いま商業地になにがおきているのか その2 / 一人勝ち天神へ挑戦する郊外SCの戦略

昨年6月4日、福岡天神から約7.5km、博多駅から約5km、福岡国際空港の東、粕屋町の田園地帯に扇形の巨鳥が舞い降りた。三菱商事&イオングループのデベロッパー・ダイヤモンドシティが満を持して仕掛けたモール型SC「ダイヤモンドシティ・ルクル」。のどかな田園地帯に忽然と出現した人工的空間の威容は大型化が進む郊外SCのなかでもひときわ目を引く。敷地面積21.7万㎡、延べ床面積10.6万㎡、店舗面積6.9万㎡、駐車台数4,200台。九州最大といわれる桁外れのスケールは、地元商店への影響の大きさは当然として、九州圏で一人勝ちを続ける福岡市中心部、天神の巨大商業集積の不動と思えた地位をも揺るがすことを予感させるものだった。

「ダイヤモンドシティ・ルクル」の立地する地元粕屋町や志免町には、自然発生的に形成された小規模商店舗群と福岡都市圏でのベッドタウンとして開発された町内の背後分譲住宅団地を商圏としてこれらの小商圏の切れ目を縫うように配置された中小規模スーパーが点在するが、これらの商業施設の商圏は規模からみてその周辺部に限定されていた。「ダイヤモンドシティ・ルクル」はこれらの足元商圏を広域に包含する福岡東部ゾーンからさらに都心部天神の百貨店や専門店からの顧客争奪まで照準としている。想定商圏は福岡市とその近郊24万世帯、人口約61万で売り上げ目標は年間350億円を目指しているのだ。

施設の両端に核店舗ジャスコ福岡東店と自社開発の大型専門店集積業態「L.A.S」が入り、その間を約200の専門店が入る延長200mのモールでつなぐ。準核店舗として外資系玩具の「トイザラス」大型書店「フタバ図書TERA」、シネコン「ワーナーマイカル」が固めている。

ルクルは、都心部からの顧客争奪の願いを新業態のテナントミックスにこめた。従来の郊外型SCは、ファミリー層をターゲットとするもののブランドバリューは重視されなかった。この辺の事情が客層分化による棲み分けを生み、都心部の百貨店や専門店を志向する層の集客を難しくしていた。ルクルは、高級感を演出するため中央区桜坂の高級住宅地にある高級スーパー「ラパレット」を「ラス」の1階に配置し、さらに2階に婦人服のワールドが郊外SC用に開発したファッション専門店の新業態「フラクサス」を導入した。フラクサスのメインターゲットはキャリアOLや30歳前後のヤングミセスであり、アパレル・バッグ・雑貨などファッション関連商品の品揃えを充実し、百貨店ブランドも取り扱う。これまで郊外SCが対象としてこなかったファッションセンスが高く都市志向性が強い客層の新規開拓を狙っているため、ルクルの都市型店志向の思惑と一致した。フラクサスのなかにレストランスペースも置き、回遊性も高めている。

近年、福岡市中心部は大型商業開発や増床が相次いだ。キャナルシティ博多、博多大丸、福岡三越、博多リバレイン、岩田屋の移設などであるが、特に天神での商業集積は加速し、まさに一人勝ちの様相を呈してきている。九州圏内の他県の商業施設が低迷しているのとは対照的に明暗を分けてきた。しかしその間、大型商業施設の郊外化が進行していた。トリヤス久山、マリノアシティ、00年4月ゆめタウン博多、同11月イオン香椎浜ショッピングセンターと続き、昨年6月のダイヤモンドシティ・ルクル、さらには本年4月8日に直方市にイオン直方SCが開業した。イオン直方SCの核テナント「ジャスコ」は売り場面積2万㎡超で九州最大。開業3日間で目標の来場者数24万人、売上高5億円を達成し、滑り出しは順調という。SC全体の年間売上高目標は200億円。この数字は福岡・天神の岩田屋本店の売上高の4分の1弱に匹敵する。

郊外大型SCの出店攻勢で一人勝ち天神に陰りがみえ始めた。いままで都心百貨店の客筋だったファッションに敏感な層のかなりの部分が郊外SCに流出しており、郊外SCVS福岡天神の戦闘の様相が鮮明化してきている。

「日銀福岡支店が2月2日、まとめた九州の大型店の販売動向調査によると(中略) 地域別にみると岩田屋、三越、大丸といった百貨店が集中する天神地区の苦戦が際立つ。04年4-6月期から同10-12月期の推移をみると福岡商圏(福岡県、佐賀県)の売上高が前年同期比横ばいなのに対して天神地区は同4-5%台のマイナスが続いている。福岡天神などの集客力が低下し、郊外シフトが鮮明になっている。一方日銀福岡支店の調査では同年10-12月期のSCの売上高が前年同期比23.3%増え、消費全体を下支えしている」(日本経済新聞)。

岩田屋新本店では県外客の集客に比べ来店まで1時間圏内の客が減ったという。特に衣料部門の落ち込みが大きい。「博多大丸と三越は地下鉄七隈線開業効果で地下食品フロアの入店客は増えたものの買い物客を上層階まで引き上げる力に欠けるため大丸は8億円を投じ上層階の改装を進める。」(日本経済新聞)。

天神の優位性を脅かす要因として「2011年問題」と関係者に囁かれるJR九州による九州新幹線全線開通に合わせた「博多駅ビル」建て替えがある。核となる百貨店には現駅ビルの既存テナント井筒屋に加え高島屋の名前が取りざたされているが、JR九州は「天神との競争」を見据え市内最大規模の面積にする意向だ。

郊外SCと都心百貨店の客層の棲み分けはSCの大型化と都心型志向を打ち出したテナントミックスにより垣根がなくなりつつあるが、これから百貨店も郊外SCに核店舗として進出するため、福岡の流通戦争は複雑化し、さらに激化していく。その生き残り戦略には大規模化やテナントミックスだけでにとどまらず来店客分析や物流などでのIT化勝負の側面も見逃せない。次回は大型SCなどのIT戦略について書く予定。

■次回記事
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