三井不動産の戦略

三井不動産にとって4月10日開業した「汐留シティセンター」は大手不動産デベロッパーのビジネスモデルの変革のシンボルといえる。不動産は保有せず、三井不動産は事業費推定千数百億円の10%弱を負担しただけ。シンガポール政府投資公社が全額出資するアルダニーインベストメントが大半を負担した。三井不動産は開発計画、テナント募集、完成後の運営管理による手数料を得る。

三井不動産の岩沙社長は日本経済新聞のインタビューで「不動産の含み益をもとに銀行から有利な資金調達ができた時代なら資産を持ちながら長い時間をかけて回収すればよかっただろう」と語った。資産デフレ時代はリスクの高い不動産を保有せず手数料ビジネスで稼ぐという発想の転換が必要というわけだ。「三井不動産が5月1日発表した08年度を最終年度とする6年間の長期経営計画で手数料ビジネスの連結営業利益を02年度の2倍強の465億円に引き上げ、全体の約3割を稼ぎ出す方針を示した。」(日経05.26)

三井不動産は企業の社宅を対象にした不動産投資ファンドを開発した。社宅を対象にしたファンドの開発で、企業に多様な資産流動化の手法を提供できるようになる。減損会計などによる企業の不動産のオフバランス化の加速、さらには企業は従来の銀行からの借り入れを中心とした間接金融中心の資金調達スキームよりも不動産証券化などを活用する直接金融の選択指向が急速に増加している。三井不動産は資産処分や社宅管理コストの削減を狙う企業ニーズをくみ取ることにより、社宅を対象にしたファンドの開発にとどまらず、企業のニーズにあった多様なメニューの資産流動化の手法を提示し、事業展開拡大の可能性が高まる。いわば資産処理の必要に迫られた企業の囲い込み戦略ともいえる。

「社宅を対象にした不動産投資ファンドは、売り主の企業に長期借り上げや将来の買戻しを求める特約はつけず、企業が利用しやすいようにした。ファンドの規模は15億円強。外資系金融機関が約6億円を出資、国内金融機関が残りを融資した。ファンドの取りまとめ役を三井不動産が務めた。まず東京都小平市と世田谷区、千葉県柏市の3棟(92戸)を取得し、賃貸マンションとして運用を始めた。今夏までに首都圏で社宅を買い増し10棟前後、ファンドの規模を50億円程度に拡大する。企業は社宅を単に売却するだけでなく、改めて賃借し借り上げ社宅として使い続けることも可能。社宅の維持管理コストをなくしたり、資産デフレへ高まっている不動産保有リスクを避けることができる。三井不動産は企業から物件売却の仲介手数料を、ファンドからは資産運用や管理業務の受託手数料をそれぞれ得ることができる。物件は三井不動産の子会社である三井不動産住宅リース(東京・新宿)が一括して賃借し、転貸する。売り主の企業が借り上げ社宅にしない場合は一般の顧客を見つけられる。」(日経04.19)

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