土壌汚染調査 / フェーズ1 地歴調査
土壌汚染対策法が施行され2年ほど経過した。不動産関連業界に、これまでは対岸の火事と看過してきがちだったこの国の環境問題の深淵を突きつけた形となったが、舌を噛みそうな特定有害物質の化学名に戸惑い右往左往した混乱が今も続いている。土壌汚染対策法は、汚染が想像以上に国内に蔓延しており、それがもたらす資産価値へのダメージが深刻なことを国内に浸透させた。
(社)土壌環境センターによると国内には工場や事業所が約90万ヶ所あり、有害物質に汚染されているのは30万ヶ所ほどと推定されている。土壌汚染の調査、浄化対策コストは約13兆円とも試算されているが、巨大市場に期待した土壌汚染ビジネスが注目され、キャノンや松下電産など大手製造業は、有害物質を排除した部品を優先購入する「グリーン調達」など国際的ネットワークで環境経営にいち早く対応しているのに比べ、零細製造業やクリーニング工場などは土壌汚染の調査、浄化対策コストの捻出ができず、廃業したくても廃業もできない状況となっているらしい。
1980年、土壌汚染に関する世界初の法律「スーパーファンド法」を制定した米国が最初の10数年間は汚染除去が進まず工業都市で「ブラウンフィールド」と呼ばれる再利用の目処が立たない低未利用地が広範に放置されるという問題が発生したが、日本でも保険などの活用で将来の不確実性を解消し、民間に経済的インセンティブを与えるなど巨額の浄化費用をうまく吸収していくシステムを作らなければ一時期の米国と同様の状況になるのではと懸念されている。
先に当サイトでは、土壌汚染調査のコラムを掲載したが、土対法施行後、2年経過し、その後の状況変化も踏まえ、専門技術者でない、不動産業者や銀行の融資担当者、不動産鑑定士などでも調査可能なフェーズ1とよばれるレベルの調査手法を本コラムで紹介する。
具体的な手法論に入る前に「土壌汚染調査」、「汚染」という概念を押さえておかなければ的を得た調査ができない。調査には法律に基づく調査とそれ以外の調査がある。
1、「土壌汚染調査」・「汚染」の定義
A、法律に基づく調査
まず法律に基づく調査として土壌汚染対策法3条調査、4条調査、自冶体の条例などの調査があげられる。
- 第3条調査
- 4条調査
- 自冶体が定める一定規模以上の土地の改変によるケース
使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者等は、当該土地の土壌汚染の状況について、環境大臣が指定する者(指定調査機関)に調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない(土地利用の方法からみて人の健康被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときを除く)
都道府県知事は、土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれがある土地があると認めるときは、当該土地の土壌汚染の状況について、当該土地の所有者等に対し、指定調査機関に調査させて、その結果を報告すべきことを命ずることができる
東京都環境確保条例117条では、3,000㎡以上の敷地を持つ工場、事業所のなかの一部分の土地の造成、改築、新築の場合でも調査義務を求めている
B、法律に基づく調査以外の調査
- マンション開発など民間取引における不動産売買時に売主、買主が行う自主調査
- 融資や不動産鑑定評価などによる不動産評価時の調査
- ISO14000に基づく調査(企業が自主的に調査)
- 建設発生土調査(工事業者の自主基準で運用されていることが多い)
- 不動産の流動化やM&Aなどのデューデリジェンスの一環として行われる調査
C、「汚染」とは
次に調査の目的は、「汚染」を探査することであるが、「汚染」とはどのレベルを言うのかを定義する必要がある。土壌汚染対策法では、法第2条1項に規定する26項目の特定有害物質が、環境省令に定める基準に適合しない状況を土壌汚染と言うが、各自冶体の条例等やダイオキシン類対策特別措置法において対象にする特定有害物質が各法令等の基準値を超えていれば汚染の対象にするし、不動産取引や不動産の評価では、自然由来のものや油汚染、POPsのように土壌汚染対策法で調査義務がないものでも不動産の価格に影響を及ぼせば、より広範に土壌汚染の調査対象としているようだ。
土壌汚染があったとき人が汚染物質に曝される方法(暴露経路)として土壌汚染対策法は、
- 地下水摂取
- 直接摂取
土壌中の汚染物質が地下水に溶け出し、人がその地下水を飲む
汚染された土壌や土ぼこりが、直接、口から体内に入ったり、体に接触して皮膚から吸収される
を想定している。この暴露経路ごとに土壌汚染があるかないかの判断基準として、溶出量基準と含有量基準の2つの基準値を設定している。
溶出量基準は土壌に含まれている汚染物質がどのくらい水に溶け出すかという基準で、土壌を10倍量の水に溶出させてその検液の濃度を測定する。含有量基準は、揮発性有機化合物と農薬を除く9物質について、土壌中に人の健康に被害を及ぼす汚染物質がいかほどあるかという観点から設定されている。
▼法2条1項に定める有害物質
2、土壌汚染調査(フェーズ1)の手法
土壌汚染の具体的調査手法として、専門技術者でなくても調査が可能なフェーズ1調査と呼ばれる資料等調査・地歴調査について整理してみる。土壌汚染の有無は専門機関による詳細な土壌汚染状況調査等がなされなければ判明しない。限られた範囲で行うフェーズ1調査には調査限界があるため、土壌汚染の有無を断定できるレベルではないことに注意すべきである。またフェーズ1調査でも、関係者ヒヤリングなど案件の性格上、できない場合もある。
この調査は対象地のこれまでの履歴を辿ることにより土壌汚染、地下水汚染があるかを探る調査である。具体的には「資料調査」、「現地実査」、「関係者インタビュー」から構成される。
A、資料等調査
●公的資料調査
- 指定区域に指定されているか
- 知事から調査や措置の命令が出ていないか
- 特定施設、有害物質を使用する特定施設の土地(工場、事業所)ではないか
- 水質汚濁防止法(第15、16、17条)地下水の水質汚濁状況の常時監視結果の公表内容の確認(対象地周辺に基準値を超える結果が認められ地下水流の方向から、対象地への影響が否定できなければ「白」といえない)
- 各自冶体の条例・要綱指導指針の確認
▼法律別公的資料調査方法
- 土壌汚染対策法
- 指定区域(第5条)
- 特定施設
- 有害物質使用特定施設か(第3条)
- 措置命令の有無と内容確認
- 水質汚濁防止法
- 下水道法
- 各自冶体の条例・要綱指導指針
土壌汚染あり
土壌汚染の有無の判断はできない→「白」とはいえない
可能ならば、その施設の種別に応じた排出可能性のある有害物質を把握する→土壌汚染の可能性は高い(有害物質を適切に管理している施設では汚染は発生しないが、この判断は専門性よりみて困難)
汚染の除去等の措置(立ち入り禁止・覆土・舗装[直接摂取の場合]汚染土壌の封じ込め、浄化工事)
地下水の水質汚濁状況の常時監視結果の公表内容の確認(対象地周辺に基準値を超える結果が認められ、地下水流の方向から、対象地への影響が否定できなければ「白」といえない)
【資料調査】
①特定施設置(使用・変更)届書
②特定施設使用廃止届出書
③水質測定記録表
特定施設を各自冶体で確認
【資料調査】
①公共下水道使用開始(変更)届
②特定施設設置届出書
③特定施設使用届出書
④特定施設の構造等変更届出書
⑤特定施設の使用廃止届出書
担当部署での確認
特定施設とは次の各号のいずれかの要件を備える汚水または廃液を排出する施設で政令で定めるものをいう。
- カドミュウムその他の人の健康にかかる被害を生ずるおそれがある物質として政令で定める物質を含むこと
- 化学的酸素要求量その他の水の汚染状態(熱によるものを含み、前号に規定する物質によるものを除く)を示す項目として政令で定める項目に関し、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のものであること
有害物質使用特定施設とは特定有害物質の製造、使用又は処理をする水質汚濁防止法の特定施設をいう。
特定地下浸透水とは第二項第一号に規定する物質(以下「有害物質」という)を、その施設において製造し、使用し、又は処理する特定施設(指定地域特定施設を除く。以下「有害物質使用特定施設」という)を設置する特定事業場(以下「有害物質使用特定事業場」という)から地下に浸透する水で有害物質使用特定施設に係る汚水等(これを処理したものを含む)を含むものをいう。
●独自資料調査
「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針1」、「土壌汚染と対応の実務」、「土壌汚染リスクと不動産評価の実務」などを参考にした。
- 登記簿
- 地籍図・字図
- 住宅地図等
- 空中写真
- 地形図
- 地質図・水利地質図
土地は所有者、建物は所有者、種類から工場用途の履歴が推測、判別できるが、使用者と所有者が異なる場合、登記簿で判明しないため汚染の可能性を探れない。企業名などで業種を探る。この場合、後記の「業種と有害物質との関連表」などがを参考になる。業種により土壌汚染が発生しやすいものがあり、使用する有害物質の種類も異なるからだ。工場以外の倉庫、店舗等の場合も汚染される可能性が高い業種と特定、推測できれば可能性を疑う。
登記簿調査と合わせて汚染の可能性がある工場等から分筆されていくプロセスを追跡する。
土壌汚染される可能性がある業種を確認(図書館で時系列に地図調査)。
※空き地で産業廃棄物を埋め、その上に覆土した場合、判別困難になる(昭和46年「廃掃法」制定以前はかなりこのケースがあった)。
都市部は国土地理院がその他は林野庁が撮影している。地形を見るのには有効であり、時系列比較で特定有害物質を扱ったらしい工場配置や建造物の変遷が読める。住宅地図では分からないような、焼却炉の存在や穴を掘って埋めた様子、敷地内にVOCsのドラム缶を大量に仮置きしていた様子がある程度判別できたというケースもある。
※空き地で産業廃棄物を埋め、その上に覆土した場合、判別困難になる(昭和46年「廃掃法」制定以前はかなりこのケースがあった)。
調査地を含む周辺の大きな範囲の地形については、地形図(1/50,000、1/25,000など)から知ることができる。地形が低地であるのか、丘陵なのか、埋立地なのか、河川敷であるかを見ることで、地下水の流向や地質情報(礫や砂が多いか、粘土が多いか)などを大まかに推察することができる。
造成等で人工的に形成された地形については、それ以前の地形図や航空写真などにより重要な情報が得られる場合がある。明らかにどこから土を持ってきていると判断できる場合には、盛土の検査が必要になる場合があることや、元の地盤を調査する際には盛土を考慮した調査計画を立てて対応する必要があることが分かる(土壌汚染と対応の実務)。
地質図は、表土の下にどのような種類の石や地層がどのように分布しているかを示した地図。植生や建造物、表土などは無視され、基盤となる石や地層のみを描いた分布図である。対象地の地質汚染が人為的な埋土によるものか、自然起源の特定有害物質によるものかの判断資料となり、フェーズ2で調査範囲や深度を検討するとき有力な材料となる。汚染が拡散する状況は、基本的に地質状況によって支配されると考えてよい。例えば、粘性土では地下水が通過しにくいうえ、汚染物質の吸着能力も一般的に高く蓄積されやすいという性質がある。また、砂質土や礫質土では、これとは逆に地下水が流れやすく、それとともに汚染物質が拡散しやすいという特徴がある。
このように地質についての情報は重要だが、地形図を見ることでもある程度推測することができる。例えば、河川敷であれば礫や砂が多いとか、台地であればローム層、段丘砂礫層が存在する場所であるか、過去に水田であった場所であれば粘土やシルト層が分布するであろう、といったように(土壌汚染と対応の実務)。
地質図が特化したものとして地下水の集水域、地下水の供給源、主な地下水流を含めた「水利地質図」がある。
地下水環境基準を超える地下水と認められた場合、人為的な汚染かバックグランドかを初歩的に判定することや、人為的な汚染が発生した場合の拡散方向や影響圏などを推定する基礎的資料となる(土壌汚染リスクと不動産評価の実務)。
●関係者ヒヤリング
■当該物件を購入した時期、そのときの周辺状況(工場、倉庫の有無)、当該地が工場、倉庫であった、周辺に工場・倉庫があった場合
- どんな仕事をしていたか(時系列的に業種・作業の分類・どんな製品を作っていたか)
- どんな物質を使用していたか(薬物名、物質名、製品の特性)
- 原料保管場所、廃液・廃棄物置場の履歴
- 事故はなかったか(爆発、流失、火災、水害、地震)
- 隣接地、周辺にどんな事業者が操業していたか
有害物質が過去に工場のどの位置(どの工程)で、どのくらいの量が、どのような取り扱い(ポンプで入れた、人手で入れたなど)で用いられたかを現場聞き取りや資料等調査によって把握
有害物質がまとめて置かれるこ場合が多いことや、廃棄物の場合では、もう不要であるという感覚から取扱いが乱暴になったり、収集・ 運搬業者任せで、その業者の扱いが雑でこぼれてしまったりという事例も多く、土壌・地下水の汚染調査においては最も注意する場所の一つ。使用場所と同様に、保管場所等も過去と現在では変わっていることがよくあるので、よく調べておく必要がある。
所有者などさらに地域の事情に詳しい地元精通者から時系列でヒヤリングする。
■工業地帯であれば、周辺の工場の状況も考慮しておく必要がある。周囲の工場の事業活動によっては対象地が少なからず影響を受けている場合がある。例えば、大規模に地下水を揚水して工業用水として使っている場合は、対象地の地下水の流れる方向に影響が出る場合もあり、水田の真ん中に作られた工場が対象地であった事例では、春先に周辺において一斉に農業用水として地下水をくみ上げたため、その時期の地下水の流れる方向が大幅に変わったことがある(不動産取引のための土壌汚染対策マニュアル)。
■同一の土地でも工場立地前には違う用途であったり、別の会社の工場であったりする例がある。そのため、現在だけでなく、過去の土地の使用履歴についても調べることが、汚染が後から発見され工事に支障が出ることを防止するうえで重要。工場を取り壊し新しい工場を建てた(スクラップ&ビルド)履歴があった場合には特に注意が必要で、過去の工場であった地盤以上に建屋や設備の残がい、地盤以下に埋めたものや染み込んだものがそのまま残っている場合もあり、これに対応した調査をしておかないと、現在の表層には何もないので一気に掘削したら、2m先から汚染物が出て工事が継続できなくなったという事例も多々ある。
■対象地の地歴調査を時系列で分析する場合、環境規制が緩やかだった高度成長期と、1970年の「公害国会」とよばれ、公害関係法規14が成立した公害対策転換時期から現在に至るまでに分けた使用履歴で汚染の可能性を判断することも重要である。土壌汚染の大半は、現在の汚染というより過去の汚染が判明してきているケースが多いからだ。例えば1970年の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」以前は、埋め立て処分に関し規制がなく、事業所の内外で埋め立てを行っていたが、下表のように廃棄物の埋め立て等は土壌汚染の原因となっているケースが結構、目立つ。
▼環境庁アンケート調査による土壌汚染発生の原因行為(発生頻度順)
●現地踏査
現地に下記のものがあるときは汚染の可能性を疑ってみる。
不自然な盛土、埋立地、放置物、焼却施設、油漏れ、臭気、表土の変色、植物の枯れ死、不自然な窪地、野積みドラム缶、焼却灰の処理後、排水汚水ピット、外部への排水、人工池、排水溝、井戸の配置、地下タンク、危険物貯蔵保管庫、化学物質の取り扱い、保管庫床面積処理等
3、業種、扱い物質からの汚染リサーチ
A、業種と特定有害物質の相関
フェーズ1調査(資料等調査)で登記簿、古地図などから所有者や使用者の業種を割り出せた場合、その業種が土壌汚染を起こしやすい特定有害物質を扱っているか、下表1~3のような業種による発生頻度、業種と特定有害物質の関連を参考にして土壌汚染の可能性の調査をする。
業種では環境省が実施した「過去の土壌環境基準を超過した累積事例数のアンケート調査」によると、都道府県に届出があった574件のうち業種別では約67%にあたる384件が製造業で、電気機械器具製造業、金属製品製造業、化学工業、一般機械器具製造業、非鉄金属製造業の順になっている。
しかし 現実問題として、地歴調査で対象地の所有者等が判別できたとしても、下表などを使い、その業種、さらに有害物質との相関の有無・汚染リスクの高低まで判断するのは容易ではない。依頼者の意向や、案件の性格から専門機関にフェーズ2以上の詳細調査を依頼するほどではないといったとき、簡易判定サービス機関に依頼する手もある。
ゼンリンのベクター住宅地図の建物使用者等情報にNTTタウンページ業種情報(大・中・小分類)、PRTR情報、水質汚濁防止法情報のデータベースを連動させたGIS版「汚染可能性不動産検索システム」で調査精度に応じ、簡易・低価格な「フェーズ0.3」からはじまり「フェーズ2.0」までレベル分けされたメニューで対応しているのが雑誌「不動産鑑定」などで紹介された㈱アースアプレイザルが開発したシステムである。
同社のグループ会社㈱アースアプレイザル九州は、地場の不動産鑑定士やデベロッパーなどを対象にして、最も簡易な「フェーズ0.3」を4.8万からの料金で提供している。調査手法は米国のASTM実務規格「環境サイトアセスメントフェイズⅠ・Ⅱ技術マニュアル」に準拠。住宅地図データで昭和50年当時と現在データで汚染可能性があるところはベクター地図上に旗(アイコン)が立ててあり、アイコンのクリックで属性情報として会社名・業種(例えば大分類 窯業・土石・金属、中分類 金属製品、小分類 メッキなどと表示)、使用する主な物質や有害性、環境基準値などを一覧表示する。さらに浄化方法、用途地域、地積、道路幅員、路線価などをパラメーターにして浄化費用や工事期間中の機会損失、Stigmaを査定し、案件の減価を判定する。
▼表1:汚染の可能性の高い業種
資料:土壌汚染、その総合的対策
環境省による報告書によると超過事例(土壌環境基準に適合しない事例数)は、重金属では鉛、砒素、六価クロムが揮発性有機化合物(VOC)ではトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンおよびその分解物のシス-1、2-ジクロロエチレンに係る超過事例が多く、実際に調査すると40~50%の高割合で超過が認められている。
▼表2:業種によって出現しやすい特定有害物質
▼表3:特定有害物質とその主な用途
資料:土壌汚染対策技術
B、代表的業種の土壌汚染実態
■製造業
近年は、企業も環境対応が企業の環境格付けに影響し、ひいては株価を左右するため、土壌汚染対策に積極的に取り組んでいるが、政府による大気(気圏)や水(水圏)に比べ、土壌汚染など地圏の汚染に対する環境規制の遅れや、高度成長期の負の遺物として、工場・事業所跡地などで土壌汚染が判明するケースが増えている。
●繊維製造業
- 工場の主な業務内容
- 汚染発見経緯
- 汚染物質
- 汚染原因
ウレタンフォーム等高性能断熱材製造
工場移転のため工場解体撤去工事中
土壌(鉛、砒素、シスー1,2ージクロロエチレン、トリクロロエチレンなど)、地下水(1,1ージクロロエチレン、シスー1,2ージクロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンなど)。いずれも環境基準超過。
昭和35~40年まで廃棄物の集積場であり、埋設されていたトリクロロエチレンが入った缶が腐食して漏れ出し、微生物分解でシス-1,2-ジクロロエチレンが生成された。昭和35~61年まで、ウレタン原液の製造およびウレタン発泡を行っていた際、設備や容器の洗浄剤に用いていたトリクロロエチレンやジクロロエタンが漏洩した。
●化学工業
- 工場の主な業務内容
- 汚染発見経緯
- 汚染物質
- 汚染原因
医薬品製造
工場閉鎖で半分を不動産売却、半分に自社事務所を建てる計画中に調査の結果、汚染判明。
土壌(水銀、砒素、シス-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレンなど)
昭和38~47年まで錠剤のコーティング剤の溶剤としてトリクロロエチレンを使用、水銀は昭和40年代まで水銀含有軟膏を製造していたなど。
※「土壌汚染ビジネス大研究」三菱総研土壌汚染対策研究チーム著
■ガソリンスタンド
全国には約60,000ヶ所のガソリンスタンドが存在しており、ガソリンスタンドや地下タンクの近くの土壌や地下水で油膜、油臭、油、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン等の有害物質が検出されるケースがあり、これらの汚染は、地下タンクや地下配管などの地下埋設物からの有害物質が漏えいが主な原因となっている。漏洩したガソリン、軽油等は、比重が軽いため土壌粒子の間隙に留まりやすく、地下水面まで到達した場合には、地下水面よりも下へは移動せず、地下水の流れに乗って水平方向へ拡散する可能性が高い。
ガソリンスタンドは、消防法による届出、水質汚濁防止法で自動車分解整備事業の用に係る洗車施設(屋内作業場の総面積が800㎡未満の事業場に係るものなどを除く)や自動式車両洗浄施設を持つ場合、特定施設として届出が必要であり、PRTR法において石油卸売り業は特定化学物質の排出業種となっている。
ガソリンに含まれるベンゼンは土壌汚染法で基準(環境基準値:0.01mg/L)が定められているものの、ガソリンスタンドの汚染のメインともいうべき油類については、油汚染事故時の措置が規定されているのみで特定有害物質となっていない(東京都では環境確保条例、埼玉県では生活環境保全条例で土壌汚染調査の対象となっている)。
しかし、油汚染の発生を想定して「土壌、地下水汚染に係る調査・対策指針および運用基準」、「土壌汚染対策法」、各石油会社の自主基準に準じてフェーズ1~3を行っているのが実情である。例えば昭和シェル石油は、自社系列SSの漏洩リスクを管理するために、リスクマネジメントツールを導入し、さらに新たなビジネスモデルとして取り組んでいる。NERA(Network Environmental Risk Assessment) と呼ばれるサービスステーションの土壌汚染リスクを解析・管理するシステムがそれでサービスステーション地下埋設タンクに設置されている検知管の水を採取して成分を分析し、周辺の土壌汚染を早期に見つけ出す。早期発見により、土壌汚染の拡散防止に役立てている。
■クリーニング業界
厚生労働省による「生活衛生関係営業施設調べ」では、クリーニング所施設数は、全国で159,801施設ある。施設数の内訳では、洗濯設備を有する一般施設(おむつ、おしぼり、病院関係などの特定施設を含む)は45,848施設、取次所が113,953施設。一般施設はこの15年間で1万軒減っているが、近年の傾向として業界のFC化により、住宅地などのクリーニング店は取り扱いのみで、クリーニング工場に洗濯物を集約しているなどの影響が考えられる。クリーニング業は水質汚濁防止法の特定施設に該当するため届出を行わなければならない。
クリーニング業では国内では1935年頃からクリーニング溶剤としてトリクロロエチレンが使用されていたが、ボタンの溶解、色抜け防止でテトラクロロエチレンが使われるようになっていった。
初期の頃のドライクリーニングマシンは、蒸留時に決まって突沸し、これが周囲に拡散した。これを周囲に掘った素堀の溝に掃きだすよう指導されていたため大手クリーニング所や古くからの業者は、日常的な地下浸透を行われていた(土壌汚染、その総合的対策)。
このようなテトラクロロエチレンの不適切な使用(スラッジの埋め立て処分、ドライクリーニングマシン付帯設備からの地下浸透、不具合な排水処理施設とその処理水の散布など)で汚染が進んだ。
汚染されていればテトラクロロエチレンとその分解物が検出される。土壌・地下水中における微生物分解量が少ないため、10~20年前の汚染が高濃度のまま維持されるケースが多く、水より比重が大きく、粘性が低いという特性を持つためコンクリートを通過して地下に浸透することが多い。地下水中に溶出した場合、比重が水より大きいため、下方移動を行いながら、地下水の流れに運搬され、広範な汚染をもたらす可能性が高い(土壌汚染ビジネス大研究)。
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