不動産投資の最新トレンド / 個人投資家、国内不動産ファンドの投資分析
1、活況を呈する国内不動産投資
国内の不動産投資熱が盛り上り、個人投資家から企業、国内機関投資家、外資まで日本の不動産投資がヒートアップしている。バブル崩壊後、長期に亘りデフレ圧力となっていた金融機関の不良債権処理がここにきて急速に進み、地価も東京都心を中心に、札幌、名古屋、福岡など地方政令都市で一部のエリアであるが反転の兆しがでてきたなど不動産投資のマインドが好転してきたからだが、不動産投資案件の出口として不動産投信などが根付いてきたことも大きい。資産運用のための不動産証券化スキームで多くの私募不動産ファンドも誕生した。
上場企業が減損会計の施行を睨み保有不動産を盛んに売却していることもこれらの不動産ファンド活況の追い風となっている。都市未来総合研究所調査では、上場企業が売却した土地・建物の購入先の4割以上を不動産投資信託(J-REIT)やファンド設立に使われる特定目的法人(SPC)が占め、これまでの主たる買い手は、建設・不動産から不動産投資ファンドに様変わりしている。J-REITをはじめとする不動産ファンドが東京都心の地価を元気にしているといっても過言ではない。
活用件数が低迷していた定期借家・借地もここにきて投資不動産の流動化に貢献し始めた。例えば定期借家は、キャッシュフローの安定や投資不動産の乗り換え戦略に欠かせないため、不動産投信などに活用されており、定期借地は、戸建て、マンションなどの住宅供給面では通常所有権物件の販売価格の低下の影響で低迷気味だが、いま流行のスーパー銭湯や都心一等地の寺院の建て替えにいたるまで意外に広範な土地活用に寄与している。
03年1月から改正建築基準法が施行され「天空率」を比較することにより従来の道路・隣地・北側斜線規制による建物の高さ制限の影響で容積率を消化できなかった敷地の高さ制限がなくなり、容積アップが見込めるため土地の有効利用の選択肢が広がった。マンション業界など天空率による住戸・階数の増加で事業収支が好転する可能性が高まり過去の検討物件の再評価をするところが増えている。建物のボリューム増だけでなく天空率の適用で塔状建物を建てれば斜め壁などがなくなり景観の良い建物形態や売れる間取りなどのプランニングも容易となるため土地の効率利用を促し潜在価値を上昇させる。
バブル崩壊とその後の失われた10年の失速の経験は、不動産投資はリスクが高いというイメージを植えつけてしまったが、不動産投信の堅調な配当利回りの実現と市場拡大は、低金利の追い風もあって不動産投資の負のイメージを払拭しつつある。このような環境変化で不動産投資に消極的だった機関投資家が動き出した。不動産証券化協会のアンケート調査によると銀行、保険会社など機関投資家の88%がREITに45%が私募不動産ファンドに投資している。
また市場を支える賃借人サイドに意識変化が始まっている。資産デフレの影響で消費者の資産形成意欲が減退し、気楽に転居ができる賃貸人気が高まり、これまで賃貸は分譲を買うまでの「腰掛け」とされてきたが、景気回復にかかわらず回復しない所得に対する不安もあってオーナー経営者などの富裕層も先行き不安から分譲より高級賃貸を選び始めた。
個人投資家によるいわゆるアパマン(アパート・マンション)不動産投資も、年金や雇用・所得の将来不安の増大とペイオフ解禁を反映してこれまでにない盛り上がりを見せている。低金利下の資産運用として不動産投資は魅力的な選択であるからだが、実物不動産である従来型のアパマン投資からJ-REITまで個人投資家の不動産投資は新たな広がりを見せている。特に昨年7月に解禁されたJ-REITを運用対象に組み込んだファンド・オブ・ファンズ(FOF)は1万円程度から投資できるため今後、個人投資家の参入が拡大するといわれている。
活況を呈する不動産投資であるが、このまま不動産投資市場が拡大を続けるかというと、さまざまな課題があるのも見逃せない。不動産投信や私募不動産ファンドによる物件取得は、収益価格で行われるため、本来は賃料などから計算される収益力に裏付けられ合理的地価水準を超えるバブルを生むはずはないが、東京都心の優良物件の利回りは2年で1%低下しているという指摘もあるように物件購入価格の過熱が指摘されている。さらに景気回復を受けて6月17日長期金利が1.94%まで上昇したように今後、長期金利の上昇リスクが高い。長期金利の上昇は、他の金融商品の利回りと比較して相対的に不動産投資の魅力を劣化させ、不動産投信をはじめとして調達金利を上昇させ収益を悪化させる。米国では今年4月に長期金利が約1%上昇したため全米不動産投信協会が算出するNAREIT指数が4月で14%の大幅な下げを記録している。
また供給過剰による収益力の低下とそれに連動する物件価格の下落リスクも指摘されている。オフィス系、レジデンシャル系(住居系)を問わず供給量が需要量を超えているという懸念が業界内で強い。団塊世代の大量退職という2010年問題のオフィス需要への影響、また既存、新規開発賃貸マンションの不動産投信や私募不動産ファンドへの組み込み、分譲予定マンションの不動産ファンドへの一括卸値売却など高品質住居系賃貸不動産の大量供給が進んでおり、需給悪化が予測されるからだ。
以上、今後の不動産投資市場の拡大を阻害する主要な要因として不動産価格上昇による利回り低下→収益悪化→不動産価格の下振れ懸念、長期金利の上昇、供給過剰をあげておきたい。
個人投資家によるアパマン不動産投資などから不動産投信、私募型不動産ファンドまで国内不動産投資勢の潮流変化と今後の動向を以下に概観してみよう。
2、個人投資家によるアパマン(アパート・マンション)投資
個人投資家による実物不動産投資として代表的なのは新築ワンルームマンション・中古マンションの専有部分1戸単位投資、ハウスメーカーなどによる土地保有地主によるアパート建築投資、定期借地による土地活用さらには稼働中の中古アパートを購入しての投資などがあげられる。マンション投資は、新築ワンルームマンションで表面利回り5%前後、中古マンション投資で築年にもよるが10%前後と現在の低金利下では魅力的な商品となっている。
土地保有地主へのアパート建築投資は、戸建て需要を支える団塊ジュニア世代の購入サイクル一巡後を睨んだハウスメーカーなどにより積極的な営業攻勢が続いており、家賃保証システムなどを採用し、土地が投下資本にならない分、新規・既存稼動アパートの土地・建物複合投資に比べハードルレートは低目で設定しても投資として成り立つ。現状では建て替えに問題が多い区分所有のマンションに比べ、アパートの一棟投資は、定期借家の組み合わせなどで再建築・再投資の戦略も立てやすい利点を持つ。
しかしこれらの個人レベルの不動産投資全体に指摘されるのは個人投資家を対象とする実物投資不動産のインデックスや有益な統計開示情報インフラが未整備で、投資不動産の種別毎に時系列的に整理された賃料変動・空室率のデータなどを容易に取得できないため、不動産投資に伴う将来リスクを十分に把握できていない個人投資家が多いという点だ。また個人投資家レベルでのこれらの不動産投資は参入が容易である分、概して不動産投資計算や運用ノウハウの蓄積が乏しい。その結果、賃料下落、稼働率の低下、ローンの調達金利上昇に対するリスクヘッジ体制が十分に構築されてないケースがかなり見受けられる。不動産証券化スキームを活用し、SPCなどに不動産を保有させ、自らは長期下落の可能性が高い不透明な不動産の保有をせず、不動産を持たない経営に徹した不動産ファンドなどが、不動産購入時の詳細調査にはじまり投資不動産運用についても金融工学やDCFアナリシスを駆使し、豊富な資金力でポートフリオを構築しリスク分散したり、ヘッジをできる体制を確保しているのと比べると限られた資金と投資情報にも関わらず大半が長期保有を前提として不動産を抱え込む個人投資家の投資スタイルはかなりリスキーともいえる。
今後、予測される最大のリスクは、J-REIT、私募不動産ファンドに組み込まれた住居系賃貸不動産やハウスメーカーのアパート建築、ワンルームマンションなど専門業者の新規開発物件が大量に供給されることだ。供給過多を反映し、不動産情報サービスのアットホームがまとめた最新の賃貸アパート・マンション市場動向調査でも需給悪化が鮮明になっている。
「7月の首都圏の賃貸アパート・マンションの成約件数は9,573件と前年同月比で10.3%減少した。前年割れは4ヶ月連続で単月では今年最低の水準となった。登録物件の増勢は一服してきたものの賃貸需要の鈍化が鮮明になっている。(中略) 首都圏の1戸当たり平均成約賃料はマンションが同1.5%安い99,600円、アパートが同1.5%安い66,200円。都心では不動産会社が募集時に設定したマンション賃料を成約時点で大幅に減額する傾向が強まっている」(日経産業新聞)。
今後の個人投資家によるアパマン投資などは、所得二極化→賃料二極化・類似競合物件の大量供給対策として、明確な差別化に徹し、競争力が劣る中途半端な没個性物件に投資しないという姿勢が確立されてなければ生き残りは難しい。
3、不動産投信(J-REIT)
不動産投信の総資産規模(取得物件額の合計)は、拡大を続けている。今年月末の約1兆6千億円から3年後の07年3月末までに約3兆3千億円に拡大する見通しだ。内訳は上場組が現在より7割多い約2兆7千億円に増やし、上場予定組も約6千2百億円の資産保有を見込んでいる。既存のオフィスビルや商業施設が主な購入対象になっている。
不動産投信は、豊富な資金流入を背景に多様な物件を購入し、特定物件の稼働率に業績が左右されない体質を築き収益源を多様化するため、一層の拡大を各投信が目指す。 最近の動きとしては、東京都内の分譲マンションを過剰供給で販売に不透明感が増してきたマンションデベロッパーがJ-REITなど不動産投資ファンドに一棟丸ごと売却する動きが広がり始めている。マンションデベロッパーは、モデルルームの設置費用や販売費、人件費を削減でき、不動産投資ファンドなどは賃貸需要の旺盛な都心部の物件を分譲予定価格より10~15%安く購入して賃貸で上げた収益を投資家に還元するという構図になっている。
不動産投信の購入者は、投資先を分散化したい地方銀行や年金基金、国内個人投資家さらには海外投資家も名を連ねている。「日本リテールファンドの外国人持ち株比率は22%(2月末)。ジャパンリアルエステイト、オリックス不動産も15%に達する」(日経金融)。
急速に拡大してきたJ-REITだが、今後を展望するといくつかの問題点も見えてくる。まず現状のJ-REITの物件購入の量と速度からみた過熱感だ。川口有一郎早大大学院教授によると「米国の10倍のスピードで成長しているJ-REIT」であるが、上場後発組は実績作りを急ぎ、無理な価格で購入しているため将来売却できないリスクも抱えているという指摘がある。さらに「都心の優良物件が買えず、いずれ競争力を持たなくなるような中型のビルなどを購入するREITもある。近いうちに大量の新規資金を要する大規模修繕や建て替えが必要な中古ビルを多く組み入れているところもある。収益力を悪化させて配当を下げ、資金調達に苦慮するREITが必ず出てくる」(日経産業新聞)。
次に先にふれた長期金利上昇リスクがある。「長期金利が上昇していけばプレミアムは剥げ落ち下落リスクが大きくなる。そう考えるとJ-REITが規模を急速に拡大できるのも、あと1-2年程度だ(川口有一郎教授談 日経金融)」という見方もでてくる。
つまりファンドバブルといわれる都心不動産の高騰をもたらしたJ-REITなどによる物件の囲い込みが、取得価格の上昇で収益悪化をもたらし、組成物件のなかには将来のコスト増や競争力の劣化リスクを抱えている。さらには長期金利の上昇が商品魅力の劣化と調達コスト増で収益力低下をもたらすというJ-REITに内在する成長の阻害要因は、広範に賃料と地価が上昇していけばある程度解決も可能だが、米国不動産投信のように移民で人口が増加し、ヒスパニック系などの旺盛な住宅需要で地価が支えられている社会構造と先進国では最悪と言われる本格的な少子化・人口減少を迎える日本の国内構造が異なるため賃料や地価の今後の上昇シナリオを描くのは難しい。
ジャパンリアルエステイトなど一部のREITでは、格付けを取得したり金利を固定した長期資金調達のスキームを利用したりし始めたが、米国のREITのように不動産の譲渡益課税の繰り延べを認めるなどオリジネーターからREITへ保有物件を移転しやすくするなど市場が成長しやすくする規制緩和も必要となる。
4、私募不動産ファンド
私募不動産ファンドは、 機関投資家や事業法人など特定の投資家から資金を募り、不動産投信に比べ1物件あたりの投資ロットは小さいが、 ファンドが独自のバリューアップを行い、高い投資利回りを目指す。 さらにノンリコース・ローンを利用し収益にレバレッジを掛けることにより、より高い収益性を実現する。 住信基礎研究所によるアンケートとヒアリングを基にした私募型不動産投資ファンドの実態調査でその平均像を見てみると、「回答があった20のファンド会社が運用中のファンドは合計37本で、現時点で取得済み不動産は4,681億円、これに対して目標額は2.5倍の1兆1,990億円に上り、今後も現資産を上回る不動産の取得を進めようとしている、強い投資意欲が明らかになった。調査結果から平均的なファンド像を抽出すると、目標利回りはIRRベースで10~14%が最も多く、平均は13.6%借入金比率(LTV)の平均は74.2%で、運用期間は6年が平均。投資家数は1ファンド1~3人が多く。平均でも9.2人と10人未満であった。50%程度のLTVを上限値に中長期的な運用によって不特定多数の投資家を相手にする上場REITと異なり、特定少数の投資家の求めに応じて不動産を取得・運用する私募型ファンドのイージーオーダー的要素がうかがえる」(月刊不動産鑑定)。
さらに同研究所の試算によると、私募型ファンドの資産は今年3月末で1兆3千億円規模で1年で倍近くになったが、今後3年間で2兆7千億円まで膨らむとみているように拡大を続けている。特に今年になって下表のように国内私募不動産ファンドの投資意欲は高い。
▼今年度中に新設される主な私募不動産ファンド
資料:日経金融新聞
日経金融新聞で不動産アナリスト石沢卓志氏は、不動産投信と私募不動産ファンドは投資対象とする案件の性格が異なるため両者は共生が可能で相互にで物件を交換する例も出てきていると指摘している。つまり上場不動産投信が投資する案件は比較的大規模ビルが多く、収益確保の安定性が保証される反面、収益性は抑えられる。一方、ハイリスク・ハイリターンの私募不動産ファンドの場合は、小規模ビルをバリューアップして売却し高いIRRをあげることが目標となるため収益確保の安定性に欠けるが収益性は高い。つまり両者は投資対象を異にするため補完関係にあるといえる。
私募型不動産ファンドは、収益性が劣るビルを低コストで取得し、ファンドが所有し、全く別目的のビルに生まれ変える。例えば三井不動産は、流動性や収益性に劣る不動産を取得し、コンバージョンやリノベーションによって商品力を高め、3年間の短期運用で機関投資家やなどに売却し、年率10%以上の投資利回りを投資家に提供するバリューアップ型の私募不動産ファンド「三井ジェムストーンファンドⅠ」を組成した。東京・中央のオフィスビル「銀座アイタワー」はホテルに改装中で、仏系大手ホテルチェーン、アコーに貸し、10月に高級ビジネスホテル「メルキュールホテル銀座東京」として開業する。東京・新宿で取得したオフィスビルは専門性の高いクリニックを集めた医療ビルに転換した。三井不動産の独自ノウハウで付加価値をつけ、収益性の劣る仕入れコストの安いビルを高収益ビルに蘇生させ高いIRRを実現する。三井不動産はアセットマネジメントとファンドマネジメントを担当し、想定以上のパフォーマンスを上げた場合はフィーが連動して上がるインセンティブ方式を採用している。
私募不動産ファンドの今後の展開を予測すると不動産投信と同様の成長阻害要因が存在するが、私募不動産ファンドの場合、不動産投信が借入比率40~50%に抑えているのに対し、レバレッジをより効かせるため借入比率70%程度と高く、案件によっては80%程度のものもある。調達金利が上昇し、出口戦略のシナリオが狂うと新たな不良債権になる可能性も高い。さらにファンドの組成物件の多様性もリスクの火種になりやすい。倉庫、定期借地、結婚式場など融資対象もキャッシュフローが安定的でない案件に広がってきたからだ。
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