峠を越えた不良債権問題と企業再生ビジネス

■峠を越えた不良債権処理

ゴールドマンサックス証券のデービッド・アトキンソン氏は01年7月、全国預金取り扱いベースでの実質不良債権は170兆円と指摘した。これは当時、大方の予測より厳しい数字として注目を集めたが、同氏は03年10月3日の日本経済新聞で不良債権は03年3月末現在、87.4兆円まで激減したと書いている。氏の調査はデフレを勘案した企業にとっての実質金利に基づく破綻懸念先の定義を独自に行ったうえで、上場企業3,411社の財務内容を1社づつ分析した結果を積み上げるボトムアップ分析で、真の不良債権の規模を推定したものだ。不良債権とその要処理額が減少した最大の理由は銀行が03年3月までに総額で66.8兆円もの累積不良債権損失を処理したからに他ならない。例えば木村剛氏で有名になった「30社リスト」の借入金は03年3月末にはピークから45.2%減少していると指摘している。

中小企業に対する処理は残るものの国内の不良債権問題は峠を越えたという各紙の報道は定着してきたようだ。さらに大手行の03年9月期中間決算期末の不良債権残高が、今年3月末に比べて13%程度減少し、総額18兆1,000億円規模に圧縮される見通しとなり、通期の04年3月期には、2年連続の減少となるのが確実となった。不良債権処理費用の減少に加え東京都の外形標準課税の返還金も加わり大手行の収益力に改善の兆しが見えてきた。日本経済の重しとなってきた不良債権問題もやっとここにきて改善の軌道にのってきたといえる。

■相次ぐ大手銀行の企業再生会社設立

不良債権処理とビジネスチャンスの拡大を狙った企業再生会社のセットアップが大手銀行を中心に相次いでいる。大手銀行は要注意先、要管理先の過剰債務の借り手企業を正常先にするための再生支援をすることで回収額を最大化できるインセンティブが働くため、企業再生の新会社を設立し、不良債権を銀行本体から分離して移管したり、専門部隊を01年頃から組織している。別会社にすることで外資系投資銀行など外部ノウハウを利用しやすく、企業再生や資金回収が加速するという銀行側の狙いがある。経営、法務に強い企業再生を専門とする経営コンサルタント会社にアウトソーシングしたり、外部のファンドを活用するケースもある。ファンドはサービサーや物流網・販売網ルートなど業務上の課題解決策を持つ商社、その他複数の事業会社と組み、カネ、人材、ビジネスモデルを織り直して企業を再生する。従来のように不良債権を売却するより、取引先の過剰債務企業を再生させて不良債権を正常債権に引き上げ、さらに企業価値を高めることができれば、新規融資の機会が拡大する可能性もでてくる。

■官業による企業再生の明暗

日本政策投資銀行が企業再生で存在感を高めている。01年、小泉内閣は、政府の改革先行プログラムで、企業再生ファンドの設立促進を盛込んだ。さらに政府の方針を受け、日本政策投資銀行が外資系主導だった企業再生ファンドを日本で促進する役割を担うことになった。政投銀は官業で民間の企業再生ビジネスとは利害が相反する立場にあるが、現時点では民間再生ビジネスのニーズの受け皿となっている。

まず信用補完、数少ない国内のリスクマネーの出し手となっており、政投銀が銀行が回収リスクが高く融資を控える法的手続きに入った企業につなぎ資金を供与する「DIJファイナンス」など再生企業への融資を拡大している。

再生を目的とした官業の産業再生機構は不振が目立っている。「銀行に大幅な債権放棄を求め、企業に経営者の責任を厳しく問う強硬イメージが定着してきており、再生機構に行きたくないと各都道府県に設置された中小企業再生支援協議会に駆け込んでいる」(日経10.08)。皮肉なことに協議会は案件数に悩む再生機構と対照的に要請企業1,886社、うち支援を決定したもの17社、再建中79社という繁盛振りである。再生機構は再生が見込まれるか案件を詳細に検討し、再生委員会に諮り支援の是非を決めるまでの間、企業に倒産リスクなどが発生しても対応ができない硬直性が機構の利用を敬遠する要因となっているようだ。

■民間再生ファンド

企業の再編・整理が進み、企業再生のビジネスチャンスが膨らんでいるため、国内勢が相次ぎ企業再生ファンドをセットアップした。特に02年に入ってから外資系ファンド、国内資本のサービサー、RCCと入り乱れて競合し、補完しあう新たな不良債権ビジネスへ広がりを見せ始めた。これまでの再生ビジネスは外資のプライベイト・エクイティ・ファンドにより不良債権ビジネスの一環として行われてきたが、再生ビジネスは、外資に加え、産業再生機構の創設やRCC、さらに銀行、証券、事業会社も子会社などを通じ再生ファンドへ参入しており、日本経済新聞社の調査では企業再生ファンドの投資件数は述べ400社強に達している。

■外資系再生ファンド

企業再生のノウハウでは豊富なトラックレコードと人材で優ると言われている外資であるが、外資のなかにはメリルリンチ、米ゴールドマン・サックス、米モルガン・スタンレー、米リーマン・ブラザーズ、UBSウォーバーグ(スイス)などの外資系証券会社もあれば旧長銀買収で名を馳せ、バッシングも浴びたリップルウッドのような企業買収専門のファンドもある。またゴールドマンサックス、サーベラスのように不良債権のデッドの投資とエクイテイの企業再建も行うファンドを持っているグループもあるがいずれも企業再生を強化している。

外資進出の草創期、バルクセールで短期売買型の美味しいビジネスができた米系不動産ファンドも当時のような高いIRRの実現や投資魅力の高い案件の取得の機会は、減少している。もはや金鉱は採掘されつくされたからだ。さらに時価買い取りが解禁され、法改正で入札参加も可能となったRCCや国内の不動産ファンドとの競合が加わり、米系不動産ファンドをめぐる投資環境は厳しくなっているため、なかにはディ-ルのロスを抱え撤退するファンドも見られる。米系不動産ファンドの多くが企業再生を主体とした投資への転換を志向している。

19世紀のマサチューセッツ・トラストに投資信託の起源を持つといわれる米国であるが、1970年代、年金基金が不動産投資に参入して以降、ポートフォリオ理論などの金融技術と不動産が融合した不動産投資理論が急速に進化した。1980年代の貯蓄貸付組合(S&L)の大量破綻を契機にファンドの設立や活動が活発化した。なかでも企業再生ファンドは、破綻企業や事業の一部を買い取り、経営者を派遣、ビジネスモデルを変え、リストラを断行して経営を改善し、第三者に売って利益を上げるという再生手法を駆使する。成否の鍵は、投資先の業界に精通したインダストリアルパートナーの存在である。そこから投資企業の収益力、技術力、キャッシュ・フロー、保有資産、リストラ余力をスクリーニングし、再生が可能か、再生のための具体的手法、さらにはM&Aやプライベート・エクイティの対象となりうるかなどの決断をする。主な投資家は米国の年金基金や保険会社、投資信託などである。

外資系証券会社はM&A(合併・買収)にともなうコンサルティング業務や企業再生ビジネスを強化している。日本に進出し、活動している外資系の企業再生ファンドには、リップルウッドのほか、ローンスター、あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)の筆頭株主となる米サーベラス、米カーライルなどがある。

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