J-REIT、不動産ファンドの熱市場福岡市 / 天神、天神周辺の動向
1、J-REIT、不動産ファンドの物件取得が続く福岡
福岡市内におけるJ-REIT、不動産ファンドによる物件取得は、05年に入ってさらに過熱し、天神、周辺部である西通り、大名、今泉などから博多駅周辺も取得の対象となってきた。福岡ビジネス地区の賃貸オフィスビルの空室率は、05年夏頃から改善し、設備レベルが高い新築ビルの需給がタイトになってきているが、レジデンシャル(住居系)は、供給過剰気味で、空室率も全国的に見て高い。
地元業界では「バブル気味」と囁かれる住居系収益物件であるが、市内の賃貸マンションには低金利による投資利回りとのスプレッドであるイールドギャップを背景にJ-REITや国内不動産ファンド、個人投資家のほか、海外の投資マネーも流れ込んでいる。
オーストラリアの投資銀行マッコーリーは、地元デベロッパーのディックスクロキが建設した福岡市内の賃貸マンションを3棟購入した。06年1月までに福岡都心部マンション事業に総額34億円投入する予定だ。シンガポール政府系の不動産会社キャピタランドグループは10月、博多湾の人工島アイランドシティで建設が進む賃貸マンションを約80億円で取得すると発表した。キャピタランド・ジャパンが取得するのは、オリックスと新日本製鉄が出資するエヌエル都市ソリューションが建設する16階建て賃貸マンション380戸で、完成予定は08年である。
福岡市中心部の商業施設も内外の不動産ファンドが盛んに取得している。いままで難アセットといわれ、オペレーションの巧拙でNOIが大きく変動する飲食ビルも外資系不動産ファンドが取得している。米系投資会社のエートス・ジャパンと丸紅などが、九州を代表する歓楽街中洲などの飲食ビル「ラインビル」16棟を約85億円で取得して証券化した。エートス・ジャパンと丸紅等が共同出資でSPC「ラインアセット」を設立、ラインアセットはビルの管理・運営をLBラインビル(ラインビルディングが名称変更)に委託した。LBラインビルがこれまでのノウハウを生かし引き続き「ラインビル」を管理することでオペレーションの不安を解消する。
新生岩田屋が開業後、天神と西通り、大名をジョイントする回遊路として一躍脚光を浴びている「きらめき通り」交差点に06年9月、大型商業施設が誕生する。東京建物が03年2月に福岡の老舗百貨店である岩田屋グループから福岡市中心部及びその周辺に所有する不動産20物件を東京建物が組成したSPCを活用して一括購入していた案件である。
不動産ファンド等によるコンバージョンも活発だ。パシフィックマネジメントが土地建物を取得した天神2丁目の学校法人佐藤学園は、コンバージョン後、06年11月商業施設として開業予定。またファンド運用会社であるアーバン・アセットマネジメント(UAM)は、大名地区で築20年の専門学校を商業施設にコンバージョン開発し、06年2月に商業施設「BROOM Fukuoka」をオープンする。
2、激動する天神、天神周辺エリア
地下鉄七隈線開業、相次ぐ商業施設の集積が進むなか、J-REIT、不動産ファンドによる高値での物件取得にも起因し、天神とその周辺エリア(大名、今泉)の地価は上昇している。直近の05年地価調査では中央(県)5-3、天神2丁目の天神西通りで+11.1%上昇し、中央(県)5-15、天神1丁目明治通沿いで+5.8%上昇した。05年地価公示では中央5-1の天神2丁目新天町商店街の南側道路沿いが+3.2%、中央5-9天神1丁目天神コアビルが+5%それぞれ上昇した。また天神南進の象徴として中央5-13、今泉2丁目国体道路沿いが+2%上昇している。
例えば、今泉1丁目国体道路沿いの物件で、都市再生機構が入札で広島のアーバン・コーポレーションに売却した価格は路線価の4倍となった。急速な地価上昇と相俟って収益物件のキャップレートも低下している。共同目的会社(SPC)が取得した大名1丁目の店舗ビルは配分された土地価格でみると路線価の5倍で取引され、利回り4%と福岡市内における同グレード物件の従来までの利回りから1~2ポイントほど低下した。
近年、天神を中心とする商業集積、人の流れはその周辺部である大名、今泉などに拡散しているが、以下で各エリアの動向を見ていく。
A、天神地区
■地下鉄七隈線開業
福岡市の都心部と南西部を結ぶ新しい市営地下鉄「七隈線」が、2月3日に開業した。全長12キロ、16駅、同市で3本目の新路線。2日には天神地下街の延伸部分も開業した。19世紀のヨーロッパ都市をデザインコンセプトに東西2本の道が既存部分を含めて1~12番街に区分けし、新テナント53を含み全151テナント擁する一大ショッピングストリートが出現した。
七隈線の北の起点は、天神。福岡三越は、その天神南駅と地下で直結し、博多大丸は通路で結ばれ、地下食品売り場を全面リニューアルした。地下街が延びたのは南へ250m、地下鉄七隈線の開業した天神南駅は大丸の南端となるが地下鉄七隈線開業以来、大丸の入店客、売り上げは順調に伸びている。
大丸の北野洋社長は雑誌インタビューで「今までは特に西館1階の北入口が1番多かったのですが、新しい地下街ができて圧倒的に地下からの入店が増えました。当店の場合は、1階のパサージュ広場からの出入りがものすごく多いのですが、七隈線が開通してからの人の流れは西館北川の地下からの出入りが1番多くなりました。そのシェアは40~45%ぐらいになっています(福岡経済)。」と地下鉄七隈線開通効果を答えている。
■きらめき通りに新生岩田屋の開業
04年4月天神2丁目にグランドオープンした新しい岩田屋は、「きらめき通り」と「西通り」に面し、天神地区から若者に大人気のスポットである大名地区への流れをつなぐジョイント役になった。これまで冴えない裏通りであった「きらめき通り」が人波で溢れ、福岡市の大動脈「渡辺通り」から「西通り」への来街者の回遊性をさらに高めた。大人のショッピングゾーンともいうべき天神玄関口の百貨店群と若者中心の店舗が集積する大名地区とのシナジー効果を高めている。さらに「きらめき通り」交差点の一角で東京建物が来年9月オープン予定で大型商業開発プロジェクトを進めている。
■東京建物株式会社「(仮称)天神二丁目開発計画」
東京建物株式会社は、「きらめき通り」地下通路とも直結する「天神2丁目」の角地を再開発。04年4月オープンした「岩田屋本館・新館」に続く、「きらめき通り交差点」における最後の大型商業開発(地下3階地上8階建、延床面積約11,000㎡)となり、06年9月のグランドオープンを予定している。フロア構成は、地階から地上中層階まではレディス&ユニセックスファッション、中高層階はサービス+物販のライフスタイル型ショップ、最上階・7階は、屋上テラスの緑と一体となったオープンテラスダイニングレストランとする予定。設計施工は竹中工務店、ジョン・ロウ氏による建築デザインで、商業コンセプトは、大人の女性のための「My Private Store(マイプライベートストア)」。天神地区において歩行者が最も多いエリアという利点を活かし、「毎日来れる、来たら必ず寄れる私の特別な場所」としての商業施設を目指している。
■アップルストア福岡天神が出店「天神ルーチェ」
天神の南進、西進を象徴するような西通りと国体道路が交差する天神2丁目にイタリア語で光を表すルーチェという館名の商業ビル「天神ルーチェ」がオープンした。延床面積は6,017.74㎡、地下1階・地上7階建。同館の1階にアップルストア福岡天神がテナント入居し、ファサード感のある路面店舗を構えた。デジタルグッズを配するビックカメラ1・2号館が近いためシナジー効果も見込める。フランク・ミュラー福岡、スターバックス コーヒー等もテナントになっている。「天神ルーチェ」の立地は、天神エリアに繰り広げられているベクトルと力学を見据えた絶妙な位置といわれている。
■天神北方にオープンしたミーナ天神
三越、岩田屋Z-SIDEの開業、さらには福岡市地下鉄七隈線開通などの影響もあり、天神の重心が南下し、北天神の凋落が目立っていたが、北の起爆剤として、10月29日にマツヤレディスが「ミーナ天神」に生まれ変わってオープンした。テナント数は34店舗。地下1階と1階はアクセサリーなど専門店ゾーン、2~7階は大型店ゾーンでユニクロ、手芸品のユザワヤ、スポーツ専門店のグローバルスポーツなどが入り、8階は美とリラクゼーションのショップが軒を連ねる。価格的にもリーズナブルで生活密着型の館となっており、ブランド品主体の百貨店群と天神地区内での棲み分けを指向している。
いまや天神地区は、商業のみでなく業務等の中枢機能も集積しており、九州圏内で一人勝ちといわれている。大動脈「渡辺通り」を挟んだ天神の東西の商業集積を見てみると、東側に天神コア、イムズ、大丸、ベスト電器が配置され、西側は西鉄福岡駅、三越、ソラリアステージ、ソラリアプラザ、バスセンター、岩田屋、ビックカメラに加え大名・今泉の個性的商業施設群を擁する。集積の質・量で西側が優勢となっており、若者を中心に天神の人の流れが大名・今泉地区に移ってきている。天神の南進と西進ベクトルは依然強いといえようか。
福岡大学斉藤参郎教授によると「ソラリアターミナルビルは鉄道の高架に沿って南北に長い形状をしているが、人の流れというか、「回遊行動」を妨げないように東西を結ぶ大きな通路を3つも設けているため、東の大丸エルガーラと西の岩田屋を結ぶ道すじがとてもスムーズになった。結果として、それらの新しい大型商業施設を行き来する回遊行動が盛んになったことが確かめられた。しかも東から西へと拡大した来街者の回遊行動は、岩田屋Z-SIDEからさらに西の大名地区へと拡大を続けていることも分かりました。駅ビルの通路が大名地区の発展をも後押ししている」と天神の西進ベクトルはソラリアターミナルビルの回遊性を高める3ヶ所の通路にもあると語っている。福岡都心部における西鉄の都心100円循環バスにより、天神エリアでの来街者の立ち寄り店舗数が増え、その経済効果は105~115億円になると同教授は指摘している。
B、天神周辺地区(大名、今泉)
天神エリアはかつて渡辺通りを縦軸にデパート、大型量販店などの商業施設が並び、通り背後の商店街など限られた範囲で自己完結する商業ゾーンであった。数次の天神戦争と呼ばれる天神への商業集積が進むにつれ、天神の拡大、拡散がはじまり、特に若者達のショッピングや飲食は、渡辺通り→親不孝通り→天神西通り→大名、今泉とその周辺部へ拡散した。北天神は衰退し、天神の南下、西進が進み、これまで裏通りであつた大名、今泉の路地にファッションブティック、オシャレなレストラン、居酒屋などが集積し、天神とは異質の商業空間を出現させている。
■大名地区
九州最大規模の商業集積地天神に隣接する大名は全国版ガイドブックにも取り上げられ、T字路が交差する狭い路地に若者がショッピングなどで行き交う国内でも有名エリアとなっている。隣接する天神が高機能な大規模高層商業施設がゾーニングされたエリアに林立する近未来的都市空間を創出しているのに比べ、大名地区は異質な趣の商業空間となっている。
大名地区一帯が戦災にもあわず、戦後も土地区画整理などがされなかったため、旧来の町並みが残っており、下町の郷愁溢れる路地に町屋と商店が入り組んで稠密に建ち並び、その不均一で不揃いな家並みが、若者には独特の街のテイストとなって、天神にはないこだわりの店舗が進出している。若者にとって隠れ家のように佇む店舗でショッピングすることが1種のステータスとなっており、地域のブランド力を高めている。
もともと大名町と呼ばれた通りは福岡藩の高禄の藩士の屋敷が建ち並んでいた。旧大名町の表通りが現在の大名2丁目で、裏通り一帯が大名1丁目になるらしい。大名1丁目の紺屋町通りは藩政時代、敵からの防御のため道路は枡形割という入り組んだ形になっている。鉄砲がやっと届く距離という当時の独特の道路割が、平成の現在、ショッピングの散策で宝探しをするような秘めやかな心理効果を演出することになる。
1980年代後半ぐらいから、天神から近く、家賃が安いこともあり、天神とは異なるサブカルチャーゾーンを求めて、大名の地に店舗を開店する若者が増え始めた。特に1996年、岩田屋Z-SIDEオープン、翌年、福岡三越、博多大丸エルガーラ東館が続けてオープンした頃から天神の南進が顕著になり、大名地区が同時にクローズアップされてくることになった。
「200年も続いているような店舗と町屋、戦後のモルタル集合住宅とオシャレなファッションビルが軒を連ねる。トレンドとトラッド、何代も大名に住み続ける住人と働く若者たち、建物も商売もクロスオーバーしながら混在しているのが大名の特長といえる」(財団法人福岡アジア都市研究所 佐々木喜美代氏)。
「大名」という地域ブランドの確立と相俟って全国的に注目を集め、近年、首都圏で人気のショップやブランドが相次いで進出している。例えば、東京などで人気が高い有名ブランド「モーテル」の全国初となる専門店「モーテル・シュバルツ」、東京・恵比寿のポーターサービスに特化したフラワーショップ「サンジョル ディフラワーズ ザ・デコレーター」、東京渋谷の帽子専門店「CA4LA」などが相次ぎ大名地区に上陸した。 大名は紺屋町商店街を中心に流行に先端的な店舗の激戦区となっており、店舗の新陳代謝も激しい。
最近、大名地区で既存建物のリノベーション、コンバージョンが増えている。大名という歴史を想起させる地名と、町屋、モルタルアパート、多種多様な店舗が混然と融合し建ち並ぶさまは、建築家や事業主に既存建物が持っている歴史や文化の蓄積を新しい時代の感性で新たな生命を建物に吹き込み再生するリノベーションやコンバージョンへと意欲を駆り立てるようだ。
九州産業大学森岡侑士教授は、大名の町並みを「くり貫き型」と季刊誌「fu2」で表現している。同教授の言葉を借りると「機能的には小さな単位なのだが、多様な業種が、かつての住宅としての佇まいを残した空間のなかに複雑にまた巧みに分散し、融合している。外観は旧来のままの構えで、必要な部分のみを新たに改装した、その対比に目を奪われることも多い」と語っているが、まさに当該エリアにおける大規模開発とは無縁の街づくりの魅力を集約した表現といえる。
●大名地区のリノベーション、コンバージョン事例
アーバン・アセットマネジメントは、商業施設「BROOM FUKUOKA」を06年2月にオープンする予定。築20年の大栄公務員受験専門学校を同商業施設にコンバージョン開発する。同施設の構造は、地上5階建。建物延床面積は1,202.31㎡。アルミパンチングメタルに花模様を浮き上がらせた独創的なファサードデザインで幻想的な外観を演出している。周辺に専門学校やアパレルショップがあることから「女性の美しさが花開く場所でありたい」というコンセプトのもと若い女性をメインターゲットとし美容、飲食、アパレルを中心としたテナントで構成する予定だ。
リノベエステイトは大名紺屋町商店街の築50年長屋のリノベーションを行なった。アイリーは10月15日、リノベエステイトがデザインした「リノベーション長屋」に新業態で「con’cafe(コンカフェ)」をオープンした。店内は、1階カウンターの背面がガラス張りで、ギャラリーの展示物を鑑賞することができるのが特徴。店名の「コンカフェ」は「大名、紺屋町のカフェ」を略して名付けられた。「リノベーション長屋」である同商業施設は、「紺屋町の間」の略などから「コンマ」と名付けられている。
■今泉地区
天神エリアにおける商業の重心移動は、国体道路を挟んで天神に隣接する今泉地区に及んだ。若者向けのシャレたブティック、レストラン、カットハウスなどが民家をリノベーションしたり、マンションの1階などに分散的に進出している。今泉地区の商店主は30代の個人オーナーが多く、若者向けの情報誌やテレビ等のメディアは今泉地区の店舗を盛んに取り上げている。いままでの今泉地区は知る人ぞ知るラブホテル街や、天神をネーミングしたマンション、戸建住宅、お寺などが路地にひっそりと建ち並ぶ一帯で、都心の周辺部にあって急激な地域の変容もなく推移してきた。それが近年の天神の南進により飽和状態の天神や大名から今泉地区への店舗進出が起き始め地域がより多様化している。
天神が広大な面、大名が数本の線とすると今泉は点として小規模商業施設が分散し点在する現状であるが、地下鉄七隈線の開業でこのエリアの東側、南側外周に地下鉄「天神南駅」、「薬院駅」、「薬院大通り駅」を擁することになり、天神の南進ベクトルと相俟って今後の地域の変容が予測される。「薬院駅」、「薬院大通り駅」を中心に今泉エリア北部、薬院地区では、マンション建設が進んでいるが、マンション建設は、さらに今泉地区を南下して進行すると思われる。コインパーキングや駐車場が多く、開発余地は多いが、狭隘な街路がネックになるのがこのエリアの特徴だ。一方、国体道路を挟んだエリアは高地価ゾーンでもあるため、今後、高度利用が進むだろう。内奥エリアは分散的に個性的な店舗が進出しており、大名地区の路地における店舗に近似した状況になるのではないだろうか。
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