不動産ファンドが熱い福岡の研究

1、不動産ファンドの福岡進出

日経スペシャル「ガイヤの夜明け」で福岡の地場不動産企業が天神に近い都心部に建設中の1棟売り賃貸マンションに殺到する外資系不動産ファンドをTV放映、さらに先月28日のテレ朝「サンデープロジェクト」では、中国企業を誘致する福岡市や福岡県の熱い期待と戦略を経済ジャーナリスト財部氏が取材と、このところ元気な福岡を取り上げるメディアが増えている。

これらの取材が象徴するようにいま、福岡のキーワードは、天神地区を中心とする最近の地価の堅調とその歴史や地理的優位性に起因する中国・アジアビジネスの将来性である。

まず堅調な地価を見てみると、04年地価公示での商業中心・天神地区の地価反転上昇。さらに今年7月1日価格時点の県地価調査では、天神西通りの地価上昇と住宅地における早良区西新7丁目、百道浜4丁目の変動率ゼロ、横ばいなど基調変化するポイントが増加し、名古屋と並び全国的に注目を集めている。

堅調な地価を実現している要因として、

  • 中央区天神では3月に岩田屋新館がオープン、4月にはRKB跡地に大型商業施設が完成し、その膨張神話は陰りがない
  • 九州新幹線の部分開業で南九州からの集客も見込める
  • 来年2月には地下鉄3号線(天神南-西区・橋本間、12km)の開通を控える

などが挙げられている。

一方、福岡の有する大陸に近い地理的優位性であるが、博多の歴史を振り返ると志賀島で出土した金印や遣隋使・遣唐使の渡航の中継地であったように古来から大陸文化がいち早く日本に伝わるアジアの玄関口であった。21世紀のいま、福岡市では中国と福岡経由の国内外物流インフラ整備が進んでおり、「上海スーパーエクスプレス」が昨秋開設された。世界規模の生産拠点・消費マーケットに膨張した上海をターゲットにして上海と福岡を高速RORO船で結んだため、対日・対中貿易を望む中国企業や国内企業の輸送メリットが高まり、福岡市への企業進出が進むと期待されている。

さらに人工島東部に「アジア国際ビジネスセンター」を開設し、人工島をアジアビジネスの交流拠点とする構想もある。福岡市は、数年後には中国企業も含め100社程度の外資系企業誘致を目指しており、中国・アジアビジネスの拠点としてその成長性が注目されている。今年6月29日の日経紙は「ビジネスの中継地だけでなく、日中の企業がアジアビジネスの拠点を置く、国際交流都市福岡の未来像が現実化し始めている」と報じている。

国内勢、外資系を問わず市内中心部の熾烈な不動産獲得競争を繰り広げている不動産ファンドが目をつけた福岡の成長力は、上記の2点に集約されるようだが、東京を中心とする首都圏での利回り低下、物件の取得難、さらにはポートフォリオ理論による不動産投資の地方分散が後押しし、福岡を照準に不動産ファンドが活発に進出しているという状況だ。

2、不動産ファンドの進出時期は…

福岡への不動産ファンドの進出はいつ頃から始まったか遡ると、98年頃からバルクセールに米系不動産ファンドを中心に外資が参入してきた国内金融機関の不良債権処理に始まる。当時は国内の不良債権の額は正確に把握できないほど巨額といわれ、北海道拓殖銀行や山一證券の破綻など、金融不安が騒然とするなかで地価はダウントレンド一辺倒、底が見えない状況でバブルで傷を負った不動産業界、機関投資家をはじめ国内企業は不動産を買うという意欲は萎えていた。リスクを取って買える国内投資家が殆ど存在しないため、外資系は銀行と相対取引で投げ売り同然の値段で不動産を買い集めた。

外資ファンドは、バルクセール、不良債権ビジネスから次第に福岡の成長力に注目したシングルアセット投資に移行し、00年ごろからこのような投資傾向が市内で見られるようになってきた。また3年ほど前から福岡市中心部の利便性が高いエリアの地価下落幅が縮小し、やがて横ばいに転じ、天神を中心に上昇を始めた。このような地価の潮目の変化と期を一にして国内不動産ファンドも市内物件の買いに参入してきた。今年に入り不動産ファンドの買いがさらに加速し、市内はミニバブルの様相を呈し始めている。

今年8月27日福岡証券取引所がREIT市場を創設したが、ディックスクロキの賃貸マンション2号ファンド、福岡リート法人の商業施設3物件など九州限定ファンドが上場予定であり、地元の個人投資家が参入しやすい投資環境が一層整備されるため、地元における不動産投資熱の裾野の広がりも期待されている。

3、福岡におけるJ-REIT、不動産プライベートファンドの状況

①J-REIT

「日本リテールファンド投資法人」が商業施設である「イオン香椎浜ショッピングセンター」、「博多区リバレインの一部」を組成不動産にしている以外は、中央区天神、博多区の博多駅近辺のオフィスビルが多く、住居系としては、「ユナイテッドアーバン投資法人」が中央区六本松、「日本レジデンシャル投資法人」が博多区博多駅南2丁目、吉塚の賃貸マンションを保有するがオフィスに比べるとまだ少ない。レジデンスは福岡でまだ購入ロットが首都圏に比べ小さいため、なかなか規模の利益を実現できないもどかしさがあるのであろうが、今後は、都心部の大型賃貸マンションなどが開発されるため組込みが進むと思われる。

福岡地所、九州電力、西部ガスなど地元企業が投資対象を九州に限定した「福岡リート投資法人」を今年7月に設立し、注目を集めた。組成物件は、大型商業娯楽施設の「パークプレイス大分」、福岡の「キャナルシティ博多」の一部と本年11月開業の呉服町のオフィスビル「呉服町ビジネスセンター」の3施設で固まった。上場時の資産規模600~700億円、最終的には2,000億円程度に拡大予定。来年6月頃に東京証券取引所と福岡証券取引所へ同時上場を目指している。

▼福岡市内に組成物件を持つJ-REIT一覧

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②プライベートファンドなど

■ディックスクロキ

今年3月、UFJつばさ証券とディックスクロキは単身・DINKS層をターゲットとした賃貸マンションを組成物件とする私募型の不動産投資ファンドを立ち上げた。中央区清川ならびに博多駅周辺の賃貸マンションを組み込んだ。資産規模30億円をノンリコースローン65%、エクイティ35%で調達、運用期間は3年。現在、2号ファンドの組成も開始しており、福岡証券取引所に新設されたJ-REIT市場への上場が予定されている。天神のディスコ跡地1,000坪の土地に建設される来春竣工予定の332戸からなる九州最大の賃貸マンションは、外資系ファンドへの売却が決定しているともいわれている。さらに天神には九州で最も高い20階建ての賃貸タワーマンションを建設中。すでに多数の外資系ファンドからオファーがきているという。

■外資系

外資の旺盛な国内不動産投資の背景には、借入コストである低金利と不動産投資利回りの差である日本のイールド・ギャップの大きさがある。最近は、利回りがやや低下したといえ、レジデンスで表面利回り8%と東京に比べまだ高い。当初は地方都市の一つとしての投資序列に過ぎなかったが、00年に入りその成長性を高く評価していることは前述のとおり。

物件を底で買って上昇トレンドで売るという単純な差益稼ぎののキャピタルゲイン狙いだけでなく、購入物件をバリューアップして不動産価値を高め、インカムリターン、キャピタルゲインの両方を狙いIRRを最大化する。低稼働のビルを購入してコンバージョンと呼ばれるビルの用途転換やりノーベーションをしてビルの経済価値を大きく向上させ賃料を大幅に値上げすることもある。

中洲地区の老舗デパート(旧)福岡玉屋跡地は、米投資銀行バブコック・アンド・ブラウンが不動産証券化の事業主体となって商業施設デザイン・店舗設計コンサルティングのアスク・プランニングセンターが不動産証券化で再開発する予定だった。閉鎖中の店舗不動産を信託して、創出される信託受益権をSPCが取得、SPCはノンリコースローンで資金を調達。SPCの設立、ノンリコースローンによる調達などは、バブコックアンドブラウンが担当するが、テナント誘致等全体のアレンジはアスクプランニングセンターが行うことになっていた。今年になり事業主体が米投資銀行のバブコックアンドブラウンから不動産投資会社のケネディ・ウィルソン・ジャパンに変更された。アスクプランニングセンターを総合プロデューサーとして再開発「タイムトンネルゲート(仮称)」を建設予定。地上11階、延べ床面積4万㎡の24時間営業の大型複合商業の完成を05年末に目指す。オープンすれば天神地区に比べ地盤沈下の激しい中洲地区の起爆剤になるかもしれない。

■地元不動産業者による不動産証券化

不動産ファンド予備軍として地元業者による市内での不動産証券化の事例が活発化している。例えば、不動産管理会社丸美、投資用アパート・マンション販売管理のシノハラ建設システムや不動産仲介業者野仲不動産などによる不動産証券化が実現した。

新聞報道によると03年9月、不動産管理会社丸美は、みずほ信託銀行・ネットライセンスを共同アレンジャーとして本社ビルを流動化し、19億円超の資金調達した。丸美は本社ビルについて信託受益権を設定し、これをSPCに19億4,500万円で売却した。SPCは必要資金の95%超をみずほ信託銀行(シニアレンダー)とノンバンク(メザニンレンダー)によるノンリコースローンで調達し、丸美はオフバランスした。04年12月にはダイア建設が保有する福岡市中央区赤坂のオフィスビル「ダイアビル福岡赤坂」を証券化予定。丸美が設立した特定目的会社(SPC)が、約25億円で物件を購入。購入資金は金融機関からの融資や丸美の出資金で調達する。

シノハラ建設システムは、資金調達と資産を圧縮を目標に自社の賃貸アパートを証券化した。SPCシノケンキャピタルに新築アパートを売却後、シノハラ建設が物件管理をSPCから受託する。対象物件は、福岡市内以外に東京など首都圏のアパートを含み単身者向けのワンルームが主体である。

不動産を証券化するための多額のコストが、ここにきて契約書などの定型化・簡易化が進み、コストダウンが実現、さらにレンダーサイドのノンリコースローンの小口化が追い風となり、中小業者でも証券化が可能な環境になった。不動産投資熱が盛んな福岡市では、地元業者の手になる不動産証券化の動きが今後、加速。これまでは、企業などのオフバランスや資金調達が主だった証券化だが、資産運用型の地元不動産ファンドが数多く誕生すると思われる。
 
4、今後の動向についてついて

福岡市内不動産の不動産ファンドの買いがいつまで続くのかというのが地元業界での関心事となっているが、懸念された長期金利は、当面は急激に上昇する気配はない。市内中心部から南は大橋、西の西新までの地下鉄、大牟田線各駅から10分以内という好立地の優良物件は、県外不動産ファンドに地元建売アパート・賃貸マンション業者などが参入した熾烈な獲得競争で今年に入り価格が高騰している。不動産投信や私募不動産ファンドによる物件取得は、収益価格で投資採算分岐点を検証しているため、収益価格と乖離して取得価格がこのまま天井知らずに高騰し続けると考えにくい。つまり利回りは2年で1%低下しているという指摘もあるように物件購入価格の過熱がすでに指摘されている。

供給過剰による収益力の低下とそれに連動する物件価格の下ブレリスクが業界で懸念されている。特に福岡は東京と並んで賃貸物件の供給過剰傾向が強い。供給過剰による賃料低下は、投資不動産価格の下落を再び起こす可能性もある。長期的視点で見るとオフィス系、住居系ともに需要の先行き不安がある。つまり、07年頃から始まる団塊世代の大量退職でオフィスワーカーが激減する。住居ニーズも団塊ジュニア需要が一巡後は不透明である。地方政令都市のなかでは、ずば抜けたポテンシャルの高さと投資環境の整備もあって不動産投資物件が短期で急激に失速すると考えにくいが、中長期的にみるとかなり危うい要因を抱えていることは見落とせないようだ。

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