日本のマンションの寿命
建物の寿命(どれぐらいもつか)については、老朽化して安全性の面など物理的に住めなくなるまでの期間、所謂物理的耐用年数だけで判断するのでなく、その建物が市場性を有し、経済的効用を発揮できるまで残存期間を総合的に判断する。
物理的耐用年数に限って言うと耐用年数を決定する要因としてRC躯体本体部分では
- コンクリート設計基準強度は、65年くらい大規模修繕が不要で供用限界期間が約100年とされているのが24N/mm(ニュートン)以上(1N/mmとは約10kg/1cmのことで、1cmに約10kgの力が加わっても壊れない強度をいう。数値が大きいほど、耐久年数が長くなる)。従来の一般のマンションは18N/mm程度が多く充分な強度が確保されていない。
- 鉄筋を包むコンクリート(かぶり厚さ)は決められており、厚いほど鉄筋は腐食しにくい、かぶり厚3cmで65年、100年住宅は1cm増しのかぶり厚さ4cmと言われている。
- 鉄筋コンクリートに生じる劣化現象として、中性化・鉄筋腐食・ひび割れ・漏水・大きなたわみ・凍害・表面 劣化が挙げられる。特にひび割れ・ひび割れに伴なう漏水・鉄筋腐食ガ多い。これらの劣化の原因の多くは、コンクリートが乾燥時に収縮する性質があること、引張り力に弱いこと、鉄筋自体は腐食しやすく腐食すると膨張することである。
- 塩害:主として海水からの塩分がコンクリートの毛細孔・空隙より侵入すると、塩分はコンクリート成分と膨張性結晶をつくるとともに、鉄筋を錆びさせ、錆びた鉄筋は膨張する。その膨張によりコンクリートは損傷する。川砂の代わりに海砂を用い塩分を充分に洗浄しないことにより発生する。
欧米のRC造の建物は100年以上経過したものも多いが、欧米の同種の建築物と比較し日本のマンションが物理的に耐えられるかについては不安が多い。日本のマンションは、建築後30年前後で建て替えられるケースが多いと言われている。
日本特有の問題として1970年以降主流となつた圧送ポンプでのコンクリート打設では過量に水を混ぜる「シャブコン」が多く、コンクリートの強度の著しい低下を招いている。さらに塩害による鉄筋コンクリートの劣化も指摘されている。過量に水を混ぜ柔らかくすることで施工が容易という現場の無責任体制がいま、重大な問題を引き起こしている。
山陽新幹線のトンネル剥落事故や阪神大震災での高架道路の倒壊などの原因のひとつに「シャブコン」も挙げられている。欧米の場合は日本と設計方法が違うため、比較的固いコンクリートでも打ちやすくコンクリートを水で流動化する必要が無い。
さらに最近、注目されているのが内断熱、外断熱が与える影響である。日本省エネ建築物理総研代表江本央(えもとなかば)氏によると欧米では1973年のオイルショック以降、コンクリート建築は全て外断熱になっており、「欧米ではあり得ない内断熱」を続けている日本のコンクリート建築は、今なお結露トラブルが発生し、耐久年数も30年で解体されている。
内断熱とは、コンクリートの内側に断熱材を入れる方法。一方、コンクリートの外側を、断熱材でくるむのが、外断熱。これまで日本のほとんどのマンションに採用されてきた内断熱に対して、欧米の集合住宅で採用されている外断熱は、建物の耐久性の向上に貢献している。
日本のマンションが欧米に比べ建物寿命が短命なのは、気候風土の違いに加え、欧米の外断熱と日本の内断熱の違いにあると言える。
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