二世帯住宅の最新トレンド
■見直されてきた二世帯住宅
大家族、3世代親子同居、いつしか核家族化で失われていったこの生活スタイルの良さが最近、見直されてきた。住宅メーカーもほどよい距離感を保てる分離型住宅の販売に力を入れはじめた。03年1月から「相続時精算課税制度」が新設されて3,500万円まで非課税となったことも住宅ブームを後押ししている。
住宅メーカー各社の基本コンセプトは、価値観の相違や、ジェネレーションギャップなどいろいろと問題が多い一つ屋根の下の住宅よりも、お互いの生活に立ち入らないですむ「隣居」という発想である。親世帯、子世帯が互いに戸建て感覚で、生活機能を完全に分離し、並住するという感覚である。
同居ではなかなか円滑な関係を保ち続けるのは難しいが、隣居であれば、子育てに親世代の貴重な知恵を借りることもできるし、疲れない程度で孫と遊ぶこともできようというものだ。
住宅メーカーは、プライバシーの観点から間取りや遮音性の高い壁の素材を工夫し、世帯分離とほどよいのコミュニケーションの維持を同時に実現できる設計や、資産価値の長期維持の観点から将来のコンバージョン(用途転換)も視野にいれてきている。区分登記した場合の節税効果も期待できるため、最大の持ち家予備軍と位置付けている団塊・団塊ジュニア層をターゲットにしている。
■基本パターン
住宅の基本パターンは、次の4つが基本形である。
- 同居型
玄関が一つ、一階の一角にミニキッチン付きの8畳間が一室ある程度。プライバシーが保てない
- 内階段型
玄関は1つで、玄関ホールにある階段で2階に直行できる。上下に分離するため一応のプライバシーはあるが、玄関で出入りがわかるため、気を使い煩わしいという難点がある
- 外階段型
アパートのように外階段で2階に直行するので、顔を合わせることはなく、プライバシーは保てる
- 連棟型
2軒が隣り合って住むスタイル。玄関が別々で2棟の家が合体したような建て方で、プライバシーは理想的に保てる。この住戸スタイルは、世帯間の界壁を建築基準法所定の防火構造にすれば、区分所有建物として別々に独立登記することも可能。将来、一方を賃貸住宅に転用することも可能となる
上記で①以外は各世帯を用途・構造的に独立した住戸として「区分所有登記」ができるケースが多い。区分所有登記ができれば、各戸に住宅融資を受けることが可能。また住宅ローン控除も2戸分が適用される。さらに住宅を分離して区分登記する場合は、各戸の面積が比較的小さい場合に適用される優遇措置を活用して、同居型の大規模な1戸を建てるより、不動産取得税や固定資産税が軽減される。
ローンも区分登記され、家の中で各世帯に自由に出入りができなければ、住宅金融公庫から分の融資を受けられる場合がある。ただし、登記と公庫の審査は見方が異なり、出入りが可能でも、鍵のかかる扉などで区分されていれば構造上の独立性があるものとして登記上は2戸とみなすが、公庫は耐火壁などで遮断されていなければ2戸と認定しない。居室数やバリアフリー化などの条件を満たせば、450万円の割り増し融資を受ける方法もある。
■住宅の具体的モデル
ハウスメーカーの住宅の最近のモデルを見てみよう。
●パナホーム「ソルビオス コア」
パナホームは分離同居型住宅「ソルビオス コア」を発売した。完全に分離し、玄関を通じて以外、互いの家には入れない。分離することで生活習慣の違いで生じる音の問題などのトラブルを防止した。例えば、階層で住み分ける上下分離タイプについて、高遮音床を採用。トイレの壁に防音材を施した防音ドアにしたほか、トイレや台所の排水管を防音材で包んだ。
自然なコミュニケーションにも配慮した。「セパレートテラス」がそれだ。それぞれの居間からテラスを張り出し、互いの世帯からは行き来できないが、会話ができる工夫が凝らされている。
同社の得意とする重量鉄骨構造により、狭い敷地でも2軒分の家を建てられる。足場がなくても防水工事などができる独自の狭小地工法で、敷地境界の端までの建設も可能で、30~150平方メートルの都市近郊地域向けに売り込む。
ソルビオスコアは、長期間、資産価値を維持可能とする「コンバージョン(用途転換)」も視野に入れている。同社のサイトによるとコンバージョンの実現は同社の「重量鉄骨NSラーメン構造」で可能となるとしている。空間の活用効率が高く、生涯配慮を実現する「スケルトン&インフィル」方式に一番適した構造と言え、建物を構成する150mm角の重量鉄骨は十分な強度があるため、間仕切や耐力壁を必要とせずにフルオープンの広々とした大空間・大開口の設計が可能。将来的な間取りの変更はもちろん、家族構成やライフステージの変化に合せた用途転換や増改築(リフォーム)にも容易に対応できる。
●旭化成ホームズ「ヘーベルハウス こ・こ」
旭化成ホームズは、2つの独立した世帯がほどよい距離を保ちながら共に住めるかという発想から「ヘーベルハウス こ・こ」を発売した。住宅はプライバシーを重視するあまり、分離がメインテーマとなってきたが、「ヘーベルハウス こ・こ」では、日本の大家族主義の長所を尊重しながら、親世帯・子世帯がお互いにとっていちばん快適な距離感を、自在に調節できる家をコンセプトに各世帯が独立しつつも交流できる「親子共生住宅」のしかけを盛り込んだ。親世帯と子世帯は各自、独立した台所、浴室、トイレ、居間を備える。互いの視線も交わらないよう工夫し、基本的な生活は別々に営む設計となっている。
正面では完全に独立した分棟スタイルだが、両世帯をつなぐ役割を果たすのは、双方のリビングルームが接する中庭だ。L字型の住宅2棟で中庭を囲むような設計で、中庭に出れば両世帯が交流できる。中庭に向けて大きな窓を設置。両世帯に自然の光と風をふんだんに取り込むとともに、ふたつの家族が中庭を中心にふれあいを深められるようにと考えられた設計だ。また、中庭はパーゴラによって室内に近い感覚の空間とすることで、屋内と戸外、親世帯と子世帯の連続性を高めている。また中庭を仕切れば、片棟を賃貸として活用できる。
■住宅の今後
住宅生産団体連合会の調べでは、02年度に東京、大阪、名古屋の3大都市圏と札幌、仙台などの地方都市圏で成約した戸建て注文住宅に占めるの割合は約18%だが、今後も増加する可能性は高い。
住宅はいままでのスクラップ&ビルドでなく、循環型社会に適応した長寿命化とコンバージョンの可能性という方向に向かうため、高齢化が進行する社会背景も加え、住宅は支持されると思われる。親世帯について言えば、本格的高齢化社会の到来に備え、動線を考慮したバリヤフリーの機能、さらには介護が可能な居室の設計などが求められる。また子世帯の子供の成長にあわせた内部空間のフレキシビリティの確保も重要となる。
今後の住宅に求められるもの…プライバシーの確保と家族の暖かみを育める共生の健康住宅という言葉に尽きよう。
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