これからの不動産投資の底流変化を読む

国内の景気回復で株価とともに地価も堅調になってきており、一部でバブルが囁かれるほど東京都心や名古屋、福岡など地方中枢都市の都心部などで急激に地価が高騰している。このような一部の都市内の限定エリアで地価が高騰している要因として旺盛なマンション用地の需給とともにJ-REIT、不動産ファンドによる高値での収益物件の購入が指摘されている。

収益用不動産価格の上昇は利回りの低下に顕著に表われてきており、2~3年ほど前に比べ、収益用不動産購入時のキャップレートは2ポイントほど下がっている。さらに好立地、築浅の競争力が高い優良収益物件が不動産ファンドなどにより購入されており、ファンド間や対リートなどへの物件移転は、水面下で行なわれているため、物件情報として一般のネットなどでの公開が著しく減少し、マーケット全体の枯渇感を生んでいる。

バブル気味という指摘が多いなか個人投資家でこれから不動産投資を検討している、あるいはすでに運用収益物件を保有している者は、これから先の市場動向の行方が気になるところだが、市場へ影響を与える社会的・経済的要因の変化速度が速く、質的に激変しているため、従来までの投資スタイルの延長で考えていると、投資環境変化に対応できず、「不動産投資の失敗者」へ転落してしまうリスクが高い。過去の成功体験はこれからは通用しない時代変化が底流で起きている。運用アパートの老朽化や空室、家賃など表層の変化は見えても時代変化という底流は見えにくいのが世の常であるが、見えにくいものをいち早く読み、迅速・果断に行動し、リスクを避け、新たな鉱脈を発見するのが投資の真髄でもある。

不動産投資のなかでも個人投資家に馴染みが深いアパマン投資、いわゆる住居系収益不動産にフォーカスして、これから先に起きるであろう投資環境の底流変化を本コラムで見てみよう。

1、不動産投資市場の質的転換(中短期の循環変動へ移行)

戦後の高度経済成長と相俟って大都市への人口流入が急激に進み、大都市部の地価を中心に一時の石油ショックでの調整はあったものの地価は上昇を続け、日本人に土地神話をもたらした。やがて過剰な期待と自信から生み出された集団陶酔がバブルを生み、バブルが崩壊すると、東京をはじめ全国の地価が下落し続ける失われた10年をもたらした。

これまでの長期周期での地価上昇と地価下落、このような現象は、中短期で不動産市場が循環する欧米の歴史にはない。近年、国内でもJ-REITに見られるように行き過ぎた過熱は、市場のなかで調整・吸収される市場構造に不動産投資市場が移行しており、今後は、日本の投資用不動産の市況も調整→回復・成長→安定という循環型の値動きになっていく。これまでのような長期周期でなく中短期周期で収益用不動産価格は上下する。

いまファンドバブルが懸念されているが、かつてのバブル崩壊のような長期にわたるダウントレンドと全国に拡散した不良債権の山という未曾有の危機は起きないであろう。不動産投資市場に収益価格がビルトインされたため、利回りが市場の過剰変動を調整し、軌道修正するからだ。これからの収益向け不動産の価格は、収益価格を指標にGDPや金利、企業業績、勤労者所得などとリンクしたサイクリカル(循環的)な動きになっていく。

サイクリカルに上下変動をする投資不動産は、後で述べるが東京や一部の中枢地方都市の投資適格エリアに限定される。投資適格性がない国内大半の都市や投資非適格エリアでは不動産価格はダウントレンドがとまらないだろう。

投資適格エリアにおけるサイクリカル変動も20年先というように長期スパンで見ると現在と比べて価格上昇する可能性は低いと思われる。大都市において人口減少は緩やかでも高齢化の加速は避けられない。高齢化は20~30代を中心とする賃貸住宅のターゲット層の喪失に繋がるからだ。

さらに近年、過剰な賃貸住宅の供給が行なわれ需給ギャップが生じている。一旦、供給された賃貸住宅は、少なくとも30年間は市場から退場しない。経年による老朽化は進んでもそれなりの家賃で供給セクターに存在し続ける。市場でオーバーフローした収益不動産は需要セクターの増加がない限り、一般耐久消費財のような中短期での在庫調整が困難なのだ。

このように不動産投資市場は、中短期でのサイクリカルな動きに移行し、長期保有のリスクが高くなるため、「底で拾い天井で売る」という投資の鉄則からみて投資用不動産の購入と売却のタイミングを見極める投資家の眼力が投資の勝敗を決める重要ポイントとなっていく。国内の不動産投資もグローバル化し、欧米型の中短期でエグジット(出口)を想定した運用サイクルに変化せざるを得なくなるため、マクロ経済予測から不動産投資全般に対応できる高度な専門性が個人投資家にも求められるようになってきている。

2、都市間格差の拡大

賃貸住宅の家賃水準は収益価格の高低を左右するが、家賃に最も相関が高い説明変数は入居層のボリュームと所得である。国内の景気も踊り場を脱却し、回復に向かつているが、全国的に見ると地方の回復程度はまだら模様となっている。トヨタに代表される東海地方は回復は力強いが、公共工事に依存するウェイトが高い北海道や東北地方はまだ逆風が吹いている。均衡ある国土の発展を掲げ公共事業を支えに全国横並びの成長をめざした時代はすでに終焉し、人口減も背景に三位一体改革など地方の自助努力で都市間格差が拡大する構造に急速に変化している。

入居層のボリュームと所得に関連する有効求人倍率を見てみると地域間格差がますます広がっている。有効求人倍率が最も高い地方と最低の地方の格差が4年間に2.7倍に広がった。

「都道府県別でトップの愛知県(1.61倍)は92年9月の数値を0.07ポイント下回ったものの、東京都(1.54倍)が0.62ポイント改善するなど、有効求人倍率が上位の都道府県の多くは92年9月時点を上回っている。これに対し、下位県は最下位の沖縄県(0.41倍)が0.11ポイント増だったのを除けば、青森県(0.44倍)が0.06ポイント減、高知県(0.48倍)が0.18ポイント減、長崎県(0.55倍)に至っては0.55ポイント減と半減しており、大半が92年9月の水準に戻ってはいない」(毎日新聞)。

鉱工業生産指数でみても地方ごとの景気回復力の差が拡大している。約4年の景気拡大局面で生産動向を示す鉱工業生産指数は、東海地域が30%と最も上昇したが、最低の北海道は2%低下した。

人口減少が地方の衰退を加速させることは言うまでもない。国土交通省がまとめた全国85都市圏の2030年時点の人口予測によると2000年と比べると、約9割にあたる74都市圏で人口が減る。特に15都市圏では2割超減少する。人口を維持できるのは東京、福岡、札幌など11都市圏だけになる。

人口減少による影響度は、地方都市の産業構造などにより濃淡が見られる。地方でも大学、専門学校、福祉医療、情報ネットワーク型業種などサービス業のウェイトが高く、SOHOやNPO法人などインキュベーション機能が高い地方中枢都市と構造を異にする地方小都市の格差が拡大している。産業転換や人口減・少子高齢化に対応できない地方都市はますます衰退が進むため、生産年齢層の人口流出による崩壊が急速に進み、この層をメインターゲットとしている賃貸住宅主体の不動産投資はやがて成り立たなくなる。

3、都市内変化(郊外化の抑制とコンパクトシティ実現)

改正都市計画法、中心市街地活性化法、大規模小売店舗立地法からなる「まちづくり三法」の改正が政府により進められている。郊外部への大型店の出店を規制し、シャッター通りと化した中心市街地の商店街を活性化するというものだが、車を運転できない高齢化社会に対応し、人口減少時代を迎え、郊外化を抑制し、都市を適正規模に再編し、地方財政への負担を減じる狙いがある。

「まちづくり三法」の改正に見られるような都市圏の機能を中心部やその周辺にコンパクトに集中させ、インフラ整備を効率化する「コンパクトシティ」への一連の流れが定着すると病院や商業施設の郊外への立地が規制され、郊外部での公共整備は費用対効果から大幅に抑制される。このような都市圏の拡散抑制は、郊外へと延伸していた都市の外延的拡大に歯止めをかける。

人口減少が加速する地方都市においては、郊外部はいわば無用の長物として逆風が吹き、より荒廃が一層加速する。近年、顕著となった住の都心回帰が政策的に推進される方向性が打ち出されると賃貸住宅の立地選定に影響を与えることになる。

いままで若年層は都市の中心部、ファミリー層は中心部周辺から郊外といった住の棲み分けがなされてきたが、団塊の世代層から高齢者層まで都心回帰の動きがでている。高齢者世帯は04年時点で780万世帯、2015年には1,100万世帯になると予測されているが、高齢者層の郊外部の1戸建を定期借家で子育て層に賃貸し、都心のマンションなどへ住み替えるシステム整備が国交省により検討されている。

「郊外の広い戸建住宅は高齢になると維持管理の負担が大きい。大規模な専門病院から遠いことも多い。一方子育て世代は広い戸建住宅での子育て望んでも、ローン負担をはじめ都心からかなり遠くなることが少なくない。このため国土交通省が関連業界に呼びかけ住み替え支援の仕組みを整えることにした。不動産や建設のほか、有料老人ホーム、住宅リフォームなどの業界団体が利益追求を目的としない中間法人を設立。高齢者世帯と3年程度の定期借家契約を結んで借り上げ、子育て世帯に貸し出す(日本経済新聞)」というものだ。

団塊の世代や高年齢層は、子供世帯との同居よりも夫婦2人世帯を望み、医療施設などが整備され利便性が高い都心を志向する傾向が強い。これらの層による都心居住が進行することになると高齢者向け賃貸住宅の市場が拡大するが、現状では高齢者が入居できるバリヤーフリー化した住宅のストックや、高齢者が入居することで発生するリスクを回避させる仕組みが十分でない。

都心回帰への住のベクトルは、人口減少、高齢化社会を背景に政府による「コンパクトシティ」の実現という政策目標の推進で加速され、夫婦2人世帯の高齢者やDINKS、若年の単身者が都心に居住し、子育て世帯はこれまでの郊外部より同心円の半径を狭めた都心外縁部に居住する(コンパクトシティ化→同心円の半径を狭める)というライフスタイルが進行すると、新たな賃貸住宅の需要が人口構成比のなかで相対的に増える高齢者層を中心に発生する可能性は広がる。

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