NTTデータの不動産情報サイト個人情報漏洩事件
ヤフーBBの顧客情報流出をはじめ個人情報の漏洩事件がこのところ噴出し、世間を騒がしている。この種の事件の共通点は外部からの不正侵入というより、殆どが内部犯行が多い。サーバーやストレージなどシステム面や設置場所のセキュリティを厳重にしても内部犯行は防ぎようがない。05年4月の個人情報保護法が完全施行されると情報漏洩を起こした事業者は罰則を受けるようになる。企業は信用失墜だけで済まなくなる。
この種の漏洩事件があまり発生しなかった不動産流通分野も無縁ではなかった。それも単なる内部の人間の過失ではなく、下克上さながらの組織ぐるみの情報争奪戦の様相を呈した事件が起きた。
NTTデータは12月10日同社の運営している不動産情報サイトHOME4U(ホームフォーユー)の利用者の個人情報4,312名分の情報を記録したノートパソコンを紛失したと発表した。情報の中味はHOME4Uの不動産価格査定依頼サービスを利用した、4,312名の査定依頼情報、すなわち住所・氏名、電話番号、土地建物の面積、査定方法などのデータである。なお今回紛失した個人情報には、不動産仲介会社からの査定結果等、利用者の査定依頼情報以外は含まれていないとしている。
漏洩の直接原因はNTTデータがHOME4Uの運用を委託している株式会社ネクストの社員が、HOME4Uの利用者情報が入ったノートパソコンを通勤途中に紛失したためであるが、ネクストではパソコンのデータを暗号化するなどの対策を取っていなかったため、情報が第三者に不正利用される怖れがある。
ここまでは単なる馬鹿なベンチャー企業の単なるパソコン紛失事件のようだが、実はこの事件には組織的な関与が存在していたようだ。「日経コンピュータ」によると、紛失した社員は情報へのアクセス権限を持ってなく、情報の持ち出しも禁じられていた。NTTデータサイドはアクセス権限を持つネクストの社員が情報をダウンロードし、紛失した社員に渡した。ダウンロードはネクスト自身が不動産査定サービスを始めることを計画し、NTTデータが収集したデータを分析するために行われたと見ている。
なにやら企業間の情報戦争の闇を垣間見るようで慄然とするが、視点を変え、この事件で注目を集めた不動産情報のポータルサイト「HOME4U」の仕組みを見てみよう。大手不動産会社とSI、GISのNTTデータにポータルサイト運営実積を持つネクストというIT業者が提携し、ネットでの不動産流通のビジネスモデルを練りあげただけあって随所に新しい不動産流通の仕掛けが見られる。
「HOME4U」は、NTTデータとネット・ベンチャーのネクストが不動産ポータルサイトを運営し、これに東京建物、野村不動産アーバンネット、三菱地所住宅販売、有楽土地住宅販売など大手不動産会社が参加し、中古不動産物件を売買する消費者にとって、ニーズにあった取引機会の拡大を図り、より透明性の高い不動産売買の環境づくりを目指していくことを主眼として平成13年11月28日に立ち上げた。
「HOME4U」では、売却希望者向けと購入希望者向けの2つのサイトがそれぞれ独立し、融合しており、各サイトは、顧客の売りたい、買いたいというニーズにあわせて、それぞれの希望に沿った情報やサービスを提供。売主サイドとしては個別依頼するケースが多かった物件価格査定を、複数業者に同時にサイト上で依頼することが可能である。また価格と面積、または価格と間取とのマトリックス表示で提供される売り出し価格情報の提供は、売主に値付けの際の価格指標を提供する。買主サイドも 従来は、不動産流通各社が個別に保有している物件情報がサイトで統合され、利用者に対して豊富な物件情報(約5,000件)の共同提供を受けることができる。
さらに、不動産の取引時にリフォームのニーズが発生した場合、三菱地所ホームや有楽土地住宅販売のリフォーム部門、テレウェイヴリンクス社、INAXや東京ガス等が設立したホームクリップ社と連携を図ることによって、消費者のニーズに対応し、土地等を購入した後の戸建ての建築ニーズに対しても、大成建設、野村ホーム、三菱地所ホームとの連携を図るという不動産周辺業務を集約したワンストップサービスの極致とも言うべき先端的システムを構築している。
話は情報漏えいに戻るが、NTTデータは「運用ルールの監視ができなかった当社にも非がある。運営ルールを再度徹底する」と謝罪し、当面はNTTデータのアクセス権限を持ったなかでも極めて少数の限られた者しかサイトを閲覧できないようにした。
不動産流通が後進的で閉鎖的マーケットであったのは昔の話で、いまやネット空間に売り買いの情報は凝縮され、そのビジネスモデルの模索や、サイトの覇権をめぐって熾烈な競争が繰り広げられる業界に変貌を遂げている。
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