平成18年地価公示価格 / 福岡都市圏の地価はどう動いたか

1、全国的動向

国土交通省が発表した06年1月1日の公示地価は東京、大阪、名古屋の三大都市圏の商業地が15年ぶりで上昇した。三大都市圏では、東京都区部、大阪市、京都市及び名古屋市といった各圏域の中心都市の都心部においては、ほぼすべての地点が上昇又は横ばいとなった。その中には、利便性・収益性の高さを反映してより高い上昇率を示す地点も見られるが、それ以外の大半の地点はわずかな上昇又は横ばいとなっており、過去の地価水準と比較すると、住宅地は1991年のピークから約47%下落し、おおむね昭和50年代半ば、商業地は約70%下落で、おおむね昭和49年以前の水準としている。

大都市圏の地価を上昇させている主な要因は、企業の景気回復による業績好転と相俟ってオフィス賃料が上昇に転じるなど商業地の収益価格を巡る環境好転、低金利を背景としたJ-REIT、不動産ファンドなど潤沢な投資マネーによる旺盛な物件取得、ならびに都心回帰に象徴されるマンション市場の拡大にある。しかし全国平均で見ると、マイナス2.8%と住宅地、商業地とも下落幅は縮小しているものの、地価は引き続き15年連続で下落しており、大都市と地方都市の格差が鮮明になってきている。また、郊外においては、都心部に近接した地域及び都心部からの交通利便性が高いまたは向上した地域を中心に上昇している地点も現れた。地方圏では、中核都市とその他の人口流出が続く地方都市間の格差が鮮明になってきている。広島、札幌、仙台、福岡などで上昇地点が相次ぎ現れ、又は増加しているが、それ以外の地域では、ほぼすべての地点が、下落幅は縮小しているものの依然として下落している。

2、福岡都市圏動向

福岡県内の今回の公示価格は、住宅地マイナス4.2%、商業地はマイナス5.7%と14年連続で下落したものの、2年連続で下落幅が縮小した。福岡市中央区、博多区の商業地が15年ぶりに上昇に転じ、住宅地で中央区が15年ぶりに上昇に転じたが、九州圏内で商業地が熊本、住宅地は熊本、宮崎、鹿児島が下落幅が拡大しているのと対照的な動きとなっている。昨年3月、震度6を記録した福岡西方沖地震による地価への影響が懸念されたが、今回の地価公示価格ではその懸念が払拭されたかたちとなった。

■住宅地

中央区全体で0.9%上昇。特に福岡市内を代表する高級住宅地大濠1丁目で5%上昇した。中央区の住宅地の地価上昇の背景として市内中心部である中央区を中心に分譲マンション市場が堅調に推移している点があげられる。市内のマンション適地は公有、私有を問わず入札が実施される案件が多く、最近は、10~20社の応札も珍しくなくなっている。さらに不動産ファンドによる賃貸マンションの購入が活発で、物件難から市場全体に枯渇感が広がっており、地価上昇をもたらしている。市内の地下鉄、西鉄大牟田線沿線の駅近収益物件は、地元不動産会社が新規に開発し、不動産ファンドが購入するというパターンも増えており、用地取得価格が高騰しているため、総じて利回りが低下しているが、依然、低金利を背景とした投資マネーの流入が続いている状況だ。

05年2月開業の地下鉄七隈線沿線の城南区、もともと住宅地の人気エリアである早良区で上昇地点が7~8年ぶりに出た。七隈線の駅近くにある城南区松山2丁目が1.5%上昇。早良区の西新7丁目、同3丁目、城西1丁目、高取2丁目など6地点が上昇した。反面、前原市篠原東3丁目でマイナス8.7%、南区柏原3丁目マイナス8.5%、筑紫野市紫2丁目マイナス8%それぞれ下落しており、福岡市周辺都市や福岡市内でも郊外の利便性が劣る住宅地の下落は依然、地価下落が継続している。市内中心部のマンション購入者の増加など都心回帰を反映して福岡市中心部の住宅地と周辺市町の住宅地間の格差が鮮明になってきており、さらにそれらの周辺市町内でも利便性や住宅環境などの品等により需要が明確に峻別されてきている。

■商業地

★商業地価格06年上昇率上位10地点

●博多区

今回の公示価格の動向で特徴的なのは、天神を中心とする大名、今泉といった中央区エリアから博多駅周辺へ不動産ファンドの物件取得が拡大しており、博多駅近辺の商業地の価格が15年ぶりに上昇したことだ。中央区の天神エリアに比べ、博多駅周辺は商業集積が劣り、オフィスビルを中心とするビジネス街といった特性が強く、オフィスビルの空室率の改善が天神地区に比べ遅かったので前年までは、地価下落基調が続いていた。

博多駅周辺への不動産ファンドの資金流入が05年頃から始まり、その影響などで地価が下落基調から一転して上昇に転じた。その背景としては、天神エリアでの投資適格物件の枯渇が挙げられるが、2011年春の九州新幹線の全線開通とJR九州による博多駅の新駅ビル(延床面積約20万㎡)の開業による駅を含めた駅周辺の再開発が注目されている。

核テナントの売り場面積は4万㎡程度が想定されているが天神で最大の岩田屋の4万8千5百㎡に匹敵する規模となる。さらにJR九州自社グループの専門商店街を最大規模で導入し、物販、映画館等からなる複合型商業施設を展開する構想もあり、新駅ビルは文字通り九州の玄関口として九州新幹線全線開通時には九州全域から集客することになる。

このような動向を反映して公示価格は博多駅前2丁目のチサンホテル博多が前年のマイナス9%下落から、一転して3.6%上昇した(下のグラフ)。博多駅前3丁目3.4%、博多駅東1丁目2.4%、博多駅南1丁目2.7%といずれも博多駅近辺の公示価格が上昇した。

また博多区内の奈良屋町、店屋町、中呉服町など表通り背後の所謂、裏通り商業地においても、高容積率の割には地価の値ごろ感があり、近年、分譲マンションや賃貸マンションの建設が盛んに行われているため、前年までの下落から一転して横ばいないし若干の微増に転じた。

●中央区

中央区ではなんといっても九州圏内で一人勝ちの様相を呈している高度商業地「天神エリア」の地価上昇が目覚しい。公示価格で天神2丁目のDADAビルが17.6%(下のグラフ)、天神1丁目の天神コアビルが14.2%と2桁に上昇幅を拡大した。

九州圏内はもとより、全国的に見ても高い地価上昇を遂げている背景としては、天神地区の商業集積の膨張と集客システムの高度化が指摘されている。福岡市の都心部と南西部を結ぶ新しい市営地下鉄「七隈線」が、05年2月3日に開業。同2日には天神地下街の延伸部分も開業し、新テナント53を含み全151テナントを擁する一大ショッピングストリートが出現した。また北天神の起爆剤として、05年10月29日にマツヤレディスが「ミーナ天神」に生まれ変わってオープンした。

さらに新生岩田屋の開業で一躍、人の流れが急増した「きらめき通り」交差点の一角で東京建物が本年9月オープン予定で、大型商業開発プロジェクトを進めている。04年4月オープンした「岩田屋本館・新館」に続く「きらめき通り交差点」における最後の大型商業開発(地下3階地上8階建、延床面積約11,000㎡)となり、平成18年9月のグランドオープンを予定している。フロア構成は、地階から地上中層階まではレディス&ユニセックスファッション、中高層階はサービス+物販のライフスタイル型ショップ、最上階・7階は、屋上テラスの緑と一体となったオープンテラスダイニングレストランとする予定。天神地区において歩行者が最も多いエリアという利点を活かし、「毎日来れる」「来たら必ず寄れる」<私の特別な場所>としての商業施設を目指している。

さらなる商業集積が進む天神地区であるが、同エリア内の岩田屋本店、博多大丸、三越福岡店の06年2月期の合計売上高は2千18億円で前期比0.5%増と増加基調になっている。地下鉄七隈線開通で地下街への直接通路ができ入店客数が12.3%増加した博多大丸は約5億円かけて改装、三越、岩田屋も新ブランドの導入を急ぐなど福岡県西方沖地震の打撃の割りに底堅い福岡の個人消費への対応を急いでいる。

天神地区には、商業のみでなく業務等の中枢機能も集積しており、昨春頃から天神地区のオフィスビル空室率の低下が顕著となり、特に大型の新規ビルの供給不足で需給がタイトになってきており、オフィスビルを巡る経営環境が景気回復を反映して好転してきている。

天神の東西の商業集積とそのベクトルを鳥瞰すると、渡辺通りを挟んで東側に天神コア、イムズ、大丸、ベスト電器が配置され、西側は西鉄福岡駅、三越、ソラリアステージ、ソラリアプラザ、バスセンター、岩田屋、ビックカメラに加え大名・今泉の個性的商業施設群を擁する。集積の質・量で西側が優勢となっており、若者を中心とする天神エリアの人の流れが大名・今泉地区に移ってきている。天神の南進と西進ベクトルは公示価格にも反映され大名1丁目、同2丁目、今泉2丁目で5%超の地価上昇となっている。
 

3、今後の展望

福岡市中心部の商業地、住宅地の地価を押し上げているJ-REIT、不動産ファンドなどの投資マネーであるが、金利と投資利回りのスプレッド差が、海外に比べ大きいという低金利を背景としていることは言うまでもない。日銀による量的緩和の解除が行われ、当面はゼロ金利政策が続くとの見方が強いが、長短金利はすでに上昇傾向にある。資産バブル懸念が強まれば、ゼロ金利解除が視野に入ってくる。金利上昇の局面でも企業業績が好調であればオフィスビルは賃料上昇で吸収できるが、供給過剰が指摘され、所得格差が拡大傾向にある住居系収益物件の収益価格は暗転する可能性もあるため、今後の公示価格の行方は予断を許さない。

都心回帰に象徴される分譲マンションも地価下落と低金利、都心の優良用地の供給増を背景にマンション業界も好調に推移してきたが、これらの押し上げ要因が全て反転する局面も懸念されている。本格的な高齢化、人口減少社会を迎え、単身者層のボリュームが福岡市の場合、他の都市と比べ厚いとはいえ、需要の先細りが懸念される。高騰した地価で用地取得され、建設資材価格も上昇し、住宅ローン金利も上昇、先行き消費税も上がるとすれば個人所得の全体的な伸びがないと需給バランスがいずれ崩れることも予測される。

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