株安でも対照的日米住宅価格

国内では家計の「過剰債務問題」が深刻になっている。企業の賃金カットや人員削減で収入が減少、住宅ローンやクレジットカードの支払いに四苦八苦する例が増えている。今年の個人の自己破産の申請件数は前年比4割増のペースで、年間で初めて20万件を超す勢いである(日経02.10.17)。底が見えない資産デフレの蔓延、特に土地価格の長期にわたる暴落は、国内の個人消費に少なからぬ影響を与えている。

第一生命経済研究所によるとサラリーマン世帯全体の消費水準は1996年を100とした場合、今年1-6月平均は94.6。住宅ローン返済世帯に限ると90.6まで落ち込んでおり「ローンが消費を圧迫する実態がはっきりしてきた。さらに同研究所の「雇用不安が顕在化した98年から、2001年9月までの間、雇用不安による消費押し下げ効果は勤労者全体でマイナス1.4%、これに対し住宅ローン世帯では、マイナス3.4%にも達した。また可処分所得が1%減少した場合、勤労者全体の消費は0.47%押し下げられるのに対し、住宅ローン世帯への影響は0.88%と倍近い悪影響がでる。」(週間ダイヤモンド02.04.13号)

ネガティブ・エクイティ(住宅ローン破産予備軍)は長引く景気低迷とリストラ、企業倒産で急速に増加している。個人の場合、自宅にいくら含み損があっても住み続け、売却をしなければ含み損は顕在化しない。逆に地価下落で固定資産税が安くなるメリットを享受できる。このため過大なローン含み損を背負っていても一般に危機感が薄かった。しかし、大部分は所得の減少が進行し、年間の返済負担は徐々に重くなっているため消費を下押している。

反面、ネットバブルが弾け、エンロン問題などの追い討ちで空前の株安となった米国は、日本より個人の株式保有率が高いと思われているため個人消費は落ち込みそうなものだが、日本のような消費低下が起きていない。

平均的米国家計が持つ最大の資産は実は株ではなく「ホームエクイティ」と呼ばれる借り入れ金額を差し引いた後の純資産としての住宅価値である。これは住宅を担保とした家計の借り入れ余力であり、住宅ローンの返済分が純資産の増加として蓄積されている。例えば30万ドルの住宅ローンがあっても住宅価格が40万ドルなら10万ドルの借り入れができる。住宅価格が上昇すれば借入額も増えるというわけだ。昨年末のホーム・エクイティローン残高は前年末より10%増加。借り入れ資金の一部が消費に回っている。この仕組みが可能なのは米国の住宅価格が上昇しているからだが、上昇要因として米国の人口は毎年1%程度増え続けており、移民の増加が寄与している。ヒスパニックの持ち家率は90年代に3.4ポイント上昇して45.2%、白人の上昇率より高い。

いま、最大の懸念は米国の住宅バブルがいつ弾けるかだが、米連邦グリーンスパン議長は住宅バブルの存在を否定している。その根拠は人口増加という実需の存在と住宅は株と違い売買が簡単でなく投機の対象となりにくいという2点である。

MIT経済学教授チャールズ・キンドルバーガー氏は、住宅バブルの崩壊を懸念する。氏の見解では、ブッシュ政権は経済問題に強いスタッフを揃えておらず共和党は日本の自民党のようにリーダーシップもフォロワーシップもない。バブルが弾けた場合、住宅は資産と呼べなくなる、借金だけが残り住宅を賃貸して返済を迫られる事態になりかねない。日本と同様の底なしの資産デフレが待っていると警鐘を鳴らす。

そんななか11月20日米商務省が発表した10月の住宅着工件数は前月より11.04%減少し、年率換算で160万3千戸にとどまった。180万戸台という記録的高水準だった9月の反動が表れた面が大きいが、今後も住宅投資が低迷するようだと米景気の腰折れ懸念が一段と強まりかねない。

米国の住宅市場の今後を見通すのは困難な状況だ。米景気は全体的に減速懸念が強まり自動車販売などに息切れの兆しが見える。低金利を背景に好調さを保ってきた住宅投資に一服感が生じる恐れがある。反面、住宅着工の先行指標となる許可件数は176万3千戸で前月比1.7%増と依然堅調なうえ、米金融当局が今月上旬に追加利下げに踏み切ったことで消費者の住宅購入意欲が再び盛り上がる可能性も否定できない。

米国の住宅市場が今後、明暗いずれに展開するか注視される。

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