高圧線下地の評価 後編
A、公共団体による線下地の減価率
■公共用地の取得に伴う損失補償基準細則
用地対策連絡協議会は、「特別高圧架空電線路の直下にあり、またはこれに近接しているときは、そのために価値の減少した分を次により減価する」として減価率を定めている。
- 大都市における商業地域等において当該電線路のために建築制限を受けているときは、50%を標準として土地の利用状況、制限の内容その他の事情に応じて減価する
- 1以外の場合には、建築の制限の有無及びその内容、土地の利用状況その他の事情に応じて減価する。ただし当該電線路により土地の利用が妨げられないと認められるときには、減価しない
■東京都の高圧線下地評価の運用基準
東京都は、収用委員会裁決例、各起業者の評価基準、補償事例との均衡を図り、かつ下記事項に留意の上、減価率を以下のように定めている。
●宅地
建造物の築造可能な170,000V未満の線下地と、築造不能な170,000V以上の線下地では土地利用阻害にかなりの差があるので減価率に差を設けた。市街化区域内農地、林地は宅地見込地とみなし、宅地と同じ減価率を適用する。
●農地、林地(市街化調整区域内)
林地は立木の植栽制限を受けるが、農地はこのような制限を受けることは考えられないため、土地の利用現況で見れば農地の利用阻害は林地より小さいが、将来の土地利用を含めて考えた場合、一般に農地は林地に比し集落の接近性に優り、地勢も平坦地が多く、土地利用の多様性を有し、宅地化も容易であるため、以上の諸点から林地の減価率を農地の減価率より小さいものとした。
山岸豊成著 高圧線下地評価の運用基準について(月刊用地)より引用
■東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領による取り扱い
土地評価理論研究会著 特殊な画地と鑑定評価より引用
■収用委員会の裁決例
土地収用法は、電力会社が送電線を整備する場合に、その施設の公共性が高いことから収用適格を認めている。高圧線下地に対する都道府県収用委員会の裁決例でみると、高圧線が土地の上空を使用することによる土地の阻害率は土地価格に対して15~35%のものが全体の70~80%を占めている。阻害率判断の根拠として、高圧線の使用電圧と建造物築造の可能性、土地の種別と用途的地域、市街化区域・調整区域の別、近隣地域の現況と将来の転換、移行の見通しなどとなっている。
B、鑑定評価による減価率
国土交通省「土地価格比準表」で、高圧線下地について「高圧線下地を含む画地の場合は、その高圧線の電圧の種別、線下地部分の面積及び画地に占める位置等を考慮し、適正に定めた率をもって補正するものとする」と定めている。
要は、不動産鑑定評価で減価率を査定するときは、対象案件の高圧線による諸減価要因を当該地の個別的な状況との対比で総合的に勘案し、画一的にならないようにしなければならないということであるが、このなかで「線下地部分の面積及び画地に占める位置等」という視点は、公共団体による減価率の運用内容に比べ特徴的といえる。
例えば、線下敷地と当該全体画地の面積でみると大規模画地、例えば、宅地見込地で面積が大きければ、線下地を公園や道路、緑地など所謂、潰地部分に配置することが可能であり、全体地でみると利用阻害の程度は小さくなる。またマンション敷地で考えた場合、当該画地の面積が大きければ、画地形状にもよるが、線下地を駐車場等にすることで利用阻害を低下させることが可能である。線下地部分は、容積率算定の敷地面積に算入されるため、マンションの床面積のボリューム確保に寄与することにもなる。
反面、面積が小さい小規模画地の上空を高圧線が通過する場合、特に人間が居住し生活する「場」である住宅地は、阻害程度が大きくなる。大規模画地などに比べ、線下部分を居住空間以外の使用域に配置することが、狭い土地範囲では物理的に困難であるためだ。
住宅地のなかでも高度利用が一般的なマンション地域は、空間利用阻害で物理的減価が大きい。環境評点のウエイトが高い高級、中級住宅地は、空間的には低層階利用が地域で標準的であっても、高圧線による物理的減価以外の要因である景観障害や心理的嫌悪感等がより大きく作用し、市場性減価を増加させると考えられる。
次に送電線の対象地に占める位置であるが、画地の中央部分を通過するか隣地との境界付近の画地の端部を通過するか、さらに送電線線下地が生じることにより、当該画地が分断され、線下地を除く残地が発生するが、その残地の形状により、利用阻害率は高低する。一般に画地の中央部を送電線が使用し、その結果、発生した残地の形状が不整形や面積過小となり、利用効率が低下するとき高圧送電線による阻害率は最大化すると考えられる。
高圧送電線下地の減価の要因としては、使用電圧との関係による建築不可や離隔距離保持などによる立体空間的な建築制限の程度を、対象地の最有効使用建物の階層の阻害程度で測定する物理的な面での減価に加え、心理的嫌悪感や景観障害、危険感、健康被害への懸念というメンタルな非定量的減価に及んでおり、特に近年、送電線下地や鉄塔の付近は、電磁波による健康被害が注目されている。現時点では、その因果関係が証明されてないため、市場性減価に当該要因が潜在し、減価額の査定は、より複雑化しているのが特徴的である。
今後、高圧線下地の取引事例が蓄積され、取引価格と定量的、非定量的減価要因を属性データとするデータベースが整備され、取引価格を被説明変数、定量・非定量データを説明変数とする線形式がヘドニック分析等で導かれるようになると、減価要因ごとに個々バラバラの感がある減価率査定の基準等が統合、止揚され、この分野の鑑定評価の精度が高まると期待される。
■前回記事
高圧線下地の評価 前編