平成16年地価公示価格の傾向 / J-REIT、外資が注目する福岡市天神地区の動向
国土交通省は3月24日平成16年地価公示価格を発表した。
1、全国
全国平均で住宅地は5.7%、商業地は7.4%下がった。住宅地はピーク時の1991年に比べ43.2%に下がり、ほぼバブル前の87年の水準。商業地は同67.6%下がり、比較できる74年以降の統計で最低の水準に落ちた。ただ、下げ幅は住宅地が6年ぶり、商業地は2年連続で縮まっており、それぞれ前年比0.1ポイント、0.6ポイントの縮小となった。
地方の下落率は前年に比べ0.5ポイント拡大した。住宅地は7年連続の下げ幅拡大で5.7%の下落、商業地は8.7%下落と前年から横ばいだった。人口10万人以上の地方都市(全国で108市)でみると、住宅地の下落率は6.3%(前年は5.7%)に拡大。商業地は10.1%(同10.4%)とやや縮小した。二桁の下落は住宅地で5市だったが、商業地では半数以上の57市にのぼる。地方圏でも札幌、名古屋、福岡といった中核都市以外は地価の底がみえていない。地域内でも二極化の様相が強まっている。名古屋圏では、名古屋市の商業地で前年は1地点だった上昇地点が11地点に増えた。地元自動車産業が好調で、05年の愛知万博開催、中部国際空港開港も控え、経済が比較的明るいことが背景にある。福岡市の天神地区は、九州圏内で1極集中ともいうべき商業集積を加速させ、その潜在的優位性はさらに増しており、東京をはじめ外資系投資ファンドの積極的な買いが集中している。
2、九州
住宅地は都市部のマンション供給過剰感などから、ごく一部を除いて値下がりに拍車が掛かつている。特に長崎市の下落率が九州・沖縄の人口10万人以上の都市で最も高かった。周辺も含めて宅地の大量供給が続き、高価格帯の宅地の下落率が大きい。熊本市では武蔵ケ丘など北部地域や、従来価格が高かった水前寺や大江など中心地の落ち込みが大きい。
商業地で注目すべきは新幹線効果が働いたと見られる鹿児島県の動向であるが、九州新幹線の南の発着駅、鹿児島中央(鹿児島市)周辺では、調査対象5地点のうち、3地点が下落から横ばいとなった。県内随一の繁華街・天文館に比べ、通過点になりがちだったが、下落率では逆転した。9月には駅ビル「アミュプラザ鹿児島」(7階建)が開業予定で、飲食店を中心に出店が相次でいるが、商業集積が進めば、来年以降の価格動向が注目される。大分県では大分市中心部で収益物件の投資利回り上昇などで需要が拡大し、下落幅が縮小した。しかし、集客力向上が期待される地域以外は依然として地価は低迷している。長崎県では旧来の中心商店街の値下がりが続く。長崎市浜町は11.0%下落した。宮崎県では宮崎市の住友生命宮崎ビルが14.7%下がり、県内最大の下落率。同地域では一時閉鎖された旧寿屋の店舗が再オープンしたが、テナントが埋まり切っていない。佐賀県は下落率が過去最大を記録した。郊外型大型店の相次ぐ出店で中心街の空洞化が進んでいる。熊本県は、県内随一の繁華街、熊本市の上通り・下通り周辺は、下げ止まり傾向を示した。裏路地の民家などを利用した洋服店や飲食店が若者に人気の「上乃裏通り」の影響で、上通町の地点は下落率が1.8%に縮小した。
3、福岡県
県内の公示地価は、平均で住宅地、商業地ともに12年連続の下落となった。住宅地は5.2%下がり、6年続けて下落幅が拡大した。商業地の下落率は、前年比0.5ポイント増の7.7%だった。
●住宅
県内の住宅地の平均地価は1平方メートルあたり80,200で、下げ幅は昨年の4.2%から拡大して5.2%になった。住宅地は、市区町別の平均価格が福岡市中央区201,000円、同早良区133,200円、同南区122,800円、同博多区121,600円、同城南区114,200円、同西区102,300円、春日市100,800円、北九州市戸畑区98,400円、同小倉北区95,600円となっており、すべての市区町で下落した。下落率が大きい地点では筑紫野市紫が13.3%、福岡市西区千里が11.2%、同市西区今宿東2丁目が11.0%、同市城南区東油山4丁目が10.9%などである。
下落幅が縮小したのは福岡市(7年連続)、大野城市(2年連続)、甘木市と志免町。特に福岡市では前年の3区を上回る5区(早良、南区以外)で縮小。天神や大名、今泉など店舗進出が盛んな中央区だけでなく、下げ止まり傾向に広がりがみられる。
福岡市中央区では下落率が前年の2.8%から2.1%とに縮小。同区の地点別では今泉2丁目で変動率が1%上昇し、大濠一丁目など4地点で横ばいとなった。都心回帰に起因するマンション建設を中心とした堅調な住宅需要を反映したかたちとなっている。
しかし、大半の市区町で下落幅は拡大している。福岡市以外で下落幅が大きかったのは、二丈町(10.3%)や前原市(8.4%)、太宰府市(8.1%)など、福岡市のベッドタウンである。下落幅が8%以上は二丈町、前原市以外で7市区町あり、前年より3市区町増えた。利便性の高い都心部でのマンション建設が続いているため、周辺部の一戸建てや分譲団地の需要が減少している。福岡市郊外、周辺部は需要が細り、宅地の供給過剰感を反映し、販売価格低迷が起きている。
人工島事業など大型公共事業が周辺地価へ波及する動きは見られない。JR新駅開業や区画整理が進む東区松崎などでも周辺地価を押し上げるような現象はまだ見られない。来春の開業を目指して整備が進む市営地下鉄3号線(天神-橋本)や、昨年5月に一部で共用開始された福岡都市高速5号線(月隈-福重)の周辺でも同様に目立った売買取引はない。
●商業地
県内の商業地の平均地価は1平方メートルあたり261,000円。下げ幅は昨年の7.2%から7.7%となった。全体の下げ幅が拡大する中、福岡市中央区天神一丁目で同地域の最高価格地点である商業施設「天神コア」は、1平方メートル当たり417万円で、前年比3.0%値上がりした。今月2日に開業した岩田屋新館そばの天神2丁目など、天神周辺計3ヵ所商業地も下落から横ばいに転じた。また、天神二丁目と、天神に近い「今泉」、「大名」の2地点も下げ止まった。
市区町別の商業地平均価格が福岡市中央区720,900円、同博多区518,800円、北九州市小倉北区428,900円、福岡市早良区318,300円、同南区281,700円となっているが、すべての市区町で下落した。下落率が大きい市区部では、田川市14.9%、行橋市13.7%、前原市12.3%、筑後市、小郡市11.6%などが並ぶ。地点別では北九州市八幡西区黒崎2-6-2が17.7%、同市小倉北区浅野2-9-6、久留米市六ツ門町8番22が16.3%、大牟田市新栄町12番6外が15.9%などが下落率が大きい。大きく下げた10地点のうち北九州市八幡西区が3地点、久留米市が2地点、田川市が2地点となった。旧来の中心部商店街が郊外型商業施設の進出の影響で顧客が流出し、商況が不振であるという状況下で下げ止まりの兆しは見えてこない。注目すべきは、リバーウォークがオープンし、伊勢丹の開業を控えた時点(平成16年1月1日価格時点)で北九州市小倉北区魚町2丁目は、下落率が6.3%で前年より1.6ポイント縮小した。
中央区天神では3月に岩田屋新館がオープンしたほか、九州新幹線の部分開業で南九州からの集客も見込め、さらに4月にはRKB跡地に大型商業施設が完成、来年2月には地下鉄3号線(天神南-西区・橋本間、12km)の開通を控えるなど、商業地としての潜在力向上が織り込まれて価格が上がった。天神地区のオフィスビルいくつかがJ-REITの組成物件になっているが、この傾向は天神地区の九州における一極集中の高い潜在力が不動産投資信託や外資系投資ファンドに注目されている証と言えよう。東京がファンドバブルで仕入れ価格が高騰し、物件が枯渇してきた背景に加え、リスク分散のポートフォリオの視点や、6~7%と比較的に高利回りであることに起因する。
こうした傾向は、周辺の大名、今泉地区に波及し、変動率ゼロの地点が現れている。近年、民家やビルの1階を利用したユニークな飲食店や衣料品店が並ぶ若者の人気スポットとなっており、東京資本の進出が盛んでテナントの空きが殆どないといわれている。
代表幹事中村氏は「全国の主要都市の地価がほぼ横並びで上昇したバブル期と異なり今回の地価上昇は実需に裏打ちされている」と説明している。
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