ハウスメーカーによる住宅密集地再開発

東京都市部の古い民家が稠密に集積する住宅密集地の再開発に大和ハウス、旭化成ホームズ、積水ハウスなど住宅メーカーが積極的的に参入している。大規模再開発といえば大手不動産などデベロッパー、ゼネコンがまず思い浮かぶが、都心部の比較的中小規模の住宅密集地などの再開発の場合、その事業成否は地権者、借地権者など関係当事者の迅速な合意形成にかかつている。合意形成には各権利者を一人ひとり説得する地道な活動を要する。このような活動は法人営業を主体とするゼネコンやデベロッパーなどよりも、個人向けのきめの細かい営業が得意な住宅メーカーが得意とするところである。

住宅メーカーは、再開発に伴う移転先の相談・紹介から税金問題、借家人立ち退き交渉等できめの細かい対応のノウハウを住宅営業経験者をはじめとして蓄積している。さらに自社に賃貸住宅の経営支援体制を有し、共同化の不参加者には自社の住宅を販売する等の幅広い対応が可能である。主力の戸建て注文住宅の着工件数は直近のピークだった96年から4割以上減少しており、長期的にも拡大は見込めない。住宅マーケット全体が縮小しても需要拡大が見込める分野として、独自の強みを持つ上記分野への参入が相次いでいる。都内に残る住宅密集地は立地条件が良いことも事業を後押ししている。

JR中野駅の北方に在って徒歩5分、併用住宅、アパート、戸建などが混在、密集したエリアがある。アパートの敷地は幅員2.7mの前面道路に約13mの接道間口で接しており、奥行は46m、ここに築50年以上経過した木造老朽アパート「サキガケ荘」が建っていた。今年3月、大和ハウス工業は、鉄筋9階建てのマンション「レジデンスさきがけ」として再生させた。周囲の街並みから異彩を放つこの建物の外観は人目を引いている。レジデンスさきがけは大和ハウス工業の密集地再開発事業の第1号案件となった。

1階部分は共有スペース(管理人室、エントランスホール、自転車置き場など)。2~8階の賃貸スペースは、ファミリー向け2LDK、専有面積50㎡、1フロア5世帯をベース。最上階9階はオーナーの自邸と3LDKの賃貸住宅が配置されている。

再開発までの道のりは険しかった。土地所有権と借地権などが混在し、権利関係が錯綜し建て替えまでなかなか至らなかった。一般論として底地の地主にとって継続時代による収益性は極めて低い。将来の相続を視野にいれると借地関係を解消を希望しているケースも多く、反面、借地権者は、通常は高齢化しており、いままで永く生活してきた居住の場を離れたくない、地域コミュニティが長期にわたり形成されているため遠方への転居は抵抗がある、あるいは借地権価額の清算を望む声もあるなどなどさまざまな関係当事者の要望があるが、これらの個々の利害や要求を調整し、再開発というプロジェクトのテーブルに載せていかなければならない。

大和ハウスは独自の「新等価交換方式」で建て替えを実現させた。「新・等価交換方式」は、従来型の等価交換が開発者が建設費を負担する代わりに余剰容積率から顕現する保留床というべき完成後のマンション住戸を取得し、デベロッパー帰属住戸部分の販売によってデベロッパーの事業利益を得るという従来型と異なり、新等価交換方式ではデベロッパーの利益は土地所有者が支払う建設代金に限定され、デベロッパーが完成後のマンション住戸を取得することはない。この方式では借地権者は借地権価額に相応する完成マンションの部屋など区分所有権を取得。残りの借地権者が取得する部分以外すべては土地所有者が取得できる仕組みとなっている。

「レジデンスさきがけ」は、RC造9階建て、総戸数36戸の共同住宅に生まれ変わったが、取得内訳は、全36戸のうち、土地所有者が31戸、借地人が5戸となった。賃貸物件30戸はすべて即日で入居者が決まった。

大和ハウスはオーナーの投資効果の向上、新しいマンションが建設されたことによる地価への好影響、有効空地確保、密集地の不燃化促進、防災の改善など数々の事業効果を謳っている。

大和ハウスは、再開発事業に参入してから約3年だがここにきて急速に実績を伸ばしている。「今年度は東神田(千代田区)、日本橋浜町(中央区)、浅草(台東区)など東京23区内、約20ヶ所でサキガケ荘と同様の密集地再開発に着手する計画だ。プロジェクトの総事業費は合計で2百億円にのぼる」(日経産業新聞)。

旭化成ホームズも都市部の住宅密集地などの開発事業に意欲的で実績を上げている。92年から開始され、現在まで45棟の等価交換事業による共同建て替え・マンション分譲の実績を有し、さらに今後マンション分譲事業を拡大し、5年後をめどにマンション開発など都市再開発事業の売り上げを5百億円程度に引き上げる。

「今春には同社初の大型再開発マンションのアトラスタワー小石川(東京・文京)が完成した。さらにJR日暮里駅前(荒川区)、上目黒(目黒区)、西新宿(新宿区)など都内5ヶ所で東京都や区が主導する開発プロジェクトに参画する。旭化成ホームズは高層複合ビルなどの建設を請け負う。日暮里駅前のプロジェクトでは参加組合員として設計手配や施工の発注業務などを担当、地上38階建てと40階建てのマンション2棟を建設する。住宅戸数は1棟当たり230~240戸。日暮里駅は住宅や店舗が密集しており、権利関係も複雑だった」(日経産業新聞)。

新宿区の同潤会江戸川アパートの建て替えは同社によるものとして注目されたが、今後もマンションの管理組合の責任者などを集めて再開発の問題点を討議する「マンション座談会」を3~4ヶ月ごとに開催するなど積極的な需要掘り起こしを狙う。

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