少子高齢化対策と経済・地価中期予測
日本の未来についてこの国には2つの大きな暗雲が垂れ込めており、悲観的な将来を描くあまり、人々は無気力で、政治家・官僚は無能に見え、ただ国家の衰退をカウントダウンするばかり。と言えば言いすぎだろうか。その一つは少子高齢化の急速な進行であり、もうひとつは日本の国際競争力の低下による中国などへの生産拠点の移転、「産業の空洞化」である。
本コラムでは中国関連情報や日本の産業の空洞化については、業界にほとんど危機意識がなかった頃からSEとして中国のIT化の脅威を感じていたため、いくつかの小論を書いてきた。今回は少子高齢化のもたらす社会経済的影響と地価との関連、さらにはその負の影響を抑制し、さらなる豊かな社会を形成するための対応を考えてみたい。
1、少子高齢化の進行
02年1月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の推計(中位推計)によれば00年の日本の総人口は同年の国勢調査によれば1億2,693万人であった。この総人口は今後も緩やかに増加し、06年に1億2,774万人でピークに達した後、以後長期の人口減少過程に入る。13年にはほぼ現在の人口規模に戻り、2050年にはおよそ1億60万人になるものと予測される。
生産年齢人口は95年をピークに以後一転して減少過程に入り、2030年には7,000万人を割り込み、2050年には5,389万人に達する。
老年(65歳以上)人口はおよそ現在の2,200万人から13年に3,000万人を突破し、18年の3,417万人へと急速な増加を続ける。すなわち、団塊の世代(昭和22~24年出生世代)が65歳以上の年齢層に入りきるまで急速な老年人口の増加を生じることになる。その後、戦後の出生規模の縮小世代が老年人口に参入するため、増加の勢いは弱まり、緩やかな増加期となるが、第二次ベビーブーム世代が老年人口となる2043年に老年人口はピークに達し、その後緩やかな減少に転じ、2050年に3,586万人となる。
老年人口の割合は現在の17.4%から14年には25%台に達し、日本人口の4人に1人が65歳以上人口となる。その後、2017年に27.0%になる。2050年には、35.7%の水準に達する。すなわち2.8人に1人が65歳以上人口となるものとみられる。
今後の少子高齢化に関しては、総需要の縮小による生産、消費の縮小のスパイラル、経済成長へのマイナスの影響、勤労世代の社会保障負担の増加等不安が増幅され、将来不安を生み、少子高齢化が進行は、社会・経済にとって暗闇の未来を予測させる。
かつて1900 年に4,300 万人だった人口が、100年で3倍の約1億2,700万人になった。その間、日本の経済力は80年をピークに飛躍的に拡大し、成長した。人口の大都市集中は交通渋滞などの過密を生みCO2の濃度を上げ、自然・環境破壊は進んだ。
明治以来、日本の体制と発想には5つの前提があった。
- 人口は増える
- 土地は足りない
- 経済は成長する
- 物価は上昇する
- 日本は島国で貿易以外国際競争力がない
一言で言えば「ヒトあまり土地不足の島国」である。日本人には「日本は人口過剰であり、ますます人口過剰になる」という発想が強迫観念と言えるほど強く染み付いていた。(「高齢化大好機」堺屋太一著)
日本の出生数は70年代にはいると激減したが、団塊ジュニアが高校を卒業するまで、人口増加のベクトルが逆回転をし始めたことに殆ど気がつかなかった。団塊ジュニアの膨らみで消費は拡大したからだ。
2、少子高齢化の負の影響
少子高齢化の社会経済に及ぼす負の影響はさまざま指摘されているが、概ね下記のようなものである。
- 総人口の減少、高齢化の進展によって労働力人口(15歳以上人口のうち就業者と失業者の合計)は減少していく。労働力人口の減少は、経済成長にマイナスの影響を与える
- 総需要縮小のなか産業構造は市場の力によって大きく転換していく。低生産性部門の合理化・効率化が進まない場合は淘汰・縮小されることになる
- 公共投資は今後、国債や地方債の累増を抑えるため増加しない。また高齢化の進行で高齢者が貯蓄を取り崩すため貯蓄率が低下し投資量の拡大が難しくなり、貯蓄・投資のバランスからみて輸出は伸びない
- 高齢化の進展により、将来世代が担う年金・医療等の社会保障負担の増大が見込まれている。また、国と地方を合わせた債務残高が02年度末には700兆円に達する長期債務の償還、膨大な社会資本ストックの維持・補修等も将来世代が担うことになる
3、少子高齢化対策と未来予測
少子高齢化社会では労働人口ならびに総人口が急速に縮小するため、労働投入量の減少に対する供給サイドの対策と、総人口の縮小による需要面の対策が並行して行われることが求められる。
A、供給サイドの対策と予測
少子高齢化が進むなか中長期の経済成長をキープするには、少子高齢化で労働投入量が減少するため労働投入量以外に、資本蓄積、経済全体の生産性上昇要因を反映した全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)をいかに上昇させるかにより決まる。TFPの上昇は、人的資本1単位当たりの技術知識ストックおよび社会資本の都市部に占める比率で決まる。
「人的資本」とは通常の労働投入に人々の教育要素を加味した概念である。高度の教育を受けた者ほどノウハウや高度の生産知識を身につけているため1人当たりの労働投入量は増大し、生産への寄与は大きくなる。「技術知識ストック」とは特許権や商標権などの無形固定資産を代表する概念である。(「2025年の日本経済」宮川努/日本経済研究センター著)
少子高齢化で労働投入量が減少する場合、資本蓄積と経済全体の生産性上昇(TFP)を上昇させる以外にない。日本のこれまでの経済成長の傾向としては資本投入量の増加及びTFPの伸びによるところが大きく、労働投入量の寄与は比較的小さい。資本蓄積は設備投資の活性化で増加する。設備投資は収益性の高い分野、特にIT分野が効果的でIT資本とIT資本以外の資本との収益率格差は過去20年間縮小傾向にあるものの99年に5.4倍の開きがある。
日本経済新聞の「経済教室」では、D・ジヨルゲンソンハ-バード大教授と元橋一之経済産業研究所上席研究員が「労働生産性の動向は資本蓄積量(資本の深化)と全要素生産性(TFP)の伸びに分解できる。資本深化のうちIT資本は0.50%分の上昇寄与を持つ。これとTFPのうちIT部分である0.24%を加算すると0.74%になり米国の90年代後半にかけての労働生産性の伸びはすべてITで説明できる」と分析結果の発表をしている。
日本経済研究センターによる少子高齢化のもとでの2000~2025年予測では「デフレ不況の現在、過剰債務や先行き不安から設備投資は当分の間、低率で推移するが、円安政策に伴う輸入物価の上昇から一般物価も上昇に向かい、これに伴って金融機能も回復し、2010年頃には人的資本1単位当たりの技術知識ストックの累増および地方から都市への重点政策の進行で社会資本の都市部に占める比率が上昇し、IT資本のストック率も99年の7.5%から2025年には18.8%まで上昇する。TFP上昇率が高まり、2025年までに人口減少下の予測期間でも80年代後半とほぼ同率の生産性上昇を達成できる。」としている。
海外でも先進諸国を中心に少子化が進んでおり、合計特殊出生率はおおむね低下傾向にある。現在の合計特殊出生率は、米国を除いて、各国とも1.1から1.8の間となっている。少子化対策として各国で労働生産性の上昇がまず図られている。80年代、90年代とも労働力人口増加率の低い国あるいは減少している国ほど労働生産性伸び率が高くなっている。特に90年代では、スウェーデンやイタリアなど7か国で労働力人口はすでに減少しているが、すべての国で労働生産性は上昇している。
大蔵省財務総合政策研究所の研究員による研究報告「少子高齢化の進展と今後のわが国経済社会の展望」によると、
労働力人口の減少は、経済成長にマイナスの影響を与えるが、少ないものは有効に利用しようという強力なインセンティブが働き労働力人口の減少によって次のようなことが起こると考えられる。
- 労働力人口が減少すれば、資本量が増えなくても労働者一人当たりの資本は増加する
- 労働節約的な技術革新が促進される。これは、労働力人口増加のもとでは進みにくいものであり、労働力人口の減少が強い誘因になる
- 労働力の円滑な産業間・企業間の移動が促され、労働力の有効活用が進む
これらの要因はすべて労働生産性を上昇させる。労働力人口の減少が追い風となり、労働生産性が上昇する可能性がある。
日本の2025年度までの労働生産性伸び率を2%と見込み、2025~50年度で、若干低下して1.5%になると低めに見て労働生産性の伸び率と労働力人口の増加率の和である実質経済成長率を算出すると、1998~2025 年度平均で1.57%、2025~50年度平均で0.56%になる。この数字は、いくつかの機関で推計されているマクロ経済モデルによる長期予測とほとんど同じであり、決して無理な水準ではない。
としている。
B、需要サイドの対策と予測
「少子高齢化」という言葉は、この国の終末のような響きがある。「多くの経営者や経済評論家は少子高齢化を需要の停滞と捉え高齢化に伴い増えるのは医療や介護といった「負」の面という認識で議論を展開している。これからの日本の人口構造の大変化に対応するためには発想を変え、高齢化を「正」の変化として捉えていかなければならない。」(「高齢化大好機」堺屋太一著)
高齢者のいままでのイメージは、これから社会の多数派となるためガラリと変わる。高齢者は、個人資産1兆4千億円の過半を65歳以上の高齢者が持ち、経済的に余裕がある。いままで高齢者をターゲットにしたメーカーなどは殆どなく未開拓の有望市場と言える。
おまけに医療技術の進歩や生活様式の変化で30年前の65歳といまの65歳は肉体年齢の若さが違う。またITの進化で人と共存し、仕事や生活支援に利用できるいわゆる人間共存型ロボットを活用、助けを借りながら高齢者や女性が仕事をするスタイルが増えると予測されている。さらに在宅でのITの活用で高齢者も仕事に参加できる環境作りは可能となる。安全で、操作が簡単で高機能なロボット(ロボット工学は日本は独自技術の優位性をもつ分野)やIT端末は今後の技術進化で実現する。
高齢者時代は終末ではない。ITとブロードバンドで高齢者は豊富な人生経験を活かしたコミュニティを作ったり、多様な趣味を核とした好縁社会を形成する。親の脛かじりの若者に変わる巨大な消費マーケットが相次ぎ形成される。
例えば日本経済新聞社の調査によると団塊の世代は引退後、趣味にかけるお金を12%増やし、30%は不要になった子供の部屋の改造や玄関などの段差を無くすバリヤフリー化を含めた住宅改装を計画している。以下、海外旅行、習い事、車、パソコンと続く。さらに日経紙は「個人消費が低迷するなか消費意欲が旺盛な団塊世代支えられ、シニア市場は一段の拡大が期待できる。旅行、住宅などの企業はこの世代を取り込むための商品・サービスを強化している。」と書いている。
さらに高齢者の消費を拡大するシステムが注目されている。少子高齢化社会における経済活性化の起爆剤になると期待されているリバース・モーゲージ制度である。リバース・モーゲージとは、高齢者が居住する住宅や土地などの不動産を担保として一括または年金の形で定期的に融資を受け取り、受けた融資は、利用者の死亡、転居、相続などによって契約が終了した時に担保不動産を処分することで元利一括で返済する制度である。
つまりこの制度のメリットは、土地・不動産、金融資産などは持っていても老人であるための漠然とした将来不安や病気、不測の事態に対する怯えのため蓄えを崩せず、現金収入も少ない高齢者が、持家など自分が保有している不動産を担保にして、年金のような形で毎月の生活資金の融資を受ける制度で、住み慣れた自宅を手放さずに住みながら、老後の生活資金を受け取れる老後の豊かな生活を実現できる点である。さらに融資は本人が死亡した時点で担保となっていた自宅を売却して清算するシステムになっているため生前に自宅を手放すような抵抗感も感じなくてすむ。
リバース・モーゲージは高齢者の恒常所得の増加によりマクロレベルで消費支出の上昇を長期にわたりもたらす。日本経済新聞の「経済教室」で三菱総研酒井博司シニアエコノミストは三菱総研も参加する内閣府経済社会総合研究所の国際共同研究「持続的な成長と社会システム」の成果の一つとして今年の2月に報告された研究では日本におけるリバースモーゲージ導入について家計調査、生命表などのデータに加え、インフレ率や住宅宅地資産の成長率などの予測をもとに詳細な分析を行った結果、日本人の寿命の長さと住宅宅地資産の成長見込みの低さにより米国で同制度を利用するよりも受取額は1割強削減されはするものの、財政的な制約下において、リバースモーゲージは高齢者の消費を増やす有効策として評価されている。(中略) 同論文の分析結果をもとに総務省「全国消費実態調査」の高齢者世帯結果表を合わせ試算すると、平均的な高齢者世帯の住宅宅地資産額は3,830万円である。この高齢者が65歳から年金型リバース・モーゲージを利用すると年間70万円弱、75歳から開始すると年間140万円強の融資額になり、保険などの整備でこの額を恒常所得とみなすことができれば、マクロ経済への影響の概算で消費支出を長期的に0.3%程度押し上げる」とその効果を書いている。
地価下落による担保割れや、相続ができない遺族に相続税、所得税がかかるという税制の問題、日本人の長寿化など同制度が普及するための課題は多いが、担保割れリスクをヘッジするため公的保険の創設。また遺族の同意が得られやすいように税制の配慮、各所得者層に合わせたメニューの多様化に加え、リバース・モーゲージ制度が日本で普及するためには、不動産担保融資の債権を裏付けとして発行された住宅抵当(モーゲージ)証券の流通市場の整備が急がれている。
以上、高齢化による需要萎縮の不安要素は意外に少ないが、いま足下を見ると需給ギャップで国内のデフレはますます深化している。総需要の縮小によるデフレをどう終結させるか、政府をはじめさまざまなエコノミストが論議している。これに少子化高齢化が絡むと各部位に転移した末期ガンの様相を帯びるが、さきほど紹介した日本経済研究センターの予測では、
需要面で日銀の金融緩和政策が継続されていることを前提とするとその影響は物価上昇というより日米の生産性上昇率格差と実質金利格差は、短・中期的に為替レートを円安・ドル高にし、その結果、物価が上昇し、それが総需要を活性化させ需給ギャップを解消させる。「民間最終消費支出」は構造改革の進展とともに潜在成長力が高まり、加えて高齢化が進展することから2005年以降2020年まで2.1%の伸びが続く。「民間企業設備投資」は過剰設備、過剰債務で00年代前半は伸び悩み、しかし円安に伴う物価上昇などから過剰債務が減少し、00年代後半から回復に向かい、その後IT投資の増加もあって順調な伸びを示す。さらに技術革新の進展で投資デフレーターがGDPデフレーターより大きく低下するので実質設備投資額の対GDP比率は2025年に24.4%まで上昇する。
としている。
4、少子高齢化と地価
日本の地価だが、少子高齢化、人口減少時代は「ヒト不足モノ土地余り」の時代であり、当然、不動産の購入は減少していく。少子化の影響が強い住宅は、95年頃年間160万戸、02年110万戸と減少し、最新のデータでは「国土交通省は30日、02年4月から03年3月の新設住宅着工統計をまとめた。総戸数は前年度比2.4%減の1,145,553戸で3年連続減少し、1983年度以来、19年振りの低水準になった。貸家は2年連続で増えたが持ち家や分譲マンションなどの減少が影響した。持ち家は前年度比3.1%減の365,500戸。雇用や将来の収入不安からの建て替え・買い換え層が住宅購入意欲が後退している事を反映し、38年ぶりの低水準に落ち込んだ。」(日経産業05.01)
団塊ジュニアの需要が一巡後は100万戸を割り込むと見られてる。大手ハウスメーカーは、すでにリフォームへ主力をシフトしている。少子高齢化が進むと、地方や利便性の悪い郊外の土地は需要がなく、底が見えず地価下落し、都心に住宅や商業機能が集約されるというのが常識的な予測だが、現在の都心、郊外という通勤時間距離を主体とした地価形成は長期に亘り不変とは思えない。
日本的雇用制度が崩壊し、会社と個人の繋がりは希薄となった。会社に帰属しない高齢者も増えるため、今まで通勤を前提に住宅の位置や機能を規定していた価値尺度は変わる。住宅に求める人々の意識は多様化する。家族構成もDINKS、通常のファミリー、子供が独立した高齢者など多様になる。
住宅は、職、遊、住が揃った都市空間か地方の自然回帰の悠空間に収斂され、対面社会からネットワーク社会への転換や女性の就業の増加、高齢化の進行により在宅勤務が増加し、オフィスレスの傾向は強まる。熾烈な競争社会、あらゆる事象のデジタル化は個性的で精神世界の多様な個々の要求を充足させる癒しの空間や施設の需要を生むだろう。
少子高齢化時代はITを核として労働生産性を上昇させ、従来型の図体だけ大きい低生産、低付加価値業種は淘汰される。広大な土地や不動産をベースに構築される業務施設は、不要若しくはコンパクト化されている。いずれにしろ地価が広範に上昇する局面はないと思われる。
5、結び
失われた10年の停滞を除き、日本経済は50年代から60年代にかけて二桁成長を続け60年から70年までに日本のGDPは2.6倍に成長し、70年には世界第2位の経済力を持つに至った。その大きな原動力は輸出産業である。世界の市場を席巻した日本企業は、勤勉性、技術力、創造性などがあつたことは言うまでもないが、ベストセラー「円の支配者」を書いたリチャード・A・ブエルナー氏による「謎解き!平成大不況」によると、「日本の積極的投資が日本企業の成功要因で、投資拡大を可能としたメカニズムは政府による銀行の窓口指導を通して政府は国家的産業政策として重要産業には重点的に資金を配分してきた。新規貸し出しはモノやサービスを生み出す重要な産業の設備投資に使われた。」
実は市場開放後の中国もかつての日本型モデルで、政府が絶大な力を持って選別的産業政策を行っていることはあまり知られてない。
労働投入量が減少する少子高齢化時代は、高生産高付加価値部門への設備投資や成長分野の技術開発研究分野への投資をモニタリングし、誘導する政策役割が重要であり、新たな技術革新と経営資源の再配分による効率性の向上を目指すべきである。
間接金融中心の資金調達は地価下落の恒常化で限界がある。「今後は高齢化の進展と年金給付の切り下げから家計の収益率選好はより強まるだろう。企業業績の透明性を確保し、市場での投資プロジェクトの公平な評価を定着させる努力がなされれば効率性の高い資金調達も実現できよう」(「2025年の日本経済」宮川努/日本経済研究センター著)
さらに労働と土地と資本の移動が迅速に自由にできる体制を作り、あらゆる分野への新規参入、あらゆる業種を革新し付加価値を高める社会の活性化が縮小の閉塞を打ち破るだろう。
最後に、デフレを脱却できない現状で、少子高齢化という巨大な負のインパクトを日本が乗り越えられるのか、例えば日本経済研究センターの予測もある部分楽観的シナリオを前提にしており、シナリオ自体の実現性への疑問も正直なところ払拭できない。
しかし高齢化は必ずしも「負」ではなく需要・消費面からみると「正」へ転換しうることはすでに触れた。育児対策が充実すれば子育て期の女性の労働力率は上昇する。またこれから登場するITや科学技術の進歩や革新性は予測を超える「正」の影響を社会経済に与える。コンピューターが自律的に外部システムを連携させより高度のシステムを構築するWEBサービス、既存方式のコンピュータでは解読に200億年かかるRSA暗号が、数秒にして解読されると言われている破壊的な処理能力を持つ量子コンピュータ、IPV6でほぼ無限大にモノにIPアドレスが振られモノの履歴や動きがモニタリングできマーケッテイングや物流も変わる。デジタルデバイドをなくすユビキタス時代の到来、情報家電やクルマのIT制御などは、アメリカ国防総省がネットワーク軍事研究的で作ったARPANETがWWW、HTMLを経て インターネットとして登場した約10年程前は予測もできなかった。インターネットで社会経済は産業革命以来の大変革を遂げた。
また日本経済研究センター予測で2000年~2025年の平均経済成長率は1.6%であるが人口減少で1人当たりのGDP成長率は当然ながらこれを上回り1.9%になる。経済全体の成長率より1人当たりのGDP成長率の伸びが人口減少時代に日本が豊かになれるのかの注目指標となる。
いままで主としてサプライサイドの経済学の視点から少子高齢化がもたらす経済成長の停滞は克服できると書いてきた。しかし成長重視の従来型の思考回路だけでは真の豊かさは得られない。
少子化とこれにともなう人口減少は、日本だけに特異な現象でない。文明システムの成熟にともなう、避けることのできない現象である。(中略) 地球環境を保全しながら、世界のすべての人口が快適で豊かな生活を享受することを目指すのであれば、経済社会システムを成長重視でなく、自然エネルギーを重視し、資源の循環的な利用を目指す定常的な文明システムに転換しなければならない。(上智大亀頭宏「日本の論点」)
地価については人口減少による需要の絶対量の減少だけでなく、今後のITを中心とした社会・産業構造の変化が加味されるため「正」の要因は殆どない。現時点で続いている地価下落は、二極化の延長で収斂するというより、多極的縮小均衡、地域や物件の個別性によっては買主が価格を決める非理論地価の方向に転換する。
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