住まい選びは都心派と郊外・地方派に収斂

少子高齢化が進むと、地方や利便性の悪い郊外の土地は需要が殆どなくなり、都心に住宅や商業機能が集約されてしまるというのが常識的な予測ですが、現在の都心、郊外という通勤時間距離を主体とした住まい選びの基準は長期間続くデフレやITの進化で変化しています。

日本的終身雇用制度が崩壊し、リストラが抵抗なく企業側の事情でできる風潮になりました。成果主義、能力主義の浸透は勤める側も会社への帰属意識を弱めています。会社と個人のいままでの繋がりはより希薄になっていくでしょう。加えて、これから会社に帰属しない高齢者も増えるため、今まで通勤を前提に住宅の位置や機能を規定していた価値尺度は変わるでしょう。都心を始点とする同心円的発想は、「土地は資産」という土地神話の残照の呪縛でもありました。バブル崩壊後の地価下落は根が深く、少子高齢化をはじめ、産業の空洞化、グローバリゼーションの進行で経済学の要素価格均等化定理により土地も非貿易財ではなく、世界的価格競争が始まります。これらの変化は、人々の土地に対する意識を変えていきます。2002年度「土地白書」は賃貸派が11.8%と93年度の調査以来最高になりました。マイホームを求める人も資産性というよりライフスタイルを重視して購入対象を選ぶ傾向が強くなっています。

博報堂生活総合研究所所長・関沢英彦氏が6月20日の日経産業新聞のコラムで「最近の都心マンションは買いやすくなっている。銀座でも2,800万円台の物件が登場。30代の1次取得者でも買える範囲になってきた。郊外の一戸建を売って、都心の超高層マンションの眺望を手に入れる中高年の夫婦も増えてきている。一方で積極的に郊外を選ぶ人も目立ってきた。「子供達の健康を考えて」「緑の多い所で広々と」といった価値観を持つ人たちである。(中略)戸建で1区画が300㎡を超える「100坪住宅」も増加。広い庭で犬を走らせることもできる。」

郊外や地方在住派は長時間かけて満員電車で出社する勤務スタイルから開放され、在宅勤務の普及で自宅で仕事を普通にできます。IPv6で自宅のあらゆるモノにIPアドレスを振れば、最先端のITホームが誕生します。社内情報システムと自宅パソコンを結び、社内のデータに接続したり、電子メールの交換や電子会議にも参加したりできるし、ADSLなど高速インターネット接続に対応したパソコンであれば「社内LAN(構内情報通信網)と同様の環境で仕事をこなすことが可能だからです。

郊外派は広大な居住空間、移り変わる四季の彩り、豊穣な自然のなかでスローライフを送りたいと考え、都心派は、都心で常に身近に文化・ファッション・娯楽などの最新情報を身近に感じ、全国、全世界が繋がるターミナルが近いという高い利便性のなかで暮らしたいと考えるでしょう。

住宅は、職・遊・文・医・知が集積した都市空間か地方の自然回帰の悠空間に収斂され、熾烈な競争社会、あらゆる事象のデジタル化は個性的で精神世界の多様な個々の要求を充足させる個性的な住空間への欲求を強めるものと思われます。

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