戸建住宅におきてるトレンド

1、戸建住宅をめぐる市場環境の変化

最近、戸建住宅が健闘している。着工戸数は02年度まで3年連続減少したが、今年度4-7月は5月以外は前年比プラス。6月は13.4%と大幅な伸びを記録している。国土交通省の直近の10月31日発表の新設住宅着工戸数にもこの傾向が報告されている。

国土交通省が10月31日まとめた9月の新設住宅着工戸数は前年同月比1.2%増の98,369戸と2ヶ月ぶりに増加した。貸家や分譲マンションは低調だったが、持ち家や分譲1戸建が堅調で、全体でも増加した。持ち家は前年同月比10.8%増と2ヶ月連続で増加した。国土交通省では地価の底打ち感や値ごろ感に加え、株価や長期金利の上昇などを背景に需要が堅調だったと分析している。アパートなど貸家は3ヶ月連続で前年同月を上回った。3ヶ月連続で減少したのは00年10月以来ほぼ3年ぶり。年末のローン減税の期限切れを意識した駆け込み着工が6月に膨らんだ影響と分析している。ただ下期は反動減が予想され、通年では115万戸を下回る公算が大きいらしい。

持ち家や分譲1戸建が健闘している背景には、年末のローン減税の期限切れを意識した駆け込み着工もあるが、各ハウスメーカーの本格的少子化社会を迎えようとしている危機感から、売れる商品を追求する熾烈な開発競争が見逃せない。

次章で従来の固定観念を打ち破る建築技術、建築基準法改正に合わせたエコ建材と呼ばれる住む人の健康に配慮した新資材、機器などの開発の模様や自然との共生で培われた日本的住宅様式の再評価から生まれたパッシブエコロジー住宅などを紹介し、3章で都市部狭小地を対象にした各社の住宅商品を紹介する。狭小地に繰り広げられる居住の快適性や狭い家を広く見せる設計の工夫は、各社のノウハウが凝縮し、実に興味深く、面白い。

2、技術革新

■エコ建材開発

最近の住宅着工好調の理由はシックハウス対策法。業界ではこんな見方が日増しに有力になっている。国土交通省は「住宅ローン減税をにらんだ駆け込み」と解説し、景気の回復も挙げ、説明にはシックハウスは出てこない。業界筋の見方は違う。7月からシックハウス対策の改正基準法が施工されその直前に「規制逃れの駆け込み着工が膨らんだ」というのだ。大阪で建築確認検査に携わる関係者は「設計事務所などが工務店に着工の前倒しを助言していたようだ」と証言する。6月までに着工してしまえば新基準の認定を受けていない建材でも使用制限はない。大手建材メーカー幹部も「使えなくなる内装材の在庫を抱えた工務店が着工を急いだ」と話す。工務店や建材販売店にも苦しい事情はある。建設コストの増加は「換気設備」だけで3.3平米当たり約1万円(近畿の工務店組織)。住宅大手はともかく、年間数等の仕事しかない中小工務店の経営に与える影響は深刻なのだ(日経産業新聞)。

シックハウスへの対応は多額の投資が可能な大手に有利であり、中小は確かに苦しい。大手は自社製品が放出するVOCの程度を検出できる高価な装置を自前で持てる。中小もVOC検出代行業者に試験をアウトソーシングすることで高コストを吸収するなどの工夫が求められる。

建築関連資材メーカー、住宅設備機器メーカによる低ホルムアルデヒド化は当然として、トルエンやキシレンなどのVOC(揮発性有機化合物)を発散しない製品作りは急速に進んでいる。、大手ハウスメーカー8社は、建築基準法改正に合わせ、建材を全面的に変えることで足並みをそろえている。各メーカーが切り変えを行っているのはホルムアルデヒドの発散量が最も低いとされる新JIS/JAS基準で最高等級の建材だ。平成7年頃から、戸建て住宅などではシックハウス症候群の苦情が入ってきていた。そのためハウスメーカーはその頃から徐々にノンアルデヒド仕様の質の高い建材への切り替えをはかつてきたらしい。

いま、各メーカーが取り組んでいるのは室内環境を改善する内装材や塗料、シート材や繊維などの製品づくりである。これらは素材そのものに」有害化合物を含まないだけでなく、資材として使用することによりホルムアルデヒドなどの有害物質を急速に吸収、分解し、空気を浄化、消臭するのでタバコやゴミ等の悪臭も除去できる。

■パッシブエコロジー住宅

日本古来の住宅様式は、家が呼吸し、人と共生する住まいであった。夏は冷房、冬は暖房という現代人が求める人工的な快適性でなく、家の素材や構造に人智が凝縮していた。いま、冷暖房を使わなくても快適に居住できる「パッシブエコロジー住宅」をハウスメーカーが開発している。

まず旭化成の「sorakara」は可動式パネル壁にして、1階に中庭を配し、襖や引き戸などの建具をはずせば大広間になり、夏は通風がよく涼しい日本の古来の民家のように変化する。年中快適な室温が維持できるための細かい設計は、日照、通風、周辺住宅の配置などを計測し、瞬時に開口部や家の形状角度を計算するシュミレーションシステムという先端技術が可能にする。

積水化学工業は太陽光を利用する床材「蓄熱床」を開発した。床暖房との違いは光熱費など設備や維持費がかからないことである

■2階建て住宅を持ち上げ3階建てに増築する

日経産業新聞によると大建工業の住宅部門子会社、ダイケンホームは二階建て住宅を持ち上げ、階下に居室や駐車場を付け加えて三階建てに増築するリフォーム技術を開発した。二階建てを三階建てにする場合、基礎と建物を切り離す費用や新しい居室を造る費用などが必要だが、新工法は三階建ての建物を新築する工事に比べて総コストが2分の1から3分の1に抑えられる。工期もほぼ半分に短縮できる。

新工法の「ダイケン・ムービング・システム(DMS)」は、一階部分の床を取り外して基礎と建物部分を分離、建物の四方に付けたジャッキで建物を3m程度持ち上げる。旧1階部分の床下に新たに基礎を作り、上部の構造を安定させたうえで、その下に居室や駐車場をつなぎ合わせる。DMSを利用して建物の向きを変えて日照を確保したり、水平方向に移動させたりすることも可能という。

建物を解体しないので、廃棄物もほとんど出ない。建物に一定以上の耐震性が確保されている1980年代以降に建てられた住宅が対象。新工法を使う場合は新たに建築確認の申請が必要。ただ、水平移動の場合は同一敷地内であれば建築確認は不要という。木造のほか、プレハブ住宅にも対応する。

■3階建て住宅用低コスト制震装置

積水ハウスは、自動車などによる建物の振動を低減する低コストの制震装置「マルチTMD(チューンド・マス・ダンパー)を開発し、都市部で多い、同社の販売する鉄骨系3階戸建て住宅に標準装備する。

交通振動は大型車などが通過通行する時に3階建住宅は構造的に振動を拾いやすい。3階建住宅の固有の振動周波数は3~5ヘルツ程度だが地盤や振動源となる自動車の周波数はほぼ一致するためだ。同社は東海ゴム工業と共同で、振動低減効果を向上させた制震装置「マルチTMD」を開発した。周波数の異なる複数のおもりを装着して幅広い揺れに対応する技術で、構造を簡素化し、価格も45~50万円と低コストを実現した。既存住宅や2階建てにも効果があるといわれている。

3、都市部狭小敷地の活用

住宅大手各社は今春、都市型の商品を相次いで投入した。間口が狭く隣家が接近する狭小な敷地に住む層からの建て替え需要が主流である。都心回帰、でもマンションは嫌だという層は、都心の狭小地に省敷地型の3階建住宅を建てるケースが多い。これまでの狭小地住宅は、採光や使い勝手を犠牲にした暗いイメージの家が支配的だったが、最近の大手ハウスメーカーの同種の住宅はマイナーイメージを払拭して採光や機能性さらに視覚的な広さを感じさせる工夫が随所に行きわたり、隣家の接近や、庭が取れないハンディを中庭、屋上、バルコニーなどに一工夫を凝らして解決しており、注目される商品が数多く登場している。

三井ホームのツーバイフォー住宅「アバンコルテ」は建物中央部に中庭を配し、中庭の上部にはポリカーボネード製透明屋根(オプション)を取り付けることができる。ガラス扉を開放すればリビングとダイニング空間が連結するためリゾートホテルのような個性的空間を創出する。100平米の敷地から建てられ建築価格は3.3平米57万円台から

ミサワホームは、約70㎡の敷地に建てられる大型収納スペース「蔵」を備えた3階建など都市型商品を投入したが従来商品より価格を1~2割抑えたため売れ行きは好調。10月1日発売した「MACHIYA」は、リビングの大きな吹き抜けを設けて、家全体に「大空間」をつくり出す。1、2階を含めた視線のつながりで採光や視覚的な広さを感じさせるように設計されている。廊下、間仕切りを少なくし、収納部の扉や間仕切りは半透明素材を使うなど細かい部分まで視覚的な広さを追求している。さらにリビングと連続する外部のライトコートの吹き抜けを同社のサイトでは、「天井が空となるライトコートを備えた内外一体設計の吹き抜けが、アウト・ボイド(外側の吹き抜け)です」と謳っている。

大和ハウス工業は、5月、建物本体と外構部分との間にウッドデッキの屋外空間「アウトドアルーム」を備えたLS造住宅「I-wish SR」を発売した。隣地との境界に建つ外壁は1階部分を完全に覆う高さだが木調の板をはめ込んだルーパー仕上げで外部の視線を遮り採光や通気性を確保した。同社は今年1月に、狭小地の多い都内城東地区などでの建築を想定して開発した地域戦略商品「ソフィースリー千都」を売り出した。同社の都内で戸建て受注の半分は三階建てが占めることもあり、同商品投入後の都内での受注状況は「前年比で三割増」(営業本部)と好調だ(日経産業新聞)。

首都圏での市場開拓に注力するパナホームも、都市型住宅の販売状況は良い。間口5m、奥行10mの狭小地でも隣家と30cmのあきがあれば建築できる東京限定版の3階建て商品「ソルビオス ノア」は昨年4月の発売以来、好調に売れている。今年4月には「ノア」をベースにし3階建の分離同居型二世帯住宅「ソルビオス コア」を売り出した。COAとはColupling(連結)+Architecture(建築様式)の造語で、親子世帯を分離し、適度な距離を保った上で両方を連結する。二世帯それぞれが独立した自分の家を持ち、また将来の生活環境の変化に対応して一方を貸家にするなど用途転換可能で可変性が高い。

3階建でリビングダイニング、寝室はコンパクトにして敷地の奥に収めることで手前部分にスペースを確保し、自宅兼事務所などに活用できる「離れ」を設けた「ソルビオスライフ」も発売している。約50平米の狭小地に対応できる。50歳代後半の子育てを終えた団塊世代や30歳前後の若年世帯の生活スタイルを想定し、ターゲットにする。建築価格は69万円台から。

旭化成は、70㎡未満の敷地でも建築可能な鉄骨4階建住宅「へーベルハウス フレックス4」を10月20日発売した。家庭用エレベータを標準装備で価格は70万円台以上。さらに実際の住宅地内に狭小地対応のモデル棟「街かど展示場」を建てて地域密着型の営業の展開を目指す。

都心の狭小地住宅は一販に利便性の高い立地にあって、狭さを感じさせない快適な住空間を創出する工夫がなされており、狭小であることのマイナーイメージは払拭されつつある。住家は進化している。

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