中国進出の日本企業の現状
近年、雪崩を打って中国へ生産拠点を移転した日本企業であるが、ここにきてコアとなる高付加価値技術を必要とする生産技術を中心に日本国内に回帰していると3月6日の日本経済新聞は伝えている。
経済産業省と各都道府県は昨年1年間に1,000㎡以上の工場用地を取得した企業を対象に調査した。取得件数は約1,020件と02年に比べ20%増加、取得面積は前年比40%増の約1,200万㎡であった。日本経済新聞の昨年9月の調査では03年度の海外向け設備投資見通しは前年度比7%減少。国内が生産拠点として見直されている様子が浮き彫りになった
薄型テレビ、デジタルカメラなどデジタル家電関連の好調さを裏付ける積極的設備投資が牽引役になっているのと同時に中国、アジアなど海外の完成工場向けの基幹部品・製品の需要が増加しているのも寄与している。中国など海外移転の動きはなお根強いものの、海外移転が困難な高付加価値の生産技術は国内にとどめるという製造業のグローバルな生産体系の再構築が進行し始めている。
例えばキャノンは大分市にデジタルカメラの新工場を建設したが、中国の広東省珠海にキャノンが全額出資する従業員7,000人の米国、日本向けの輸出専用工場「佳能珠海」を持つ。日本流の部品圧縮のカンバン方式や1人が多工程を受け持つセル生産方式を採用し、03年の売上高は前年比10%増の700億円を見込み、05年にはカメラの売上高構成比を25%から50%に拡大予定だ。日本の大分工場をマザー工場とし、佳能珠海のように人件費や設備償却費を究極まで合理化、効率化することでキャノンは連結ベースで今期550億円のコスト削減を図っている。
日本の対中輸出が好調で「中国特需」が日本の景気回復を牽引しており、「中国脅威論」が影をひそめた。技術集約的生産技術の日本の国際競争力は高いため、国内生産で中国へ輸出することがコスト的に見ても可能となってきている。日本企業の商品や生産技術別に振り分けた工場新設・再編の棲み分けは国内、海外を問わず生産の一層の効率化を志向するグローバル経済下で今後も進むものと思われる。
中国に進出している日本企業の収支の現実はどうであろうか、中国ビジネスは日本と法体系や商慣習が異なり、合弁相手との利害調整が困難で途中挫折した企業も数多く、かつて「中国ビジネスは儲からない」と言われた。
日本貿易振興会(ジェトロ)の最近のアンケート調査では回答した1,263社の日系企業のうち64%は営業黒字を確保しているという(日経産業)。UFJ総合研究所中谷巌氏によると「赤字企業はこの数年の間に40%から20%以下に減った。払い込んだ資本金に対する経常利益率20%以上の高収益企業が2割以上に上る。4~5年を待たず投資資金を回収できる好循環の企業が増えてきている。売上高経常利益率6%以上の企業も全体の半分を超えている」(週間エコノミスト臨時増刊)。
中国は、海外企業が中国国外に輸出するための単なる生産拠点というだけでなく、世界の巨大消費市場という顔を併せ持つ。年8%の高度経済成長による国民所得の向上で消費マーケットが成熟化し、その膨大な人口インパクトで巨大な世界の消費市場へ姿を変えているため、海外企業は、中国マーケットでの販売で利益を上げることが可能になった。
中国に生産拠点を置く日本企業の共通の悩みは、各拠点間の連携がバラバラで資材調達、物流などが非効率的であり、さらに進出先の人件費や工場のレンタル料の高騰に加え、物流コストがトラック輸送が主流であるため製品価格の5~10%を占めるまでに高騰している点である。
バラバラになっている拠点を統括し、販売の効率化や原材料、部材の一括調達を実現するため、大手企業は上海や北京に統括会社を設けだした。例えば中国国内に59拠点を持つ松下電器産業は、昨年春から販売会社だった松下電器(中国)を統括会社に位置づけ、中国事業の一体化を始めた。
人件費などのコスト上昇に対し日立家用電器は上海にエアコンの生産拠点を持つが、さらに低コストが実現できる燕湖市に将来の白物家電の拠点ををつくるという壮大な構想の下に進出した。「燕湖市の日立家用電器の労働コストは上海の3分の1程度、同社と取引する部品メーカーが後を追って進出しており、安価な部品調達が可能となっている」(日経産業)。
日本企業は人件費、工場のレンタル料の高騰を避け、より内陸へと生産拠点を移転している。
中国国内のリスク要因も指摘されている。中国政府はインフレ懸念とこれに起因するバブルに警戒を深めている。世界的な食糧、原材料の価格上昇に加え、現行の為替制度を維持するため中国人民銀行は人民元の対ドル相場を狭い範囲に収まるように外貨を吸収し、元に交換している。実にGDPの約10%の1兆1,459億元を市場に放出している。公開市場操作で一部は吸収しているが、不動産投資、銀行の過剰融資になっており、国有企業向けの不良債権問題が深刻なだけに金融危機を招く懸念も大きい。
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