際立つ名古屋、福岡の最新地価動向
地価が反転し、堅調なのは東京の地価だけではない。東京一極集中が進むなか衰退が指摘され続けた地方であるが、ここ数年元気な地方都市の躍進が目立っている。その代表が東海の名古屋、九州の福岡である。
東海は業績好調のトヨタ自動車の本拠地であるうえ、シャープ亀山工場(三重県亀山市)などデジタル機器関連の生産拠点も多い。愛知県の02年の製造品出荷額は約35兆円と既に26年連続で日本一だ。
製造業の好業績は、雇用を拡大する。愛知県の2月の有効求人倍率は1.26倍(季節調整値)と11年ぶり高水準。生産現場やコンピューター設計技術者の不足が目立ってきた。旺盛な雇用は、名古屋の住宅需要や消費を拡大し、住宅地、商業地の地価に好影響を与える。
九州圏内も景況感改善が鮮明になっている。東海と同じ自動車と電機がけん引役だ。福岡県苅田町にある日産自動車の主力工場、昨年度の生産台数は約53万台と過去最高を記録した。さらに従来型製造業にとどまらず産官学が結集した国内有数のシステムLSI(大規模集積回路)の研究開発の集積が進行しており、ハイテク化により都市構造が高度化しているという側面も見逃せない。
九州圏内で一人勝ちの様相を呈しているのが商圏が膨張する福岡市天神地区である。九州圏内はもとよりアジアの近隣諸国まで包含し、天神地区の商業重心は、さらに拡大、南下し、商業集積は巨大化している。
躍進する名古屋、福岡に共通しているのは、都心商業エリアの驚異的ともいえる商業集積の加速と、交通アクセスなどの整備の進行に加え、マンションに牽引された都心回帰が進んでいることだ。
J-REIT、不動産ファンドは、オフィスビル、賃貸マンションなどファンドの組成物件に組み込むため、不動産投資のステージを東京集中から地方の優良不動産に分散させているが、名古屋、福岡の成長性や潜在力を注目しており、今後の両都市の地価トレンドが注目される。
1、地価公示価格動向 名古屋
04年地価公示では、名古屋市における各区の商業地の下落幅は、南区を除く全ての区で縮小した。特に、都心商業地である中区の下落率は8.3%から3.2%、中村区は7.9%から3.8%となり、下落幅が大幅に縮小し、地価が上昇した公示地も出現した。名古屋都心部(中村区、中区)の商業地11地点の価格が上昇に転じた。具体的には、名古屋駅前地区6地点、栄南地区4地点、大須地区1地点で、上昇率が1位となった名古屋中村5-35(名駅南1丁目2401番外、名古屋三井ビルディング本館)は、変動率+4.4%となった。住宅需要は都心部、特に地下鉄沿線のエリアが強く、マンションの供給も地下鉄桜通線、東山線沿線が多い。
2、沈む大阪、躍進の名古屋
トヨタをはじめ業績好調な地元企業に支えられ、名古屋に進出する企業も多い。日経紙によると大手コンサルティング会社、ボストンコンサルティンググループは昨年10月、第2のオフィスを名古屋に開いた。水越豊・名古屋事務所代表は「トヨタグループ以外にも、名古屋には世界市場でトップクラスの企業が多い」と語る。一方、大阪に進出しないのは「大阪の企業は本社機能が東京にあるケースが多い」からだとも。大阪では企業の本社流出が続き、地盤沈下も目立つ。
転出・転入による人口増減を見ると、愛知では80年代後半から増加基調。30年前には愛知の人口は大阪の7割程度だったが、今では8割まで近づいた。
製造業の好業績は、名古屋の消費を拡大し、サービス業を押し上げる。「100億円近くを投じ増床したのは松坂屋名古屋店の南館。売り場面積は約8万7千㎡と14%増えた。売上は前年比2ケタ近く増えた。残る北館と本館も今春以降、リニューアルする。一方、大阪では2店の閉店を決めた。」(日経04.15)
04年に名古屋駅前のセントラルタワーズの入居テナント、ジェイアール名古屋高島屋の売上高は毎年2ケタ前後の伸び率が続き、00年開業以来の累積損失を解消した。開業4年足らずで累積損失を解消したわけで、この回収スピードは、デパート業界の常識を変えた。
松坂屋名古屋店の並びには05年開店を目指して三越の専門館の建設が進むほか、丸井の進出もうわさにのぼる。JR名古屋高島屋の成功以降、セブンイレブン・ジャパン、ビックカメラ、マツモトキヨシなど流通大手の名古屋進出も相次ぐという。
3、目白押しの都心再開発
名古屋市は、都市圏人口1,000万を擁し、戦災の壊滅的破壊から戦後の大胆な復興計画・区画整理により碁盤目状の整然とした街区を形成した。近年、中心部の再開発が活発で、1999年竣工のJRセントラルタワーズを皮切りに高層ビルが建設されており、07年夏、供用開始予定の牛島再開発ビル(仮称)建設事業(名古屋駅前地区のランドマークとなるようなシンボル性の高い都市景観を創出するオフィス棟を中心とする)さらには、07年完成予定の名古屋駅前に位置する毎日新聞ビルとトヨタ系列の豊田ビルの建替えによる再開発がある。高さ250mの超高層ビルには、東京にあるトヨタ本社の営業部門が入居する予定であり、新たなトヨタ村が駅前に出現することになる。
名古屋駅前のオフィスビルの開発ラッシュは、周辺の老朽ビルの空洞化をもたらすため、ビルの建て直しを進行させ結果的に大規模な再開発効果をもたらすものと期待されている。
交通アクセスも飛躍的に向上し、する予定だ。03年12月13日地下鉄4号線が砂田名古屋大学間開通し、都心アクセスが向上した。地下鉄沿線の名古屋大学をはじめとする大学、高校などの教育機関を擁する文京地区の背後には市内の高級住宅街が形成されており、都心アクセス向上により、さらに背後商圏が強化されると期待されている。
今後も、第二東名名神高速道路や東海北陸自動車道などの整備に加え、名古屋都市圏外周部に東海環状自動車道、名古屋環状2号線が整備されることにより、広域、都市圏内を巡る交通ネットワークが完成する。さらに陸の交通拠点だけでなく、港湾輸出トップ額の名古屋港に加え、05年2月に中部国際空港「セントレア」が開港するため、文字通り陸・海・空の全てが結節する交通の一大ネットワークが実現する。
日本ビルファンド投資法人が、04年3月30日、名古屋市中区栄のオフィスビル「広小路東栄ビル」を取得したが、外資、私募系不動産ファンドも名古屋戦線に参入している。
4、地価公示価格動向 福岡
名古屋、福岡の04年地価公示価格は、底離れせず地価下落が依然として続く地方都市のなかで、横ばいや上昇地点が出現しており全国的な注目を集めたが、福岡市天神は、すでに一昨年の平成15年地価公示価格で、天神1丁目が11年ぶりに横ばいに転じるなど、天神の一等地では下げ止まり傾向が鮮明になっていた。
04年の公示価格は、福岡市の中心部、福岡市中央区天神一丁目で同地域の最高価格地点である商業施設「天神コア」は、前年比3.0%値上がりした。中央区天神では3月に岩田屋新館がオープンしたほか、九州新幹線の部分開業で南九州からの集客も見込め、さらに4月にはRKB跡地に大型商業施設が完成、来年2月には地下鉄3号線(天神南-西区・橋本間、12km)の開通を控えるなど、商業地としての潜在力向上が織り込まれて公示価格が上がったと言える。
こうした傾向は、周辺の大名、今泉地区に波及し、変動率ゼロの地点が現れている。天神のテナント賃料の高騰により、このエリアに若者に人気の衣料、雑貨店が建ち並んできた。民家やビルの1階を利用したユニークな店が多く、若者の人気スポットとなっており、東京資本の進出が盛んでテナントの空きが殆どないといわれている。
住宅地も都心回帰が顕著で都心天神に近いほど下げ止まりの傾向がでてきており、中央区大濠や早良区西新などの市内有数の高級住宅地は、利便性やブランド力を反映し、数年前から下げ止まりの兆しを見せてきたが、ここにきて底離れの気配を鮮明にし遠距離の郊外住宅地が依然として下げ止まらないのと対照的な動向を示している。
5、膨張する天神
「シャッター商店街」この言葉に象徴されるように疲弊が著しい地方都市の中心商業地は、いまや国内では日常化しているが、福岡の天神は別次元の賑わいと躍進を遂げている。商業集積がさらなる商業集積をよび、その膨張神話は、大型商業施設を全国から吸引しており、九州においてその集客力は際立っている。やや回復してきたとはいえ国内消費不況のなか、天神エリアだけは、さながら別次元の異星といった感すらある。
毎週土曜日、JR博多駅や西鉄天神バスセンターには県外からの天神目当ての買い物客が特急や高速バスで繰り出してくる。週末の天神の買い物客のうち3割が福岡都市圏以外からの客で占められている。
近年、天神開発は南下しており、96年岩田屋別館「Zサイド」、97年福岡三越、03年ビッグカメラ天神2号店と相次いだ新規開店は南サイドに集中した。ここ数年で「天神の重心移動による、消費者の流れは100m以上南下した。」という調査結果もある。05年春の市営地下鉄3号線開業、地元放送局RKB毎日放送旧本社跡の商業ビル「BiBiフクオカ」の建設で、さらに南下傾向が進む状況だ。
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