不動産証券化 / 中小不動産業者の参入が進む

1、小口化・地方化の進行

不動産証券化といえば中小不動産業者にとって大手不動産、外資、信託、証券会社がアレンジャーとなって活躍する雲の上、別次元の不動産投資の世界という印象が強かったが、最近になって不動産証券化の小口化、地方化が急速に進行し、不動産証券化参入の敷居は一挙に低くなっている。ベンチャー企業がアレンジャーとなって証券化した4,600万円の賃貸アパートも大阪に出現しており、不動産証券化を業務拡大に活用しようという不動産業者が全国各地で急速に増えている。

(社)不動産証券化協会で調査研究部長を務める久郷幸夫氏によると「私どもでは昨年度、国土交通省からの委託により、首都圏以外での不動産証券化の実態調査を行いました。地方で個人投資家を対象に発行された不動産証券化商品は、200億円程度あることが分かりました。額としては少ないですが今後、確実に増えると思われます。(中略) 全国地方都市で開催したセミナーに不動産証券化に関心がある会社がたくさんご参加いただきました。「どういう風に取り組めばよいのかわからない」という声がたくさん聞かれ、本格的な発展はこれからだと思います」(月刊不動産流通)。

不動産証券化が小口化、地方化にシフトしている背景としては、

  1. 地方では地銀を中心とする不良債権処理がまだ進行中であり、不良債権処理が峠を越えた首都圏に比較して不良債権流動化のニーズが強い
  2. 小規模物件の証券化でこれまでネックとなっていた証券化するための多額のコストが、ここにきて契約書やデューデリジェンスなどの費用を定型化・簡易化が進み、準備期間の短縮化、コストダウンが実現しているため、例えば3億円程度の小口案件の証券化も採算が取れるようになってきた
  3. 東京の投資市場が過熱しており、特に投資物件の購入価格が高騰しているため、利回りが低下している。比較的高利回りの地方の物件の投資妙味が評価され、組成物件の地域分散というJ-REITなどのポートフォリオ戦略と相俟って地方化が進んでいる

本来、東京都心を中心とする案件の資産価値が高い大規模物件ほど市場ニーズも高く、流動化が意外に容易であるが、地方の地銀をはじめとする金融機関レベルの案件の場合は数億円単位の小ロット物件が多く、小口案件ほどリスクが高いため流動化がこれまでは容易でなかった。このクラスの案件は投資家のかなりの需要が見込めるため、不動産の証券化という新たな手法を導入することで不良債権の流動化が加速するという期待が膨らんでいる。さらに銀行サイドの不良債権処理後のポジティブな戦略として特に地方で資金需要が低迷しているなか従来のコーポレイトファイナンスに代わるノンリコースローンの開拓は急務となっている。ローンのマーケット拡大は、これからは地方の小口物件に波及していくのは必至なため、ノンリコース融資ノウハウを持たない地銀は、地域の中核金融機関として機能し得なくなるからだ。

本来、地域経済や不動産事情に精通し、あのビルの人気はこうだとか、ローカルエリアの不動産の目利き、ビルのオーナーから個々の不動産投資家の懐具合まで微にいりカバーできる地域の地銀ならではの地域密着の強みは、他の追随を許さないはずである。

例えば全国の地銀で最初にノンリコースローンを導入した福岡銀行は、グラウンド・ファイナンシャル・アドバイザリー(東京都港区)をアレンジャーとする不動産証券化案件「呉服町ビジネスセンタービル」にレンダ-として参入している。地元大手デベロッパー福岡地所が福岡市博多区に竹中工務店施工で建設中の事業規模約90億円の地上10階建地下1階の大規模オフィスビルでポストモダンの巨匠・建築家マイケル・グレイブス氏を設計に起用して話題となつた。事業主体の福岡地所が住友信託銀行にビル不動産を信託し、所有権を移転。これにより取得する信託受益権を国内に新たに設立する有限会社SPCに譲渡。福岡銀行は当該信託受益権を引当財産として、SPCに対して60数億円のノンリコース・ローンを実行する。SPCはテナントからの賃料を福銀への融資返済や出資者(機関投資家など)への配当に充てる。ローン実行後の建物管理業務およびテナントリーシング業務は、引き続き福岡地所が行う。福銀事業金融部は「不動産流動化を通じて事業融資に取り組むことで収益機会の拡大や地域経済活性化につながる」と期待している。

不動産証券化への融資はコーポレートファイナンスとは異なり、ノンリコースローンになるが、ノンリコースローンは通常、SPCの保有資産に限定して責任財産を求めるため資産金融(asset finance)と呼ばれている。金融機関は、ローンの性格上、不動産プロジェクトに参加するのと近いリスクを負うので物件のデューデリジェンスが必要となる。デューデリジェンスなどの結果、LTV(担保に対する貸し付けの割合)、DSCR(年間支払い元本および金利に対するNOIの割合)を算定するなどの専門知識やノウハウを持った人間でないとNRLを担当できない。ノンリコースローンレンダ-として、融資案件のリスクマネジメントできる人材はメガバンクでも限られるめ、地方銀行が不動産証券化案件をキャッチアップしていくにはある程度の時間がかかるという見方もあるが、ここにきてNRLの浸透速度は予想以上に速まっており、福岡市でも地銀数行が抱えているノンリコースローン導入検討中の案件がすでにかなりの件数に上るといわれている。

2、中小不動産業者も不動産証券化に参入

首都圏を中心とする大手業者の領域と見られこれまで敷居が高かった不動産証券化市場に地域の有力不動産業者をはじめとする所謂、街場の業者が相次ぎ参入している。地域の有力業者は不動産証券化のどこにメリットを感じているのだろうか、タテマエで語ると地場企業の不良資産を証券化でオフバランスすることで「地域不動産の再生」を図り、これによる顧客となるべき地方の不動産投資家を組織化できるメリツトだが、業者の本音は、証券化不動産の運用による管理業務の受託、テナント募集・仲介による手数料収入、入居・退去時のリフォーム発生、ファンドの出口での売却に伴う手数料収入という経済的メリットがあげられる。地域で不動産証券化を手がけたという実績は、業者の信用力を上げ、先進的業者としての注目を集めブランド力も高められる。

これらの地方業者の不動産証券化の規模は、1ファンドあたり5~10億円が多く、なかには大阪府堺市の㈱ジエイ・アムズのように賃貸アパート4,600万円を取得し、投資家への配当利回り6%で証券化した事例もある。

前述のように不動産証券化のコストダウンが相当進んでいるためこれらの業者の参入が容易になっている。従来は、不動産証券化を行うためにはスキームの合法性のチェックや参加者間の契約締結のためにレンダー側、SPC側のそれぞれの弁護士が契約書を膨大な手間をかけて作成したり、環境会社が行う土壌汚染調査、ゼネコンなどによる建物のエンジニアリングレポート、地震リスク調査(PML)、不動産鑑定評価、必要に応じ格付け機関の格付けを取るなど複雑で膨大なステップ数の遂行を必要とした。これらに要する時間とコストを考えるといままでは少なくとも数十億単位の証券化でなければ事業採算が取れなかった。しかし国内でも証券化がすでに数多く実行され、それらのプロセスがデータベース化され、モジュール化されることにより、契約やデューデリジェンスなどの定型化・簡易化が可能になり、組成ロットの小さい証券化でも採算が取れるようになった。

独立系アレンジャーであるサタスインテグレイト(東京都品川区)とネットライセンス(福岡市中央区)は共同で、鑑定評価額が最低3億円の中小規模不動産も証券化対象となる不動産証券化システム「SATAS-NETシステム」を開発した。サタスインテグレイトの佐藤一雄社長は三井不動産時代に不動産小口化商品第一号「トレンディ」を商品化し、不動産シンジケーション協議会に出向し、不動産証券化関連法制度の整備を推進したことで有名である。契約書など定型化したレディーメード型証券化スキームの採用でコストダウンを実現した。

レンダーサイドのノンリコースローンのローン金額が数十億単位からどんどん小さくなっているのも中小業者に追い風だ。最近は2億円ぐらいでも融資対象となるようになった。例えば、新生銀行は、グラウンド・ファイナンシャル・アドバイザリー株式会社およびみずほアセット信託銀行株式会社と共同で、収益不動産を実質的な引当財産としたノンリコース・ローンに関する新しいスキームを開発した。単一の特別目的会社(SPC)を用いて複数のノンリコース・ローン案件を随時組成することが可能となるマルチアセットプログラム(MAP)と呼ぶこのスキームは、ローン金額で2億円くらいの中小規模の不動産にも対応する。通常のノンリコースローンと比較して1/3程度の初期コストを実現し、SPC設立及び運営に係るコストが大幅に低下した。小規模案件であっても合理的なコストでのノンリコース・ローンによる資金調達を可能としている。

3、地域業者による不動産証券化事例研究

地域有力業者の証券化事例として熊本県熊本市の地場不動産業者コスギ不動産の証券化のケースを見てみよう。熊本市でコスギ不動産が「ライズ二号特定目的会社」を設立。ちなみに先の不動産証券化案件ライズ一号は、00年12月20日に九州財務局へ業務開始の届出を行った改正SPC法に基づく日本第1号の証券化案件となった。新築賃貸マンション「ライズ平成さくら通り」と築5年の小型商業ビル「K-LINEビル」を組み合わせた。店舗・住戸部分はコスギ不動産がサブリース契約を結んでいる。

出資総額は3億1千万円。約80%に当る2億4千8百万円を第一号優先出資とし、残り6千2百万円を第二号優先出資とした。第一号優先出資を一般投資家向けとし、残り20%に当る第二号優先出資部分を同社が劣後出資として取得。03年11月から公募で募集開始し、投資家74名を集めた。一口5万円で優先部分が4,960口、配当は一口につき2,000円、4%の利回りとなる。期間3年6ヶ月、一人当たり平均投資額は約500万円となっている。まず賃料収入から諸経費を控除した残額から一般投資家が購入した第一号優先出資の配当金を支払う。その残余があった場合、劣後出資の配当を支払う。

資産流動化法によるTKM方式を採用した証券化だが、優先出資に優先・劣後構造を設け、劣後出資をオリジネーターであるコスギ不動産が引き受ける形態としている。オリジネーターであるコスギ不動産が全体の20%を構成するハイリスク・ハイリターンの劣後出資を引き受けることでこのスキームの出口でキャピタルロスが発生しても20%以内であれば投資家に及ばない。

資産流動化法を採用した場合、法人税非課税要件が厳しいため、最近のスキームはTKM方式よりもSPCに有限会社を使い投資家からの資金は匿名組合契約で集める手法へ移行している。有限会社(YK)やKK(株式会社)を特別目的会社(SPC)にして、資金調達はデッドをノンリコースローン・社債、エクイティを別途、匿名組合(TK)契約にして投資家から資金を集める「YK・TK方式」や「KK・TK方式」と呼ばれる手法である。このケースではSPCがローンを借りるだけで法人税が非課税になる。特に有限会社の場合は、最低資本金が株式会社の1,000万円に比べて300万円で済み、役員の必要員数も少なくお手軽に設立できる。会社更生法が適用されないため、レンダーサイドの担保権が更正担保権を構成するリスクが少ない。

不動産証券化スキームではSPCがオリジネーターなど他の企業が倒産しても影響されないような独立した状態(倒産隔離)におく必要がある。倒産隔離により他の企業の経営状態に左右されることなく、定められたとおりキャッシュフローが流れ、金利・元本の償還が確実に行われるように仕組みができる。従来はケイマンのチャリタブルトラストを用いることが多かったが、所要コストが高くつくので最近は、国内独自のスキームとして有限会社中間法人の活用が増えている。
 
地域有力業者による不動産証券化事例は相次いでいるが、投資家への販売は、地域内の業者の取引先などが主体となっており、不動産証券化の認知度が一般に低いため当初は業者の信用力などで一般投資家を集めている。配当などで実績を残せば投資家の募集は次回から好調のようだ。神奈川県平塚市の地場建設・不動産会社丸山工務所は賃貸マンションなど6棟を対象にSPCを設立。総額2億6,500万円の優先出資証券を発行した。このうち1億3,250万円を公募し、地元の資産家らを中心に4日間で完売した。第一号ファンドで成功し、自社所有ビル、賃貸住宅で組成した20億円規模のファンド「ユーミープレア3号」も1週間で完売させた。

勿論、物件がネットで8%以上の安定した利回りを稼ぎ、出口で大きく値下がりをしないことが必須である。地価のダウントレンドが支配的な地方では不動産投資可能エリアは狭められるため需給予測などシビアなエリアマーケッティングが欠かせない。キャピタルロス対策として償還期限を3年程度の短期としたり、優先・劣後構造を上手く設計してハイリスク・ハイリターンからローリスク・ローリターンまで多様な投資家に投資魅力のある商品に仕上げていく努力が求められている

■関連記事
  地方不動産業者の不動産証券化
      

おすすめ記事