電子認証システムなどを中心とする建築物の安全性確保のための制度について総点検が行われ、設計事務所や施工業者に関するデータベースを処分歴も含めて情報公開する方向に進んでいる。
現行の住宅性能保証制度に基づく瑕疵担保責任は、今回の偽造問題でマンションを販売した企業が倒産などで賠償能力が事実上消滅し、形骸化するリスクを露呈した。国土交通省は6月30日の「住宅瑕疵担保責任研究会」で、住宅の瑕疵担保責任履行の実効確保に向けた制度の創設に向け損保も包含した新制度のイメージを提示した。新制度は、保険機能を活用したもので、現行の住宅性能保証制度をベースに、保証機関が、保険引受を行う場合と保険引受を行わない場合を想定。最終的には損害保険会社が共同引受を行い、さらに再保険プールを設置。また、再保険からの支払い限度額を超える場合は、政府による対応も検討することになった。
以上のようにマンション建設での構造欠陥被害の予防や救済へ向けての法整備が進んでいる。このような現行法制度等の改善の動きは、日本特有のゼネコンによる多階層の建築生産システムと相俟って個人投資家にとってブラックボックス化していたマンションの構造面の品質を向上させ、新築等のマンションの欠陥リスクを軽減させるものと期待できる。
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