不動産投資市場はバブル?
内外の不動産ファンド、リート勢が首都圏の低利回りを嫌気して、地方有力都市の収益物件を買い漁っており、筆者のオフィスがある博多駅界隈でも、駐車場や中低層老朽建物が不動産ファンドが仕掛けた高層賃貸マンションに生まれ変わっている。この付近は、本来、オフィスビルがいける至便な中心市街地であるが、福岡の場合、天神のオフィスビルは、回復基調にあるものの博多駅周辺は、駅近辺以外、事務所ビルの稼働率が悪く、賃料も低下しているため、単身者向け高層賃貸マンションにしたほうが収益性が高いからだ。
最近、これでもかと収益物件の過剰供給が続くなか、さすがに、これまでは空室とは殆ど無縁であった博多駅徒歩圏でハイグレードな新築賃貸マンションですら空室が目立ってきた。市内トップクラスの賃貸物件管理戸数を誇る仲介業者は、「最近のファンドの買い方を見ていると、個人投資家のほうが、利回りにシビア。モラルハザードを起こしかねないファンドバブルは、年内までか…」などと語っている。かつてのバブルを経験した者としては、まさに歴史は繰り返されるで、世界史的イベントと称されたわが国のバブル崩壊の苦い思い出が蘇ってくる。
リート、プライベートファンド合わせた市場規模は4~5兆円といわれている。「ファンドバブル」、「リートバブル」は、まさに東京から札幌、福岡、はては広島、熊本あたりまで巻き込み、全国を疾風、怒涛のように潤沢なマネーを駆け巡ぐらせているわけだが、市場関係者の次なる関心は、「このバブル果たしていつまで続くか」に絞られてきた。
ニッセイ基礎研究所が最近、行った実務家・専門家に対する市況アンケートでは、不動産投資市場の現状認識としてバブルを足元懸念する認識が全体の7割を超え、「十分適正な範囲の取引で、まだまだ上昇の余地あり」との回答は、わずかに1.3%であった。市場関係者も内心はバブル崩壊の忍び寄る悪夢に怯えながらも、投資家の期待に応えるため、ここしばらくは、イールドギャップを頼りにマネーゲームを強気で続けているというとこか…
このように過熱を指摘されている国内の不動産投資市場であるが、この現状を正常とみるか、バブルと見るかについて専門家の意見は二分される。
■バブルでないと反論する意見
現状は、バブルではないという論者は、まず不動産投資環境の好転をあげる。デフレの象徴であった巨額の不良債権処理も、相当に進んだいま、かつて「投資要注意国」といわれた日本の投資不動産も、国際分散投資のポートフォリオに組み込まれ、流動性の高まりと将来リスクの低下からリスクプレミアムが低下し、これらの時代変化により低利回りが容認できる基調となりつつある。つまり一時期の危機的で深刻な経済崩壊状況から日本経済も回復し、ファンダメンタルズが好転しているので、不動産の基本利回りは、リスクプレミアムの低下を反映して低下して当然というわけだ。
確かに首都圏や地方の政令都市などで限定エリアであるが、地価下落から横ばい、さらには上昇へ反転するなどかつての総悲観ムード一辺倒の不動産投資環境が、好転しており、不動産証券化の普及による透明化、流動化の促進に加え、リートという受け皿の拡大で、不動産投資の出口戦略が格段に描き安くなっている。
さらに論者は、市場の構造変化を指摘する。不動産投資環境の変化により、不動産投資市場も市場回復期における外資系ファンドによる短期運用のハイリスク・ハイリターン型から、REITなどの中長期の安定運用型に変わってきており、投資家も中長期の安定利回りを期待する年金などの機関投資家が新たなプレイヤーとして参入し、欧米並みのリーズナブルなリスクプレミアムに日本の不動産投資市場も構造変化したからだと説く。
そして論者の過熱感への反論の論拠はイールドギャップに及ぶ。国内における低金利下で投資利回りと金利のスプレッド差であるイールドギャップがあり、レバレッジが効きやすく、銀行サイドもノンリコースローンの積極的な融資攻勢をかけている。不動産以外の一般的な金融商品の利回りは低下しており、不動産の投資利回りも下がったとはいえ、その相対的高さによる優位性を依然として維持しているというわけだ。
■バブル指摘論
現状をバブルと指摘する論者の論拠は、何と言っても利回りの低下である。不動産投資利回りがここ数年で顕著に低下しており、10年物国債の利回り1.2%台、リートの利回りが3%台、つまりリスクフリーレート1.2%+リスクプレミアム2%近辺で推移している最近のリートの利回りは市場が過熱していることへの警鐘であるとする。稼動中の物件で優良物件はめっきり減り、低利回りや問題あり物件ですら後発リートやファンドは購入している。組成物件が、将来、価値毀損を起こすリスクが高い。
さらにリートや不動産ファンドが抱える過剰供給体質がある。稼動している物件のパイの取り合いだけであれば、供給過剰は起きないが、開発型証券化による投資物件の新規開発が多いため、ビルや収益マンションが夥しくマーケットに新規供給されている。ファンド運用者などはまず投資家のプールされた投資資金ありきのため、投資家の期待に応えるため、供給抑制が効かず、結果として需要が無視されてしまう。特にレジデンシャル(住居系)の収益物件は、供給過剰が顕著で、稼働率が低下している物件が増加している。
■バブルを起こさぬ叡智
不動産投資市場で物件の経済価値を決定するのは収益還元法である。かつてのバブルでは1~2%の利回りで売買差益を狙って土地転がしが行われた。土地神話で、誰もが不動産を保有することで豊かになれると錯覚した。先のバブルは、プラザ合意から為替アンカー論に見られる外圧と、大蔵日銀の失政、銀行の過剰融資など複合的要因が重ねって起きたものだが、理性を麻痺させた集団陶酔的単一願望=土地神話への過剰期待が事態をより深刻にしたことは否めない。
いま囁かれているバブルは、リートなど不動産と金融を融合した新たなプレイヤーによるプロの戦場であり、そこで首尾一貫している価値基準は、キャッシュフローに裏打ちされた収益価格である。利回りが市場にビルトインされているため、市場の暴走を制御するはずなのだ。しかしながら収益価格のもつある種の曖昧さが懸念もされている。キャッシュフローやキャップレートなど誠実で厳密な把握が、運用者の恣意的なシナリオで歪められれば、本来の経済価値から乖離し、バブルは起きるのである。
不動産証券化やリートという手法や器自体は、優れたシステムであるだけに、関係者の叡智で大事に育成したいものである。
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