変革を迫られる不動産鑑定評価業者

現在、不動産鑑定業者は大きく分けると2つの変革を迫られている。1つは不動産証券化に伴う収益価格適用手法拡張、もう1つはインターネットの急速な普及による業態の変質の可能性である。

まず収益価格適用手法の拡張であるが、不動産投資信託の施行により、投資対象不動産を鑑定評価する場合、米国で投資用不動産の収益価格試算に広範に採用されているDCF法を適用するに留まらず、 ポートフォリオ、リスク分析手法を開発した金融工学的側面からの価格アプローチの併用ニーズが高まるからだ。従来の鑑定評価における正常価格の概念は、完全自由競争市場を想定し需要曲線と供給曲線の交点で価格が決定される1物1価が大前提であった。DCF法による収益価格も、賃料、割引率、売却価格を一定に想定して算定される。反面、DDCF法とよばれる動態的DCF法は金融工学における成果を活用し、投資タイミング、不動産買い増し、売却タイミングなどの選択肢(オプション)を、従来の感度分析のような単一オプションのシュミレーションでなく一緒に変動させれば全体がどう変動するかというリアルオプション・アプローチで価格試算する。この場合、試算される価格は1物1価でなく分布になり、その確率分布の最頻値といった幅を提示する価格になる。静態的なオプションを与件として成立する1物1価では、ポートフォリオ、リスク分析の多面的ニーズに対応しない可能性があるためだ。

もう1つのインターネットの急速な普及による業態の変質の可能性については、鑑定評価の民間需要部分については好むと好まざるに関わらずインターネット抜きで事業展開が考えられない段階が近未来に必ず到来するからだ。ネットで業者の得意分野等を紹介し、業務受託し、評価書の納品もセキュリティ、改竄の可能性を考慮した電子署名、暗号技術による電子書面での受け渡しになると思われる。委託者は電子化された評価書を自己のデータベースに格納し、構築されたシステムで利用する。不動産鑑定業者を取り巻く環境は5年以内に大きく変わるだろう。

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