不動産鑑定は足でする

コンピュータ技術、ITの急速な進化で、不動産鑑定業者もコンピュータの導入が進み、不動産鑑定の業務工程も急激に変化した。地価公示、地価調査に代表される公的評価の大部分は業者のソフトを使用し評価書を作成している。 先進的業者はGIS(地理情報システム)のベクター地図で認識できる価格形成要因データと比準表を連動し従来の比準過程を自動化したり、大量の取引事例、賃貸事例を統計解析手法で時系列分析、将来のキャシュフロー予測などをしている。

このようなデジタル環境の進展化にあって敢えて「不動産鑑定評価は足でする」と言う原点を再認識したい。コンピュータは例えば、評点化された多量の画地の評価、要因相互の相関を瞬時に計算する。人間の脳は到底及ばない。しかしコンピュータによる人工知能の研究は、人間が五感を通じて対象を認識し、デジタル化が困難な大量の情報を脳に送り、脳はそれらの情報を解析し判断をくだすメカニズムをなかなか開発できない。人間にはなにげなく思える行動は実は重要な意味がある行為であり、デジタルでの再現は、今のところ困難なのだ。 鑑定評価作業の殆どがアナログの時代、取引事例は当事者から聞き取り調査していた。不審人物と間違えられ水をまかれたこともある。親切な人もいて取引に関連する興味深い話も聞けた。現地の実査はデジタル化の現在も変わらない。造成地で造成前の状態を聞き取りし軟弱地盤に盛土した事実や、中には墓地移転の際、生じた土を盛土に使用した話が聞けたりする。聞き取りだけでなく鑑定士が評価対象を確認するときは、五感を活用して,有形情報だけでなく、表現するのは困難だが周辺の雰囲気、物件の問題点の探知、値踏みのようなもの、言い換えるとベテラン不動産業者が物件を見て瞬間的に直感する探知能力と共通したものを感得することができる。「不動産鑑定評価は足でする」と言う原点はいつの時代も変わらないだろう。

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