日本のグローバル競争力の浮上 MOT

日本の国際競争力、スイスや米国のシンクタンクの評価が毎年発表されるが20~30位に落ち込んでいる。評価が低い理由は終身雇用制などの日本特有の経営風土、財政赤字の拡大、海外に対する閉鎖性が評点を下げているが科学技術面では評価は意外に高い。全体的には、日本の産業技術は強弱併せ持つが、平均すれば、世界に通用する蓄積された技術力はある。日本もまだ捨てたものではない。

技術開発力を基礎研究、製品開発、生産技術に分類すると豊富な軍事資金を投入できる米国の基礎研究力はずば抜けているが、日本の製品開発、生産技術も80年代までは世界を席捲した。日本の製造業の強さに危機感を抱いた当時のアメリカは1989年、米MIT産業生産性委員会に「メード・イン・アメリカ」という詳細なリポートを作成させた。委員会は技術力、資本力、労働力など米経済を支えた強さが優位性を失った様子を詳細にリポートし、世界の奇跡と言われた日本の製造業の急成長の謎ときを米有数の理工系大学MITが総力を上げて解明を試みた。

研究成果は米国が優っているのに商業化になると負けてしまうのは何故か、研究所と市場を結ぶプロセスのどこに問題があるのかなどが論議され、問題は品質の差であり、それを生み出した経営手法の違いにあるという結論が出された。執筆責任者リチャード・レスターMIT教授が訪問した日米の工場は200社を超え、現場を歩き丹念に取材した。「日本でトヨタの工場を見たときの衝撃は大きかった。ビッグスリーの工場に比べ生産技術に差がないのに工程のどこにも無駄がない。最先端の技術を使わなくとも人的資源の有効活用で生産性は飛躍的に高まる。これはリポートの重要な結論だ」と述べている。

米国は1990年代、ITをコアにオープン化ネットワーク型経済を構築し、グローバル化により高収益ビジネスモデルを展開、反面、日本は競争力低下と長期不況に苦悩している。1980年代の日本型経営手法を賞賛したリチャード・レスターMIT教授は「誰もが強さだと信じているものほど環境変化に弱い。これが80年代の米国、90年代の日本に起きたことの真実だ。」と最近、語っている。

いま注目されている人材を養成する技術経営「MOT(Management of Technology)」も米国企業が日本の製造業に学び競争力回復の原動力になったといわれている。1980年代後半日本企業の強さを米国の教育機関が分析した結果、日本の製造業には技術に精通した経営者が多いのに対し、米国では経営と技術のプロは明確に切り分けられており、両者を融合しなければ技術領域においてグローバル・マーケットで競争力を取り戻せないという認識である。

最先端技術の商品化・事業化,生産管理の技術革新など,技術をビジネスとしてマネジメントする能力の育成を図るのがMOTで,アメリカがすでに先攻しており、本家というべき日本は遅れていたが、今年3月経済産業省主導でMOT教育を推進する「技術経営コンソーシアム」が発足し、企業や大学など91団体が参加し、教育プログラム開発、情報データベース構築に乗り出している。

日本企業がグローバル・マーケットで競争力を発揮し、パフォーマンスを向上するには、戦略的先端技術の開発と、開発した技術を商品化し、ビジネスに結びつけるための経営技術の融合が急務であり、「経営の分かる技術者」と「技術の分かる経営者」を同時に育成することが日本経済の再浮上にとって重要といえる。

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