家賃値下げ競争時代の到来
家賃に相関が強い賃金は今までは地価下落に比べ低下しなかった。内閣府「国民経済計算年報」で不動産は全国ベースで90年末の2,420兆円から01年末の1,450兆円と40%減少しているが、勤労者所得はこの10年間で約5%程度上昇している。勤労者所得が下がり始めたのは98年からだ。地価下落の激しさに比べ家賃が低下しなかったのは所得に変化がないため家賃負担能力の劣化がなかったからだ。しかしこれから賃貸物件の供給が急速に増え、賃金はグローバル経済やIT化により急速に下がるため家賃の低下と物件の淘汰が本格的に始まる。
■需要問題の家賃負担能力の低下
代表的内閣府系エコノミスト新保生二は、ニューケインジアンで金融緩和論者だが、彼の新著「デフレの罠をうち破れ」で、長期の成長率は生産性上昇や技術革新でオールドケインジアンが唱える公共投資を軸とした財政出動の乗数効果はデータリソース社のモデル(マネーサプライを一定二維持した場合)によれば財政支出の乗数は0.6しかないため、総需要拡大策は短期的拡大策でしかない。
日本の失われた10年は日本の生産性上昇率の低下が大きな要因(地価下落による資産デフレも本書のなかでふれている)で「リストラの遅れ」「ITの立ち遅れ」「非製造業の構造問題」「構造改革の遅れ」を挙げている。いずれも賃金問題に無縁ではない。日本の生産性のネックは労働市場の硬直性にあり、IT投資をやって人が不要になっても簡単にクビにできない。
グリーンスパン連銀議長は「アメリカが日、欧よりIT化に成功したのはアメリカ企業が自由に労働者を雇用、解雇できるからだ」と言っているそうだ。
本書は小泉政権の「構造改革」を支持し、強力に進めることを強調する。「構造改革」とは経済自由主義と呼ばれ、市場メカニズムにまかせたほうが経済はうまく行くというサッチャリズム、・レーガノミックスを踏襲した考えで「競争、自助努力、利潤」こそが繁栄の推進力とする。
以上の立場は、新保守主義の小泉、レーガノミックスで経済効果を発揮したサプライサイドの経済学者竹中ラインとほぼ同軸である。森永卓郎著「日本経済最悪の選択」で構造改革は極一部の金持ちと多数の貧乏人を拡大生産する最悪の選択と主張する。労働者の権利の縮小は、驚くべきスピードで進んでいる。小泉総理は官の改革は進めないが、リストラと強者の論理による賃下げは熱心に進め日本はアングロサクソン型社会に急速に変化していると指摘する。いま定昇や終身雇用など日本型賃金制度は事実上崩壊に瀕している。
中国は最下位成績者は1回目は反省を述べさせ、2回目はクビにする。韓国は下位5%に退職勧告を出す。賃金の二極化といえば聞こえがいいが大半の勤労者の賃金低下はグロバール経済のなかではいまや常態になった。
■過剰供給の時代
都心部を主体とした高層分譲マンションであるが、ここにきて息切れ感がでてきた。在庫も積み上がってきている。「今年は15,000戸~20,000戸のマンション在庫が膨らむ(不動産経済研究所)」という予測もあり、デベロッパーは分譲マンションに慎重になってきた。
反面、賃貸に対する居住者の意識変化や、不動産購買力の低下が追い風となり、不動産各社が賃貸物件に事業をシフトする環境が醸成されており、大手、中堅不動産各社の賃貸マンションを中心とする動産投資ファンドへの売却を前提とした賃貸マンション開発拡大の動向が進んでいる。
当該ファンド等から、これら賃貸住宅のAM(アセットマネジメント)・PM(プロパティマネジメント)業務を受注し、収益性・資産価値の向上に努め、フィービジネスの分野を拡大する。 不動産投資ファンドは投資家から資金を集め、投資法人やSPC(特定目的会社)などを通じて不動産に投資。賃貸料や売却益を投資家に分配する。不動産会社は一括売却することで開発資金負担を軽減し、不動産のキャピタルロスのリスクを回避し、管理など周辺収入の拡大を図れる。
想定利回りが年5~7%程度と高いため、低金利下で資金運用に悩む、いわゆる「富裕層」と言われる個人投資家は、ペイオフ解禁などで積極的な投資姿勢を強めている。これら個人富裕層の一部が不動産投資に積極的な背景には、長引く低金利政策により、行き場を失った余剰資金の存在がある。投資用不動産の評価手法として収益還元法が定着し、値上がり益でなく収益性を月々のキャッシュフローベースで判断するようになった不動産投資は、個人投資家にとって比較的安定した数少ない長期投資の対象となっている。
富裕層と呼ばれる個人投資家を中心とする投資資金の運用先として、賃貸マンションを中心とする不動産ファンドは、彼らのニーズに合致するものであり、不動産各社のこの部門への事業拡大の牽引役となっている。
さらに戸建住宅会社は、都心回帰によるマンション需要の高まりや、少子化、地価下落による買い替え層の買い控えで、戸建分野の先行きに危機感が強く、賃貸アパートなどの分野に急速に事業をシフトしてきている。
低金利や株式市場の低迷が続くなか資産運用手段として比較的高い利益が見込まれるとして、アパート経営の代行などと組み合わせて土地保有者を中心に売り込んでいる。
大和ハウス工業は土地所有者から土地を借り受けアパート賃貸による運用収入を所有者に還元するサービスを強化する。賃貸管理子会社の大和リビングが地主から一定期間土地を借り上げてアパートを経営する。建設資金が不足していたり経営リスクを避けたい土地所有者向けを想定している。積水ハウスは土地は持たないがアパート経営したい人に土地情報を提供。所有者からの土地の借り上げを斡旋する。建設後は関連の積和不動産グループが実勢価格の9割前後で一括借り上げし、一定の賃料を払うシステムも提案する。
大手不動産、ハウスメーカーなどが土地保有者のアパート経営に伴う資金やリスクを回避する仕組みを作り、賃貸分野に参入してきたため、商品開発力や、設備などで劣る既存のアパート、賃貸マンションのなかには、立地にもよるが賃料を下げても空室の増加が止まらない物件も見られる。また新築物件も鉄道駅への接近性などが悪いければ入居がない。
都心部の投資用ワンルームマンションも供給が拡大しており需給ギャップが悪化してきている。都心マンション分譲や、オフィスビルの例を見ても供給が過剰となり、在庫が積みあがりだしても業者は供給を止めない。生き残りがかかつているためストップできないからだ。したがって市況は月を追うごとに悪くなる。
さらに賃借人の所得低下が進行し、少子化などの影響で税負担や保険料などが高負担になってくるため、賃借人の家賃負担能力は一般に劣化しており、物件を選別する目はさらに厳しい。賃料体系の大きな見直しが迫られ、物件の淘汰と賃料、敷金などの低下が加速する時代が到来したと言える。
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