ポスト超高層マンションへの試行

ここ数年のマンションブームの牽引役と言われた都心物件の販売に陰りが出てきた。「超高層」ブランドも訴求力を弱めている。昨年1年間の首都圏マンションの発売は88,516戸、過去3番目の大量供給となった。しかし今年は在庫が2万戸まで膨らむ恐れがあるという不動産経済研究所の見方もある。

「期分け販売」と呼ばれる手法がマンションデベロッパーの間で密かに進行している。一度に大量の住戸を供給することで売れ残りを発生した場合、イメージ低下が値引きへと波及しかねない。物件の小出し販売を繰り返すことで「完売」イメージを定着させようという狙いなのだ。リクルートコスモスの重田社長は日経紙で「マンション市況はすでに雨模様。期分け販売を繰り返すことで契約率にゲタをはかせる例が少なくない。」と語る。デフレの進行は、マンションはさらに下がるという先安感を強めているため、今年1月に住宅購入資金の贈与税非課税枠の拡大もその効果が見られない。

タワー型高層マンションは、コミュニティ形成に少なからぬ影響を及ぼしているという指摘もある。居住者の家族構成や経済状態のバラツキが大きいためだ。眺望・景観に優る高価格帯の上層階は富裕の夫婦2人世帯がメイン、比較的低価格帯の低層階は、眺望より部屋数を重視する子供がいるファミリー層が多い。所得、社会的階層、家族構成が同質な者が集約される新興分譲住宅団地や中低層マンションと異なる居住集団の箱を形成している。結果、住民同士のコミュニテイは乏しく、低・中層階、高層階間には、コンプレックスと優越感が交錯し、話題の共通性は乏しい居住構成となりやすく、歪んだ人間関係を増幅するコンクリートの過密な箱と言えなくもない。

マンションデベロッパーは先が見えてきた超高層の次の商品戦略を試行している。野村不動産はJR渋谷駅徒歩10分、6月に売り出す新シリーズ「プラウドジェム」は、扇形の平面配置の住戸、天井は余裕の3.4mの高さ、内外装はコンクリート打ちっぱなしという未来的デザインが売り物の個性的マンションで7階建、総戸数36戸、1戸当たり20~50㎡で独身者やDINKSがターゲット。従来は分譲マンションの90%以上がファミリー型で投資用ワンルームを除くと独身者やDINKS向けの物件は少なかった。今後は結婚観や家族観が変わり1人暮らしでもマンションを購入するケースは増えると予測し、野村に限らずマンション各社は、「独身者や子供のいない共働き夫婦(DINKS)向けの「コンパクトマンション」と呼ばれる都心の物件に力を入れている。

数年来のマンションブームの主役だった家族向け物件の売れ行きが鈍る中、ワンルームと家族向けの「隙間」を埋める市場が注目を集めている。内装戦略や販売戦略など。各社は独自色を打ち出すことに躍起だ。ただ気がかりな材料もある。コンパクトマンションを支えてきた投資家層が一時期に比べ動きが鈍い。家族向けが300坪は必要なのに比べ、コンパクトマンションは100坪程度の土地があれば建設できる。用地を確保しやすく供給過剰になりやすい構造がある反面、購入者のニーズは実需、投資向けと多様だ。せっかくの新市場も粗製濫造で臨んでは需要を取り込めずに終わる恐れもありそうだ。

癒しにこだわるマンションもでてきた。全ての住戸の浴室で天然温泉が楽しめるマンションを北陸を地盤とするアパグループが2002年11月売り出した。売れ行きは好評で、セカンドハウスとしての需要も多いらしい。

マンションが多様なニーズを反映するのもいいが、根本的資産価値を高めることの重要性を忘れてはならない。30N/m㎡以上の100年コンクリートと呼ばれる高強度コンクリート、外断熱工法などの耐久性・構造面の強化や、さらに構造躯体部分(スケルトン)と、内装や専用設備などの住戸部分(インフィル)の明確な分離により、それぞれの耐久性や更新性、将来のライフスタイルに対応できる可変性をさらに発揮するSI住宅化で、建物の長寿命化、循環型社会への貢献が可能となる。

また戸建と比較したマンションの資産価値を著しく低めていた建て替えの困難性が法制や、資金、合意形成面で容易になったとき次世代マンションは真に魅力的な商品になるのだが…

■関連記事
  超高層マンション支える技術
      

おすすめ記事